東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓

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カテゴリ: 解説記事
1. はじめに 東日本大震災時の福島第二原子力発電所の 緊急時対応とその教訓 東京電力ホールディングス株式会社 原子力設備管理部 川村 慎一 Shinichi KAWAMURA 2. 津波による被害の状況 東日本大震災の発生時,福島第二原子力発電所(以下, 福島第二)では,4 基の BWR5 型プラントが出力 1100 MWe/ 基で運転中だった。このうち 1, 2, 4 号機では,津 波の被害で原子炉の除熱設備が全て機能を失った。 これらのプラントでは,原子炉代替注水や原子炉格納 容器代替スプレイなどで,事故進展を緩和しつつ,緊急 の資材調達と復旧で除熱機能を回復させ,炉心損傷させ ることなく,全号機の冷温停止が達成された。 新規制基準のもとで安全設備が強化されたが,想定を 超える事態にも対処する組織的能力の向上は,引き続き 重要課題である。当社では福島第一原子力発電所事故に 加え,福島第二の対応も分析して,改善に役立てている。 本稿は,この分析から得た教訓を紹介する。 福島第二の全号機は,地震を感知して 14 時 48 分に自 動停止した。地震後の安全設備の状態は,全て正常だっ たことが確認されており,各号機では冷温停止に向けて 手順通りの操作が進められていた。 その後,津波が到達し(第一波到達は 15 時 22 分), 各号機の安全設備に被害をもたらした。図1に発電所に 遡上する津波の状況,表1に主要な被害状況を示す。 原 子 炉 の 熱 を 海 に 移 送 す る 残 留 熱 除 去 冷 却 系 (RHRC),残留熱除去冷却海水系(RHRS),ならびに非 常用機器冷却水系(EECW)の大半が,それらが設置さ れていた熱交換器建屋内への浸水で,電源盤や電動機が 被水して動作不能になった。また,冷却系の動作不能に より,残留熱除去系(RHR)や,低圧炉心スプレイ系 解説記事「東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓」 表1 津波直後における福島第二原子力発電所の原子炉注水 ・ 除熱設備の状況 保全学 Vol.15-2 (2016) (LPCS)の機器も動かせなくなった。さらに,原子炉冷 却材浄化系(CUW)も除熱手段が失われた。共通要因 で,直接的な被水被害だけでなく,電源や冷却機能の喪 失が生じ,結果として広範な安全設備が機能喪失したこ とは,今後の安全対策において重要な教訓である。この ようにして,1,2,4 号機では,原子炉の除熱設備と非 常用炉心冷却系(ECCS)が全て機能喪失した。この状 況で原子炉注水に使える設備は,ECCS に位置付けられ ていない原子炉隔離時冷却系(RCIC)と,復水補給水 系(MUWC)だけだった。 3. 運転操作による緊急時対応とその教訓 3.1 中央制御室の運転員に対する支援 この緊急事態で,中央制御室の運転員に対して,以下 の支援が行われた。まず,中央制御室近くに執務室を持 つ作業管理チームが,地震直後に応援に駆けつけた。こ のチームは保全作業に関連した運転管理の担当組織で, 運転責任者資格を有するリーダー以下,全員が運転員で 構成されている。運転スキルを有するこのチームが,操 作対象系統の構成確認やプラント状況の再確認等の面で 有効な支援を行った。 一方,発電所事務本館に隣接する重要免震棟には,地 震発生直後に発電所緊急時対策本部(以下,対策本部) が設置された。対策本部では発電班が運転操作状況を把 握して組織内に共有するとともに,運転員への技術支援 を行う役割を持つ。対策本部設置と同時に,この班から 運転員経験を有する者が各中央制御室に派遣された。こ れにより,運転員を状況把握と対応操作に専念させつつ, 派遣者を通じて対策本部と中央制御室が緊密かつ確実に 連携できるようになった。 一方,対策本部内では,主要な安全設備の状態と原子 炉への注水状態が,ホワイトボードに書き出されて共有 と,3中央制御室と対策本部が緊密に情報共有すること の観点で有効だった。また,情報共有の仕組みを確かに して,対策本部が中央制御室と共通の認識を持つことで, 的確な支援が可能になった。このことは,今後の教訓と して重要な経験と考えられる。 3.2 原子炉注水と格納容器スプレイ 停止した原子炉の安全確保には,原子炉注水の継続を 最優先に取り組む必要がある。