磁力吸着壁面移動機構に関する基礎研究

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カテゴリ: 第14回
1.諸言
環太平洋造山帯に位置している日本は,2011年3月11 日、東日本大震災により,福島第一原発事故が引き起こ された.そこで我々は,事故の未然防止や被害を最小限 に抑えるために,設備の強化,日常点検が重要であると 考えた.また,対象として原子炉格納容器に焦点をおき, 原子炉格納容器内壁の塗装や溶接部のメンテナンスが重 要であると考えた.しかし,原子炉格納容器は約30mの 高さがあり,人間が中に入り作業を行うことは非常に危 険であるため,作業に時間がかかることが予測される. これらのデメリットを解消するために,我々は高所で も壁面の塗装や,溶接部のメンテナンスができる壁面走 行ロボットの開発を行っている.その中でも本論文では 塗装・メンテナンスの前段階として,壁面を移動できる 機構部分の設計を行い,実験によりその有用性を検証す る.
2.設計、試作機 2.1 設計方針 壁面の走行を考える上で考えられる手法はプロペラを 用いた機構,吸盤を用いた機構,永久磁石を用いた機構 が考えられる.そこで我々は3 つの理由から,永久磁石 を用いて壁面に吸着する方針にした。まず1つ目に今回 の対象となる壁面が鋼板である.2つ目にエネルギー効率 が良い.3つ目に故障した場合でも磁力は発生しているた め,張り付いたままであり,落下する危険性を回避する ことができる.以上のことから磁石を用いることにした. 現在,研究・開発されている永久磁石を利用した壁面移 動ロボットをTable1に示す. Table1 Characteristics of robots being researched and developed [2]~[5] No. Developer Robot name Characteristic 1 Osaka Gas Inspection Robot for Spherical Tanks It is attached to the wall by magnetizing the tires of four 連絡先:坂本丈尚、〒761-0396 香川県高松市林町 wheels. 2217-20、香川大学大学院工学研究科、 E-mail: s17g510@stu.kagawa-u.ac.jp 2 Tokyo Tech Vmax III Magnets are attached to the bottom of the robot. - 250 - It corresponds to movement in all directions with a tire with 6 wheels set as one set. 3 Tokyo Tech Disk Rover Increasing the adsorption power by mounting the tire of the magnet diagonally 4iXs Magnets Research Corp are attached to the Mag Bug bottom of the robot. Use omni wheel to move in all directions 5 ETHZ Magnebike The auxiliary wheel is attached to the side of the magnetized tire of two wheels 磁石の使い方を大きく分類すると,磁石をタイヤとし て使用,またはロボット底面に磁石をつけるかに分けら れる.磁石をタイヤとして使用した場合, 磁石と壁面の 距離をより近づけることができ,吸着力を大きくできる. しかしタイヤの機構が複雑になる.また磁石をロボット の底面につける場合は,好きなタイヤを使用できるが, 磁石と壁面が接触していないため,磁石を大きくし,吸 着力を大きくしなければならない.本論文では磁石をタ イヤとして使用し,吸着機構かつ従輪にした.動輪には 磁石を用いない機構にする.実際に試作機を作製し,検 証する. 2.2 試作機の課題,改善 現段階での試作機をFig.1に示す. Fig.1 Previous prototype - 251 - Fig.2 Step ホワイトボード,鉄製モニュメント,鉄製ロッカーで、 試作機の動作確認を行った.(Table2) Table2 Confirmed move No. Confirmation contents Success / failure 1 90 degree wall surface Success 2 60 degree wall surface Success 3 120 degree wall surface Success 4 Gap (7 mm) Success 5 Gentle step (maximum height 5 mm, width 60 mm) Success 6 Horny step failure Fig.2 の角のある段差部分(角の高さ7mm、壁面からの 距離12mm)は乗り越えが不可能であった。原因は、磁 石のタイヤの直径が小さかったことと、平面と動輪との 距離ができて空転してしまったことであると考えられる。 また現在の試作機では,従輪である磁石輪の向きを完全 に固定しているため、前後の進行方向は可能であるが機 体を回転させる動きは不可能である. 磁石輪の改善として、まず磁石の直径を大きくし、サ スペンション機構を入れ段差に対応しなければならない. また自由に壁を移動できるようにするために,前後方向 の動きに加え,回転の運動を追加させなければならない. すべての条件を満たすものとして,今回磁石輪として緩 衝キャスターを選定し,走行性能の改善に努めた.取り 寄せた緩衝キャスターの車輪部分を丸型ネオジム磁石に 変えた.