配管材料の環境割れシミュレーション
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カテゴリ: 第10回
1緒 言
塩化ビニール等の高分子材料が低圧・低温ラインや耐食性を必要とする流体配管あるいは二重管のライニング材として多く使用されている。これらの材料には金属の応力腐食割れと同様に環境応力割れ(environmental stresscracking, ESC)が発生することがある。ESCはしばしばソルベントクラックとも呼ばれる。これは空気中において応力を受けることによる破壊であるストレスクラックとは区別される。(1) 本研究はESCの発生と成長を数デル化し,これを用いた配管部材のESC破壊寿命予測手法を構築することを目的とする。ここでは成長過程についての数式化と有限要素法を用いたき裂成長挙動の解析について述べる。 2解析方法 2.1数式モデル ESCの支配要因が力因子と環境因子の両方であると仮定して成長メカニズムを数式化する。力学的因子としては応力とそれによる応力拡大係環境因子としてはき裂先端近傍部に拡散した溶剤濃度および温度を考える。これらを用いてき裂進展速度は .K.T
TRQKAtanexpdd.と表されるとする。ここではの増加関数であり、はき裂成長指数、は活性化エネルギ、はガス定数である。溶剤の拡散については材料中での拡散係数をとすると、時間と距離の方程式として AnQR.tx(2) 22xt........が成り立つものとする。これらの関係に基づく部材中でのき裂の成長解析については、①部材初期表面からの溶剤の拡散、②き裂の成長、ならびに、③新たに生成されたき裂面からの溶剤拡散、といった複数の過程を連成させながら解く必要があり、有限要素法などの数値解析手法が必要である。 22有限要素モデルと解析条件 前記の数式モデルに従って有限要素法によるき裂の成長解析を行った。解析モデルをFig.1に示す。図中左部に示すように一様引張と溶剤拡散が作用する線形弾性体平板中を表面き裂がMode Iで成長する場合を考え、き裂の中央から上下対称に4分割した左上の部分について図中右側のような解析モデルとした。モデルの下部は図中座標X、Z方位を各20等分し、右面と下面を鏡像対称面としてそれぞれXおよびY方向変位を固定した。このモデルの上面からY方向に一様引張応力を負荷すると同0時にモデル手前の表面(図中手前Z面)から溶剤(外部濃度)の拡散を与え、式-1、-2に従ってき裂成長と溶剤拡散の連成解析を行った。ここで、式-2については簡単のためにが温度一定の環境でであるとし、nは5とした。本モデルでのき裂は要素の剛性を無効化することで模擬することとし、初期き裂としてモデル図中右下の手前角にあらかじめ1要素分(長さ)の無剛性要素を導入した。き裂成長はこの初期き裂要素から隣接要素の剛性が順次に無効化されていくことで表される。き裂前縁での応力拡大係数は仮想き裂閉口法(VCCM)を用いてき裂前方要素の剛性が有る場合と無い場合の比較によるエネルギ解放率計算で求めた。き裂の成長に伴ってその開口部分が新たな溶剤拡散経路となることについては、き裂化した要素での拡散係数を初期値よりも大きくすることで初期表面部分からき裂部を経た内部への拡散が促進されるようにした。 0....RTQA/exp...101.0acrack.0.以上のようなモデルでTable1および以下に示すような5つの条件で解析を行って傾向の違いを比較した。 条件1:拡散開始と同時にき裂成長を開始する。き裂要素の拡散係数は10とする 0条件2:条件1について、を10000に変える 条件3:き裂発生時間を考慮し、拡散開始より5t0(t0:単位時間)遅れてき裂成長を開始する。は10とする 条件4:条件3について、を10000に変える。 条件5:拡散がない。き裂成長に拡散の影響がない。 解析するき裂の成長量は初期き裂要素点よりXあるいはZ方向でモデルの端に達するまでとした。 以上の解析計算には汎用有限要素解析ソフトウェア2013/03/01を使用した。実際の計算設定にあたり、今回の目的が上記の条件間の相対比較であるため、応力と各材料物性値はいずれも単位量の1とした。 3.解析結果 Fig.2に時間経過に伴うき裂面の拡大の様子、Fig.3に最終的な拡散濃度分布、Fig.4に解析開始時間からの表面方向(X)と奥方向(Z)でのき裂長さの変化を示す。Fig.2、Fig .3では図中右上が初期き裂要素位置である。 Fig.2とFig.4より解析条件によって表面方向(X)と奥方向(Z)のアスペクト比(X/Z)に大きな差を生じることがわかる。条件1と3のようにが10の場合にはき裂は拡散濃度の高い表面方向での成長が速く、最終的なアスペクト比は2を超えて他の条件よりも大きい。これはき裂部を経由しない表面からの拡散が支配的となる結果であり、Fig.3を見ると最終的にも拡散濃度は表面からの距離に依るところが大きい。詳細に見れば条件3の方が表面近傍での拡散濃度が高く、これが条件3でのき裂成長速度が条件1よりも速いことに対応している。一方、条件2と条件4においてはき裂のアスペクト比がそれぞれ1.4と1.6になって拡散のない条件5の値1.5と比べても差が小さい。これはFig.3に見られるようにき裂面からの拡散が顕著であるため奥方向への成長が容易だからである。条件4のき裂成長には成長開始前の表面からの拡散濃度状態の影響は小さく、成長開始からの成長速度に条件2との差を生じにくい。 Fig.1 Analysis model Table1 Analysis parameter settings Condition Diffusion Delayed growth start 0/ttCoefficient rate 0/..crack1○ 0102○ 0100003○ 5104○ 5100005- 0- 実際の高分子材料の環境割れについては、溶剤暴露から時間を経て表面に浅く長い(アスペクト比大)き裂が生じ、これが合体して成長した様相が観察されることが多い。