衝撃加振法によるガイド波の可視化実験とモード同定

公開日:
カテゴリ: 第14回
1.はじめに
平板やパイプといった長尺材料に対する非破壊検査の 手法として,ガイド波を用いた弾性波検査が導入されて いる.ガイド波は境界で囲まれた部分を長手方向に伝搬 するために,振動エネルギーの散逸が少なく,数十メート ル以上伝搬することが報告されている[1].このような利 点がある反面,ガイド波は分散性や重畳性を呈するため, ガイド波検査の事例の多くは,形状や大きさにあわせた 超音波領域(数十 kHz~数 MHz)の送受信プローブを専用 設計し,伝搬モードを予め予測して検査を行っている.し かし,土木構造物を対象とする場合,現場毎に部材形状や 大きさが異なるため,専用のプローブを個々に作るのは 経済的ではなく,波動の入力(シグナル強度や周波数等) については現場で調整できるようにするのが望ましい. また,広範囲にわたって計測する場合には,装置の配線等 が煩雑ではなく,ポータブルかつシンプルな装置構成で ある必要がある. 大型構造部材に対してガイド波検査を適用するために, インパクトハンマで弾性波を発生し,無線ネットワーク 内に配置した加速度センサで多点受信する方法[2]が検討 されている.さらに,多点計測の利点を生かして,ガイド 波の伝搬状況を 3 次元的に可視化することも試みられて いる.ガイド波を可視化するためには,加速度センサで得 られた信号を積分して変位に換算し,これを多点で同時 に行わなければならない.そのためには,複数のセンサを 用意するためにコストが増大すること,多数のセンサの 同期精度を保証するためにシステムが複雑化すること等 が問題として挙げられる.そこで,本研究では,動弾性問 題に対する相反性を利用して,多点で加振したガイド波 を 1 つのセンサで受信することを考える. I 型部材に対 して衝撃加振を行い,一点加振多点計測によるガイド波 の可視化結果と多点加振一点計測による結果を比較する. ここでは,同一の系に対する相反定理を用い,加振点と受 信点の仕事量が等しいとする 2 点間の関係式を整理する ことで,特定の方向の波形が一致することを示す.また, 本手法によって計測した波形を 2 次元フーリエ変換する ことで,I型部材の分散曲線を求める.実験で求めた分散 曲線と,半解析的有限要素法(Semi-analytical finite element: 以下 SAFE)[3]を用いて数値的に求めた分散曲線とを比 較し,本手法によってガイド波の伝搬モードが精度良く 得られることを示す.
2.動弾性問題における相反定理 動弾性問題において,以下の運動方程式を満たす変位 ??,??と,表面力??,??を考える.
- 211 - 1 2 1 1 kkx ρω ∂ = - - t u f (1) 2 2 2 2 kkx ρω ∂ = - - t u f (2) ここで,応力テンソルを???,基準座標系を示す単位ベク トルを??とすると?? ? ?????である.また,?は密度,?は 角周波数,?は物体力である.上式(1)と(2)に,??と??を それぞれ作用させて積分し,ガウスの発散定理を適用す ると, ( ) ( ) 1 2 2 1 2 1 1 2 k k k k V S dV n n dS ? - ? = ? - ? ∫ ∫ f u f u t u t u (3) を得る.ここで?は単位法線ベクトルである.物体力を無 視すれば,式(3)は, 2 1 1 2 ( ) ( ) ? = ? t n u t n u (4) となり,相反関係が得られる. 3.多点加振によるガイド波計測 3.1 ワイヤレス計測システム 配線が困難である長尺な構造部材に適用することを考 え,無線通信を利用した計測システムを構築した.装置の 概要を Fig.1 に示す.このシステムは無線センサノード (センサ,A/D 変換器,GPS モジュール)と基地局(無 線 LAN ルータ,ノート PC)から構成される.本研究で は,2つの無線センサノードを使用する.1つは,衝撃加 振するためのインパクトハンマ(富士セラミックス社製 FHA2KC)であり,ハンマの衝撃力を内部にとりつけたセ ンサで計測できるようにしたものである.もう 1 つは, 衝撃試験により発生したガイド波を受信するための圧電 型3軸加速度センサ(富士セラミックス社製SA11ZSCA, 周波数レンジ:0.5-1.5 kHz,電圧感度:1.0 mV/m/s2,加速 度レンジ:?5000 m/s2,質量:4.4 g)を取り付けている. センサから得られたアナログ信号は,データ転送器のAD 変換器(ナショナルインスツルメンツ社製NI WLS-9215) において,サンプリングレート10 kHz でデジタル変換さ れ,基地局の無線LANルータを介してノートPCに送信 される.ノイズを除去するため,加速度波形に50 ~50000 Hz のバンドパスフィルタを作用させた.この波形を数値 積分し,変位に変換した. 3.2 試験体と計測位置 ガイド波の可視化に用いた試験体をFig.2(a)に示す.材 質がアルミニウム(縦波音速:6300 m/s,横波音速:3100 - 212 - m/s,密度:2700 kg/m3)であるI型の長尺部材である.試 験体の両端から50 mm内側の箇所に山形鋼を置き,その 上にI型部材を乗せることで,部材を単純支持している. Fig. 2(b)に示すように,1列あたり長手方向に10 mm間隔 で計198 点で加振する.ここでは計測列(ML.)1 から8 ま での計8列の加振点を設けた.受信点はML.1の端部の1 点である. 4.計測結果 4.1 相反性の検証 Fig.2 (a) Geometry of I-beam aluminum specimen; (b) impact points and sensor location on measuring lines (MLs) 1 to 8. Fig.1 The Guided wave measurement system comprised a hammer sensor node, receiving sensor node, a wireless LAN router and a mobile laptop. 相反性を検証するために,加振点と受信点を入れ替え た場合の応答変位の波形を比較する.比較した位置は, Fig. 3に示すようにML.2,5,7における,それぞれ左か ら1000mm の計測点にあるB,C,D である.Fig. 3(a)に 示すように,B, C, Dで加振し,Aで受信した波形をFig.4(a) ~(c)に赤の破線で示す.一方,加振点と受信点を逆にし た場合,すなわちAで加振し,B, C, Dで受信した場 合の波形を青の実線で示す.ここでは,インパクトハンマ に付属するセンサで得られた最大の加振力で変位を除し, 正規化している.Fig. 4(a)と(c)に示すように,ML.2 と7で は?