福島第一原子力発電所5、6号機の事故回避のためのレジリアンス活動
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1.はじめに 解説記事 東日本大震災発生当時(3 月 11 日 14 時 46 分の地震 プ、非常ガス処理系に電源を供給することが可能となっ 発生時)、福島第一原子力発電所 5 号機は定期検査中で た。さらに、健全性確認が完了した 5 号機低圧電源盤の あり、原子炉内に燃料を装荷した状態で、原子炉圧力 一部に仮設電源ケーブルを敷設するなど、順次電源を復 容器の耐圧漏えい試験(原子炉圧力容器満水、原子炉 旧していった。 圧力約 7MPa[gage]、原子炉水温度約 90°C)を実施中で さらに、主蒸気逃がし安全弁の復旧作業を実施し、主 あった。全制御棒は全挿入位置にあり、プラントの停止 蒸気逃がし安全弁を中央制御室から手動開操作し、原子 状態に異常は認められなかったが、夜の森線の鉄塔倒 炉圧力容器の減圧を行った。復水補給水系ポンプを手動 壊などにより外部電源が全喪失し、非常用 D/G が 2 基 起動し、復水貯蔵タンクを水源として、復水補給水系に 自動起動した。その後、津波の影響を受け、3 月 11 日 よる代替注水ラインを使用した原子炉注水を開始した。 15 時 40 分に全交流電源喪失となり、残留熱除去系、炉 同様に、アクシデントマネジメント策で設置されたラ 心スプレイ系は動作不能となった。電源設備は、高圧 インを使用して、復水補給水系ポンプによる使用済燃料 電源盤(M/C)が津波の影響ですべて使用不可であった プールへの水の補給も実施し、ほぼ満水状態を維持した。 が、直流電源設備は被水を免れ使用可能であった。中央 その後、仮設電源と仮設水中ポンプを設置し運転するこ 制御室の監視計器の一部は、直流電源で動作可能であ とで、原子炉の冷温停止を達成した。 り、全交流電源喪失後も動作し指示値を確認すること 定期検査中で冷温停止中であった 6 号機もプラントの ができていたが、いずれ直流電源が枯渇して指示値が 停止状態に異常は認められなかったが、地震の影響で外 確認できなくなるため、早急に交流電源を確保する必 部電源が全喪失したため、5 号機と同様、津波の被害を 要があった。交流電源で動作する中央制御室の監視計 逃れた空冷式の D/G6B を用いて、復水補給水系により 器については、3 月 12 日 5 時頃に 5 号機タービン建屋 原子炉及び使用済燃料プールへの注水を行うとともに、 サービスエリアの 6 号機計測電源盤から 5 号機計測電 その後、仮設電源と仮設水中ポンプにより、原子炉の冷 源盤へ直接仮設電源ケーブルを敷設することで、監視 温停止を達成した。 可能となった。3 月 12 日 6 時過ぎに 6 号機側で所内電 以上のように、福島第一原子力発電所の 1 号機から 4 源供給のためのラインを構成したことから、アクシデ 号機が、各種事故調の報告書で詳述されているような炉 ントマネジメント策で敷設済みであった 5 号機と 6 号 心損傷や水素爆発、格納容器からの漏えいなどが進む過 機間の本設電源ケーブル(タイライン)が使用可能とな 酷な状況のなかで、5 号機、6 号機の冷温停止に向けた り、同日 8 時 13 分、空冷式であり津波の影響を受けな 懸命の努力が続けられていたことは、あまり知られてい かった 6 号機の非常用 D/G6B から 5 号機原子炉建屋の ない。日本保全学会からの要請もあり、過酷事故回避策 低圧電源盤へ電源融通が開始された。これにより、残留 の世界に向けた参考のために、解説を行うことにした。 熱除去系の電動弁及び主蒸気逃し安全弁の励磁用電磁弁 また、1 号機から 4 号機の冷温停止により、閉じ込め 等の電源が確保された。