機械学習手法を活用した CRDM 作動分析技術の高度化について

公開日:
カテゴリ: 第14回
1.緒言
加圧水型原子力発電所(PWR)の磁気ジャック式制御棒駆動装置(CRDM)は、制御盤からの電気信号に対応して、制御棒(RCC)を炉心から引抜/挿入/保持する装置である。CRDMは、Fig.1に示すように、圧力ハウジング、 ラッチアセンブリ、駆動軸アセンブリ及びコイルアセンブリの 4つのサブアセンブリで構成している。また、ラッチアセンブリは、SGラッチ部、MGラッチ部、リフト部の3つの駆動部に分類され、SGラッチ部及びMGラッチ部は、それぞれ SGラッチ及びMGラッチの把持・開放動作を司る。一方、リフト部は、MGラッチ部の 1 ステップ分の上昇・下降動作を司る。圧力ハウジング外側 には、3つの駆動部に対応する3つのコイルが設けられており、これら 3つのコイルをシーケンシャルに励磁・非励磁することで、SGラッチ及びMGラッチの把持・開放 動作とMGラッチ部の上昇・下降動作を組合せ、RCC引抜・挿入のステッピング動作を実現する。 ラッチアセンブリは、圧力ハウジングに内包されているため、その動作状況を直接確認することができない。 そこで、3つの駆動用コイルの電流信号と駆動時に発生する振動(加速度)信号をデジタルデータとして取り込み、信号上の特徴を抽出して間接的に動作状況を確認している。具体的には、Fig.2 に示すように、電流信号 on/off のタイミングと磁極の開閉動作完了のタイミングを抽出して、「電流信号on/offから磁極の開閉動作完了までの時間」 を算出して、CRDM の動作状況を確認している。 1プラントの全CRDM の動作状況を確認するためには、 約145,000個(6動作×228ステップ×2引抜/挿入×53体) の信号を処理する必要がある。このため、データ採取後のタイムリーなCRDM動作性の診断のためには、信号分析作業の自動化が必要である。
Fig.1 Schematic view of CRDM - Fig.2 Definition of armature’s response time (example of withdrawal sequence) 2.既存のCRDM 作動分析技術 これまでに、MHI では信号分析作業を自動で行うため に、CRDM 作動分析技術を開発し、実機プラントの CRDM 動作性の診断に適用してきている(以後、既存の 分析技術と称す)。 既存の分析技術では、コイル電流 on/off のタイミング は、コイル電流信号の変化点から検出している。また、 磁極動作完了のタイミングは、Fig.3 に示すように、磁極 動作毎に固定の検出範囲を設定し、その範囲の中から動 作完了のタイミングを検出している。この検出範囲は、 先行実績データを基に固定のクライテリアとして設定し ている。 コイル電流信号は、CRDM 動作条件(プラント状態、 アドレス、プラント等)の違いによる変動は小さく安定 しているため、高い精度で検出することが出来る。一方、 加速度信号は、CRDM 動作条件の違いによって大きく変 動しノイズレベルにも差が生じる。このため、変動やノ イズレベルの差に対して、統一的な検出範囲で対応する には限界があり、検出精度の低い条件もある(Fig.4参照)。 上記への対応として、個別に検出範囲を設定する方法 が考えられるが、管理/運用面で煩雑になりヒューマンエ Fig.4 Example of CRDM operational data with wide variation and noise 3.CRDM作動分析技術の高度化 CRDM 作動分析では、加速度信号から6つの磁極の動 作完了のタイミングを検出しており、本処理はビックデ ータ処理で活用されている機械学習手法におけるクラス 分け問題と類似している。よって、本研究では、機械学 習手法を適用して、信号の変動やノイズレベルの差に柔 軟に対応出来るCRDM作動分析技術確立を試みた。なお、 コイル電流信号の on/off のタイミング検出は、既存の分 析技術で高い精度を確保できているため、既存技術を維 持し機械学習手法は適用しない。 - 468 - ラー発生の基となる懸念がある。 そこで、加速度信号の変動やノイズレベルの差に柔軟 に対応出来る分析技術高度化が望まれていた。 Fig.3 Detecting method of existing CRDM motion analysis (example of withdrawal sequence) 3.1 基本概念 機械学習手法を適用した CRDM 作動分析技術(以降、 高度化した分析技術)の基本概念をFig.5 に示す。既存の 分析技術では、磁極動作完了のタイミングを検出するた めの検出範囲を固定のクライテリアを基に設定していた のに対して、高度化した分析技術では、機械学習による 識別結果(クラス分け結果)を用いて、条件毎に検出範 囲を自動で設定する方法に変更する。本研究では、機械 学習手法として、多クラス分け問題で多く活用されてい る『Random Forests』を用いた。 Fig.5 Concept of CRDM motion analysis using machine learning 3.2 機械学習の考え方 機械学習は、学習データに内在する非明示的なルール を自動で見つけ出し、そのルールを基に作成した学習モ デルを用いて新しいデータの識別や予測を行う技術であ る。 Random Forests は、学習データから複数の学習モデルを 生成して、各学習モデルでの識別結果を統合して最終的 な結果を導き出す学習手法である。