原子力発電所の火災防護規程(JEAC4626-2010)の制定及び原子力発電所の火災防護指針(JEAG4607-2010)の改定

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カテゴリ: 解説記事

1.はじめに(日本電気協会における火災防護に係る指針制定の変遷)
昭和50年(1975年)3月22日に、米国テネシー渓谷公社のブラウンズ・フェリー原子力発電所において、ローソクの火から火災が発生、大規模な火災に発展し、消防隊員が消火するまで7時間燃え続けた。これを契機に、日本の火災防護の在り方を見直すことになり、昭和40年(1965年)6月に制定された「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」(通商産業省令62号)に、新たに「第4条の2 火災による損傷の防止」が昭和50年12月に追加された。
我が国においては、その後、原子力委員会(当時)が、昭和52年(1977年)6月「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」という)に設計上考慮すべき事項として「指針6 火災に対する設計上の考慮」を追加した後、原子力安全委員会が、昭和55年(1980年)11月「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針」(以下「火災防護審査指針」という)を定め、昭和50年代に国としての規制体系が整備された。そして日本電気協会は、通商産業省から、より定量的かつ具体的な火災防護の設計・評価のための指針を整備するように調査・検討を依頼され、原子力専門委員会(現原子力規格委員会)安全設計分科会の下に火災防護検討会を設置して検討を行い、昭和60年(1985年)に「原子力発電所の火災防護指針」(JEAG 4607)を制定し、昭和61年(1986年)にJEAG4607-1986を発行した。
その後、平成2年8月に原子力安全委員会は、火災防護審査指針を改訂し、また、平成4年(1992年)にはIAEA安全指針「原子力発電所の火災防護」が改訂された。日本電気協会は、内外での状況変化や技術進歩に対応するためJEAG 4607の内容を見直し、平成11年(1999年)にその改定版JEAG 4607-1999を発行し、国内原子力発電所では、この指針に基づき火災防護設計を行っていた。
また、原子力安全・保安院は、国内原子力発電所の安全審査に用いる技術基準として学協会規格を活用するため、平成17年12月に「安全設計分野及び放射線管理分野における日本電気協会規格に関する技術評価書」を取りまとめた。その技術評価書で「原子力発電所の火災防護指針」(JEAG 4607-1999)は、技術基準としてエンドースされた。
本解説では、設計面を中心に原子力発電所の火災防護対策の基本的考え、大きな見直しの契機となった平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震後の国の規制関係による火災防護対策強化への動き、それを受けての民間規格(設計)の制定・改定のポイントについて紹介する。
2.火災防護対策強化のイメージ
原子力発電所の火災防護は、設計のみあるいは運用のみで達成できるものではなく、それぞれがバランスを持って機能することが重要である。一般建築物等の防火については、消防法や建築基準法に基づき対応がとられていることは周知のことであるが、原子力発電所の火災防護についてはあまり知られていない。
ここでは、これから記述する火災防護対策強化がどのようなイメージなのかを示し、読者に対する理解の一助としたい。イメージ図に示すように、原子力発電所の火災防護対策は、従前から、設計面である①火災発生の防止、②火災の検知及び消火、③火災の影響の軽減と、それらとの連携の強弱はあるものの④運用面と関連をもって構築されていた(図1)。しかしながら、新潟県中越沖地震後の、国の規制機関による火災防護対策強化への動きを受けて、今後は、個々の対策を充実させること(丸を大きくする)及び個々の連携を強くすること(丸と丸をつなぐ辺を太くする)が求められている。