また、3 月 13 日、6 号機タービ 機能が劣化した格納容器であっても放射性物質の飛散が ン建屋の低圧電源盤から、5 号機低圧電源盤まで仮設電 大幅に低減されたことも、レジリアンスによる回復活動 源ケーブルを敷設したことにより、復水補給水系ポン として敢えて解説する。 2.福島第一 5 号機の事故回避対応 <地震発生から津波到達までの状況> ・ 東日本大震災発生当時(3 月 11 日 14 時 46 分の地震 発生時)、5 号機は定期検査中であり、原子炉内に燃 料を装荷した状態で、原子炉圧力容器の耐圧漏えい試 験(原子炉圧力容器満水、原子炉圧力約 7MPa[gage]、 原子炉水温度約 90°C)を実施中であった。全制御棒 は全挿入位置にあり、プラントの停止状態に異常は認 められなかったが、夜の森線の鉄塔倒壊などにより外 部電源が全喪失し、3 月 11 日 14 時 47 分、非常用 D/ G5A、5B が自動起動した。 ・ その後、津波の影響を受け、非常用 D/G5A、5B の海 水ポンプまたは電源盤の被水等により非常用 D/G5A、 5B が自動停止したことから、3 月 11 日 15 時 40 分に 全交流電源喪失となり、残留熱除去系、炉心スプレイ 系は動作不能となった。 ・ 5 号機側の中央制御室内は非常用照明灯のみとなり、 その後消灯した。一方で、直流電源が津波の影響を逃 れ動作可能であったことから、監視計器の一部は指示 値を確認することができた。 < 6 号機から 5 号機への電源融通> ・ このような状況の中、3 月 11 日 23 時 30 分頃から、5、 6 号機所内電源系統の点検のため、暗闇の中、運転員 は懐中電灯を持ち現場確認を行った。電源設備は、高 圧電源盤(M/C)が津波の影響ですべて使用不可であっ たが、直流電源設備は被水を免れ使用可能であった。 ・ 中央制御室の監視計器の一部は、直流電源で動作可能 であり、全交流電源喪失後も動作し指示値を確認する ことができていたが、いずれ直流電源が枯渇して指示 値が確認できなくなるため、早急に交流電源を確保す る必要があった。 ・ 交流電源で動作する中央制御室の監視計器について は、3 月 12 日 5 時頃に 5 号機タービン建屋サービス エリアの 6 号機計測電源盤から 5 号機計測電源盤へ直 接仮設電源ケーブルを敷設することで、監視可能と なった。 ・ 3 月 12 日 6 時過ぎに 6 号機側で所内電源供給のため のラインを構成したことから、アクシデントマネジメ ント策で敷設済みであった 5 号機と 6 号機間の本設電 源ケーブル(タイライン)が使用可能となり、同日 8 時 13 分、空冷式であり津波の影響を受けなかった 6 解説記事「福島第一原子力発電所5、6号機の自己会費のためのレジリアンス活動」 図 1 6 号機から 5 号機への電源融通 保全学 Vol.16-1 (2017) 号機の非常用 D/G6B から 6 号機タービン建屋の低圧 電源盤(T/B MCC6C-2)を介して、5 号機原子炉建屋 の低圧電源盤(5 号 RHR MCC)へ電源融通が開始さ れた。これにより残留熱除去系の電動弁及び主蒸気逃 し安全弁の励磁用電磁弁等の電源が確保された。 ・ また、3 月 13 日、6 号機タービン建屋の低圧電源 盤(T/B MCC6C-1) か ら、5 号 機 低 圧 電 源 盤(T/B MCC5C-2)まで仮設電源ケーブルを敷設したことに より、復水補給水系ポンプ、非常ガス処理系に電源を 供給することが可能となった。 ・ さらに、電源融通が可能となった低圧電源盤(5 号 RHR MCC)を介して、健全性確認が完了した 5 号機 低圧電源盤の一部に仮設電源ケーブルを敷設するな ど、順次電源を復旧していった。