原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証~形状変化形ロボット~

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カテゴリ: 解説記事
1. 概要 原子炉格納容器内部調査装置の 開発および実証 ~ 形状変化形ロボット ~ 日立 GE ニュークリア・エナジー(株) 岡田 聡 Satoshi OKADA 石澤 幸治 Koji ISHIZAWA 高橋 良知 Yoshinori TAKAHASHI 国際廃炉研究開発機構(IRID) 遠藤 洋 Hiroshi ENDO 福島第一原子力発電所の廃止措置に向け、 原子炉格 納容器 (PCV) 内部を調査するための装置を開発した [1] [2]。 PCV 内は放射線量が高く、 放射性物質飛散防止の観 点から、 小口径の配管から内部へアクセスする必要があり、 装置の小型化が必須となる。 また、 内部での調査時は通路 であるグレーチング上を安定して走行することが求められる。 そこで、 配管の通過と、 調査時のグレーチング上の平面走 行を両立させるため、 開発したロボットは、 形状変化が可能 であることをコンセプトとした。 PCV 内部調査は、 炉心から溶融し地下階に拡がったと想 定される燃料デブリの分布を調査することを最終目的として いる。 その一環として、 地下階調査に用いる装置開発に必 要な情報を取得するため、 2015 年 4 月、 1 号機の 1 階の グレーチング上の調査を実施した。 本報では、 形状変化型 ロボットの開発概要と、 PCV 内部の調査結果について論ず る。 2. 形状変化型ロボットの開発 2.1 PCV 内部調査の概要と適用対象 図 1 に、 PCV 内部調査の概要と本ロボットの適用対象を 示す [3]。 PCV 内部調査は、 炉心から溶融して落下した燃 料デブリの分布状態を把握することを目的としている。 特に 1 号機の場合、 燃料デブリはペデスタル外に広がっている 可能性があるため、 ペデスタルの外側の調査を優先的に実 施することとされている。 図 1 に示すように、 最終的には燃 料デブリの状態を直接調査するため、 地下階を調査するこ とになる。 今回の調査は、 ペデスタル外の地下階調査に必 要な装置開発に資するため、 そのアクセスルートとなる 1 階 部分の状況調査を実施したもので、図中の X-100B ペネ (通 過貫通部) から挿入し、 ペデスタル外周の 1 階グレーチン グ上を調査対象とした。 CRD搬出入ブリッジ 図 1 PCV の概要と適用対象 [3] 2.2 形状変化型ロボットのコンセプト 表 1 に、 2.1 節に示した適用対象における課題と、 それ を解決するためのコンセプトを示す。 今回、 開発したロボッ トは、 配管内の通過と平面走行を両立するために、 走行部 位によって形状を変化させる構成とした。 また、 これまでの 調査によると、 PCV 内部は最大約 70Sv/h 程度と、 高い放 射線環境であると想定されているため、 使用する機器には、 耐放射線性が求められる。 そこで、 電子機器を極力搭載 しない構成とすることで、 耐放射線性を確保した。 さらに、 PCV 内部の暗部かつ蒸気で満たされた環境に対応するた め、 照明として指向角の異なる複数種類の LED を組合せ たハイブリッド照明を採用した。 表 1 開発課題とロボットのコンセプト 課題 コンセプト 配管内通過と平面走行の両立 走行部位によって形状を変化 耐放射線性向上 電子機器を極力搭載せず 視認性確保 ハイブリッド照明 2.3 走行部位に応じたロボット形状の変化動作 図 2 に、 走行部位に応じたロボットの形状を示す。 カメラ を搭載した本体に対し 2 つのクローラを直線に配置した状態 解説記事「原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証 ~ 形状変化形ロボット ~」 13と、 本体と 2 つのクローラを直角に配置した状態の 2 つの形 保全学 Vol.14-3 (2015) 状を自在に変形する機構とした。 これにより、 図 1 の狭隘な 配管内の通過と、 グレーチング上の安定走行の両立が可能 になる。 