したがって、今回の条件2と条件4のように処女材と拡散を受けた部材での差が出ないような状態ではなく、条件3が近いものと考えられる。 (a) condition 1 (b) condition 2(c) condition 3(d) condition 4(e) condition 5Fig.2 Growth of crack surface C:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\1-temp.bmpC:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\2-temp.bmp(a) condition 1 (b) condition 2C:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\3-temp.bmpC:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\4-temp.bmp(c) condition 3(d) condition 4Fig.3 Final concentration distribution 3.結 言 配管材料の環境割れ研究の初期段階として簡単なモデルによるき裂成長解析を試みた。現実の配管材料の環境割れでは、①クレーズの生成からき裂発生までの過程、②き裂発生後の複数での同時作用(合体・干渉)、など多くの要素・問題があるため、実験による実情の把握と併せて研究を進める予定である。 参考文献 0510152000.20.40.60.81Crack length a/a0Time, t/t0xz(a) condition 1 0510152000.20.40.60.81Crack length a/a0Time, t/t0xz(b) condition 2051015205.05.25.45.65.86.0Crack length a/a0Time, t/t0xz(c) condition 3051015205.05.25.45.65.86.0Crack length a/a0Time, t/t0xz(d) condition 405101520012345Crack length a/a0Time, t/t0xz(e) condition 5Fig.4Relationship between crack length and time [1] 本間精一、“プラスチックの実用強さと耐久性6”、プラスチックス、Vol.55、№3、2004、 pp.87-96.
“ “配管材料の環境割れシミュレーション “ “堤 三佳,Mitsuyoshi TSUTSUMI,黄木 景二,Keiji OGI,菊池 和彦,Kazuhiko KIKUCHI“ “配管材料の環境割れシミュレーション “ “堤 三佳,Mitsuyoshi TSUTSUMI,黄木 景二,Keiji OGI,菊池 和彦,Kazuhiko KIKUCHI
塩化ビニール等の高分子材料が低圧・低温ラインや耐食性を必要とする流体配管あるいは二重管のライニング材として多く使用されている。これらの材料には金属の応力腐食割れと同様に環境応力割れ(environmental stresscracking, ESC)が発生することがある。ESCはしばしばソルベントクラックとも呼ばれる。これは空気中において応力を受けることによる破壊であるストレスクラックとは区別される。(1) 本研究はESCの発生と成長を数デル化し,これを用いた配管部材のESC破壊寿命予測手法を構築することを目的とする。ここでは成長過程についての数式化と有限要素法を用いたき裂成長挙動の解析について述べる。 2解析方法 2.1数式モデル ESCの支配要因が力因子と環境因子の両方であると仮定して成長メカニズムを数式化する。力学的因子としては応力とそれによる応力拡大係環境因子としてはき裂先端近傍部に拡散した溶剤濃度および温度を考える。これらを用いてき裂進展速度は .K.T
TRQKAtanexpdd.と表されるとする。ここではの増加関数であり、はき裂成長指数、は活性化エネルギ、はガス定数である。溶剤の拡散については材料中での拡散係数をとすると、時間と距離の方程式として AnQR.tx(2) 22xt........が成り立つものとする。これらの関係に基づく部材中でのき裂の成長解析については、①部材初期表面からの溶剤の拡散、②き裂の成長、ならびに、③新たに生成されたき裂面からの溶剤拡散、といった複数の過程を連成させながら解く必要があり、有限要素法などの数値解析手法が必要である。 22有限要素モデルと解析条件 前記の数式モデルに従って有限要素法によるき裂の成長解析を行った。解析モデルをFig.1に示す。図中左部に示すように一様引張と溶剤拡散が作用する線形弾性体平板中を表面き裂がMode Iで成長する場合を考え、き裂の中央から上下対称に4分割した左上の部分について図中右側のような解析モデルとした。モデルの下部は図中座標X、Z方位を各20等分し、右面と下面を鏡像対称面としてそれぞれXおよびY方向変位を固定した。このモデルの上面からY方向に一様引張応力を負荷すると同0時にモデル手前の表面(図中手前Z面)から溶剤(外部濃度)の拡散を与え、式-1、-2に従ってき裂成長と溶剤拡散の連成解析を行った。ここで、式-2については簡単のためにが温度一定の環境でであるとし、nは5とした。本モデルでのき裂は要素の剛性を無効化することで模擬することとし、初期き裂としてモデル図中右下の手前角にあらかじめ1要素分(長さ)の無剛性要素を導入した。き裂成長はこの初期き裂要素から隣接要素の剛性が順次に無効化されていくことで表される。