火災は、ハザードとして現実的なものでもあることから、火災防護に直接携わっていない方々にも是非この機会に読んでいただき、本解説が、火災防護対策の意義・内容の理解と新たな認識を持っていただけることに少しでも役に立てばと願っている。
3.日本の火災防護規制の概要と民間規格の位置付け
火災防護の設計面に関しては、「原子力発電所の火災防護指針」(JEAG4607)が制定されたが、運用に関する民間規格はなかった。
運用管理面の指針については、新潟県中越沖地震の火災事例からの教訓も踏まえ、平成21年(2009年)3月に「原子力発電所の火災防護管理指針」(JEAG 4103-2009)として制定された。
以下に、日本の火災防護の規制体系と民間規格の位置付けを示す(図2)。
4.JEAC 4626-2010制定及びJEAG 4607-2010改定の経緯
原子力安全・保安院の技術評価書で「原子力発電所の火災防護指針」(JEAG 4607-1999)は、技術基準としてエンドースされたが、その適用に当たっての条件と課題が示された。そこで火災防護検討会では、技術評価書の内容を踏まえてJEAC(電気技術規程)を新たに制定することを視野に入れてJEAG 4607-1999の改定作業に着手した。
また、新潟県中越沖地震では、原子力発電所の屋外変圧器が地震により損傷し油火災が発生し、この事態を重視して原子力安全委員会は、火災防護審査指針を平成19年12月27日に一部改訂した。
一方、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会では、「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」を設置して、新潟県中越沖地震の具体的な影響について事実関係の調査を行うとともに、当該地震を踏まえた国及び事業者の今後の課題と対応についてとりまとめ、原子力施設における自衛消防及び情報連絡・提供に係る課題と今後の対応について「中越沖地震における原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供に関するワーキンググループ」報告書(以下「WG報告書」という)を平成20年2月にとりまとめた。さらに、平成20年6月に「原子炉施設を設置した工場又は事業所における初期消火活動のための体制の整備に関する規程の解釈(内規)」が制定され、平成20年10月に「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈について」(以下「別記-2」という)が一部改正された。
以上のような新潟県中越沖地震後の、国の規制機関による火災防護対策強化への動きを受けて、元来JEACとして制定することを視野に入れて「原子力発電所の火災防護指針」(JEAG 4607-1999)の改定に着手していた火災防護検討会では、新潟県中越沖地震による反映事項が指針全体にわたることから、日本電気協会におけるJEAC(コード)とJEAG(ガイド)の定義を踏まえて、JEACとして新たに制定する部分と、従来のJEAGを改定する部分の、2本立てでの制改定作業を平成20年2月から進めてきた。
JEAC制定及びJEAG改定作業を進めるに当たっての考え方は以下のとおりである。
4.1 JEAC(コード)とJEAG(ガイド)の考え方
今回のJEAG 4607-1999の改定作業に際し、新潟県中越沖地震を踏まえた火災防護対策強化への動きや省令62号の技術評価書の要望事項であるコード化(JEAC化)を踏まえ、これら要求等に民間サイドとして応える観点から、今回改定の期を捉え、火災防護に対する要求事項を明確にすることを目的にJEACとして新たに制定することとした。
また、火災防護対策を考える上では、原子力発電事業者の各発電所の設備の配置状況等が同一でないことから火災防護の具体的な対策は必ずしも一つに限定されるものばかりではなく選択肢を持ちうること、海外規格等の知見のうち国内規格として取り込むことが望ましいものもあることから、JEACとして整理した要求事項を達成するため原子力発電事業者が、各発電所の特質、状況に応じて選択肢を持ちうるものについては具体的な対策を適切に選択できるように、JEAGとして改定した。
