再処理施設分析廃液配管の腐食部の復旧

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
東海再処理施設は、原子力発電所から取り出した使用済燃料中に含まれているウランとプルトニウムを溶媒抽出法(ピューレックス法)を用いて、核分裂生成物から分離・回収する施設である。施設は、使用済燃料の受入れ、貯蔵、せん断、溶解、分離等を行う分離精製工場、放射性液体廃棄物を処理する廃棄物処理場等、約40 の施設から構成され、ホット運転開始から36年経過している。 再処理施設の1 つである分析所1 階の分析設備は、分離精製工場等から工程管理、計量管理等の目的で採取された分析試料を受入れ、分析セルライン、グローブボックス等にてウラン、プルトニウム濃度分析等を行っている。分析作業に伴って発生した分析廃液は、放射能濃度に応じて、極低放射性(<3.7×101Bq/cm3)、中放射性(3.7 ×104~107Bq/cm3)、高放射性(>3.7×107Bq/cm3)に区分し、分析所地下1 階の3 つの廃液貯蔵セルに設置されている各々2 基の中間貯槽に排水される(図1 参照)。 分析所においては、1 階特殊分析室(G123:管理区域) と、地下1 階ユーティリティ室(W004:一時管理区域) の2 部屋にある分析廃液を排水するステンレス製配管に腐食による貫通孔が同時期に発見され、腐食原因の調査として、腐食箇所を切断した。 腐食箇所は、過去に用いた塩素系分析試薬が配管底部 に堆積し、試薬中の塩化物イオンが局部腐食を起こして貫通孔を生じたことが推定された。切断箇所は、同材質、同形状の配管を新規に製作し、溶接作業にて復旧した。 本報では、既設配管に内包する放射性物質が配管の外側表面に付着(汚染)させずに施工した復旧作業について報告する。なお、復旧作業フロー図を図2 に示す。
図1 分析所内廃液受入系統図及び排水配管切断箇所概要図
GH の設営 既設配管内部の除染 開先加工・寸法測定 溶接 試験・検査 GH の解体 最終仕上げ 図2 復旧作業フロー図
2.GH の設営
分析所1 階特殊分析室(以下、「G123」という)平面図及び配管復旧箇所概要図を図3 に示す。復旧箇所は、分析試料を密封状態で取扱うグローブボックスNo.4下部に敷設してある廃液排水配管(材質:SUS304L 外径:42.7mm (呼び径:32A)呼び径厚さ:3.0mm)である。 グリーンハウス(以下「GH」という)とは、放射性物質による汚染拡大を防止するための密封型テントであり、今回の復旧作業では、グローブボックスや床面を酢酸ビニルシート(厚さ:0.1~0.3mm)で養生後、GH(最大寸法:W3.4m×H1.9m×D7.8m)を設営した(図4 参照)。 GH は、作業者がグローブボックスNo.4 本体下部(床面から88cm)にアクセスし、床面から35cm に位置する狭窄箇所での溶接時における作業姿勢及び溶接工具の取回しを考慮して、グローブボックスNo.4 周囲約1m を囲むレイアウトとした。 図3 分析所1 階特殊分析室平面図及び配管復旧箇所概要図
図4 分析所1 階特殊分析室のGH 概要図 分析所地下1 階ユーティリティ室(以下、「W004」という)の配管復旧箇所概要図を図5 に示す。復旧箇所は、上流側が、分析所1 階低放射性分析室(以下、「G115」という)に設置されたグローブボックスⅡ-6 であり、W004 天井付近に位置する曲げ角度90°の廃液配管で呼び径厚さ(2.8mm)以外はG123 と同じである。 W004 配管復旧箇所についても、汚染拡大防止のため、作業風景 :ホット作業- 122 - 床面と天井を酢酸ビニルシートで養生後、GH(最大寸法:W5.0m×H5.0m×D5.5m)を設営した(図6 参照)。 GH は、配管が床面から4.8m の高所のため、主作業区域へは、ハシゴを用いてアクセスを行う構造とした。 G123、W004 のGH は、足場パイプ、クランプ等で骨組を設置後、酢酸ビニル製(厚さ:0.3mm)のテントを骨組にロープで固定して製作し、テントは汚染管理、除染のし易さを考慮して2 重または3 重のシートで囲った。 また、各々のGH は、3 つの部屋から構成され、主作業区域をGH-1、放射線防護具等を除染・脱装する区域をGH-2、身体サーベイエリアをGH-3 と区分し、汚染レベルが高いGH-1 に排気ブロワを接続し、空気を負圧状態に保持し、空気流線は、プレフィルタを通じて、汚染レベルの低い方から高い方に流れるようにした。 GH-1 内の主作業者は、排水配管内部における放射性物質の吸入防止や溶接時に供給する不活性ガスによる酸欠防止のため、GH 外部から常時空気を供給するエアラインマスクや、放射性物質の身体への付着防止のため、タイベックスーツ等の放射線防護具を装着して作業に従事した。