温度計 100mm (b) 平面走行形状 図 2 走行部位に応じたロボットの形状 図 3 に、 2.2 節に示した 2 つの形状におけるクローラの動 作を示す。 平面走行時は、 左右のクローラを同一方向に駆 動することで前後進動作をさせ、 反対方向に駆動することで 旋回動作をさせる。 また、 配管内走行時は、 左右のクロー ラ反対方向に駆動することで、 前後進動作をさせる。 動作 左(後) 右(前) 前進 正転 反転 後進 反転 正転 (a) 管内走行時 (b) 平面走行時 図 3 走行時のクローラ動作 2.4 耐放射線性の向上 今回開発した形状変化型ロボットは、 耐環境性、 特に耐 放射線性を向上するために、 電子機器を極力搭載しない構 調査用カメラ 進行方向 配管内進行用カメラ 100mm (a) 配管内走行形状 前進 前進 動作 左 右 前進 正転 正転 後進 反転 反転 右旋回 正転 反転 左旋回 反転 正転 クローラ 線量計 図 5 カメラユニットの構成 14成とした。 一般に、 モータ駆動による移動装置は、 回転数 を検知するためのエンコーダや、 駆動量を制御するための モータドライバを実装するが、 本開発のロボットは、 本体に 搭載しない構成とした。 図 4 に、 耐放射線性向上のための 機器配置の概略を示す。 回転数はモータ電流検知方式とし た。 また、 モータドライバは、 制御装置に組み込むことで、 ロボット本体には、 モータのみ搭載する構成とした。 また、 搭載するカメラについても、同様に、CCD センサのみをロボッ トに搭載し、 処理基板は、 制御装置に搭載することとした。 これにより、 PCV 内部環境に適用するロボット本体には、 電 子機器を殆ど搭載しない構成とすることができ、 耐放射線性 を向上することができる。 従来本開発 ロボット制御装置 電源線 ドライバ E M 信号線E M ロボット E:エンコーダ 制御装置 電源線 MM:モータ ドライバ M ※電流値で回転数検知 図 4 耐放射線性向上のための機器配置 2.5 ハイブリッド照明による視認性確保 2.5.1 カメラユニットの構成 2012 年 10 月に実施された格納容器内調査の結果 [4]、 内部は蒸気が充満していることが明らかとなっているため、 蒸気環境下での視認性を確保する必要がある。 蒸気環境 下では、 照明光度を上げると強いハレーションが生じるた め、 一般的な高輝度 LED を用いることができない。 そこで、 照明光度の低い小型の LED を用い、 効率的に照射するた め、 近距離用と遠距離用に、 指向角を変えたハイブリッド構 成の照明とした。 図 5 に、 本ロボットに搭載したカメラユニッ トの構成を示す。 カメラの周辺に遠距離用の指向角 20 ゜の LED、その周辺に近距離用の指向角50゜の LEDを配置した。 LED(50゜) LED(20゜) カメラ 2.5.2 蒸気環境下での視認性確認 ハイブリッド照明の効果を確認するため、 蒸気環境下で の視認性試験を実施した。 図 6 に試験体系を示す。 ロボッ トの前方に、 白黒プレートとグレーチングを設置し、 密閉空 間で蒸気を充満させて映像を取得した。表 2 に結果を示す。 表には比較のため、 出力 1W、 指向角 120 ゜の高輝度 LED を用いた時の結果を示す。 また、 対象物表面上での照度 測定結果から光の透過率を算出し、 蒸気の濃さを表現した。 本表の結果より、 蒸気の有無、 透過率に依らず、 本ロボッ トのハイブリッド照明により視認性が確保できることが確認さ れた。 白黒プレート(対象) 蒸気 グレーチング(対象) L(5m) 図 6 蒸気環境下での視認性確認試験 表 2 蒸気環境下での視認性確認結果 蒸気 透過率 (指向角120゜) 高輝度LED 本ロボットのカメラ (指向角20゜+50゜) 無 100% 有 白黒プレート グレーチング 0.40.23. モックアップ試験による動作確認 3.1 エントリの確認 本ロボットは、 図 1 に示した通り、 X-100B から PCV 内部 にエントリするが、 具体的には、 X-100B ペネに取り付けら れている直径 100mm の配管 (ガイドパイプ) を通過させる ことになる。 図 7 に、 ガイドパイプを模擬したモックアップを 用いた、 エントリ性の確認状況を示す。 