4.2 JEAC 4626及びJEAG 4607の構成について
下表に示す通りJEAC 4626-2010の文書構成では、本文に火災防護上の要求事項を記載し、解説では、法令、規程等との関係、本文の要求事項を理解するための説明を記載している(図3)。これは日本電気協会による従来からの文書構成となっている。
一方、JEAG 4607-2010の文書構成では、今回のJEAG(ガイド)としての改定が広範囲にわたって内容を追加したこと、規制当局の要求事項を新たにJEAC(コード)として整理したことを踏まえ、JEACでの要求事項を達成するための具体的な対策のうち選択肢を持ちうるものについては電気事業者がその発電所の特質、特徴に応じて柔軟に対応できるように配慮したJEAG(ガイド)構成とした。また、単独でも原子力発電所の火災防護のハード対策の全容がよく理解できるように、規程での要求事項とそれを達成するための例示・考え方等を対比させて記載した。
5.従前の原子力発電所の火災防護の概要
 従前の原子力発電所の火災防護の概要として、JEAG 4607-1986の制定、JEAG 4607-1999の改定のポイントについて示す。
5.1 JEAG 4607-1986制定の留意事項
指針制定に際しての留意事項は以下のとおりである。
- 新設されるプラントに適用する。なお、既設プラントへの適用についても、施設の変更を実施する際には、出来るだけ本指針に沿う対策を施すものとした。
- 対象範囲は、原子力発電設備全体を包括しているが、安全性確保を目的として「原子炉の停止」を主体とし、「放射性物質の制御されない放出防止」についても考慮した。
- 火災の発生防止対策、火災の検知・消火対策、火災の影響軽減対策を組み合わせた多重防護の思想を取り入れた。
- 電力共同研究「ケーブル火災および制御盤火災に関する実証研究」、「原子力プラントの油火災等の実証試験」等の成果を盛り込んだ。
- 本指針では設備設計上の考慮すべき事項について規定しており、管理上の考慮事項、すなわち人為的火災や、定検時に持ち込まれる可燃物等については、規定の対象外とした。
5.2 JEAG 4607-1986からJEAG 4607-1999への改定のポイント
最新の技術進歩に対応するためJEAG 4607の内容の見直しを以下のとおり行った。
- 国内関連法規規格の改訂、特に「火災防護に関する審査指針」を踏まえて用語の見直しを行い、本指針の要求事項の適用範囲を重要度分類を踏まえて明確化した。
- 最新知見を踏まえ、特に改良型BWRのECCS系の系統構成を追記した。
- IAEA安全指針「原子力発電所の火災防護」の改訂を踏まえ、特に消火用水供給系の信頼度の向上を図る場合の具体的な設計例及び火災により環境へ放射性物質放出を生じる場合には、その格納/低減設備に単一故障を仮定しても放射性物質の放出を低減できることとすることを追記した。
5.3 JEAG 4607-1999の概要
原子力発電所の火災防護設計JEAG 4607-1999の概要を示す。
(1) 主にどのようなルールで設計するか
全般には消防法、建築基準法が適用されるが、原子力特有なものとして以下のものがある。
①省令62号(第4条の2)
②安全設計審査指針(指針5)
 ※当初は指針6だったが、現在は指針5
③火災防護審査指針
(2) 設計において考慮すべき事項は何か
基本的には原子炉施設の安全性を損なうことのない設計とすることであるが、具体的には、図4に示す①,②,③を考慮することで達成される。
(3) 火災の発生防止のため何をどうするのか
対象としては、(原子力の)安全機能を有する構築物、系統及び機器であり、設計においては、以下の点を念頭に行う。
ⅰ. 不燃性材料、難燃性材料を使用
ⅱ. 発火性、引火性材料の予防措置
ⅲ. 電気設備の過電流による過熱防止
ⅳ. 自然事象による火災発生防止
(4)火災感知器をどこに設置するのか