1,2,4 号機において, 注水継続に用いた設備の構成を図2に示す。 図2 除熱喪失, 全 ECCS 機能喪失での原子炉注水措置 主復水器は除熱機能を失っており,主蒸気隔離弁が 閉じられている。また,上述のとおり RHR,RHRC, RHRS が動作不能で,これらによる原子炉の除熱も不能 された。プラント状態と主要操作内容は,対策本部内で 随時アナウンスされていたが,重要な設備の状況を常に 見える形にしておくことは,全対応要員が中央制御室の 運転員と確実に共通の認識を維持して活動するうえで重 要である。そのうえで,対策本部で検討された内容は, 発電班長を通じて中央制御室に伝えられた。 中央制御室は常駐する運転員によって,非常時の監視 と操作が全て行える設計であり,運転員に対してその訓 練もされている。しかしながら今回のような想定を超え る事態では,運転の知識と経験を有する要員による支援 体制を早期に作ることが,1運転員が運転操作に集中す 図1 福島第二原子力発電所に遡上する津波 ること,2運転員の判断を再確認して確実性を高めるこ である。高圧の原子炉に注水可能な設備のうち,水冷 設備を要せずに動作可能なものは RCIC のみだった。そ こで,まず RCIC で,復水貯蔵タンクの水が原子炉に 注水された。その後,逃がし安全弁で原子炉を減圧し, RCIC にかわる低圧注水設備によって復水貯蔵タンクか らの注水を継続した。この注水には,本来は原子炉注水 設備でないが,アクシデントマネジメント手段として 従前から位置付けていた MUWC が用いられた。なお, MUWC ポンプも水冷設備を要せずに動作可能である。 1号機を例として,原子炉圧力の推移と注水操作を, 図3に示す。なお,2,4 号機の対応も基本的に同様で ある。除熱機能喪失直後の 3 月 11 日 15 時 36 分から, RCIC による注水が行われた。次に 16 時 15 分には,逃 がし安全弁による原子炉減圧が開始された。その後,3 月 12 日 0 時からは MUWC で注水が継続された。 図3 福島第二1号機の原子炉圧力推移と注水操作 これらの操作により,原子炉水位が有効燃料頂部以上 に確保された。なお,3 月 14 日には原子炉水の核種分 析が行われ,燃料の健全性も確認されている。したがっ て,一連の操作で高圧注水から低圧注水への切り替えに 成功し,燃料の冷却が適切に継続されたことが判る。 一方,図2に示すとおり,原子炉で発生した蒸気は, 逃がし安全弁を通じて格納容器内の圧力抑制室に導かれ た。しかしながら,圧力抑制室の水を冷却する手段が無 く,水温が飽和温度に達してからは,圧力抑制機能が失 われて格納容器の圧力が上昇した。 1号機を例として,格納容器圧力の推移と対応操作 を,図4に示す。まず 3 月 12 日 6 時 20 分に,可燃性ガ ス制御系(FCS)を経由して MUWC からの低温水を圧 力抑制室に注水することで,温度上昇の抑制が試みられ た。続いて,RHR による格納容器スプレイの代替として, MUWC を原子炉注水から格納容器スプレイに間欠的に 切り替え,格納容器圧力の上昇抑制が図られた。 これらの操作は圧力・温度上昇を抑制する効果があっ 応設備の故障などの不測の事態が発生することも考えら 炉注水)を確保した後,複数の代替手段が確保できる状 況を作るべく,継続的対応が行われた。 格納容器圧力上昇抑制についても,代替スプレイに 加えて,格納容器ベントという次の手段を準備しつつ, RHR の復旧を急ぐなど,時間経過とともに代替手段の 選択肢を増す対応がとられた。 このように,状況に応じて戦略を組み立てる機能の強 化が,今後の緊急時組織に求められる。 さらに,戦略の立案,ならびに実行結果の戦略への フィードバックには,情報収集と分析の機能が不可欠で ある。福島第二では計測制御系の機能が確保され,対策 本部がデータに基づく状況把握と推移予測を行えたこと が,このような戦略的対応を可能にした。加えて,通信 手段と連絡体制の確保により,対策本部と中央制御室が 情報を共有するとともに,指揮命令系統の一貫性が維持 図4 福島第二1号機の格納容器圧力推移と対応操作 解説記事「東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓」 たが,停止後には再上昇した。そこで,格納容器が最高 使用圧力を超える場合に備えて,格納容器ベントの系統 構成準備が行われた。ただし,最終的には最高使用圧力 に至る前に,後述する復旧活動で RHR の再起動に成功 し,ベントを行わずに事態が収束された。 