き裂前縁での応力拡大係数は仮想き裂閉口法(VCCM)を用いてき裂前方要素の剛性が有る場合と無い場合の比較によるエネルギ解放率計算で求めた。き裂の成長に伴ってその開口部分が新たな溶剤拡散経路となることについては、き裂化した要素での拡散係数を初期値よりも大きくすることで初期表面部分からき裂部を経た内部への拡散が促進されるようにした。 0....RTQA/exp...101.0acrack.0.以上のようなモデルでTable1および以下に示すような5つの条件で解析を行って傾向の違いを比較した。 条件1:拡散開始と同時にき裂成長を開始する。き裂要素の拡散係数は10とする 0条件2:条件1について、を10000に変える 条件3:き裂発生時間を考慮し、拡散開始より5t0(t0:単位時間)遅れてき裂成長を開始する。は10とする 条件4:条件3について、を10000に変える。 条件5:拡散がない。き裂成長に拡散の影響がない。 解析するき裂の成長量は初期き裂要素点よりXあるいはZ方向でモデルの端に達するまでとした。 以上の解析計算には汎用有限要素解析ソフトウェア2013/03/01を使用した。実際の計算設定にあたり、今回の目的が上記の条件間の相対比較であるため、応力と各材料物性値はいずれも単位量の1とした。 3.解析結果 Fig.2に時間経過に伴うき裂面の拡大の様子、Fig.3に最終的な拡散濃度分布、Fig.4に解析開始時間からの表面方向(X)と奥方向(Z)でのき裂長さの変化を示す。Fig.2、Fig .3では図中右上が初期き裂要素位置である。 Fig.2とFig.4より解析条件によって表面方向(X)と奥方向(Z)のアスペクト比(X/Z)に大きな差を生じることがわかる。条件1と3のようにが10の場合にはき裂は拡散濃度の高い表面方向での成長が速く、最終的なアスペクト比は2を超えて他の条件よりも大きい。これはき裂部を経由しない表面からの拡散が支配的となる結果であり、Fig.3を見ると最終的にも拡散濃度は表面からの距離に依るところが大きい。詳細に見れば条件3の方が表面近傍での拡散濃度が高く、これが条件3でのき裂成長速度が条件1よりも速いことに対応している。一方、条件2と条件4においてはき裂のアスペクト比がそれぞれ1.4と1.6になって拡散のない条件5の値1.5と比べても差が小さい。これはFig.3に見られるようにき裂面からの拡散が顕著であるため奥方向への成長が容易だからである。条件4のき裂成長には成長開始前の表面からの拡散濃度状態の影響は小さく、成長開始からの成長速度に条件2との差を生じにくい。 Fig.1 Analysis model Table1 Analysis parameter settings Condition Diffusion Delayed growth start 0/ttCoefficient rate 0/..crack1○ 0102○ 0100003○ 5104○ 5100005- 0- 実際の高分子材料の環境割れについては、溶剤暴露から時間を経て表面に浅く長い(アスペクト比大)き裂が生じ、これが合体して成長した様相が観察されることが多い。したがって、今回の条件2と条件4のように処女材と拡散を受けた部材での差が出ないような状態ではなく、条件3が近いものと考えられる。 (a) condition 1 (b) condition 2(c) condition 3(d) condition 4(e) condition 5Fig.2 Growth of crack surface C:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\1-temp.bmpC:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\2-temp.bmp(a) condition 1 (b) condition 2C:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\3-temp.bmpC:\Users\kuroyagi\Desktop\photo\4-temp.bmp(c) condition 3(d) condition 4Fig.3 Final concentration distribution 3.結 言 配管材料の環境割れ研究の初期段階として簡単なモデルによるき裂成長解析を試みた。現実の配管材料の環境割れでは、①クレーズの生成からき裂発生までの過程、②き裂発生後の複数での同時作用(合体・干渉)、など多くの要素・問題があるため、実験による実情の把握と併せて研究を進める予定である。 参考文献 0510152000.20.40.60.81Crack length a/a0Time, t/t0xz(a) condition 1 0510152000.20.40.60.81Crack length a/a0Time, t/t0xz(b) condition 2051015205.05.25.45.65.86.0Crack length a/a0Time, t/t0xz(c) condition 3051015205.05.25.45.65.86.0Crack length a/a0Time, t/t0xz(d) condition 405101520012345Crack length a/a0Time, t/t0xz(e) condition 5Fig.4Relationship between crack length and time [1] 本間精一、“プラスチックの実用強さと耐久性6”、プラスチックス、Vol.55、№3、2004、 pp.87-96.
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