火災感知器は、火災による悪影響を限定するため、以下の区域に原則設置する。
- 対象区域
ⅰ. プラントを停止するのに必要な系統及び機器の設置区域
ⅱ. 放射性物質の制御されない放出を防止するために、火災の悪影響から防護する事が必要な系統及び機器の設置区域
- 火災感知器の選定、設置
ⅰ. 消防法施行規則に準ずる。
(5)消火のため何処にどんな物をつけるか
消火装置設置対象区域は、全ての火災区域とされている。それは“壁等で他の区域と分離された火災防護上の1単位と考えられる空間のことであり、火災防護審査指針によると、「安全機能を有する構築物、系統及び機器を含む区域のうち、火災の影響を受けるおそれのある所では、適切な区画により火災区域を設定しなければならない”とされている。
この区域には、以下の要件を考慮して消火装置を設置する。
ⅰ. 消防法施行令及び施行規則に準ずる。
ⅱ. 破損・誤動作及び誤操作対策
ⅲ. 自然事象に対する性能維持
(6)火災の影響の軽減とは何か
火災防護設計としては、“想定火災(ケーブル、盤、補機、燃料油、その他水素ガス等)が発生する”ことを前提とする。満足すべき機能としては、原子炉の安全確保であり、
ⅰ. 原子炉に外乱が及び、かつ、安全保護系、原子炉停止系等の作動が要求される場合、動的単一故障を仮定しても高温停止を達成できること、
ⅱ. 低温停止機能を失わないこと、
である。その対策としては、
ⅰ. 耐火壁による隣接区域間の延焼防止、
ⅱ. 隔壁、間隔による延焼防止(分離距離の確保、漏えい油火災の規模の限定等)、
があげられる。
6.JEAC 4626-2010制定及びJEAG 4607-2010改定の概要
4.に記した通り、様々な経緯があり、新たに火災防護の要求事項を規程として制定し、それに伴いこれまでの指針の改定を行った。
スペースの関係から、例に示されない制改定の内容については、規程(JEAC 4626-2010)及び指針(JEAG 4607
-2010)を参照されたい。
6.1 定期改定の概要について
本JEAGの定期改定の検討事項は、以下の項目である。
(1)国内火災事例及び海外火災事例からの教訓反映事項
(2)国内外法規・規格類改訂による検討事項
(3)省令62号技術評価書の内容及び要望事項
以下に、其々の概要を示す。
(1)については、発電機水素放出管に係わる火災対策、放射線分解による配管中への混合ガス蓄積防止対策について、JEAC及びJEAGに記載した。
(2)については、海外基準の改訂調査(SRP 9.5.1 Rev.5、R.G 1.189 Rev.1及びNS-G-1.7-2005)を調査・比較し、安全機能を有する構築物、系統及び機器への配慮についての具体的な設計例、チャコールフィルタからの放射性物質放出の可能性の低減対策例をJEAGに記載した。また、JEAGで引用しているデータについて、最新版とした。適用法規・引用規格類の改訂調査(350件)を実施し必要事項を検討した結果、ケーブルトレイ分離距離に関する規格をIEEE384改訂(1992年版)に変更した。
(3)については、既設炉において設備面での対応が難しい事項に対して、技術評価の中で代替策を提示及び関係法令を引用しており、今回の制定・改定に反映した。また、要望事項については、①発火性又は引火性気体の対象範囲拡大、②火災検出装置による消火装置等の制御、③「補機想定火災の規模の考え方」の着火の有無の判断基準の明確化、④「火災に対するフィルタの防護」へチャコールフィルタ以外の追加に関する事項について、JEAC及びJEAGに記載した。
6.2 新潟県中越沖地震後の国の規制関係による火災防護対策強化への動きを受けた改定内容
次に、新潟県中越沖地震後の国の規制関係による火災防護対策強化への動き、それを受けての制定・改定のポイントについて紹介する。
6.2.1「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針」の改訂(平成19年12月)の三つの観点とJEAC及びJEAG制改定内容について
 火災防護審査指針改訂の三つの観点(平成19年12月27日原子力安全委員会決定より抜粋)と改訂内容及びそれを受けたJEAC及びJEAG制改定内容について以下に示す。
