伊方発電所3号機再稼働までの道のり
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1.はじめに 伊方発電所 3 号機は、平成 23 年 4 月に定期検査入り して以降、5 年以上の歳月をかけ、安全性の向上に取り 組み、本年 9 月に通常運転を再開した。再開に至るまで には、国が定めた新規制基準への適合性確認検査および 立地地域への情報発信や理解活動等が行われている。本 稿では、このうち再稼働時の保安検査や、立地自治体と の協議の様子等について紹介する。 2.再稼働時の保安検査 再稼働前に行われる国の検査としては、ハード面の検 査(使用前検査、施設定期検査)とソフト面の検査(保 安検査)があり、ここでは再稼働前に行われた保安検査 の対応状況について紹介する。 主な保安検査とその実施期間は以下のとおり。 ■平成 28 年度第 1 回保安検査 <検査期間:5/9 ~ 5/27 > ■安全上重要な保安検査 ・燃料装荷に係る保安検査 <検査期間:6/23 ~ 6/29 > [燃料装荷実績:6/24 ~ 6/27] ・重大事故対応訓練に係る保安検査 <検査期間:7/12 ~ 7/20 > [訓練日:7/14、15、19] ・ミッドループ運転に係る保安検査 <検査期間:7/20 ~ 7/22 > ・起動時に係る保安検査 <検査期間:8/5 ~ 8/24 > [原子炉起動:8/12、臨界:8/13、並列:8/15] 24このうちの、平成 28 年度第 1 回保安検査および重大 事故対応訓練に係る保安検査について、以下に対応状況 を紹介する。 2.1 平成 28 年度第 1 回保安検査 「伊方発電所原子炉施設保安規定」(以下、「保安規定」 という。)は、新規制基準の施行を受け、平成 25 年 7 月 8 日付けで変更認可申請を行い、平成 28 年 4 月 19 日に 認可され、4 月 27 日より施行した。平成 28 年度第 1 回 保安検査では、認可・施行された保安規定の改正内容が、 適切に保安活動が実施できるよう社内規定(内規、マニュ アル類)に反映されているか、また、実際に遵守できて いるかという観点で検査が行われた。 総勢 30 名の検査官による検査は、5 月 9 日から 27 日 の 3 週間に亘り、文書・記録および現場の確認が行われ た。このため、日頃、保安検査対応を行っている課が取 り纏めを行い、検査範囲が広範・多岐に亘ることから、「品 質保証」、「運転管理」、「重大事故等」の3つの検査対応 チームを作った。更に本店原子力部からも保安規定変更 え、全所を挙げて対応する体制を整備した。 検査は、条項毎に質問回答をまとめた約 300 枚の チェックシートを説明する形で進行した。指導事項に加 え、社内規定の記載の充実など自ら気づいた事項も含め 2.2 重大事故対応訓練に係る保安検査 4 月 27 日に施行した「保安規定」には、『重大事故の 要な技術的能力を満足することおよび有効性評価の前提 条件を満足することを確認するための成立性の確認訓練 の成立性確認訓練を『3 号炉の初回の起動前までに実施 する』とも規定している。このため、訓練は、原子炉起 動前で比較的現場作業が少ない「原子炉格納容器漏え 認可申請後の審査対応を行ったメンバーを応援として加 て速やかに改善するなど、真摯に対応した。 発生および拡大の防止に必要な措置を実施するために必 を年1回以上実施すること』と規定している。また、こ い率検査」時期の 7/14、15 の 2 日間行うことで計画し、 訓練に係る保安検査は 7/12 から開始された。 訓練対象シーケンスは、重要事故シーケンスのうち 『雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧破損)』 を選定し、訓練は、運転員 10 名、緊急時対応要員(宿 直者)22 名、参集要員 17 名の計 49 名で行った。