方向の変位がよく近似していることがわかった.また, Fig. 4(b)に示すように ML.5 では?方向の変位がほぼ一致 した.これ以外の方向の変位にはあまり相関が見られな かった. これは次のように考えられる.式(4)の相反関係をイン デックス表記すると以下のようになる. ?????? ? ?????? ? ?????? ? ?????? ? ?????? ? ?????? (6) いま,ML.2で加振した場合を考える.ハンマは鉛直方向 に振り下ろしているので,加振力は?? ? ?????となる.従 って,????? ? ?, ????? ? ?となる.また,加振力は一定 と仮定すると,?? ? ??となるので,上式は ??? ? ??? (7) となる.すなわち,加振点と受信点を反転させた場合,は Fig.3 (a) One point measurement of guided wave excited at positions B, C, and D. (b) Multi-points measurement of guided wave excited at position A. ?方向の変位についてのみ等しくなると考えられる.同様 に,ML.5 で加振したときには,?方向の加振力が卓越す るので, ??? ? ??? (8) が成立する.従って,加振方向と同方向の変位が等しくな ることが相反性から導かれるが,その他の方向の変位の 等価性については,この加振方法では保証されない. 4.2 ガイド波の可視化 多点加振一点計測(Fig.2(b)のセンサとハンマの配置) によって得られた全ての加速度波形を変位に換算し,そ れを3次元的に可視化した結果をFig. 5 に示す.Fig. 5の カラーマップは変形量の大きさ???を表している.これは, ML.1 の端部を加振した場合に,I 型部材の各点に配置し たセンサによって得られたガイド波の伝搬を表したもの に相当する.上フランジを加振しているが,波動は直ちに したフランジまで伝搬し,さらに長手方向にガイド波と Fig.4 Comparison of measured signals in the case that the positions of transmission and reception are replaced, (a) ML.2, (b) ML.5, and (c) ML.7. - 213 - なって伝搬する.次節では,各点で得られた信号からガイ ド波の分散曲線を算出する. 4.3 分散曲線 各センサで得られる時間波形は,空間と時間の2次元 の離散データである.この 2 次元データをフーリエ変換 することにより,周波数と波数の2次元領域に変換する. Fig. 6(a), (b), (c)に実験で得られた分散曲線をカラーコンタ ーで示す.同図には SAFE による数値シミュレーション で得られた結果を黒点で示している.Fig. 6(a)と(c)はML.2 と7の?方向変位から求めており,Fig. 6(b)はML.5の?方 向変位から求めている.ここで,??はそれぞれの周波数の 最大値で正規化したものを表している.10kHz 付近まで ガイド波の有意な伝搬モードが観測されており,計測列 で異なる分散曲線が現れていることがわかる. SAFE は, その周波数に存在しうるすべての伝搬モードを計算・出 力する.一方,実験ではその一部しか現れていないが,こ れは,入力の仕方やセンサ位置によっては,励起されない ガイド波のモードが存在することを示唆している. 5.結言 本研究では,相反性に基づく多点加振一点計測による ガイド波の可視化計測の有効性について検討を行った. 一点加振多点計測との比較を行った結果,加振方向と同 方向の変位が一致し,その理由について考察を行った.得 られた可視化結果から,ガイド波の伝搬モードを抽出し た.実験で得られた分散曲線と,SAFE によって求めた分 散曲線は良好に一致したことから,本計測法の有効性が 確かめられた. Fig.6 Calculated dispersion curves (black dots) by the SAFE method and experimental dispersion curve (color illustration) using waveforms measured on (a) ML.2, (b) ML.5, and (c) ML.7. 107.552.500.00 0.02 Wave 0.04 number 0.06 [1/mm] 0.08 0.10 (a) ML 2 10.07.5 52.500.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 Wave number [1/mm] (b) ML 5 y z - 214 - 参考文献 [1] 田昂亮,岡崎広大,杉浦壽彦:電磁超音波探触子を用 いたワイヤロープの探傷(ガイド波の伝搬実験及び 磁場解析),日本AEM学会誌,Vol.23,No.1,pp.125- 130,2015 . [2] K. Nakahata, T. Takamoto, N, Saitoh, Guided wave testing of a structural component by multipoint sensing with wireless accelerometers, Insight, Vol.59, No.2, pp.77-80, 2017. [3] T. Hayashi and J. L. Rose, Guided wave simulation and visualization by a semi analytical finite element method, Materials Evaluation, Vol.61, No.1, pp.75-79, 2003. Fig.5 Visualization result of guided wave propagation. x 0.2 ms 0.4 ms 0.6 ms 0.8 ms 1.0 ms 1.2 ms 1.4 ms 1.6 ms 1.8 ms 107.552.500.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 Wave number [1/mm] (c) ML 7 1.0 0 |u| 10H 衝撃加振法によるガイド波の可視化実験とモード同定 高橋 栞太,Kanta TAKAHASHI,唐川 和輝,Kazuki KAWARAKWA,松本 愛,Ai MATSUMOTO,中畑 和之,Kazuyuki NAKAHATA
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)