6.2.1.1 火災防護審査指針改訂の三つの観点
 今回の火災は、原子炉の安全を守るための重要な安全機能に関係する機器で発生したものではなく、また、防火壁等が設置されていたことにより、結果的に重要な安全機能に関係する機器への影響を与える事態には至らなかった。この意味で、米国の火災事例を踏まえて昭和55年に策定した現行の火災防護審査指針が採用している火災の発生防止、早期検知及び消火並びに火災の影響の軽減の三方策を組み合わせることにより、原子炉の安全性が損なわれることを防止するという基本的考え方は妥当であると考えられる。
 しかしながら、大規模な地震による火災の発生は、国民に大きな不安を与える結果となり、現場における大規模な地震時の対応として、原子炉の安全を確保しつつ同時に消火活動を行うことの実際上の困難さを浮き彫りにした。現行の火災防護審査指針には、大規模な地震を想定した要求事項は明記されておらず、世界有数の地震国である我が国としては、今回の地震から学ぶべきものは学ぶという学習的姿勢で、地震時の原子力発電所の火災防護対策に万全を期していかなければならない。
 このような観点から「新潟県中越沖地震による影響に関する原子力安全委員会の見解と今後の対応」においても、火災防護対策の強化に向けて検討を行うこととしたところであり、今回の改訂はこのような考えに基づき、現行の火災防護審査指針を前提として、大規模な地震時の火災を想定した事項を追加し、火災防護対策の強化を図るものである。
 原子力発電所の地震時の火災防護対策にあたって重要な点として挙げられた三つの観点から改訂を行っている。
 一点目は、原子力発電所の設計・建設及び運転にあたっては、大規模な地震により、原子力発電所内で火災が発生する可能性があることを考慮し、必要な措置を要求することを明確に示したということである
 二点目は、設備及び機器の設計における対策(設計面)のみならず、運転管理における対策(運用面)を講じることにより、安全確保に万全を期するということである。
 三点目は、耐震設計審査指針に基づき、原子力発電所内の建物・構築物を十分な支持性能をもつ地盤に設置するなどの耐震設計を行うことにより、これら不等沈下等を防止し、もってこれに伴う火災の発生を防止するということである
6.2.1.2 火災防護審査指針改訂内容とJEAC及びJEAGへの制改定内容
 火災防護審査指針改訂内容には、設計面と運用面の両面が含まれており、事前に設計面と運用面に整理した上で検討を進め、設計面として整理した内容についてJEAGを改定した。ただし、運用面であっても、省令62号第4条の2の改正時に取り込まれているもの及び今回の火災防護対策強化の観点からJEAG改定に含めるべき内容と判断したものについても改定範囲とした。
 以下に、JEAC及びJEAG制改定の具体的内容の一例を示す。
火災防護に関する審査指針においては、大規模な地震等の苛酷な自然現象が発生した場合には、下記(1)~(3)の措置を講じることにより、重要度の特に高い構築物、系統及び機器で火災が発生する可能性は十分に低減されると考えられるが、火災防護に関する計画の策定に当たっては、原子炉の基数を考慮した上で、同一発電所内の無関係な複数の箇所で同時に火災が発生する可能性があることに留意すべきことを明確化する、とされた。
 図5に示すように、この内容については、火災防護審査指針改訂に伴い別記-2が一部改正され、それを受けて要求事項としてJEACに記載した。また、要求事項を達成するための具体的な対応策例をJEAGに記載した。
(1)火災発生防止
① 耐震設計審査指針の考え方を維持することの明確化・・・(設計面)
② 柏崎刈羽原子力発電所における変圧器火災が不等沈下を原因とするとの報告から、「十分な支持性能」をもつことの明確化・・・(設計面)
(2)火災検知及び消火
① NRCガイド等に基づき、消火ポンプ系に加え、消火用水供給系の水源においても多重性若しくは多様性を確保することの記載・・・(設計面)
② その場合、設備面以外においても、水タンク車のような移動式消火設備の配置等により代替可能であることの明確化・・・(設計面)、(運用面)