図に示す通り、 ガイ ドパイプの前方には、 構造物があり、 2 つのクローラの角度 を変えながら、 エントリを実施するため、 モックアップを用い て、 手順の確認を実施した。 ロボット 解説記事「原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証 ~ 形状変化形ロボット ~」 15カ゛イドパイプ先端 100mm ロボット 図 7 エントリ確認の状況 3.2 グレーチング上走行確認 図 8 に、 グレーチング上の走行確認試験を実施した状況 を示す。 X-100B の位置からグレーチング上に着座後、 図 1 に示すように、 PCV 内部をほぼ半周走行し、 反対側にあ る X-6 ペネ周辺まで走行することを目標として実施した。 こ の走行試験においては、 障害物が存在した場合の回避方 法や、 ケーブルを牽引する性能確認等を実施し、 走行可 能であることを確認した。 CRD搬出入ブリッジ ロボット ケーブル 100mm 図 8 グレーチング上走行確認の状況 4. 現地実証試験 4.1 実証試験の概要 第 2 章で示した形状変化型ロボットを、 2015 年 4 月 10 日および 4 月 15 日~ 20 日に、 福島第一原子力発電所 1 号機の原子炉格納容器 (PCV) 内部に投入し、 1 階部 分を調査する実証試験を行った。 図 9 に、 調査概要を示 す。 実証試験は、 地下階調査に用いる装置開発に必要な 保全学 Vol.14-3 (2015) 情報を取得するために実施したものであり、 具体的には、 X-100B ペネに設置されたガイドパイプからロボットを投入し、 1 階グレーチング上を反時計回り、 時計回りに進行し、 PCV 内部の映像、 温度、 放射線線量率等の情報取得と、 地下 階アクセス開口部、 CRD 搬出入ブリッジ等の状況調査を目 的とした。 CRD搬出入ブリッジ MS配管 X-100Bペネ 図 9 PCV の概要と適用対象 4.2 実証試験で得られた情報 今回の実証試験で得られた情報を列挙する。 1 グレーチング上の状況としては、 表 3 に示す通り、 線 量率は最大約 10Sv/h、 温度は最大約 21°Cであり、 特 に高い部分は確認されなかった [5]。 表 3 グレーチング上の温度および線量率 [5] 測定点 線量率 (Sv/h) 温度 (°C ) B3 7.4 17.8 B4 7.5 19.2 B5 8.7 19.4 B7 7.4 19.5 B11 9.7 19.2 B14 7.0 20.2 C2 6.7 19.6 C5 8.3 19.5 C6 7.7 19.4 C9 4.7 20.8 C10 5.3 21.1 C11 6.2 20.7 地下階アクセス 開口部 装置投入可能な箇所 図 11 地下階アクセス開口部の確認状況 [5] 4 3で示した地下階への開口部以外に、 今後の調査で 使用する可能性のあるアクセスルートを調査した。 結果 を図 12 に示す [6]。 反時計回りのルートは、 CRD 搬 出入ブリッジの手前で、 構造物が障害となり進行できな いこと、 時計回りのルートは、 MS 配管の脇から、 更に 奥まで進行できることが確認できた。 162 図 10 に、空調機 (HVH) 損傷有無の確認状況を示す。 この結果より、 空調機 (HVH) 等の既存の設備には、 大きな損傷がないことが確認できた。 吸入口 HVH基礎部 図 10 空調機 (HVH) 損傷有無の確認状況 [5] 3 地下階調査において、 地下階へのアクセスに使用する 可能性がある開口部を調査した。 図 11 に、 確認状況 を示す。 本結果より、 今後の調査に支障となるような干 渉物が周囲にないことが確認できた。 HVH12D 3D-CADイメージ CRD搬出入ブリッジ MS配管 図 12 アクセスルートの確認状況 [6] 5. まとめ 本報では、 PCV 内部調査用の形状変化型ロボットを開発 し、 1 号機の内部調査を実施した。 その結果、 地下階調査 用装置を開発するために必要な情報を取得すること、 開発 した形状変化型ロボットの実機における動作性を確認するこ とができた。 今回、 開発した技術、 得られた情報に基づき、 今後、地下階の調査計画、および調査装置の開発を進める。 