これらの対応における教訓としては,緊急時対応を通 じて常に対応手段の代替可能性を増加させるように,戦 略を組み立てるべきであることがあげられる。 原子炉注水については,当初の原子炉高圧時には RCIC が唯一の手段だったが,原子炉を減圧すれば,今 回用いた MUWC 以外にも消火系など多様な手段による 注水の代替可能性が増す。一方,時間経過とともに,対 れる。福島第二では最初の対応手段(RCIC による原子 保全学 Vol.15-2 (2016) できたことも,戦略的対応を可能にした。 るまで,さらに約 7 時間を要した。 3.3 運転操作による緊急時対応における教訓のまとめ 運転操作による対応の成功について,重要な教訓を以 下に整理する。 まず,緊急時対応を有効に機能させる観点で,中央制 御室への適切な支援と,中央制御室と対策本部の連携に よる指揮命令系統の一貫性が重要だった。福島第二では, 以下のことが行われた。 1) 運転の知識と経験を有する要員が,中央制御室の 運転員に,技術面と連絡調整面で支援したこと 2) 対策本部の連絡要員を中央制御室に駐在させるこ とで,運転員を監視と操作に集中させつつ,情報共有と, 指揮命令系統の一貫性を確保したこと 3) 安全設備の状態と原子炉注水状況を,中央制御室 と対策本部が常に共有するとともに,対策本部内では見 える形で掲示等を行い,全対応要員が確実に共通の認識 を維持できるようにしたこと 次に,状況把握と推移予測を行いつつ,対応手段の代 替可能性を常に増す戦略が有効だった。福島第二では以 下のことが行われたが,想定を超える事態への対処も念 頭に,今後の緊急時対応組織では,情報分析と戦略立案 に関する機能の強化が重要である。 4) データに基づく状況把握と推移予測を行うととも に,その結果を対策本部と中央制御室が確実に共有でき るように,報告と連絡の体制を維持したこと 5) 状況把握と推移予測に基づき,原子炉注水ならび に格納容器冷却について,常に対応手段の代替可能性を 増すように戦略を組み立てたこと 4. 復旧作業とその教訓 4.1 被害状況の現場確認 限られた人的・物的資源で安全機能を復旧するには, その優先順位を決めて安全に遂行する必要がある。この ためには,まず現場の被害状況確認が必要である。しか しながら,繰り返す津波で現場が再浸水する可能性があ り,直ぐには対応要員を現場派遣できなかった。津波情 報の収集,現場状況と水位変化の監視,緊急避難の指示 伝達の方法等,安全確保の手段を整え,対応要員が派遣 されたのは,午後 10 時頃になった。津波被害から現場 派遣まで,約 7 時間を要している。その後の現場確認で は,暗闇で瓦礫や海中への開口部等の危険個所を避けて 行動する必要があり,被害設備に到達して状況を確認す 緊急事態下では対応要員の安全確保や現場への到達 ルート確保が困難となり,被害状況を把握するまでに時 間がかかる可能性があることは,教訓として緊急時活動 を設計する際に考慮すべきである。 こうして 12 日午前 5 時頃まで現場調査が行われ,被 害情報が集約されて分析された。1,2,4 号機の RHR の A 系と B 系の状態を比較したところ,熱交換器建屋 内の電源設備は両系とも全損状態だったが, B 系の方が 交換を要するポンプ電動機が少ないことが判った。そこ で,B 系を優先復旧対象とし,電動機を交換して,被水 しなかった電源盤もしくは電源車から仮設ケーブルで給 電することが,対策本部によって決定された。 4.2 復旧用資材の緊急調達 復旧資材の調達と輸送は,本店と柏崎刈羽原子力発電 所(以下,柏崎刈羽)が担った。 福島第二に送られた主要資材は,電動機,電力ケーブ ル,電源車,移動用変圧器,電源車の燃料である軽油で ある。交換が必要な電動機 3 台は,同一または類似仕様 品を探す必要があった。このうち 2 台は三重県内のメー カ工場に適用可能なものが見つかり,予備を含めて 3 台 が自衛隊によって 12 日夜に福島空港へ空輸され,さら に 13 日早朝にトラック輸送で福島第二に運ばれた。残 り 1 台は,柏崎刈羽で使用されていたものに適用可能な ものが見つかり,予備を考慮して 2 台が,トラック輸送 で 13 日早朝に到着した。 このようにして 13 日午前 7 時頃までに,RHR の復旧 資材が揃えられた。陸上輸送に時間がかかった理由は, 断され,迂回が必要だったこと,迂回ルートの案内が不 十分だったこと,携帯電話が使えず,輸送チームと対策 本部の連絡が取れなかったこと等である。 