(図 1,2) を確実に反映し習熟度の向上を図るため、効果的な訓練 を継続していくこととした。 3.立地地域への情報発信・理解活動 3.1 地域住民への情報発信・理解活動 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、東京電 解説記事「伊方発電所3号機 再稼働までの道のり」 力や規制側の国のみならず、原子力発電所を有する他の 電力事業者に対する国民の信頼が大きく損なわれてい る。加えて、資源の乏しい我が国において、混沌として 先行きの見えない世界情勢の今、国民の皆様に安定した エネルギーを供給するために必要な原子力発電所の運転 を安定して継続的に実施していくためには、国が定めた 規制基準に適合することは勿論のこと、発電所立地地域 の皆様のご理解とご協力が不可欠であることは言うまで 図 1 中型ポンプ車による海水補給作業 もない。四国電力は、「地域と共に生き、地域と共に歩み、 地域と共に栄える」ことを基本理念とし、お客さまとの ふれあいを大切に、より親しまれ信頼される企業を目指 して、様々な活動を実施しており、訪問対話は、その主 な活動の一つである。(図 3) 図 2 中型ポンプ車による海水補給作業 ( ホース敷設 ) 訓練計画にあたり、夏場の気温の高い状況において、 全面マスクと汚染防護服を着用しての訓練となることか ら、装備、休憩、水分補給等の配慮は行っていた。訓練 当日は負荷の高い活動を連続して行ったこと等もあり、 訓練対象者が熱中症を発症し訓練から離脱したが、力量 図 3 訪問対話活動 [ 四国電力ホームページより ] を有する他の要員により訓練を継続することとなった。 この訓練結果を踏まえ、速やかに作業手順、訓練装備、 体調管理面等において改善を図った上で 7 月 19 日に一 部再訓練を行い、20 日に保安検査を終了した。 また、発電所災害対策要員全員の習熟度を上げるため、 習熟度の向上を図る個別の訓練、習熟度の向上を検証す る検証訓練を、自主的な取り組みとして実施した。 今回の重大事故対応訓練に係る一連の対応から、個々 の訓練対象者(発電所災害対策要員)は、重大事故発生 時の対応において必要な力量は有した上で、今後、如何 なる過酷な状況においても確実に事故収束を図ることが 重要であると考える。このため、引き続き、作業手順、 資機材、装備の改善、充実を図るとともに、反省事項等 25四国電力では、昭和 63 年から毎年、伊方発電所の立 地地域である伊方町や周辺市町を中心とする地域のお客 さまのお宅へ、四国電力の社員自らがお伺いし、伊方発 電所の状況についてご説明するとともに、地域のお客さ まが抱かれている不安な気持ちやご意見を直接伺い、対 話を通じて疑問や不安を解消できるよう努めている。現 在、この活動は伊方発電所から半径 20km 圏内の地域(伊 方町・八幡浜市・大洲市[一部]・西予市[一部])のお 客さま約 2 万 8 千戸を対象に実施している。伊方発電所 3号機の再稼働前となる本年5月~6月にも、約1ヶ月間、 のべ約 1,400 人を動員して実施し、立地地域住民の皆様 のご理解を得ることに努めた。 保全学 Vol.15-4 (2017) なお、これ以遠の原子力災害対策重点区域である 用いる資料は、原子力規制委員会の審査用に作成したも 30km 圏内についても、各地域の自治会・自主防災組織 のからより明確で丁寧な内容に改訂したり、資料を新し の団体等を中心に丁寧なご説明を行っている。 く追加したりといった工夫を凝らして作成し、終始、専 門的な内容についても可能な限りわかりやすく説明する 3.2 立地自治体への情報発信・理解活動 ことに努めた。 伊方発電所の立地自治体である愛媛県・伊方町と四国 また、福島第一原子力発電所の事故を受け、愛媛県知 電力との間で、伊方発電所に関し、発電所周辺の安全確 事より追加の安全対策を行うよう要請があり、この要請 保および環境保全について、最大の努力をする責務を有 にも四国電力は真摯に答えている。