過酷事故時の溶融デブリによるコンクリートの熱劣化に関する研究

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カテゴリ: 第14回
1.緒 論
2011 年3月に発生した福島第一原子力発電所事 故の際の炉心溶融後には、高温の溶融燃料(コリウ ム)が圧力容器底部から格納容器に漏えいしたとされている。コリウムと格納容器のコンクリートが接触すると、コアコンクリート反応により可燃性ガスが発生し爆発のリスクが高まる。また高熱により格納容器が侵食されると、放射性物質漏えいのリスクが高まるだけでなく、その後の事故収束にも大きな影響を与える。コリウムを受けとめ冷却する皿状の構造物であるコアキャッチャーの重要性が注目されているが、その多くは新設される炉に設置されることが前提の大型のものであり、既設炉の限られたスペースに設置するためには小型化が必須である。 本研究室では前年度まで小型コアキャッチャーの技術に関する研究を行ってきたが(1)(2)、本研究ではコアキャッチャーを搭載していなかった福島第一原発の事故に関わる知見拡充の一環として、ペデスタル床にある漏洩水検出のためのピットに流入した溶融燃料デブリによるコンクリートへの影響を評価するため、コンクリートの加熱試験を行った。 加えて、小型コアキャッチャーの素材例として選定したマグネシアカーボン(M-C)煉瓦に対しても同様の実験を行った。
2.チェルノブイリ原発でのコンクリー トへの影響 チェルノブイリ原発事故時のコンクリート熱影響 に関する書籍(3)によると熱影響は以下のように要約 される。 事故後 3 時間で落下した核燃料の内部温度が 1900°Cに達し、ジルコニウムが融解しウランとジルコニウムの液体共溶物が発生した。事故後 4 時間で下部遮蔽板上側の鋼材とコンクリートが融解した。その時の温度は1500~1700°Cであったとされている。11 時間後には、建物の構造物を含んだ溶融物から褐色のセラミック状物質が生成された。 コンクリート中の自由水は100~150°Cで蒸発し、180°Cから脱水が開始し500°Cでポルトランドセメントが分解する。石灰岩は 800°Cで分解し、1150~1400°Cで溶融する。コンクリートは 1300~1400°Cで 融解する。 結合材であるポルトランドセメントは、540°C以上 の加熱で成分のエーライト(ケイ酸三カルシウム)の脱水によりひび割れと空隙を生じ、冷却後は再水和 による膨張で組織が破壊され、強度が大きく失われる。しかし 1200°C以上の加熱後に冷却すると、褐色セラミック硬化物の生成により強度がほぼ復元する。 コンクリートの骨材は主に花崗岩と石灰岩だが、 花崗岩は 400°Cまでの加熱で強度を大幅に増し、 600°C以上で石英の膨張により強度が低下する。石灰 石は 800°C以上で CaCO3が分解し炭酸ガスを発生しながら収縮し、強度も低下する。 また、骨材とセメントの間で温度変形の差によりひび割れが発生する。
3.実験装置および空隙率・強度劣化 測定装置 熱影響を受けたコンクリートおよび MC 煉瓦の劣 化を確認するため、加熱前後の試験片重量・圧縮強 度・空隙率を測定した。 まず、全ての試験で使用する試験片に共通して、 電気炉を用いて 5 時間かけて目的温度まで上昇させ、 さらに目的温度で 1時間保持し、その後炉内で 100°C 近くまで 5~10 時間かけて冷却した後に取り出し、 各試験を行った。なお、試験片の目的温度はそれぞ れ 400°Cから1200°Cまで 100°C刻みで設定した。MC 煉瓦に対しては 800°Cから 1200°Cの温度帯を試験範 囲とした。 重量は、試験片の加熱前後の重量を電子天秤で秤 量し、減少割合を観察した。 空隙率は形状体積と真体積の差を空隙とし、形状 体積に対する比率を求めた。真体積は図1(a)に示す 装置で定容積膨張法を応用して測定した。1cm3強の 試験片 14~16 個を入れた容器を-100kPa 程度まで減 圧した後ヘリウムを 100kPa まで充填し、連結した別 の容器に開放した後の圧力値から推定した。同一の 試験を別々の試験片に対し 3 回行った。 圧縮強度は、図1(b)に示すように、加熱後に室温 まで冷却した1cm3の試験片と200kgまで計量できる 重量計を重ねて万力で圧縮し、破壊されたときの荷 重から圧縮強度を算定した。なお、コンクリートに ついては、試験片内の骨材構造により加熱時に入る 亀裂の状態が変わり圧縮強度にばらつきが生じるこ とが推定されたため、同一の試験を各温度区分で 7 回行った。また、事前に試験片を観察して、粗骨材 が支配的になっていない試験片を選別して圧縮を行 った。 (a)Porosity measurement, (b) Compressive strength Fig. 1 Test specimen measurement devices ???Π????? Fig. 2 Permeability measurement devise 透水試験はコンクリートに対してのみ行った。直 径 100mm 高さ 200mm のコンクリート供試体に対し 400、600、800、1000°Cの加熱を行い、表面をコーキ ング材と塩化ビニル管で被覆した後、透明なアクリ ル管に水漏れがないよう接続した試験装置を使用し た。水を投入し水位の変化を観察する事で透水を確 認し、単位体積単位時間あたりの透水量を推定した。 図2に透水試験装置の概要を示す。 4.実験結果及び考察 1200°Cでコンクリートのセメント部分が骨材を残 して融解した。文献では融解は 1300°C以上で起こる と記載されていたため、文献とは異なる結果である。 おそらく 1200°Cで一時間保持したことでコンクリ ートが熱による影響を大きく受け、融解に至ったの ではないかと考える。図3に融解したコンクリート の写真を示す。 また、MC 煉瓦は元は黒色の密実な組織を持って いたが、800°C以上の加熱の後は白色粉末状の結晶が 密集したような密実でない組織に変化した。後の調 査によって、MC 煉瓦は酸化マグネシウムとカーボ ンからできているため、大気雰囲気中で長時間高温 加熱するとカーボンが酸化し遊離することで白色の 酸化マグネシア粉末のみ残るという事が判明した。 また、MC 煉瓦に対して 1200°Cの加熱を行ったが、 試験片の受け皿として使用していたステンレス容器 が試験片と溶着してしまい引き剥がせなくなったた め、試験を実施できなかった。 - 247 - Fig. 3 Molten specimen (1200°C) 図4に重量減少率のグラフを示す。コンクリート と MC 煉瓦の両者について加熱前と比べて数値が減 少していく様子が見て取れる。特に MC 煉瓦はコン クリートと比較して大きな減少が見て取れる。コン クリートでは、脱水や二酸化炭素の遊離で質量減少 を起こすのは主にセメント部分であるため、試験区 分ごとの骨材含有量の差が数値の振れを引き起こし ている可能性がある。MC 煉瓦の重量減少は明らか に二酸化炭素の遊離によるものである。 Fig. 4 Weight reduction rate 図5に圧縮強度試験の平均値と標準偏差を示す。 コンクリートについては 600°Cから強度の減少が始 まり、700°C以降は元の 1/4 程度にまで下がった。 MC煉瓦は800°C以上加熱した後の強度は1MPa程度 だった。コンクリートについて、セメントの主成分 エーライトの脱水による劣化は 540°Cで始まるため、 事実に則した結果が得られている。また、700°C以降 の試験でたびたび高い圧縮強度が検出されたが、こ のとき破壊した試験片をよく確認すると骨材部が粉 砕されている形跡があった。骨材の強度も高温で劣 化することが文献(1)で述べられているため、10MPa 以下の圧力で骨材が破壊される現象も説明がつく。 181900/01/1514121900/01/0986420 200 400 600 800 1000 1200 Heating temperature [°C] Concreate M-C Bricks 0Fig. 5 Compressive strength of specimen 図6に空隙率の加熱前後での差の平均値と標準偏 差を示す。温度に応じて空隙率が過熱前に比べ増加 していく様子が確認できるが、コンクリートについ ては 1100°Cで空隙が減少するなど不自然な挙動が 見られる。これは、後の顕微鏡観察で 1100°C加熱の 試験片についてセメント部に微細組織の溶融兆候が 見受けられることから、溶融した組織が加熱により 発生したガスを取り込み膨張したか、空隙に当たる 部分が溶融組織で閉じ込められたか等の理由で、実 際より空隙率が小さく見積もられた可能性がある。 30.000.00 300 500 700 900 1100 1300 Heating temperature [°C] Fig. 6 Difference of void ratio 透水試験の結果を図7に示す。加熱温度が上昇す ると共に透水性も上昇している様子が見て取れる。 しかしその透水量は最大で6×10-6mL/s/cm3と非常 に小さい。 