(図 1 参照) <原子炉圧力の減圧> ・5 号機は、原子炉圧力容器の耐圧漏えい試験を実施中 で、原子炉圧力約 7MPa[gage] であったが、地震の影 響による電源喪失によって制御棒駆動機構ポンプが自 動停止し、原子炉圧力は一時的に 5MPa[gage] 程度ま で低下した。その後、原子炉圧力は、燃料からの崩壊 熱により緩やかに上昇した。 ・ 減圧操作に伴い原子炉水位が低下するため、原子炉へ の注水手段を確保する必要があったが、蒸気駆動の高 圧注水系ポンプ、原子炉隔離時冷却系ポンプは定期検 査中であったため使用できず、また残留熱除去系も津 波による電源喪失等の影響から使用できなかった。こ のため、復水補給水系ポンプによる代替注水を行うこ ととし、原子炉圧力を復水補給水系ポンプにて注水可 能となる圧力まで減圧することとした。 ・ 耐圧漏えい試験中の主蒸気逃し安全弁は、格納容器内 に設置されている駆動用窒素ガス供給ラインの弁を閉 としていたため、中央制御室から操作することができ ない状態であった。主蒸気逃し安全弁を使用可能とす るには、格納容器内での復旧作業が必要な状況であっ たが、先ずは作業環境が悪い格納容器内に極力入らず に減圧操作ができる手段から実施することとした。 ・ 3 月 11 日 21 時頃から原子炉隔離時冷却系蒸気ライ ン、高圧注水系蒸気ライン及び高圧注水系排気ライン を順次使用して減圧操作を試みた。しかし、原子炉 圧力に変化は見られず、その後も原子炉圧力は上昇 し、3 月 12 日 1 時 40 分頃から主蒸気逃がし安全弁の 安全弁機能により自動開を繰り返して 8MPa[gage] 程 度を維持(最高使用圧力:8.27MPa[gage]、設計圧力: 8.62MPa[gage])した。 ・上記の減圧操作にて原子炉圧力に変化が見られなかっ たことから、現場で原子炉圧力容器頂部ベント弁の駆 動用窒素供給ラインを構成し、同日 6 時 06 分に中央 図 2 仮設水中ポンプと高圧電源車からの電源供給による RHR 海水ポンプと 6 号機の非常用 D/G から仮設ケーブルによる RHR ポンプ駆 動による 5 号機の冷温停止 制御室から原子炉圧力容器頂部ベント弁を手動開操作 して、原子炉圧力の減圧を実施し、大気圧程度まで降 下させた。 ・しかし、その後、崩壊熱の影響により原子炉圧力は再 度徐々に上昇した。この時点では早急に減圧する必要 はなかったものの、減圧手段を確保する目的から、3 月 12 日 7 時 31 分に残留熱除去系(A)ラインによる 減圧操作を実施した。また、3 月 14 日 0 時頃からは、 主蒸気ラインによる減圧操作を試みたが、いずれも原 子炉圧力に変化はなかった。このため、原子炉圧力容 器の耐圧漏えい試験のために中央制御室からの操作が できない状態になっていた主蒸気逃がし安全弁の復旧 作業を 3 月 14 日未明より開始した。 ・中央制御室で電源ヒューズを復旧するとともに、格納 容器内で主蒸気逃がし安全弁駆動用窒素ガス供給ライ ンの弁開操作によって主蒸気逃がし安全弁操作のため のライン構成が完了した。 ・3 月 14 日 5 時に主蒸気逃がし安全弁を中央制御室か ら手動開操作し、原子炉圧力容器の減圧を行った。そ の後も断続的に減圧操作を実施した。 <原子炉への注水及び使用済燃料プールへの水補給> ・3 月 13 日 20 時 48 分、6 号 機 低 圧 電 源 盤(T/B MCC6C-1)から 5 号機低圧電源盤(T/B MCC5C-2) へ仮設電源ケーブルを敷設し、6 号機非常用 D/G6B から電源供給が開始され、同日 20 時 54 分に復水補給 水系ポンプを手動起動した。 ・その後、主蒸気逃がし安全弁で原子炉を減圧し、3 月 14 日 5 時 30 分、復水貯蔵タンクを水源として、復水 補給水系による代替注水ラインを使用した原子炉注水 を開始した。以降、断続的に原子炉への注水を継続し、 原子炉水位調整を行った。 ・津波の影響で補助冷却海水系ポンプがすべて使用不可 の状態であり、使用済燃料プールの冷却もできない状 況であった。3 月 14 日 9 時 27 分からは、アクシデン トマネジメント策で設置されたラインを使用して、復 水補給水系ポンプによる使用済燃料プールへの水の補 給を実施した。その後も必要に応じて水の補給を行い、 ほぼ満水状態を維持した。 ・使用済燃料プール内の崩壊熱について温度上昇率を評 価したうえで、除熱機能の復旧まで使用済燃料プール 水温の監視を継続した。 ・ 除熱機能復旧までの間、使用済燃料プール水温の上昇 を抑制するため、3 月 16 日 22 時 16 分から 3 月 17 日 5 時 43 分にかけて温度が上昇した使用済燃料プール 水の一部を圧力抑制室へ排水するとともに、アクシデ ントマネジメント策で設置されたラインを使用し、復 水補給水系ポンプによる水の補給を実施した。 <残留熱除去系の復旧> ・3 月 11 日以降、原子炉水位及び使用済燃料プール水 位は十分に確保されていたものの、水温が上昇傾向に あることを踏まえ、3 月 15 日夕方に本店対策本部内 にて原子炉と使用済燃料プールの冷却方策検討指示が 出され、翌 16 日から本店にて検討を開始した。残留 熱除去系は 6 号機からの仮設電源ケーブルを用いた電 源融通により、また、残留熱除去海水系は電源車を電 源として一般汎用品の水中ポンプによる代替策により 復旧することを 16 日午後から深夜にかけて順次発電 所に提案した。 ・これを受けて、発電所では、前日まで 1 ~ 4 号機への 事故対応支援を行っていた要員を呼び戻し、5、6 号 機対応の体制を整えた上で復旧策の詳細検討、設備調 査、準備作業及び各種調整を開始した。 水系ポンプ(水中ポンプ)設置に関わるエリア調査を 兼ねての瓦礫撤去、工事用道路の整地を開始した。 ・3 月 17 日夕方までには、高圧電源車から屋外ポンプ 操作盤(仮設)までの仮設電源ケーブル敷設及び 5 号 機の仮設水中ポンプの設置が完了した。その後、3 月 18 日 12 時頃までに仮設水中ポンプへの電源接続を行 い、3 月 19 日 1 時 55 分に起動した。 ・一方、3 月 17 日から 18 日にかけて発電所対策本部復 旧班で実施した点検の結果、6 号機 D/G6A が起動可 能であることが確認されたことから、復旧対象として 選定した残留熱除去系ポンプ(C)への電源供給は、 D/G6A から 6 号機高圧電源盤(M/C-6C)を経由し、 仮設電源ケーブルを用いて直接電源を供給することと した。仮設電源ケーブル敷設は 3 月 18 日 14 時頃から 19 日早朝にかけて実施した。 ・3 月 19 日 5 時頃、残留熱除去系ポンプ(C)を手動起 動し、非常時熱負荷モードで使用済燃料プールの冷却 を開始した。 <原子炉の冷温停止> ・3 月 20 日 10 時 49 分、非常時熱負荷モードで使用済 燃料プールの冷却をしていた残留熱除去系ポンプ(C) を手動停止し、同日 12 時 25 分、停止時冷却モードで 解説記事「福島第一原子力発電所5、6号機の自己会費のためのレジリアンス活動」 ・準備作業として、3 月 16 日より仮設の残留熱除去海 保全学 Vol.16-1 (2017) 残留熱除去系ポンプ(C)を再度起動し、原子炉冷却 を開始した。同日 14 時 30 分に原子炉水温が 100°C未 満となり、原子炉冷温停止となった。