米国のライセンスリニューアルの経緯と60年超運転に向けての取り組み
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1.はじめに
米国では、現在104基の商用原子力発電所が稼働中であり、そのうち14基が当初の認可期間の40年を超えて運転中である(図1参照)。40年を超えて運転を継続するための認可手続きがライセンスリニューアル(運転認可更新)である。最初の運転認可更新申請書は1998年に提出され、その後ガイダンスの整備が行われ、審査経験及び新知見を反映しながらこれらのガイダンスを更新し、確立されたプロセスとなってきた。最近では、60年超運転を目指しての取り組みも開始されている。これらの経緯と取り組みを以下に紹介する。
図 1 米国の原子力発電所の運転年数
2.運転認可更新の枠組み
2.1 米国の原子力発電所の認可期間
米国の原子力発電所の運転認可期間は最長40年間で、期間満了後は更新しても良いと1954年原子力法で定められている。この40年という認可期間は、経済的側面(減価償却期間)と独占禁止法によって定められた期間である。
原子力発電所を当初の想定期間より長く、安全かつ経済的に運転することにより、発電原価の多くを占める資本費を低減することができるため、長寿命化の経済的意義は大きい。1980年代半ばには、エネルギー省/サンディア国立研究所によってSurry-1(WH-PWR)の運転認可を20年間延長する場合と新たに石炭火力プラントを建設する場合の経済性を比較した解析が行われ、長寿命化は投資者、電力消費者いずれにとっても望ましいことが示された。米国では、運転認可更新を考えない場合、2010年頃から認可期間を満了する発電所が発生し始め、発電量が減少してくるため、長寿命化は電力供給能力の上からも重要であると考えられた。規制当局(NRC)及び産業界(主に電力研究所(EPRI))は各々研究及び試験を行い、経年劣化影響は管理可能であり、原子力発電所を40年以上安全に運転できることを示した。
2.2 運転認可更新規則
運転認可を更新するための手続き(評価対象設備、評価内容、申請手続き等)は、連邦規則タイトル10(10CFR)のPart 54で規定されている。大枠は、日本における高経年化技術評価と類似しているが、規制の考え方の違いによる差異もいくつか見受けられる。
2.2.1 申請時期
規則では、現行の運転認可期限の20年前から運転認可更新申請書を提出できると規定されているのみで、その時期は事業者の経営判断によって決定される。更新認可を取得していると発電所の価値が上がるため、早めに申請するケースもあるが、別途(10CFR2.109(b)で)定められた認可期限の5年前までの提出期限ギリギリに提出するケース、また複数基・複数サイトを同時に申請するケースもあり、そのスタイルは様々である。この点は、日本において、1基ずつ高経年化技術評価を運転開始から30年目までに提出し、審査を完了することと大きく異なる。
2.2.2 評価対象設備
運転認可更新のスコープには、安全系の構造物、系統、及び機器(SSC)、破損が安全系SSCの機能に影響を及ぼす非安全系SSCに加えて、特定の規制要件(加圧下熱衝撃(PTS)、スクラム失敗事象(ATWS)、全交流電源喪失(SBO)、電気品の耐環境性能保証(EQ)、火災防護)遵守のために担保されているSSCが含まれる。そのため、消火系設備や、開閉所までの送電線、鉄塔やその基礎部などが評価対象に含まれる点が高経年化技術評価とは異なる。
更に、上記設備のうち、長寿命の(定期取替え品ではない)静的機器が、評価対象として選定される。例えば、弁箱は評価対象となるが、弁体は対象とはならない。これは、動的機器の経年劣化影響は比較的容易に検知可能と考えられていることと、保守規則(10CFR 50.65)に従ったプログラム(事業者が性能目標を決めて管理する)による経年劣化管理を担保しているためである。
2.2.3 評価内容
評価対象として選定された構造物、機器に対して、主に以下を実施する。
・ 経年劣化の影響が適切に管理され、延長された運転期間中にその機能が現行認可ベースに従って維持されることを実証する。
・ 要求機能に対する経年劣化の影響に関連し、期間限定の想定条件を含む解析(期間限定経年劣化解析)について更新認可期間末までの有効性を実証する、あるいは延長された運転期間中経年劣化影響が適切に管理されることを実証する。