謝辞本開発は、 資源エネルギー庁の補助事業である平成 24 年度発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金、 平 成 25 年度発電用原子炉等廃炉 ・ 安全技術開発費補助金、 平成 25 年度補正予算 「廃炉 ・ 汚染水対策事業費補助金」 にて実施したものである。 参考文献 [1] 日立製作所 , 日立 GE ニュークリア・エナジー株式会社 , 「福島第一原子力発電所での燃料取り出しに向けた調 査用の水中走行遊泳型ロボット ・ 形状変化型ロボットを 開発」 , 2014.3.10, 日立製作所 HP, http://www.hitachi. co.jp/New/cnews/month/2014/03/0310e.html [2] 岡田聡, 他 , 「格納容器内部調査向け形状変化型調 査装置の開発」 , 日本原子力学会, 2014 年春の年会 予稿集, pp.138-143, 2008. 解説記事「原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証 ~ 形状変化形ロボット ~」 17[3] IRID, 「原子炉格納容器内部調査装置 (形状変化 180° 型ロボット) の作業訓練の実施について」, IRID HP, (東側) 270° ( 南側) 2015.2.3,http://irid.or.jp/research/20150203/ [4] 東京電力株式会社 , 「福島第一原子力発電所1号機 原子炉格納容器内部調査結果について」 , 東京電力 90° (北側) HP, 2012.10.15, http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima- 0° (西側) np/images/handouts_121015_02-j.pdf [5] 東 京 電 力 株 式 会 社 , 「「 原 子 炉 格 納 容 器 内 部 調 査 技 術 の 開 発 」 ペ デ ス タ ル 外 側 _1 階 グ レ ー チ ン グ 上 調 査 ( B 1 調 査 ) の 現 地 実 証 試 験 の 結 果 に つ い て 」 , 東 京 電 力 HP,2015.4.30, 進行ルート有 http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2015/ images/handouts_150430_01-j.pdf [6] IRID, 「原子炉格納容器内部調査装置 (形状変化 型ロボット) の実証試験の実施について (2015 年 4 月 20 日 )」,IRID HP, 2015.4.20,http://irid.or.jp/ research/20150420/ 進行不可 (平成 27 年 9 月 4 日) 著 者 紹 介 著者 : 岡田 聡 所属 : 日立 GE ニュークリア ・ エナジー 株式会社 原子力設計部 主任技師 専門分野 : 産業用フィールドロボットの研究開発 著者 : 石澤 幸治 所属 : 日立 GE ニュークリア ・ エナジー 株式会社 原子力計画部 技師 専門分野 : 過酷環境に適用するロボッ トの研究開発 著者 : 高橋 良知 所属 : 日立 GE ニュークリア ・ エナジー 株式会社 原子力計画部 主任技師 専門分野 : 原子力用遠隔取扱い装置の開発 著者 : 遠藤 洋 所属 : 国際廃炉研究開発機構 研究管 理部 副部長 専門分野 : 原子力用ロボット、 燃料運 搬装置等の開発 原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証~形状変化形ロボット~ 岡田 聡,Satoshi OKADA,石澤 幸治,Koji ISHIZAWA,高橋 良知,Yoshinori TAKAHASHI,遠藤 洋,Hiroshi ENDO 原子炉格納容器内部調査装置の開発および実証~形状変化形ロボット~ 岡田 聡,Satoshi OKADA,石澤 幸治,Koji ISHIZAWA,高橋 良知,Yoshinori TAKAHASHI,遠藤 洋,Hiroshi ENDO
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