こうした事態に備え,緊急時に輸送可能な資材とその 輸送方法,輸送不可能な資材の所内確保について,あら かじめ十分に検討しておく必要がある。 4.3 RHR の復旧 RHR の復旧作業は,必要資材が揃った 13 日に本格的 に実施された。前日までに重機で瓦礫を撤去した構内 道路を使って,必要資機材を復旧現場に搬入し,1 号機 と 4 号機では,RHR の B 系を冷却する RHRC ポンプの 電動機が交換された。これに加えて 1 号機では,EECW ポンプの電動機も交換された。 地震による土砂崩れと津波による浸水で国道 6 号線が寸 また,これらの作業と並行して,ポンプを動かすため の電源系統の仮設復旧作業が行われた。図5に仮設電源 系の構成概要を示す。1,2,4 号機では熱交換器建屋に 設置されていた RHRC,RHRS,EECW のポンプ電動機 に給電するための電源盤が,津波による被水で全損して いた。そこで,被水しなかった 3 号機の電源盤と廃棄物 処理建屋内の電源盤,もしくは現場付近に配置した電源 車から移動用変圧器経由で,電動機へ給電した。この復 旧に用いられた仮設ケーブルは総延長約 9 km であり, 約 200 人の人力によって,13 日の夜までかけてほぼ 1 日で設置された。 これらの作業が完了し,まず 1 号機の RHR が 14 日 1 時 24 分に再起動して原子炉および格納容器の除熱が開 図5 除熱機能の復旧に向けた電源系統の仮設復旧 図6 RHR 復旧後の冷温停止に用いた系統構成 度の分析,赤外線サーモグラフィによる診断を高頻度で だったポンプの中には,潤滑油に異物が混入したために 5 月頃から軸受振動が増加したものもあり,軸受交換や 潤滑油入れ替えなどの措置がとられた。 また,復旧作業を継続するための資材輸送,電源車な らびに業務車の燃料の輸送と備蓄が必要になり,緊急時 対応要員の一部がその任務に振り向けられた。 安全な停止状態維持のために,冷温停止後も予備設備 の復旧,仮設設備の本設復旧が継続された。損傷した全 ての除熱系が本設復旧を完了したのは,4 号機が平成 24 年 5 月 17 日, 3 号機が平成 24 年 10 月 11 日, 2 号機が平 成 25 年 2 月 15 日, 1号機が平成 25 年 5 月 30 日だった。 4.5 復旧作業における教訓のまとめ から,設備診断技術と補修技術を習得しておくこと 解説記事「東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓」 始された。復旧された冷却系統の構成を,図6に示す。 同様に,他号機の冷却系統も順次復旧され 15 日 7 時 15 分までに全号機の冷温停止が達成された。 4.4 復旧後の安定冷却の確保 RHR の 1 系統が復旧し,冷温停止が達成されたが, 予備系統が無いために,復旧した設備が故障すると再び 除熱手段を失う可能性があった。また,電気設備に塩分 が付着し,絶縁低下や火災の可能性も危惧された。 そこで,予備設備の復旧を継続しつつ,復旧した設備 に対しては,14 日から振動診断,潤滑油の成分と清浄 実施して,信頼性維持が図られた。被水したが稼働可能 復旧作業における重要な教訓を,作業そのものの面と, ロジスティクスの面から整理する。 復旧作業における教訓は,以下のとおりである。 1) 現場調査で設備の被害状況を確認し,対策本部が 復旧の優先順位を明確に定めて取り組むこと 2) 緊急時の現場活動を想定し,安全確保の手段をあ らかじめ考えておくこと 3) 緊急事態初期には被害現場に対応要員を派遣でき ず,現場の状況調査や復旧活動が制約される可能性を考 慮し,初動から一定時間は現場活動に期待しなくても対 応できるように,手段を講じておくこと(福島第二では, 代替の恒設設備による原子炉注水で当座の安全を確保し て,現場活動につないだ) 4) 緊急復旧作業の技能を発電所員が身につけ,休祭 日や夜間も含めて何時でも対応できるようにすること 5) 緊急復旧後に復旧機器を安定的に稼働させる観点 ロジスティクスの面での教訓は以下のとおり。 保全学 Vol.15-2 (2016) 6) 輸送体制,調達・輸送状況の把握と情報管理の手段, 6. 柏崎刈羽をはじめとする教訓の展開 輸送チームと対策本部の連絡手段等を整備しておくこと 当社は米国の Incident Management System(ICS)を応 7) 発電所外での活動については,自然災害と重畳し 用して,緊急時の対応力強化を進めている。