これは、多くの情報 からルールを見つけ出す場合、少ない学習モデルでは偏 った答えとなる可能性があるため、着目する情報や優先 順位のパターンを変えた複数の学習モデルを用いて、識 別精度と汎化性の向上を図ったものである。 CRDM 波形分析においては、学習データとして「採取 データ(コイルの電流信号及び加速度信号)と磁極動作 完了のタイミングの情報」を与えることで、Fig.6 に示す ように、採取データ(コイルの電流信号及び加速度信号) と磁極動作完了のタイミングとの関係性を自律的に見つ け出させる。そして、機械学習にて見つけ出した関係性 (以降、学習モデルと呼び)を用いて、新しいデータの 識別を行う。 CRDM 波形分析では、各時間を「6 つの磁極動作の完 了のタイミング」と「その他」の合計 7 つのクラスに分 ける必要がある。1ステップあたりの時間は900msec であ り、1msec単位でクラス分けを行う。Random Forestsによ るクラス分けでは、Fig.7 に示すように、学習モデル毎に 識別処理を行い、結果を集計して、識別対象の時間がど のクラスとなる確率が高いかを算出している。識別結果 としては、Fig.8 に示すように、クラス毎に時間に対する 確率値の関係を得る。 - 469 - Fig.6 Example of learning information at CRDM motion analysis 3.3 Random Forests によるクラス分け Fig.7 Classification by Random Forests Fig.8 Classification results 3.4 検出範囲の設定 磁極動作完了のタイミングを検出する範囲の設定方法 としては、Fig.9 に示すように、機械学習による識別結果 (クラス分け結果)から、磁極動作毎に確率が高い時間 (ピーク位置)を抽出して、その時間を中心とした狭い 範囲を検出範囲とした。この検出範囲の設定は、動作毎、 ステップ毎に自動で実施するため、可変である。 Fig.9 Set up variable range 参考文献 [1] Jinichi Miyaguguchi, Development of a PWR CRDM data-analyzing system, Transactions of the American Nuclear Society, Vol.60, 1989, pp.466-468 [2] Jamie Shotton, Matthew Johnson and Roberto Cipolla, Semantic Texton Foresrs for Image Categorization and Segmentation, Computer Vision and Pattern Recognition, 2008, pp.1-8 [3] Leo Breiman, Random Forests, Machine Learning, Vol.45, - 470 - 3.4 分析精度 高度化した分析技術を用いて作動分析を実施し、分析 精度の確認を行った。分析精度の確認は、約50条件(約 100 万ステップのデータ)に対して実施した。代表として 既存の分析技術において分析精度が低かった条件の確認 結果を Table1 に示す。Table1 より、高度化した分析技術 では、99%を超える高い分析精度を達成できることを確 認した。なお、他の条件についても大部分で 99%を超え る高い分析精度を達成できることを確認した。 Table1 Detection accuracy rate Analysis method Detection accuracy Existing motion analysis 80% Improved motion analysis 99% 4.結論 CRDM 波形分析に機械学習手法を適用することで、加 速度信号の変動やノイズレベルの差にも柔軟に対応でき る分析技術を開発することが出来た。これにより、CRDM 波形分析の分析精度向上が図れ、分析作業が効率化でき ることを確認した。 今後は、様々な条件に対して高い分析精度の確保、分 析作業の迅速化のために、より多くの実機データを取得 し機械学習に使用する学習データの拡充を図る。 No.1, (2001) pp.5-32 [4] David S. Siroky, Navigating Random Forests and related advances in algorithmic modeling, Statistics Surveys, Vol.3, (2009) pp.147-163 [5] Florian Schroff, Antonio Criminisi and Andrew Zisserman, Object Class Segmentation using Random Forests, Proceedings of the British Machine Conference, (2008) pp.54.1-54.10 [6] 波部 斉, ランダムフォレスト, 情報処理学会研究報 告, Vol.2012-CVIM-182, No.31, 2012, pp.1-8“ “機械学習手法を活用した CRDM 作動分析技術の高度化について “ “西村 卓也,Takuya NISHIMURA,山嵜 將平,Shohei YAMASAKI,斎藤 真由美,Mayumi SAITOH,中山 博之,Hiroyuki NAKAYAMA,矢口 誓児,Seiji YAGUCHI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)