手順としてサスペンション機構と360度回転す る機能を持った緩衝キャスターを使用し,キャスターの 車輪を,前回より直径を大きくしたネオジム磁石に変更 した.現在の試作機の磁石輪をFig.3,新しく改善した磁 石輪をFig.4 に示す. Fig.3 Magnet ring (before improvement) Fig.4 Magnet ring (after improvement) 3.試作機の製作,走行実験 試作機をFig.5に示すように新しく改善した磁石輪を4 つ使用し製作した.駆動輪の位置は,以前の試作機と同 様の位置に取り付けた.ここで問題となったのが,駆動 輪の取り付け高さである(Fig.6 中の A 参照).駆動輪の 取り付け高さを高くすることによって,駆動輪が壁面を 押し付ける力が上がるが,モータにかかるトルクが増え, モータが正常に作動しなくなることが考えられる.また 逆に駆動輪の取り付け高さを低くすると,モータにかか るトルクは減少するが,モータのトルクが十分に壁面に 伝えられなくなり,駆動輪が空転してしまうことが考え られる.この問題を解消するために,実際に駆動輪高さ を1mmずつ変更し,それぞれ実際に走行実験を行い,効 率よく走行できる最適の駆動輪高さを検証していく. Fig.5 Improved Prototype Fig.6 Drive wheel installation height タミヤモーター540K300 で駆動輪高さをそれぞれ変更 し,走行実験を行った.今回,ホワイトボード,非常扉, ロッカーを壁面の対象とした.駆動輪高さ15mm~20mm で走行実験を行った結果,3つとも正常に走行できたのが, 駆動輪高さ 17mm であった.問題としていたロッカーの 角の高さ7mmも,磁石輪が引っ掛かることなく走行した. しかし,16,18,19mm でもロッカーを正常に走行でき たが,時々隙間や段差に磁石輪が引っ掛かり,駆動輪が 空回りを起こす傾向が見られた.タイヤの摩擦力を上げ ることで,走行の性能が向上すると考えられる為,再度 タイヤに耐震防止ジェルをはり,ロッカーでの走行実験 を行った.実験結果は駆動輪高さ15mm~18mm で,すべ ての動きに走行が可能であった. 4.走行性能実験 性能実験として,それぞれの駆動輪高さの速度実験を 上方向,横方向に分けて行った.結果をTable.3 に示す. Table3 Speed Test Results Drive wheel height Speed (upward) Speed (width) 15mm 0.261m/s 0.338m/s 16mm 0.254m/s 0.341m/s 17mm 0.242m/s 0.345m/s 18mm 0.207m/s 0.345m/s またそれぞれの駆動輪取付高さで,段差を乗り越える 走行実験を行った.実験結果をTable.4に示す. Table4 Experiment of running a step Drive wheel height Horizontal step Vertical step 駆動輪高さ 15mm の時が段差を乗り越えるのに一番有 利であることが分かる.それに加え,駆動輪高さ 15mm の時が,一番上方向に対して速度が高かった為,最適の 駆動輪高さは,15mmであるということが考えられる. 5.結言 本稿では,現在の試作機の課題について述べ、方向転 換を容易に行えるように,永久磁石を用いた緩衝キャス ターに変更することを提案した.また改善した磁石輪を 使用し,試作機を製作した.駆動輪高さを変えての走行 実験や,タイヤの摩擦を上げての走行実験,性能実験を 行い,それぞれの高さの性能の比較に努めた.前回の試 作機の課題としていた段差の乗り越え,回転運動などを 可能とし,走行性能を前回より向上させることが出来た. 今後の課題は、まず溶接部のメンテナンスができるよう - 252 - 15mm 12mm 14mm 16mm 12mm 13mm 17mm 11mm 12mm 18mm 11mm 12mm 利用した凹凸壁面対応型全方向移動ロボットの開発”、ロ に,試作機にカメラや超音波探傷器を搭載し,メンテナ ンスの可能性を検証する. ボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集、 参考文献 1A1-D20(1)-1A1-D20(4),2008. [1] 三宅徹、石原秀則、吉田俊一、_自走式窓清掃小型 [4] 広瀬茂男、堤竹浩、外山良成、小林研吾、_磁気デ ロボットの開発(方形領域の隅々まで掃引可能な壁面吸 ィスク型壁面移動ロボットDisk Roverの開発”、第10回 着移動機構の開発)”、第10回ロボティクスシンポジア、 ロボティクスシンポジア、2005. 2005. [5] Fabien T,Wolfgang Fischer,Gilles Caprari,Roland [2] 川口 圭史、曽木忠幸、甲斐、森崎弘康、早川秀樹、 Siegwart,Roland Moser,Francesco Mondada,_Magnebike: _球形貯槽検査用ロボットの開発”、日本ロボット学会誌、 A magnetic wheeled robot with high mobility for inspecting Vol.21,No.7, pp.770-775,2003. complex-shaped structures”,Journal of Field Robotics,Vol.26, [3] 鶴清、広瀬茂男、_全方向移動車両Vmaxの原理を No.5,pp.453-476,2009. 磁力吸着壁面移動機構に関する基礎研究 石原 秀則,Hidenori ISHIHARA,坂本 丈尚,Tomonao SAKAMOTO,松井 隆,Takashi MATSUI
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