(図2参照) ・以降、残留熱除去系により原子炉と使用済燃料プール の冷却を交互に実施していたが、海水系ポンプの復旧 により使用済燃料プールの除熱機能が確保できたこと から、6 月 24 日 16 時 35 分に燃料プール冷却浄化系 ポンプを起動、燃料プール冷却浄化系による使用済燃 料プールの冷却を開始し、残留熱除去系は原子炉冷却 とした。 以上に解説した炉心損傷防止活動の流れをまとめ、表 1 に示す。 図 3 に福島第一原子力発電所 5 号機の冷却系の作動 不能状況を示す。蒸気タービン駆動の高圧炉心注水系 表 1 福島第一発電所 5 号機 地震後の主な流れ (HPCI)及び隔離時注水系(RCIC)は点検中であり、 津波到達後は、全ての冷却系が使えなくなっていた。表 1 に示した手順で、仮設注水ポンプによる残留熱除去系 海水ポンプ(RHRS)の代替、残留熱除去系(RHR)ポ ンプの受電により、冷温停止(100°C未満)を達成した。 表 2 に BWR/4 の「止める・冷やす・閉じ込める」た めに必要な交流電源系統を示す。原子炉への注水に は、アクシデントマネジメント策で利用した復水移送 (MUWC)ポンプならびに主蒸気逃がし安全弁(SR 弁) の復旧が有効であった。 解説記事「福島第一原子力発電所5、6号機の自己会費のためのレジリアンス活動」 表 1 福島第一発電所 5 号機 地震後の主な流れ(続き) 図 3 福島第一原子力発電所 5 号機の冷却系の作動不能状況と RHR 系の復旧 保全学 Vol.16-1 (2017) 3.福島第一 6 号機の事故回避対応 る冷却の必要がないこと及び電源盤が被水しなかった ことなどから停止に至らず、電源を供給し続けること 表 3 に福島第一発電所 6 号機 地震後の炉心損傷防止 活動の主な流れを示し、以下に解説する。 <地震発生から津波到達まで> ・東日本大震災発生当時(3 月 11 日 14 時 46 分の地震 発生時)、6 号機は定期検査中であり、原子炉内に燃 料が装荷され、冷温停止状態であった。 全制御棒は全挿入位置にあり、プラントの停止状態に異 常は認められなかったが、5 号機と同様に地震の影響 で外部電源が全喪失し、3 月 11 日 14 時 47 分、非常 用 D/G6A、6B、高圧炉心スプレイ系 D/G が自動起動 した。 ・津波の影響を受け、非常用 D/G 海水系ポンプまたは 電源盤の被水等(非常用 D/G 本体を除く)により非 常用 D/G6A 及び高圧炉心スプレイ系 D/G が停止した。 このため、高圧炉心スプレイ系ポンプは電源喪失によ り使用不能となった。非常用 D/G 建屋に設置されて いる空冷式の非常用 D/G6B については、海水系によ ができた。 ・また、残留熱除去海水系ポンプは、ポンプ本体が海水 に冠水し、使用不能となった。このため、残留熱除去 系及び低圧炉心スプレイ系ポンプはモータ、熱交換器 等の冷却ができず、使用不能となった。 <所内電源系統の現場確認> ・3 月 11 日 23 時 30 分頃から、5、6 号機所内電源系統 の点検のため、運転員は現場に向かった。電源設備は、 一部の高圧電源盤(M/C)が津波の影響で使用不可で あったが、直流電源設備は被水を免れ使用可能であっ た。 ・また、非常用 D/G6B は、津波の被害を受けず健全で あることを確認した。 <中央制御室内空気浄化の開始> ・12 日 6 時 03 分、非常用 D/G6B から所内電源供給の 構成を開始し、同日 14 時 42 分、非常用 D/G6B から 表 2 福島第一原子力発電所 5 号機(BWR/4)の「止める・冷やす・閉じ込める」ため必要な交流電源系統 の電源により、5、6 号中央制御室非常用換気空調系(5 号側:2 台、6 号側:1 台)のうち 6 号側の空調系を 手動起動し、中央制御室内の空気浄化を開始した。 <原子炉圧力の減圧と原子炉への注水> ・復水補給水系ポンプは、非常用 D/G6B からの電源供 給により起動できる状態であり、3 月 13 日 13 時 01 分に手動起動し、13 時 20 分、復水貯蔵タンクを水源 として復水補給水系による代替注水ラインを使用した 原子炉注水を開始した。以降、断続的に原子炉への注 水を継続し水位を調整した。 ・一方、崩壊熱の影響により、原子炉圧力が緩やかに上 昇してきたことから、3 月 14 日以降、主蒸気逃がし 安全弁を中央制御室から手動開操作し、原子炉圧力の 減圧を断続的に実施した。 <使用済燃料プール水の温度上昇抑制> ・3 月 11 日の津波の影響により、補機冷却海水系が機 能喪失したことから燃料プール冷却浄化系の除熱機能 が喪失した。また、地震時のスロッシングによる使用 済燃料プール水位低下の可能性があったことから、3 月 14 日 14 時 13 分からアクシデントマネジメント策 で設置されたラインを使用して水張りを実施したとこ ろ、プール水の正確な温度が判明し、地震発生前の約 25°Cから 50°C程度まで温度が上昇していることが確 認された。以降、使用済燃料プール内の崩壊熱につい て温度上昇率を評価したうえで、プール水温の監視を 継続した。 ・海水系による除熱機能復旧までの間、使用済燃料プー ル水温の上昇を抑制するための暫定処置について、発 電所対策本部にて 3 月 16 日朝から検討を行った。6 号機の燃料プール冷却浄化系ポンプ及び原子炉補機冷 却系ポンプが非常用 D/G6B からの電源供給により起 動できる状態であったことから、燃料プール冷却浄化 系によるプール水の循環・攪拌運転及び原子炉補機冷 却系の循環運転を行うこととし、同日午後以降実施し た。その結果、プール水温度の上昇を抑制できた。 <非常用 D/G の復旧> ・3 月 15 日朝、運転員は、5、6 号機屋内外設備状況の 確認を実施し、唯一動いている非常用 D/G6B に加え、 非常用 D/G6A をバックアップとして復旧し、電源系 を補強する必要性を確認した。 ・3 月 17 日から 18 日にかけて発電所対策本部復旧班で 海水ポンプエリアの浸水状況や外観の損傷状態等の目 視点検、機器の絶縁抵抗測定等を実施し、非常用 D/ G6A が起動可能であることが確認された。3 月 18 日 19 日 4 時 22 分に非常用 D/G6A を起動した。これに より 6 号機の非常用電源は非常用 D/G2 台が確保され た。 <残留熱除去系の復旧> ・3 月 11 日以降、原子炉水位及び使用済燃料プール水 位は十分に確保されていたものの、水温が上昇傾向に あることを踏まえ、3 月 15 日夕方に本店対策本部内 にて原子炉と使用済燃料プールの冷却方策検討指示が 出され、翌 16 日から本店にて検討を開始した。残留 熱除去海水系は電源車を電源として一般汎用品の水中 から深夜にかけて順次発電所に提案した。 ・これを受けて、発電所では、前日まで 1 ~ 4 号機への 事故対応支援を行っていた要員を呼び戻し、5、6 号 機対応の体制を整えた上で復旧策の詳細検討、設備調 査、準備作業及び各種調整を開始した。 ・ 準備作業として、3 月 17 日より仮設の残留熱除去海 水系ポンプ(水中ポンプ)設置に関わるエリア調査を 兼ねての瓦礫撤去、工事用道路の整地を開始した。 ・3 月 19 日に高圧電源車からの仮設電源ケーブルの敷 設と屋外ポンプ操作盤の設置が完了したことから、同 日 21 時 26 分に仮設水中ポンプを起動した。 ・残留熱除去系ポンプ(B)は非常用 D/G6B から電源 供給が可能であり、同日 22 時 14 分、残留熱除去系ポ ンプ(B)を手動起動し、非常時熱負荷モードで使用 済燃料プールの冷却を開始した。 <原子炉の冷温停止> ・3 月 20 日 16 時 26 分、非常時熱負荷モードで使用済 燃料プールの冷却をしていた残留熱除去系ポンプ(B) を手動停止し、同日 18 時 48 分に停止時冷却モードで 残留熱除去系ポンプ(B)を再度起動し、原子炉冷却 満となり、原子炉冷温停止となった。 ・以降、残留熱除去系による停止時冷却系モードでの原 子炉冷却と非常時熱負荷モードでの使用済燃料プール の冷却を交互に実施した。 以上の地震後から冷温停止までの炉心損傷防止対応の 主な流れを表 3 に示す。 解説記事「福島第一原子力発電所5、6号機の自己会費のためのレジリアンス活動」 19 時 07 分に非常用 D/G6A 海水ポンプを起動、3 月 ポンプによる代替策により復旧することを 16 日午後 を開始した。同日 19 時 27 分に原子炉水温が 100°C未 中ポンプを残留熱除去海水ポンプ(B 図4に福島第一原子力発電所 6 号機(BWR/5)の冷 系)の系統に接続 却系の作動不能状況と仮設水中ポンプを用いた RHR 系 して、3 月 19 日にヒートシンクを回復した(図の二重 の復旧を示す。残留熱除去系を使って、格納容器の外に 枠の部分)。 崩壊熱を排出するために、仮設電源から受電した仮設水 仮設電源は高圧電源車からの仮設電源ケーブルの敷設 表 3 福島第一発電所 6 号機 地震後の炉心損傷防止活動の主な流れ 保全学 Vol.16-1 (2017) と屋外ポンプ操作盤の設置し、仮設水中ポンプを起動し た。また、残留熱除去系ポンプ(B)は非常用 D/G6B か ら電源供給が可能であり、残留熱除去系ポンプ(B)を 手動起動し、非常時熱負荷モードで使用済燃料プールの 冷却も開始した。 6.結 言 福島第一原子力発電所 5、6 号機は、地震発生時は定 期検査中であったため、全交流電源喪失後も事象の進展 は緩やかであったが、1 ~ 4 号機側の事故対応に多くの 要員が必要であったこともあり、適切なタイミングでの 判断及び確実な対応実施が必要な状況であった。そのよ うな中で発電所対策本部と運転員は連携を密にしなが ら、発災後早くからプラント状態に基づく対応計画策定 と実施を迅速に行い、さらに残留熱除去系の機能復旧に 向けては本店やプラントメーカー等との協力体制のも と、対応に取り組むことができた。また、5 号機は、6 号機からの電源融通により、早期の段階で事故対応に必 要な監視計器の復旧、原子炉減圧、復水補給水系及び残 留熱除去系・残留熱除去海水系の機能復旧ができたこと から、事象の進展が抑制された状態で冷温停止を達成し た。 なお、これらの一連の対応においては、日頃の教育・ 訓練及び業務の積み重ねによる経験が生かされ、これま でに整備してきたアクシデントマネジメント策も有効に 参考文献 福島原子力事故調査報告書、東京電力、(2012 年 6 月 20 日) (2017 年 3 月 22 日) 著 者 紹 介 著者 : 山下 理道 所属 : 東京電力ホールディングス株式 会社専門分野 : 解説記事「福島第一原子力発電所5、6号機の自己会費のためのレジリアンス活動」 図 4 福島第一原子力発電所 6 号機(BWR/5)の冷却系の作動不能状況と RHR 系の復旧 機能させることができた。 福島第一原子力発電所5、6号機の事故回避のためのレジリアンス活動 山下 理道,Norimichi YAMASHITA 福島第一原子力発電所5、6号機の事故回避のためのレジリアンス活動 山下 理道,Norimichi YAMASHITA