核燃料再処理施設における溶接補修工法の開発

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カテゴリ: 第11回
1.まえがき
核燃料サイクルの中核を担う日本原燃(株)が六ヶ所 村に建設中の再処理施設(以下、「再処理施設」と示す) は試運転の最終段階に入っている。操業後の安定運転 を継続するためには、再処理施設の配管等からの漏え いが発生した場合、応急的な補修を適用し、安全且つ 迅速な設備の復旧が重要となってくる。 原子力発電所では、複数の補修工法が確立され、そ の適用方法等が民間規格として整備されている。一方、 再処理施設の主要設備は、化学薬品(硝酸等)を保有し たプロセスであり、化学プラントに類似していること から、原子力発電所で確立されている補修工法が適用 できない場合がある。このことから、再処理施設に適 した補修工法の技術検討を進めており、検討が完了し た溶接補修工法について報告する。
2.溶接補修工法の概要
再処理施設の容器・配管の特徴は、発電炉に比べて温 度・圧力が低く、内部流体として水・蒸気以外に硝酸等 の薬品が含まれていることである。この差異を考慮して Table2-1 に示す溶接補修工法の条件を設定し、溶接補修 工法として、Fig.2-1に示すような構造となる肉盛溶接と 当て板溶接の2工法の検討を実施した。 Table2-1 Target of repair welding
適用部位 容器、配管、継手、弁等 対象材質 オーステナイト系ステンレス鋼(SUS)、炭素鋼 内部流体 可燃物以外 適用温度・圧力 最高約200°C、最高約2MPa 対象板厚 SUS:2~25mm程度 炭素鋼3~35mm程度 補修部位の 状態 肉盛当て板肉盛:表面は乾燥(内部流体はドレン) 当て板:漏洩状態では接着材で一次止水 Fig.2-1 Shape of repair welding - 147 - 3.肉盛溶接補修工法 3.1 肉盛形状の検討 最大 4mm の円状欠陥が有っても内圧に耐えうる肉盛 厚さに、腐食代を加えた厚さを必要肉盛厚さとした。計 算例を Table3-1 に示す。なお、肉盛範囲は、安定な溶接 施工が確保できる最小値として欠陥の両側に 10mm 加え た値とした。 Table3-1 Example of calculation results of build-up shape オーステナイト系ステンレス鋼 炭素鋼 配管 容器 配管 容器 漏洩防止に必要な厚さ(1) 0.5mm 0.4mm 0.4mm 0.4mm 腐食代(2) 0.3mm 2.0mm 1.0mm 1.0mm 肉盛溶接厚さ(1+2) 0.8mm 2.4mm 1.4mm 1.4mm 肉盛範囲 W1,W2ともに10mm 3.2 肉盛溶接条件の検討 肉盛溶接時の配管内面への溶け落ちは、内面の酸化物 や汚れの巻き込みやオーステナイト系ステンレス鋼では 溶融金属の酸化が問題となる。 そこで、溶接方法は手動TIG 溶接とし、高入熱側では 溶け落ち、低入熱側では融合不良が発生しない、かつ溶加 材量とのバランスが取れた適正溶接条件範囲(ヒートボッ クス)を管理することで、溶接部の健全性を確保するこ ととした。ただし、様々な板厚にも対処できるようにす るため、Fig3-1 に示すように代表板厚で求めたヒートボ ックスから板厚を跨った共通ヒートボックスで管理する 考え方を採用した。 (ii)共通範囲 SU304 での代表板厚で求めたヒートボックスと、共通 化したヒートボックスFig.3-2に示す。また、炭素鋼での 共通ヒートボックスをFig3-3 に示す。 Fig.3-2 に示す共通ヒートボックスを用いて、漏えい欠 陥を想定した放電スリット(0.3mm陥 W×4mmL)を設けた Fig.3-1 Concept of conditions control by heat box 最小板厚と最大板厚の管および平板に肉盛溶接した結果 をFig.3-4に示す。溶接ビード外観と断面マクロとも、ア ンダーカット、溶け込み不良、溶け落ち等の溶接欠陥の - 148 - (ii)共通範囲 Fig.3-2 Heat box of SUS304 Fig.3-3 Heat box of carbon steel (i)板厚毎 無い良好な結果であった。 なお、溶接後の検査で欠陥が見つかった場合には、更 に補修溶接を実施する必要があることから、最大 3 回補 修溶接を実施しても健全な溶接部が得られることを試験 により確認している。 (a)φ27.2×2.5t(最小厚さ) (b)25t平板(最大厚さ) Fig.3-3 Result of macro sectiontest (SUS304) 4.当て板溶接補修工法 4.1 当て板形状の検討 再処理施設で必要とされる容器・管の厚さとすみ肉溶 接時の施工性を考慮して検討した当て板の形状(例)を Table4-1 に示す。 