量子ビームを利用した応力・ひずみ評価の基礎


著者:
秋庭 義明 Yoshiaki AKINIWA
発刊日:
公開日:
カテゴリ: 特集記事

概要

量子ビームといっても聞きなじみのない方もおられるであろうが、近年随所で散見されるようになってきた。文部科学省では平成 25年度から 29年度の 5年にわたり、量子ビーム技術の利用研究と基盤技術開発を目的として「光・量子融合連携研究開発プログラム」が実施され、光子、イオン、電子、中性子、中間子、ニュートリノ等、ビームの一般的総称として量子ビームを定義している。近年これら量子ビームを応力・材料評価に積極的に活用することで新たな展開をはかり、これまで不可能であった応力評価が可能になるとともに、各種現象の理解が深まりつつある。 機械、建築、土木関連の構造物や各種要素部品の新規設計や維持管理において、応力・ひずみの概念なくして具現化することはできない。構成材料が有する強度・抵抗に対して、使用中に作用もしくは作用すると予想される応力・ひずみが信頼性に対して大きく影響する。実際に作用する応力については、材料力学的な検討とともに、コンピューターを援用して比較的短時間に高精度な応力・ひずみ評価が可能になってきた。複雑な幾何学形状の最適化や拘束条件の変更も容易になり、危険部位(ホットスポット)の同定や危険度を抽出する手法として、部材設計においてなくてはならない技術に発展している。 このように機械構造物の信頼性を確保するためには、構成部材が有する強度と作用応力とのバランスが重要であるが、これだけでは充分でない。実部材には、熱処理・加工・接合等の処理を伴う。この際に導入され、部材内部に存在する応力が残留応力である。残留応力は、作用応力に加算されて構造部材に作用するため、強度解析にあたっては残留応力をいかに高精度に評価することができるかが信頼性評価に大きく影響する。残留応力は、熱ひずみ、変態ひずみ、体積ひずみ、塑性ひずみ等が重畳して発現するため、その実態は複雑な場合が多い。これらに対する数値解析技術も発展してきてはいるものの、使用期間中に残留応力が変化することも多く、実測に対する要求は高い。 表1に代表的なひずみ測定法を、注目する物理量との関係としてまとめた。点測定は、注目すべき位置が明確な場合に適用される。危険個所が不明な場合には広領域の測定をもとに最大応力発生位置を同定する必要があり、全視野測定が望ましい。それぞれ長所短所があり、測定可能物理量および測定精度の観点で選択する必要がある。 量子ビームによる回折法では、回折パターンから応力・ひずみ以外にも塑性変形量、転位密度、結晶子寸法など多くの材料特性を抽出することが可能である。本稿では紙面の都合上応力・ひずみ測定に注力して、その基礎的な考え方・測定原理について概説する。個々の手法の詳細および応用例については、本特集号の次稿以降を参照頂きたい。


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