ICS では緊 た複合災害への対処も想定しておくこと 急時の機能を,戦略プランニング部門,実行部門,ロジ 8) 発電所への資材輸送が滞ることも想定し,重要な スティクス部門,総務部門の4つの機能モジュールで構 資材は発電所内に備蓄すること 成する。また,緊急事態の進行に応じて対応組織を柔軟 9) 緊急時の資材輸送について,体制整備や輸送要員 に拡大,縮小しつつも,指揮命令系統の一貫性を保つ仕 への放射線防護教育などの備えを講じておくこと 組みが備えられている。 10) 軽油やガソリンの輸送と,所内での安全な一時貯 福島第二では限られた情報と人的・物的資源で対応を 蔵のための手段を計画しておくこと 開始し,対応しながら状況認識を高めて戦略を順次改定 すること,すなわち定型戦略ではなく戦略プランニング 5. 長期の緊急時活動を支える活動 機能が重要だった。しかしながら,従前の緊急時体制で 冷温停止後も,安全な停止状態維持の活動が,長期間 はこの機能が各組織に分散しており,明確ではなかっ 継続した。緊急時対応を続けていた要員が,交替で帰宅 た。一方,ICS ではこれを重要な機能モジュールに位置 できるようになったのは 3 月 24 日からだが,その後も づけており,この改善を具現化する良いプラットフォー 当番体制で多数の要員が発電所内に寝泊まりし,不測の ムになっている。同様に,福島第二の対応で課題になっ 事態に備えた。長期にわたる活動を支えるうえでは,様々 たロジスティクスや,活動を支える総務機能についても, な課題に対処する必要があった。 ICS を応用した組織体制の中で改善を進めている。加え まず,発電所員の大半は家族とともに地元に居を構え て,ロジスティクス面では,発電所内に重要な復旧資材 ており,家族の安否と自宅の状況を確認する必要があっ を備蓄するとともに,発電所の後方支援拠点を予め複数 た。所員の 82% が福島第一原子力発電所周辺の居住者 確保して,緊急時対応に備える取り組みも行っている。 で,家族の避難が必要になっていた。また,震災で身内 また,福島第二では冷却系の機能喪失が共通要因と を亡くした所員も 8 名いた。さらに,全所員の 46% の なって多くの安全設備が機能を失い,これを緊急復旧す 自宅が全壊から一部損壊まで,なんらかの住宅被害を受 ることが対応の成否を握った。事故後にはトレーラ搭載 けていた。そうした状況下で緊急時活動を続けるために の熱交換器による移動式の冷却設備が開発され,現場配 は,対応要員の家族や自宅の状況を確認して必要な措置 備して緊急時の冷却手段を改善している。 を講じることが必須だが,家族との連絡が一通りとれる までに 10 日間を要し,課題を残した。 7. おわりに 緊急時活動のストレスから,突発性難聴や鬱の症状が 福島第二の 1,2,4 号機は原子炉の除熱機能を全喪失 出た対応要員もいて,精神的なケアが必要になった。専 したが,臨機応変の活動で RHR を復旧させて冷温停止 門医によるアンケート調査と面談の結果,対応要員約 に成功した。これは,想定を超える緊急事態への対処に 500 名のうち,100 名以上が心的外傷後ストレス障害と おける成功事例であるが,必ずしも全ての対応が順調に 診断され,5 月から専門医の定期診察が行われた。 行われたのではなく,課題も残している。 また,所内の限られたスペースで多数の要員が活動し, この対応における教訓と課題を活用し,当社では柏崎 寝泊まりすることから,衛生管理も重要だった。これに 刈羽原子力発電所をはじめ,組織の事故時対応能力の改 は,食料と飲料水の調達,深井戸と送水配管の復旧によ 善に取り組んでいる。引き続き,訓練等を通じて改善を るトイレとシャワー用水の確保,寝具の手配,洗濯設備 図り,安全性向上に取り組むこととしたい。 の設置,生活ごみの管理等の活動が含まれる。 (平成 28 年 5 月 31 日) 事前の備えもなく,これらの対応は対策本部の総務担 当部門によって臨機に行われた。ただし,これらの対処 抜きには長期の緊急活動は成立せず,教訓として今後の 備えに活かす必要がある。 著 者 紹 介 著 者 紹 介 著者:川村 慎一 所属:東京電力 HD(株) 専門分野: 原子力発電所の設備設計 と管理 東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓 川村 慎一,Shinichi KAWAMURA 東日本大震災時の福島第二原子力発電所の緊急時対応とその教訓 川村 慎一,Shinichi KAWAMURA
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