落雷に対する再処理施設の安全設計について -新規制基準への適合性-

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
平成27年8月2日、青森県の六ヶ所村に建設中の再処理施設において、安全上重要な計測制御設備の異常を示す警報が同時に多数発生する事象が発生した。その後の調査の結果、本事象は落雷に起因するものであり、安全上重要な計測制御設備の多重故障が発生していたことが確認された[1]。 一方、東日本大震災を受けて、平成25 年11月に「再処理施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」[2] (以下、「新規制基準」という)等が施行され、落雷を含む自然現象に対する安全設計についても求められている。 以上のことから、落雷に対する再処理施設の安全設計において、設計上想定する落雷の規模の設定、設計対象施設の選定、安全設計の方針及び設備運用上の対応の見直しを行ってきた。 本稿では、発生事象の概要及び発生事象を受けて見直した落雷に対する再処理施設の安全設計の内容について報告する。
2.発生事象
2.1 発生事象の概要
平成27年8月2 日、再処理施設 分離建屋に設置され ている高レベル廃液供給槽セル漏えい液受皿液位計のB 系において異常を示す警報が発報するとともに、同A系 において指示値が表示されない状態となった。当該液位 計は安全上重要な計測制御設備であるため、同時に両系 統の機能を喪失しないよう独立した2系統で構成されて いた。また、安全上重要な計測制御設備における同様な 指示値の異常は、当該の設備を含め11種類17設備で発 生していることが確認された。 一方、同時刻帯には、再処理施設の周辺で多数の落雷 が発生しており、これが異常の原因と考えられた。 連絡先:大橋 誠和 〒039‐3212 青森県上北郡六ヶ所 2.2 落雷の状況 村大字尾駮字沖付4 番地108、日本原燃(株) エンジニアリング JLDN(Japan Lightning Detection Network)の記録か センター フ0ロジェクト部 技術グルーフ0 E-mail: akikazu oohashi@jnfl.co.jp ら、事象発生当日の落雷発生状況の調査を行った(図- - 390 - 1参照)。その結果、事象の発生当時に再処理施設周辺で 発生したと想定される落雷のうち、最も大きいものは雷 撃電流196kAを示しており、再処理施設の中で最も高い 主排気筒(高さ150m)に発生したと考えた。 図-1 事象発生当日の落雷発生状況 (上:再処理施設周辺で観測された落雷) (下:事象発生の起因と考えられる落雷) 2.3 故障の状況 事象の発生状況及び故障が発生した設備の設備構成 (図-2参照)から故障箇所を推定し、分離建屋に設置 されているディストリビュータ(伝送器電源機能付信号 変換器)が故障箇所であることを特定した。故障箇所を 詳細に調査した結果、過電圧の影響によるディストリビ ュータの出力側の故障であることが確認された。また、 当該設備以外においても、故障の状況は同様であり、故 障が発生した設備が設置されている前処理建屋、分離建 屋及びウラン・プルトニウム混合脱硝建屋は、落雷箇所 と推定される主排気筒や信号の出力先である制御建屋と 図-3 主要な建屋及び構築物の配置 2.4 故障発生の推定メカニズム 事象発生当時の落雷の状況、故障した設備の配置等か ら、雷撃電流196kAの落雷が主排気筒に発生し、その雷 撃電流が大地に放流される過程で、建屋間に電位差を生 じさせ、その影響で建屋間を取り合う計測制御設備の信 号ケーブルに過電圧が生じ、保安器の設置されていない 前処理建屋、分離建屋、ウラン・プルトニウム混合脱硝 建屋側の設備を損傷させたと推定される。 2.5 故障に対する措置及び再発防止対策 故障が発生したディストリビュータを交換するととも に、再発防止対策として、建屋間を取り合う計測制御設 トレンチを介して取り合っていることが確認された(図 -3参照)。なお、制御建屋側には保安器が設置されてお り、故障の発生は確認されなかった。 - 391 - 図-2 故障した設備の設備概要 備のうち保安器が設置されていない前処理建屋、分離建 屋及びウラン・プルトニウム混合脱硝建屋側に保安器を 設置し、過電圧が発生しても設備の損傷に至らないよう にした。 3.安全設計の見直し 3.1 要求事項及び検討方針 新規制基準では、安全上重要な施設は最新の科学的技 術的知見を踏まえて適切に想定される自然現象に対して、 安全機能を損なわない設計とすることが要求されている。 したがって、新規制基準に適合する安全設計方針の構築 に当たっては、前述の事象に対する対策を踏まえるだけ でなく、落雷に対する設計対象及び想定する落雷の規模 を適切に設定し、安全機能が維持される設計とすること を基本方針とする。また、新規制基準では、新たに重大 事故等への対応が求められており、設計上の想定よりも 厳しい条件を想定した運用上の対応を定める方針とする。 3.2 設計対象の選定 落雷に対する設計対象の選定に当たっては、落雷によ ってもたらされる直撃雷及び間接雷の影響を考慮すると ともに、再処理施設の特徴を考慮する。 直撃雷は、外気にさらされた建物等に対して大規模な 雷撃電流が流れることにより影響を与える。したがって、 建築基準法等に基づき、直撃雷に対する設計対象施設を 選定する。 間接雷は、雷撃電流が避雷設備を介して大地へ放流さ れる過程で雷サージとなって接地網から侵入するもので あり、建物内の施設に影響を与えることが想定される。 