作業中は、GH-1 内に酸素濃度計、空気中の放射性物質濃度を計測するダストモニタを設置し、GH 外にて常時監視を行い作業者に周知しながら実施した。本作業において、着用した使用防護具を表1 に示す。 図5 分析所地下1 階ユーティリティ室の配管復旧箇所 概要図 図6 分析所地下1 階ユーティリティ室のGH 概要図 表1 着用した使用防護具 3.既設配管内部の除染 既設配管と新設配管の溶接前に、既設対象配管切断面内部の除染作業を行った。 当作業は、GH 内に汚染拡大が想定されるホット作業となるため、事前に呼吸保護具であるエアラインホースの取回し確認や、放射性物質が付着したタイベックスーツの除染方法及び身体が汚染しない脱装訓練を実施し、GH 内での保護具の取扱い及び確実な汚染管理ができるまで技能を向上させた後に作業を開始した。 - 123 - 除染作業は、配管内部からの放射性物質をGH 内に拡散させないようグローブ付養生袋(材質:塩化ビニル製、厚さ0.3mm×巾50cm×長さ50cm)を既設配管に取付けて行う密封方式とした。養生袋には、除染のための備品(除染剤、ブラシ、スパチュラ、布、ろ紙)を搬入した。グローブを介した除染作業は、配管切断部から10cm 奥までの底面を中心に、除染剤をブラシに塗布して洗浄後、スパチュラ先端部に布を取付けて内部付着物を拭き取った。その後、表面汚染密度測定のため、ろ紙で配管内部を拭き取り、遊離性汚染を測定するスミア法で確認し、目標とする汚染レベル(α:<1.0×101Bq/cm2,βγ:<4.0 ×10-1 Bq/cm2)まで繰返し除染した。 既設配管外表面の除染は、再度、除染備品を搬入したグローブ付き養生袋を配管に取付後、内部除染時に取付けていた養生袋を撤去し、配管内部除染作業と同様に実施した。配管外表面については、全て検出下限値以下(α:<4×10-2Bq/cm-2,βγ:<4×10-1Bq/cm-1)まで除染した。表2 に排水配管内部のスミア法による除染前後の汚染レベルを示す。 表2 排水配管内部のスミア法による除染前後の 汚染レベル 4.開先加工・寸法調整 G123、W004 における既設排水配管切断面は、新規排水配管との溶接強度を向上させるため、開先加工を施した。既設配管の開先加工作業は、事前に酢酸ビニル製GH テントの溶融を防ぐため、GH-1 内の作業場所周辺に防炎シートによる火気養生を施した。 開先加工作業は、施工上、既設配管内部の除染時に、設置した閉止栓を一時的に開放し、放射性物質が拡散する恐れがあるため、作業場所付近を霧吹きにて湿潤状態とするとともに、作業中は、不燃性アルミダクトを排気ブロアに接合し、グラインダーの火の粉や空気中放射性物質を局所排気装置を用いて配管切断面をグラインダーにて開先加工を施した。 その後、モックアップ用新設配管をGH 内に搬入し、詳細寸法合わせを行った。新設配管については、GH 外で寸法調整後、既設配管に合わせてV 字型になる様に開先加工を施した。開先加工及び寸法調整作業概要図(G123) を図7 に示す。 図7 開先加工及び寸法調整作業概要図(G123) 5.溶接 今回、復旧するG123 排水配管は、床面から35cm、W004 排水配管は、天井から、20cm に位置した狭窄箇所での溶接作業のため、事前に2 ヶ所の復旧配管の配置を想定したモックアップを行った。 モックアップは、エアラインマスク、タイベックスーツの放射線防護措置を着用した状態で実際の溶接作業時の装備を着用して実施した(図8 参照)。 その結果、溶接姿勢は、横向き姿勢にて、上半身を右又は、左へ傾斜して場所を変えながら溶接することとし、エアラインマスクと遮光保護具装着時の悪い視認性は、作業者間の役割分担を決めて、演習を繰り返し実践し、習熟することで、模擬配管ビード面に問題ないことを検証後、溶接作業を開始した。 G123、W004 における既設配管と新設配管の突合せ溶接作業は、SUS304L の32A 小径配管であることから、片面の裏波溶接を採用し、溶接時のスパッタやヒュームが少なく安定したビードを得るため、タングステン電極-不活性ガスを用いたTIG 溶接法を採用した。また、大気中の窒素が溶接金属中に吸収されることを防止するため、表面ビードを不活性ガスであるアルゴンガスにてシールドするとともに配管内部におけるバックシールド方法に- 124 - ついても検討を行った。 バックシールド方法について、上流側のグローブボックスからガスを流入させる経路があるが、その場合、アルゴンガスの消費量が多く、配管内の異物が金属溶融部に混入し、溶接欠陥の恐れがあるため、新設配管上部にアルゴンガスを供給・排出させる2 本のノズルを事前に接合溶接して、バックシールドガスを確保する方法とした。 