2019/06/020.98300 500 700 900 1100 Heating temperature [°C] 25Concreate M-C Bricks 0.96200.940.92150.9100.88Concreate M-C Bricks - 248 - 0.8650.840.820.80.0000075-2 6.0E-06 2019/06/040.0000050.0000042019/05/050.0000030.0000020.0000010300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 Heating temperature [°C] Fig. 7 Water permeability of concreate また、加熱した試験片の中から比較的健全な試験 片を選んで光学顕微鏡写真を撮影したところ、高温 になるにつれセメント組織に亀裂が多くなっている ことがわかった。この 0.03mm 単位の亀裂は試験片 の圧縮強度に特に大きな影響を及ぼしたと推測され る。また、この亀裂は透水性の上昇に影響を与えた と考えられる。 図8に過熱済みコンクリートを撮影した顕微鏡 写真の一例を示す。左側が 400°C、右側が 1100°Cで それぞれ一時間保持した試験片である。1100°Cで加 熱された試験片は、セメント部分に茶褐色に変色し ている部分があり、これはセメントの微細組織が部 分的に溶融している兆候を示している。 Fig. 8 Comparison of specimen (400°C and 1100°C)
5.FEM による非定常熱伝導解析 2011 年の福島第一原発事故で、圧力容器下部の漏 洩水検出用コンクリートピットに溶融燃料が流入し たという仮定の下、FEM を用いて非定常熱伝導解析 を行った。燃料の発熱は、汎用炉物理解析コード CBZ で停止後四時間の出力割合を導き、体積あたり 発熱量に変換にて体系中央の溶融燃料部に適用した。なお、定格出力は東京電力で公開している当時の一 号機熱出力を採用した。 図9に溶融物落下から1時間後の等温線図を示す。 10 分間でウラン燃料は崩壊熱により融点を超える 温度まで上昇するが、コンクリート深部の温度は 1000°C以下である。 Fig. 9 FEM thermal calculation 実際の体系では、コンクリートの溶融に伴い融解 潜熱を奪われると考えられる。また底部の溶融コン クリートは比重の関係で溶融燃料の沈降に伴い浮上 する可能性があるが、FEM の非定常熱伝導解析では 解析上の限界がある。実際には溶融燃料により、溶 融燃料下部のコンクリートは溶融し、浸食されると 考えられる。ピット上部に溶融燃料の流入を阻止す る耐火壁(コアキャッチャー)を設置することが必 要である。 6.結論 骨材を含んだ普通コンクリート及び MC 煉瓦を電 気炉で加熱し、ある温度で一時間保持した結果、 1200°C保持でセメントが骨材部分を残して融解し、 MC 煉瓦は 800°C以上の領域において白色粉末状組 織に変化した。また、コンクリートは 400~1100°C の範囲、MC 煉瓦は 800~1100 の範囲において、重量 は温度に対してほぼ一様に減少した。コンクリート は 500°Cまである程度強度を保っていたが、600°C以 上から急激に低下し、700°C以降は概ね 4MPa 程度か それ以下で安定した。MC 煉瓦は 800°C以上の加熱 で強度を 1MPa 程度に落とした。空隙率試験につい ては、加熱温度が高くなると空隙率は過熱前に比べ て大きくなっていく様子が観察された。加えて顕微 鏡写真の観察により、コンクリートは高温加熱によ り骨材周辺に網の目状の亀裂を生じることがわかっ た。 ピット上部に溶融燃料の流入を阻止する耐火壁を 設置することが必要であるが、コアキャッチャーの 部材として選別した MC 煉瓦が大気雰囲気中での長 時間の高温加熱に耐えられない事が判明したため、 新しい部材の選定が必要である。 参考文献 (1)奈良林 直, 久保田 祥ら。「コアキャッチャーに よる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究」、 平成 26 年度 日本保全学会コアキャッチャー分 科会報告書(2015)。 (2)倉佑希、奈良林直ら, コアキャッチャーによる原 子炉格納容器底部損傷防止に関する研究、保全学 会学術講演会 A-1-2-3(2016)。. (3)青柳征夫訳、「チェルノブイリ原子力発電所事故 - 249 - -コンクリート構造物に及ぼした影響-」、技報堂 出版(2013)。 過酷事故時の溶融デブリによるコンクリートの熱劣化に関する研究 晴山 隆仁,Takahito HAREYAMA,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,千葉 豪,Go CHIBA,林 司,Tsukasa HAYASHI,今野 隆博,Takahiro KONNO
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