特に前者については、雛形となるガイダンスが準備されている。GALL(Generic Aging Lessons Learned)報告書と呼ばれる文書で、オリジナルは経年劣化に関連する500件以上の文書(研究報告書、一般通達、異常事象報告書等)をレビューし、経年劣化情報を整理してまとめたNUREG/CR-6490(1996年12月付)である。これを、系統毎の構造物・機器について材料、供用環境、経年劣化影響/メカニズムとそれに対する経年劣化管理プログラム(AMP)を一覧表(例:図2)にまとめ、各AMPの内容を示したものが現在のGALL報告書(NUREG-1801, Rev.2、2010年12月付)である。GALL報告書と同じ内容が申請書に記載されている場合は、内容の妥当性について再度審査を行うことはしないため、これを利用することはNRCと事業者双方にとって効率的である。また、このGALL報告書は、審査経験や新知見を反映して定期的に改訂されるリビング文書を位置付けられており、その改訂プロセスではステークホルダーの意見も必要に応じて反映される。
図 2 GALL報告書(NUREG-1801, Rev.1)の例
2.3 その他の申請書の内容
米国の運転認可更新の際に、環境防護要件(10CFRPart 51)に従った環境評価も要求されることは、日本と異なる点の一つである。これは、新設並の評価が必要な訳ではなく、運転期間を延長することによって発生する環境影響(例えば、水(地表、地下水)の利用による利害関係、大規模な改修、社会経済的問題等)のみ評価が必要とされている。更に、全サイト共通の影響については、一般的な評価結果を環境影響声明書(NUREG-1437)にNRCがまとめており、新たな知見が得られない限り、別途評価を行う必要はない。
一方、日本で高経年化技術評価の際に行う耐震評価は、米国では要求されない。これは、耐震評価の中で経年劣化の影響を考慮していない現行の認可ベースが40年以降も引き継がれるためである。
3.運転認可更新の現状
Calvert Cliffs-1/2(CE-PWR)が1998年4月に最初の運転認可更新申請書を提出して以降、毎年数件ずつ申請書が提出され、2012年4月末現在、71基に対して更新認可が発給され、15基が審査中である。
現在稼働中の発電所の運転認可期限を図3に示す。2020年以前に認可が切れる発電所は既に申請を行っており、現在審査中である。
図 3 現在稼働中の発電所の運転認可期限
4.60年超運転に向けての取り組み(Beyond 60)
米国原子力法、運転認可更新規則のいずれにおいても、運転認可更新の回数を制限する規定はなく、条件を満たせれば、何度でも認可は更新可能である。2009年には4基が当初の認可期限である40年を迎え、2回目の運転認可更新申請が提出可能となった。産業界ではEPRIが、長期運転(LTO)プロジェクトの一環として、60年超運転に必要な研究を実施中である。
NRCは、2回目の運転認可更新を推進する立場にはないが、有効な規制活動を行うためには、最初の2回目の運転認可更新申請書が提出される少なくとも5年前までには研究を開始する必要があると考え、長期研究に関する活動計画の中に60年超運転(2回目の運転認可更新)のための研究を含め、実施している。
4.1 EPRIの検討
EPRIは、長期運転(LTO)プロジェクトを立ち上げ、現在運転中の原子力発電所が2050年まで、あるいはそれ以降も高いパフォーマンスで運転を継続することを目的とした検討を行っている。その中で、一次系材料、コンクリート及び格納容器、ケーブルの経年劣化/安全解析、計装制御及び情報技術(IT)、ライフサイクル管理等の研究開発を実施している。これらの研究報告書は2014年~2019年にかけて発行される予定である。
また、EPRIは、DOE、Constellation社と協力してGinna(WH-PWR)、Nine Mile Point(BWR)の2回目の認可更新(60年~80年運転)申請について3年間の実証研究を開始している。具体的な活動としては、格納容器検査、炉内構造物検査、炉容器データ/解析計画が挙げられている。これらの発電所の2回目の運転認可更新申請書は、2014~2019年に提出されると予測されている。
原子力発電所の寿命に関してEPRIが産業界に対して実施した調査結果として、原子力発電所の60年超運転を妨げる可能性のある問題として以下の項目が挙げられている。
状態:炉内構造物、原子炉容器、格納容器、コンクリート構造物、ケーブル、取替コストが高い設備
事象:地震、洪水、セキュリティ
その他:公衆の信頼喪失、設計の旧式化
このような調査を踏まえ、EPRIは現在のところ、原子力発電所の寿命を80年以下に制限するような問題は特にないとしている。また、60年を超えて運転する場合に必要な支出は7億5000万ドル~10億ドルと予測している。産業界に対しては、寿命の決定因子となるリスクが高い問題に対する技術的根拠を構築し、事業者はそれらのリスクを評価し、問題を緩和する計画を維持し、旧式化を避けるためにライフサイクル管理も継続するように提言している。