そして、既設配管内部の上流、下流側には水溶性のバックシールド用の材料を用いて配管に封をすることで、配管内における異物混入の防止やアルゴンガスの確実な保持を行いつつ、溶接作業を行うこととした。また、排出ノズルは、配管内部の汚染を外部に出さない様にするとともに、アルゴンガスによる酸欠防止のため、排気ブロワまでホースにて排出させながら実施した。 突合せ溶接作業における作業環境は、気温5℃以上、湿度90%以下、風速0.5m/s、バックシールド時におけるアルゴンガス雰囲気中の酸素濃度2vol%以下の条件のもと、防炎シートによる火気養生と不燃性アルミダクトを排気ブロアに接合させ、局所排気を行いながら初層、残層の2 層以上実施した。 また、新設配管及び既設配管は、溶接箇所以外の表面を酢酸ビニルシートで養生後、さらにスパッタシートにて養生を行い、配管へのスパッタの付着による汚染防止や溶接時の延焼を防止しながら実施した。 なお、溶加棒は、YS308L(JIS Z 3321(2013))を用い、溶接による鋭敏化を防ぐよう施工した。 既設配管との突合せ溶接終了後、バックシールドガスを供給・排出したノズルは、事前に製作した同材質のキャップを被せ、溶接作業にて閉止した。図9 に溶接作業概要図(G123)を示す。 図8 G123 モックアップ作業風景 図9 溶接作業概要図(G123) 6.試験・検査 ノズル閉止後は、施工した全ての溶接箇所に、探傷剤を用いた速乾式現像法による浸透探傷検査(JIS Z2343-1(2001)) を実施し、欠陥による赤色指示模様が無いことを確認した。 そして、既設配管と新設配管の突合せ溶接箇所に密封線源のγ線を用いた二重壁両面撮影法による放射線透過検査(JIS Z3106(2001))を実施し、現像したフィルムにて欠陥がないことを確認した。 なお、放射線透過検査時は、人が立入らない区画を周知・設定するとともに、作業者や分析所内の放射線計測機器に影響を与えないようγ線の照射方向を考慮して実施した。 7.GH の解体 対象配管の検査合格後は、汚染拡大防止処置のために設営したGH の解体作業を実施した。GH 解体作業は、GH 内外に汚染がないことをスミア法にて確認後、2 重または3 重シート構造のテント及び、配管養生をGH 内側からハサミを用いて細かく細断・撤去した。 なお、GH 内で使用したグラインダーやトーチ等汚染が固着した工具類については、鋭利部を緩衝材等で養生後、放射性不燃廃棄物として処分した。 - 125 - 8.最終仕上げ 最終仕上げとして、既設配管との溶接部や溶接焼けが残った箇所へ、弱酸性電解方式の電解研磨用電源器(株式会社ケミカル山本社製ニュートラルシャイナー)を用いて焼け取り除去及び酸不動態化処理を実施し分析廃液配管復旧作業を終了した。図10 にG123 排水配管復旧箇所、図11 にW004 排水配管復旧箇所をそれぞれ示す。 図10 G123 排水配管復旧箇所 9.結言 腐食した排水配管の復旧として、配管腐食部の切断、除去、既設配管の除染、開先加工及び新規配管の既設ホット配管への溶接を行った。 配管溶接作業では、新規配管に、アルゴンガスの供給・排出ノズルを設け、既設配管に水溶性の材料を用いて配管の封をすることで、バックシールドガスを確保しながら、TIG 溶接法により、既設、新規配管とも外側表面を汚染させずに施工することができた。 今回の放射性物質を内包する配管溶接に係る知見、技術については、今後の類似の配管復旧作業やデコミッショニングに活用していく。 参考文献 [1] JIS G 3459:2012 配管用ステンレス鋼鋼管、日本工業規格 [2] JIS Z 3321:2013 溶接用ステンレス鋼溶加棒,ソリッドワイヤ及び鋼体、日本工業規格 [3] JIS Z 2343-1:2001 非破壊試験.浸透探傷試験.第1 部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類、日本工業規格 [4] JIS Z 3106:2001 ステンレス鋼溶接継手の放射線透過試験方法、日本工業規格 [5] ステンレス協会「ステンレス鋼便覧 第3 版」,日刊工業新聞社p. 1039~1040 [6] 法令報告書「分析所非管理区域における汚染について」(平成25 年8 月7 日)日本原子力研究開発機構 図11 W004 排水配管復旧箇所 - 126 -
“ “再処理施設分析廃液配管の腐食部の復旧 “ “西田 直樹,Naoki NISHIDA,諏訪 登志雄,Toshio SUWA,田中 直樹,Naoki TANAKA,稲田 聡,Satoshi INADA,久野 剛彦,Takehiko KUNO
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