③ 水以外の消火薬剤についても十分な容量が必要であることの明確化・・・(設計面)
④ 自衛消防隊に関する基本要件を明確化・・・(運用面)
⑤ 大規模な地震により発生する火災について、祝休日、夜間、複数の箇所での発生、公設消防支援遅れ等を考慮した上で、設備及び運転管理により、火災の検知及び公設消防への連絡、必要な初期消火活動を実施可能とすることの記載・・・(運用面)
(3)火災の影響の軽減
① 運転管理段階での対応(火災防護に関する計画に関すること)の追加・・・(運用面)
② 高温停止について、地震の随伴事象として発生した火災の考慮を新たに記載したことから、地震、火災及び単一故障の考え方の整理・・・(設計面)
 これら内容のうち、設計面に関する事項についてはJEACに記載した。
6.2.2 WG報告書に対する反映内容とJEAC及びJEAG制改定内容について
WG報告書は、原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供の観点でとりまとめられた。ここでは、WG報告書内容を検討して、火災防護対策に関係する自衛消防体制の抜本的強化に向けた、以下の具体的方策(1)~(6)について設計面と運用面の整理を行った。この内、(2)及び(3)についてJEAGを改定した。
(1)初期消火体制の充実・・・(運用面)
(2)消火設備の信頼性向上・・・(設計面)
(3)消防活動に不可欠な関連設備の信頼性向上
  ・・・(設計面)、(運用面)
(4)消防機関と連携した実践的な訓練等の実施と検証・・・(運用面)
(5)火災予防教育・対策の充実・・・(運用面)
(6)その他・・・(運用面)
 上記の「(2)消火設備の信頼性向上」については、「消火設備の耐震性の確保」、「消火設備の多様化・多重化」の二つに整理されおり、一つ目の「消火設備の耐震性の確保」については図6に示すように、
① 消火配管、消火用水タンクについては、耐震強度や耐震構造の改善並びに系統を多重化若しくはループ化して敷設すること等の検討
② 特に消火配管は、地盤変位対策として、地上化、トレンチ内設置、フレキシブル継手や溶接継手の採用の最優先
③ 建屋接続部の機械式継手の廃止
と定めた。
 これら内容については、以下の例に示すように、「耐震性を確保すること」「地盤変位対策を考慮すること」は要求事項であり、また、①の系統に関する事項は、耐震性の観点ではなく、消火用水供給系の確保の観点で整理し、要求事項としてJEACに記載した。
 また、地盤変位対策の要求事項を達成するための具体的な方法については、各発電所の消火設備等の設置状況によって必ずしもその方法が一つに限定されるものでなく選択肢をもちうることから、JEAGに記載した。
二つ目の「消火設備の多様化・多重化」については図7に示すように、
① 機動性を持った化学消防車及び水槽付き消防ポンプ車の配備
② 消防自動車の現場へのアクセスについても検討
③ 十分な泡放射が可能な泡消火薬剤の量及び貯水量についての確保
④ 万一の消火配管損傷に備え、給水接続口の設置、耐震性防火水槽の設置、大型消火器の追加配備等の検討
である。
 これら内容については、以下の例に示すように、①及び③は、要求事項としてJEACに記載した。
②の「現場へのアクセス」については、地震時においても現場での消火活動ができるようにすべきであるとの考えから、「アクセスについて考慮すること」を要求事項としてJEACに記載した。また、考慮することの必要性及びアクセスを確保するための具体的な方法について、JEAGに記載した。この具体的な方法についても、様々な方法があり、各発電所の状況によって選択されるべきものである。
④については「必要に応じ耐震性防火水槽を設けること」を要求事項としてJEACに記載し、「大型消火器の配備を考慮すること」に対する配備の意味と配備の時に考慮すべきことをJEAGに記載した。この大型消火器は、屋内消火配管が地震時の万一の損傷した場合を想定して、消防法に準じて設置している消火器とは別に、追加するものとして設置するものである。