4.2 当て板溶接条件の検討 当て板溶接時の配管内面への溶け落ちは、肉盛溶接と 同様、内面の酸化物や汚れの巻き込みやオーステナイト 系ステンレス鋼では溶融金属の酸化が問題となる。 そこで、溶接方法は手動TIG 溶接とし、肉盛溶接と同 じく適正溶接条件範囲(ヒートボックス)の管理により溶 接部の健全性を確保することとした。 肉盛溶接では、欠陥を通じて溶接金属と内部流体が接 すると溶接欠陥が発生するため、内部の流体は必ずドレ ンすることが必須である。一方、当て板溶接では接着材 等で一次止水した後に当て板を取り付ける手法を用いる ことができ、その場合は内部のドレンは不要となる。そ こで、ヒートボックスの作成に当たっては、内部に水が Fig.4-1 Heat box of carbon steel(Without Water cooling) 無い状態と内部に水がある状態の 2 種類のヒートボック 放電スリット 放電スリット Table4-1 Example of calculation results of cover plate shape 材質 母材厚さ 規格必 要厚さ *1 必要脚 長*2 採用する 当て板厚 さ*3 欠陥か らの距 離*4 オース テナイ ト系ス テンレ ス鋼 2.0 0.8 3.0 3.0 10 2.5 0.9 3.0 3.0 10 3.0 0.8 3.0 3.0 10 3.9 1.0 3.0 3.9 10 6.4 1.3 3.0 6.4 12.8 12.0 13.7 13.7 12.0 24 25.0 25.2 25.2 25.2 50 炭素鋼 3.0 2.2 3.0 3.0 10 3.9 2.7 3.0 3.9 10 4.9 3.0 3.0 4.9 10 9.0 6.1 6.1 9.0 18 35.0 38.4 38.3 38.4 70 注1:腐食代を含む (単位:mm) 注2:当て板必要厚さが3.0mm未満の場合は、溶接施工性を考 慮して3.0mmとした 注3:(母材厚さ),(必要厚さ),(3mm)の内、最も大きいもの 注4:(欠陥寸法×1/2),(10mm),(2t)の内、最も大きいもの (欠陥寸法:4mm、t:母材肉厚)- 149 - スを作成した。Fig.4-1~Fig.4-4 にオーステナイト系ステ ンレス鋼と炭素鋼の水有り無しの共通ヒートボックスを 示す。Fig.4-5にSUS304の最小板厚となるφ13.8×2.0t管 を水冷無しで施工した場合の外観と断面マクロ試験結果 を示すが、健全な溶接部であった。 (i)共通範囲 (i)共通範囲 Fig.4-3 Heat box of carbonsteel (Without Water cooling) 最後に、Fig.4-6 に示すように現地施工で想定される狭 隘箇所でも本試験で求めたヒートボックス管理で溶接施 工ができることを確認した。 溶接士 Fig.4-2 Heat box of carbon steel (With water cooling) 供試管(SUS304 φ13.8×2mm) 溶接トーチ (i)共通範囲 Fig.4-4 Heat box of carbonsteel (With water cooling) Fig.4-5 Result of macro section test (SUS304) (i)共通範囲 - 150 - 150mm 5.まとめ 本検討は、日本原燃(株)から三菱重工業(株)が受託した委 託研究であり、本補修技術は(一財)発電設備検査技術協会 を事務局とした第三者(学識経験者)による確性委員会 でその妥当性を確認ただいた。また、試験計画と検討段 階での成果及び課題等については、(一社)日本高圧力技術 協会に設置された再処理設備規格委員会にて報告を行い、 指導・助言を頂いた。関係者に謝意を表す。 持規格(2010年追補版) JSME S NA1-2010 床面 Fig.4-6 Simulated welding test for actual job 再処理施設の容器・配管を対象に、運転中に漏えいが 発生した場合の補修工法として、肉盛溶接工法と当て板 溶接工法を確立した。両溶接補修工法とも、溶接条件を ヒートボックス管理する手法を用いることで、補修溶接 部の品質が確保できることが確認された。 本試験の成果は、再処理設備規格 維持規格の原案と してまとめられ、(一社)日本機械学会での審議を経て民 間規格として制定される予定である。 6.謝辞 参考文献 [1] (一社)日本機械学会:発電用原子力設備規格 維
“ “?核燃料再処理施設における溶接補修工法の開発 “ “甲斐 喬,Takashi KAI,鴨 和彦,Kazuhiko KAMO,渡邉 智裕,Tomohiro WATANABE,加納 洋一,Yoichi KANO,高坂 充,Makoto KOSAKA
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