防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上

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カテゴリ: 解説記事
1. はじめに 防火措置を施すことによる 非難燃ケーブルの難燃性能の向上 関西電力株式会社 瀬越 義則 Yoshinori SEGOSHI 原子力発電所の新規制基準における火災防護対策で は、安全機能を有する機器には難燃ケーブルを使用する ことが要求されている [1]。しかしながら、1970 年代に 運転を開始したプラントにおいては、建設時に敷設され た非難燃ケーブルが使用されている。ここで言う非難燃 ケーブルとは、自己消火性及び耐延焼性のいずれかの実 証試験により難燃ケーブルに求められる性能を有してい ることが示されていないケーブルを指している。 よって、非難燃ケーブルについては、不燃材の防火シー トでケーブル及びケーブルトレイを覆うことにより複合 体を形成し、難燃ケーブルと同等以上の性能を確保する こととした。 本稿では、複合体の設計、及びその難燃性能を確認し た実証試験の概要等について紹介する。 2. 設計目標及び設計方針 今回採用を検討した防火シートは、不燃であり火炎を 遮るが熱は伝わる。また、複合体内部の酸素量を定量的 に管理することは難しく、ケーブル自体が可燃物である ため、この防火シートを用いて複合体を形成しても、燃 焼の 3 要素(熱、酸素、可燃物)のうち熱(火炎)及び 酸素量は抑制できるものの、燃焼の 3 要素のいずれかを 完全に排除して複合体を不燃とすることはできない。 したがって、複合体に難燃ケーブルを上回る難燃性能 を持たせることとし、その際には、防火シートを用いて 複合体とすることによる悪影響等も考慮して設計目標・ 設計方針を設定した(図 1 参照)。 3. 具体的設計方針の設定 2章で設定した設計目標・設計方針を達成するため、 具体的には以下 (1) ~ (4) の設計とした。 (1) 設計方針Iについて ケーブルを外部の火炎から遮るため、また、防火シー ト内部への酸素供給を極力抑制するためにケーブル及び ケーブルトレイを不燃材の防火シートで覆い複合体とし た(図 2 参照)。使用する防火シートは、不燃性、耐久性、 被覆性を確認したものを採用することとした。 図 1 設計目標及び設計方針 解説記事「防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上」 図 2 設計方針I 保全学 Vol.15-3 (2016) (2) 設計方針IIについて 複合体として内部発火を想定した場合の延焼を考慮 し、火災区画境界となる壁等をケーブルトレイが貫通す る部分に耐火シールを施工し、隣接火災区画への延焼を 防止することとした。また、垂直方向のケーブルトレイ など火災が伸展する可能性のある範囲については、シー ト押さえ器具を設置し防火シートのめくれを防いで延焼 防止を図ることとした(図 3 参照)。 また、複合体内部の発火による火炎について、防火シー トに重ね部を設けて覆うことにより、複合体外部へ火炎 が噴出することを防止する設計とした。 (3) 設計方針IIIについて ケーブル及びケーブルトレイを防火シートで覆い、そ の状態を維持するために結束ベルトで固定し、必要によ りシート押さえ器具で防火シートのめくれを防止するも のの、実機施工後の供用期間中において想定しうる防火 シートのずれ、隙間及び傷においても複合体が耐延焼性 を有したものとすることから、防火シートのずれ、隙間、 傷を模擬した耐延焼性試験(図 4 参照)にも合格する頑 健な設計とした。 (4) 設計方針IVについて 実機施工においては、防火シートで覆い複合体を形成 図 3 設計方針II 図 4 設計方針III することで、ケーブルやケーブルトレイに悪影響(化学 的影響、熱の蓄積、重量の増加)を与える可能性が想定 されることから、ケーブル及びケーブルトレイの電気的 または機械的機能への影響の程度が問題ないことを確認 することとした。 4. 設計目標達成確認の流れ 3章の具体的な設計方針に基づき複合体を形成するこ とで、設計目標I~IVを達成し、複合体に求める難燃性 能を有することを図 5 に示す流れで確認した。 図 5 設計目標達成確認の流れ 5. 実証試験結果 4章の設計目標達成確認の流れに沿って、複合体が難 燃ケーブルを上回る難燃性能を有することを実証試験で 確認した。 実証試験の内、設計目標I、IIに関して実施した代表的 な試験結果について、以下の (1) ~ (8) に示す。 (1) 自己消火性試験 (設計目標I) 複合体外部の火災を想定し、難燃ケーブルの自己消火 性の実証試験に試験条件を準拠させた試験を実施した。 試験の結果、複合体は難燃ケーブルと同様に自己消火す ることを確認した(図 6 参照)。 (2) ケーブル種類毎の耐延焼性試験 (設計目標I) 実機を代表するケーブル種類を用いた複合体に対し て、難燃ケーブルの耐延焼性の実証試験に試験条件を準 拠させた試験を実施した。試験の結果、複合体は燃え止 まり、またその損傷長は難燃ケーブルに比べ短いことか ら、複合体は難燃ケーブルを上回る耐延焼性を有してい ることを確認した(図 7 参照)。 (3) 加熱熱量の違いによる耐延焼性試験 (設計目標I) 5.(2) 項の試験条件では複合体への加熱熱量を難燃 ケーブルの実証試験条件である 20kW で実施したが、複 合体の性能を確認するため、加熱熱量を 10 ~ 40kW に 変化させた耐延焼性の試験を実施した。