その要請は、国の基 することを確認し、一層の徹底を期することで、地域住 準を上回る電源対策(追加の電源ルート敷設)や、安全 民の福祉に資することを目的として、安全協定を締結し 上重要な設備が 1000 ガル程度の揺れに対しても実力的 ている。 に耐えられることを確認した更なる揺れ対策といったも この安全協定において、四国電力は、原子炉施設等発 のなどである。これらについても原子力安全専門部会等 電所の主要な施設を設置・変更するときは、その計画に で可能な限り丁寧に説明を行った結果、平成 27 年 10 月 ついて、あらかじめ、自治体と協議し、その了解を得る に伊方発電所 3 号機の再稼働について自治体から了承さ こととなっており、今回の新規制基準に基づく原子炉設 れた。なお、こういった取り組みは、一般の方にもわか 置変更許可申請についても、協議の対象となっている。 りやすいよう、四国電力のみならず、立地自治体におい 愛媛県では、原子力発電所周辺の安全確保および環境 てもパンフレットを作成している。(図 4) 保全に資するため、伊方原子力発電所環境安全管理委員 会と、環境専門部会および原子力安全専門部会を設置し 4.おわりに ている。環境監視の方法(緊急時に係るものを含む)、 本年 9 月 7 日、伊方発電所 3 号機は使用前検査に合格 環境放射線等の調査測定結果および放射性廃棄物の環境 し、通常運転を再開したが、福島第一原子力発電所の事 への放出状況等については環境専門部会において、発電 故を経験した我々原子力事業者としては、二度とあのよ 所の主要な施設の設置、変更等に係る安全対策および発 うな事故を起こしてはならないとの決意のもと、安全を 電所の保守・運転に係る安全対策等については原子力安 最優先とし、重大事故対策や当社独自の対策を実施する 全専門部会において、自治体が独自に検討・評価を行い、 など、とりうる対策を自主的かつ継続的に進めてきた。 その結果は環境安全管理委員会の審議を経て愛媛県知事 今後も更なる安全性・信頼性の向上に向けて不断の努力 に報告される。 を積み重ね、リスクの低減を図っていく。 委員は学識経験者等から構成されており、会議は一般 また、地元の皆さまを中心にフェイス・トゥ・フェイ に公開されるとともに、資料や議事録は自治体のホーム スの対話活動を継続して実施するなど、さまざまな理解 ページに掲載される。 活動を通じ、これからも伊方発電所の状況などについて、 四国電力では、平成 25 年 7 月の新規制基準適合性審 丁寧にご説明を行っていく。 査の申請日当日に、自治体に対し協議の申し入れを行い、 伊方発電所 3 号機において実施している安全対策(新規 (平成 28 年 11 月 30 日) 制基準において強化・追加された機能・性能)等に関し、 委員会や専門部会等において説明を行っており、また、 規制側も適宜委員会等に召集され、審議状況等について 説明している。審議の内容は多岐に渡るが、主な論点と して、耐震・耐津波性能、自然現象に対する考慮(火山、 竜巻、森林火災)、火災に対する考慮、電源の信頼性お よびシビアアクシデント対策が挙げられた。 原子力安全専門部会では、極めて専門的な技術的内容 について審議されている。その一方で、この審議を通し て、地域の皆様にも伊方発電所の安全性についてより深 くご理解して頂くため、原子力安全専門部会での説明に 著 者 紹 介 26著者 : 新山 耕市 所属 : 四国電力株式会社 原子力本部 企画グループ 専門分野 : 保全業務 図 4 伊方発電所3号機の安全性について [ 愛媛県ホームページより ] 27解説記事「伊方発電所3号機 再稼働までの道のり」 伊方発電所3号機再稼働までの道のり 新山 耕市,Kouichi NIIYAMA 伊方発電所3号機再稼働までの道のり 新山 耕市,Kouichi NIIYAMA