再処理施設は多数の施設の監視・制御を制御建屋で集中 的に行う設計としており、そのための計測制御設備が建 屋間を取り合っていることから、雷サージによって生じ る電位差の影響を受けやすい。したがって、建屋間を取 り合う計測制御設備等を間接雷に対する設計対象施設と して選定する。 3.3 想定する落雷の規模 日本における雷日数の地理的分布[3]及びJLDNデータに 基づく落雷密度分布によると、再処理施設の立地地点周 辺は他の地域と比べて落雷が少ない地域であることから、 再処理施設の敷地周辺において過去に観測された落雷デ ータに基づき設計の基礎とすることとした。再処理施設 の敷地周辺において過去に観測された落雷の頻度分布を 図-4に示す。 再処理施設の敷地周辺で過去に観測された落雷の雷撃 電流の最大値は211kAであるが、再処理施設の設計に当 図-4 再処理施設敷地周辺の落雷頻度分布 3.4 耐雷設計 直撃雷に対する設計対象施設は、「原子力発電所の耐雷 指針」(JEAG4608)、建築基準法及び消防法に基づき、 日本工業規格に準拠した避雷設備を設置する設計とする。 なお、安全上重要な施設を内包する建屋及び安全上重要 な構築物は、建築基準法及び消防法の適用を受けないも のであっても避雷設備を設ける設計とする。各々の設計 対象施設に設置する避雷設備は、構内接地網と連接し、 接地抵抗の低減及び雷撃に伴う構内接地網の電位分布の 平坦化を図る設計とする。 間接雷による雷サージ抑制設計としては、雷サージの 侵入・伝播経路を考慮し、設計対象施設は雷撃電流270 kAの主排気筒への落雷の影響に対して安全機能を損な わない設計とする。具体的には、設計対象施設の有する 雷インパルス絶縁耐力を3.0kV以上とするか、又は同等 の保安器を接地する設計とする。 3.5 運用上の対応等 耐雷設計において想定する落雷の規模は、再処理施設 の敷地における過去15年間の観測データを参考に設定し たものであり、想定を超える落雷が発生する可能性を否 定できない。したがって、落雷により安全上重要な施設 の安全機能が喪失した場合においても、再処理施設の安 全性が適切に確保されるよう設備及び運用上の対策を施 す。具体的には、落雷によって設計対象施設の安全機能 が損なわれたおそれがあると判断した場合に、以下の対 応を実施する。 1使用済燃料の再処理を停止する等の措置を講ずるとと もに、当該措置によって安全が確保される設計とする。 2安全機能の確保が常時求められる計測制御設備につい ては、代替監視機能により当該安全機能が維持されて いることを継続的に監視する。 たっては観測値に裕度を考慮し、想定する落雷の雷撃電 流を270kAとする。 - 392 - このうち1に対しては、再処理施設において想定して いる運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故において 期待しているインターロックを対象に、図-5に示す検 討フローにしたがって安全性への影響の有無を確認する。 その結果、使用済燃料の再処理の停止等の措置により安 全性が確保できないおそれのあるインターロックについ ては、その機能喪失を適切に検知し、自動的に停止措置 が行われる設計とする。 機能による監視を実施するものとした。 5.参考文献 [1] _再処理施設 分離建屋における安全上重要な機器 の故障について(最終報告)【改訂版】”、日本原燃株 式会社、2015.12. [2] _再処理施設の位置、構造及び設備の基準に関する 規則の解釈の制定について”、原子力規制委員会、 2013.11. [3] 吉田弘、_日本列島における雷日数の地理的分布と その長期的傾向”、日本気象学会、2002.4. 図-5 インターロック機能喪失による 安全性への影響検討フロー 4.まとめ 平成27年8月に発生した落雷による安全上重要な計測 制御設備の多重故障を受けて、落雷に対する再処理施設 の安全設計の見直しを行った。 見直しに当たっては、再処理施設の敷地周辺の地域特 性を考慮し、落雷の観測実績に基づいて落雷の規模を270 kAと想定し、これに対して安全機能を適切に維持する 設計とした。 安全設計においては、落雷の特徴及び再処理施設の特 徴を考慮して、直撃雷に対する設計対象施設と間接雷に 対する設計対象施設を選定した。直撃雷に対する設計と しては、日本工業規格に準拠した避雷設備を設置すると ともに構内設置網の電位分布を平坦化する方針とし、間 接雷に対しては想定する落雷によって生じる電位上昇に 対して安全機能を損なわないよう、間接雷に対する設計 対象施設の雷インパルス絶縁耐力を3.0kV以上とする か又は同等の保安器を設置する設計とした。 また、想定を超える落雷によって安全機能が喪失する ことを想定し、運用上の対策として、安全機能が損なわ れたおそれがあると判断した場合には使用済燃料の再処 理を停止する等の措置を講ずるとともに、安全機能の確 保が常時求められる計測制御設備については、代替監視 - 393 - 落雷に対する再処理施設の安全設計について -新規制基準への適合性- 大橋 誠和,Akikazu OHASHI,菊池 宏,Hiromu KIKUCHI,鈴木 一晶,Kazuaki SUZUKI,細越 慶道,Yasunori HOSOGOE,岩渕 克之,Katsuyuki IWABUCHI,加賀 昌宏,Masahiro KAGA,太田 和明,Kazuaki OTA
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