試験の結果、加 熱熱量を変化させても、複合体は燃え止まることを確認 した。また、複合体の損傷長は難燃ケーブルに比べ短く、 複合体の耐延焼性が難燃ケーブルを上回るとの関係性が 保たれていることを確認した(図 8 参照)。 (4) 不燃材の防火シートの遮炎性試験 (設計目標I) 複合体が耐延焼性を有するためには、複合体外郭であ る防火シートの遮炎性能が確保されることが重要である ことを踏まえ、複合体の耐延焼性の限界を把握するため に、防火シートに対して遮炎性試験を実施した。試験の 結果、加熱熱量平均約 500kW においても防火シートの 遮炎性能が確保されていることを確認した(図 9 参照)。 (5) 自己消火性試験 (設計目標II) 設計目標IIでは、複合体内部のケーブルの発火を想定 しても必要な難燃性能を確保することを目標とした。こ のため、複合体内部のケーブルを着火させた自己消火性 の実証試験を実施した結果、複合体は自己消火すること を確認した(図 10 参照)。 図 7 ケーブル種類毎の耐延焼性の実証試験結果 図 8 加熱熱量の違いによる耐延焼性の実証試験結果 図 9 防火シートの遮炎性の実証試験結果 解説記事「防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上」 図 6 自己消火性の実証試験結果 保全学 Vol.15-3 (2016) (6) 耐延焼性試験 (設計目標II) 複合体内部のケーブルの発火を想定しても複合体の耐 延焼性が確保されることを確認するため、まず垂直又は 水平等のトレイ敷設方向による燃焼試験を実施し、延焼 の可能性のある敷設方向を特定した。試験の結果、設計 方針を超えて複合体内部の空気量が最大となる垂直トレ イの場合のみ、供試体の端までの間で燃え止まらず、耐 延焼性は確保できなかった(図 11 参照)。 燃え止まりを確認できなかったトレイ敷設方向には、 設計方針に基づき、シート押さえ器具にて防火シートと ケーブル間の隙間を抑えて閉塞空間を作り、防火シート の延焼防止性能を発揮させることにより、シート押さえ 器具のシート押さえ箇所でケーブルが燃え止まることを 確認した(図 12 参照)。 (7) 外部への延焼防止性の評価結果 (設計目標II) 複合体を形成するために防火シートに重ね部を設けな がらケーブル及びケーブルトレイを覆っていくが、複合 体内部のケーブルが発火した場合、この防火シートの重 ね部から内部の火炎が露出する可能性がある。このため、 重ね部を模擬した防火シートに対して遮炎性試験を実施 し、重ね部から火災は露出しないことを確認した(図 13 参照)。 (8) 過電流模擬試験による耐延焼性 (遮炎性能) 評価結 果 (設計目標II) 保護継電器等により過電流による過熱、焼損を防止す るものの、複合体内部のケーブルに過電流火災が発生し た場合を想定しても、防火シートの遮炎性能が確保され ることを確認するため、過電流模擬試験を実施した。試 験の結果、複合体内部の火炎が外部に露出せず、複合体 内部で発火した場合でも遮炎性能が確保されることを確 認した(図 14 参照)。 図 12 シート押さえ器具を設置した供試体に対する耐延焼性の実証試 図 13 防火シートの遮炎性能の実証試験結果 図 10 自己消火性の実証試験結果 図 11 耐延焼性の実証試験結果 験結果 図 14 過電流模擬による遮炎性能の実証試験結果 6. まとめ 非難燃ケーブルについては、不燃材の防火シートで ケーブル及びケーブルトレイを覆った複合体を形成する 設計とすることに対して、実証試験により以下の性能を 確認した。 ? 複合体外部の火災に対して複合体は難燃ケーブルと 同様に自己消火すること。 ? 全てのケーブル種類において複合体は燃え止まり、 難燃ケーブルを上回る耐延焼性を有していること。 ? 加熱熱量を変化させても複合体は燃え止まること。 また複合体の損傷長は難燃ケーブルと比べ短く、複 合体の耐延焼性が難燃ケーブルを上回るとの関係性 が保たれていること。 ? 防火シートは遮炎性試験にて遮炎性能が確保されて いること。 ? 複合体内部のケーブルの発火による火災を想定して も複合体は自己消火すること。 ? シート押さえ器具によるシート押さえ箇所にてケー ブルが燃え止まること。 ? 複合体内部の火炎が外部へ露出しないこと。 以上の結果から、複合体は難燃ケーブルと同等以上の 難燃性能が確保されることが確認できた。 これにより、原子力発電所で使用している非難燃ケー ブルに対して防火シートを施工し複合体を形成すること により、難燃ケーブルと同等以上の難燃性能を確保する ことができる蓋然性を確認した。 参考文献 [1] 原子力規制委員会“実用発電用原子炉及びその附 属施設の火災防護に係る審査基準” (平成 28 年 8 月 31 日) 著 者 紹 介 著者 : 瀬越 義則 所属 : 関西電力株式会社 原子力事業 本部 発電グループ マネジャー 専門分野 : 保全システム 解説記事「防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上」 防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上 瀬越 義則,Yoshinori SEGOSHI 防火措置を施すことによる非難燃ケーブルの難燃性能の向上 瀬越 義則,Yoshinori SEGOSHI
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