4.2 NRCの検討
2回目の運転認可更新に関する研究では、GALL報告書に含まれる情報の技術的根拠を、80年まで延長するために必要に応じて修正を行うことが考えられる。
基本的には、2回目の運転認可更新でも1回目と同じ評価が要求され、クリティカルな静的機器に関して、材料の劣化が引き続き進展した場合でも、十分な安全裕度が維持されることを保証しなくてはならない。運転経験、研究成果から既に多くの材料劣化感受性が確認されているが、60年を越えて運転する場合には、更に別の材料、劣化メカニズム、及び部位の組み合わせも考慮しなくてはならないかもしれない。電気計装系についても、劣化が継続して進展する可能性があり、評価が必要であると考えている。
なお、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)は、NRCの現在の研究は既知の劣化管理及び解析手法を60年以降も妥当だと保証することに集中しているが、更に、産業界が実施する必要のある追加研究分野を特定し、NRCはそのような産業界主導の研究活動をフォローし、NRCの確証研究に組み入れなければならないと指摘している。
4.まとめ
米国では、1990年代半ばから運転認可更新プロセスが整備され、2012年現在稼働中の104基の約7割が更新認可を取得し、(許認可上)60年までの運転が可能な状態となっており、ほとんど全ての発電所が運転認可更新を行うと見込まれている。運転認可更新の回数を制限する規定はなく、NRC、産業界共に2回目の運転認可更新(60年超運転)に向けた取り組みを行っており、今後も高いパフォーマンスを目標として高経年化プラントが維持されていく見込みである。
参考文献
[1] The Atomic Energy Act of 1954.
[2] NUREG-1850, “Frequently Asked Questions on License Renewal of Nuclear Power Reactors”, March 2006.
[3] SAND 86-2840C, Economic Modeling for Life Extension Decision Making, August 1986
[4] 60FR22461, 10CFR Part2, 51, and 54, Nuclear Power Plant License Renewal; Revisions, May 8, 1995.
[5] NUREG-1801, Vol.1, Rev.2, “Generic Aging Lessons Learned (GALL) Report; Summary”, December 2010.
[6] 61FR28467, “10CFR Part 51, Environmental Review for Renewal of Nuclear Power Plant Operating Licenses, Final Rule”, June 5, 1996.
[7] NUREG-1437, “Generic Environmental Impact Statement for License Renewal of Nuclear Plant”, May 1996.
[8] NRC, “U.S. Nuclear Regulatory Commission Long-Term Research: FY 2009 Activities,” October 2007.
[9] NUREG-1635, Vol. 9, “Review and Evaluation of the NRC Safety Research Program,” June 2010.
[10] Long Term Operation of Existing Nuclear Plants, PLIM+PLEX 2012, John Gaertner, EPRI, September 2010.
[11] EPRI Long Term Operation (LTO) Program, NRC Regulatory Information Conference, John Gaertner, EPRI, March 15, 2012.
(平成24年5月9日)
米国のライセンスリニューアルの経緯と60年超運転に向けての取り組み 中村 理恵,Rie NAKAMURA 米国のライセンスリニューアルの経緯と60年超運転に向けての取り組み 中村 理恵,Rie NAKAMURA