 また、「給水接続口の設置」については、消火装置の地震に対する考慮事項として、JEAGに記載した。給水接続口は、屋外消火配管を通じて屋内消火配管に供給する場合に地震によって屋外消火配管が万一破損する事態を考慮し、消防車両により屋内消火配管に給水し屋内消火栓の使用を可能とするために設置するものである。発電所の施設状況によっては、連結送水管も考えられること、屋内の消火用水を建屋内設置の消火用水タンクから供給する場合もあることから、「給水接続口の設置」の要否については、水源を含めた消火装置の系統構成及び設計要求を踏まえて検討すべきである。
 消火用水供給系の設計例を図8に示す。
 また、「(3)消防活動に不可欠な関連設備の信頼性向上」については図9に示すように、
① 消防機関への通報を確実にするため、専用回線や衛星電話等が有効であり、さらに地震時においても確実に使用できるように、これらを耐震性の高い中央制御室等に設置
② 緊急時対策室、消防車両の格納施設等は、防災拠点施設程度の耐震性確保
を考慮して要求事項としてJEACに記載した。①でいう通報は、初期消火活動である消防吏員への第一報通報連絡を指している。通報の手段は、消火装置ではないものの、消火活動の重要な要素であることから、要求事項としてJEACに記載した。また、設置場所についても、その機能を確保する観点から、要求事項としてJEACに記載した。
 通報手段は、前述したとおりであるが、その後の消火活動における現場の情報伝達確保も必要であると判断し、「情報伝達の代替手段の確保」についても、要求事項としてJEACに記載した。なお、具体的な代替手段の例(設備)及び運用面の対策として要員等による情報伝達手段も考慮する旨をJEAGに記載した。
6.2.3 実用炉規則第十一条の二の反映について
実用炉規則では、初期消火活動のための体制の整備という観点で、新たに解釈が追加された。本内容についても、設計面と運用面の整理をし、設計面に関する内容についてJEAGを改定した。
① 火災の発生を消防吏員に確実に通報するために必要な設備を設置すること。・・・(設計面)
※専用回線や衛星電話等、人が常駐している場所であって中央制御室等への設置が適切
② 初期消火活動を行うために必要な要員を配置すること。・・・(運用面)
③ 初期消火活動を行うために必要な化学消防自動車、泡消火薬剤その他資機材を備え付けること。・・・(設計面)
※化学消防自動車、泡消火薬剤、照明装置、薬液補給ポンプ等
④ 化学消防自動車故障時には水槽付き消防ポンプ自動車等をもって代用
⑤ 前各号に掲げるもののほか、初期消火活動を行うために必要な体制を整備すること。・・・(運用面)
⑥ 前各号の措置について定期的に評価を行うとともに、評価の結果に基づき必要な措置を講じること。・・・(運用面)
これら内容のうち、①及び③については、他と合わせて検討し、要求事項として、JEACに記載した。
7.おわりに
今回の新潟県中越沖地震を踏まえた制改定作業は、平成20年2月の検討開始から火災防護検討会、安全設計分科会、原子力規格委員会の各段階で貴重なご意見・議論の反復を重ね約2年の歳月を要した。また公衆審査においても、非常に多くの貴重なご意見をいただいた。火災防護対策に対する社会一般の関心の大きさを感じる。原子力発電所の火災防護は、設計のみあるいは運用のみで達成できるものではなく、両者がバランスを持って両輪となって機能することが重要であると考える。日本電気協会においては、今後も火災防護対策のハードとソフト両面での改善に資するべく、継続的検討を進めていく所存である。
最後に、本規程及び指針を、火災防護対策の業務に携わる方々の参考にして頂ければ幸いである。
(平成22年8月27日)
原子力発電所の火災防護規程(JEAC4626-2010)の制定及び原子力発電所の火災防護指針(JEAG4607-2010)の改定 奈良間 雄,Takeshi NARAMA,牛島 厚二,Koji USHIJIMA,田中 勤,Tsutomu TANAKA
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