負圧環境下で正確に作動する差圧式圧力スイッチの開発

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
東海再処理施設では、核燃料物質の閉じ込めのため、空気汚染の可能性が低い区域から高い区域へ空気が流れるよう換気設備により負圧を維持している[1]。図1に換気設備の概要を示す。 このような負圧環境下で、貯槽内の液位、圧力等の変化を検知する差圧式圧力スイッチ(以下、「差圧スイッチ」という。)は、計測する系統の負圧が深くなるに従い、大気圧で設定した値で作動しないことが確認された。このため、負圧環境下でも正確に作動する差圧スイッチの開発を行った。 本件では、差圧スイッチの開発経緯、作動試験結果、加振試験結果等について述べる。
建家セル貯槽負圧の状況 :排風機  建家<セル<貯槽排気筒:フィルタ 図1 換気設備の概要
2.差圧スイッチの概要
2.1 差圧スイッチの構造及び設置箇所 (1)差圧スイッチの構造 図2に差圧スイッチの構造を示す。 差圧スイッチは、計測部と設定機構部から構成され、計測部の高圧室と低圧室に加わる計測圧の差(以下「差圧」という。)が増加するに従い、設定機構部のセンターロッドを押し上げ、差圧が設定した値を超えるとマイクロスイッチを作動させる。設定機構部内は、貯槽からの放射性物質を含むガスが差圧スイッチ外へ漏れることによる汚染拡大を防止するため、気密ダイアフラムにより低圧室と隔離している。 図2 差圧スイッチの構造 (2)差圧スイッチの設置箇所 差圧スイッチは、貯槽内の液位や圧力、建家内の負圧等の変化を検知するために設置されており、様々な計測環境下で使用している。図3に差圧スイッチによる検知例を示す。 連絡先:森本憲次、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発センター 施設管理部 施設保全第2 課、電話:029-282-1111 E-mail:morimoto.kenji@jaea.go.jp - 224 - 液位検知では、検知する液量により設定する作動値が異なるため、小さな計測圧から大きな計測圧までの変化を検知する必要がある。 また、負圧検知では、排風機の吸入側の圧力を計測することから、低圧側に大きな負圧が継続的に加わっている。 図3 差圧スイッチによる検知例 2.2 差圧スイッチの課題 (1)負圧検知のように、差圧スイッチの低圧室に加わる負圧が大きな系統では、気密ダイアフラムに差圧スイッチの作動を遅らせる方向の力が発生する。 図4に気密ダイアフラムが作動値に及ぼす影響を示す。 図4 気密ダイアフラムが作動値に及ぼす影響 (2)低圧室の負圧変化と作動値の関係を把握するため、差圧スイッチの作動値を大気圧で設定後、低圧室の負圧を徐々に大きくし、その際の作動値を測定した。図5に低圧室の負圧と作動値の関係を示す。 その結果、作動値は低圧室に加わる負圧の増加とほぼ比例して、大気圧で設定した値から離れて作動することを確認した。 図5 低圧室の負圧と作動値の関係 3.新たな差圧スイッチの開発 従来品の差圧スイッチは、大気圧での使用が前提であるため、負圧環境下でも正確に作動する新たな差圧スイッチの開発を実施した。 なお、開発においては、従来品の差圧スイッチとの互換性を持たせるため、従来品の作動範囲、作動値と復帰値との差(以下、「切断圧」という。)等の性能、取合い寸法、試験方法を基に開発を実施した。 3.1 気密ダイアフラムを用いない構造 (1)構造 低圧室に加わる負圧が大きな系統では、気密ダイアフラムが作動を遅らせる方向に力を発生することから、低圧室の気密を金属カバーとパッキンにより保持する新たな構造を考案した。しかし、この構造では気密ダイアフラムをなくしたことにより、センターロッドの作動を直接マイクロスイッチに伝えることができない。このため、新たにリードスイッチを用いて、間接的にセンターロッドの作動を検知する方法を採用した。 図6に新たな気密構造の差圧スイッチを示す。 受圧ダイアフラムパッキンセンターロッドリードスイッチ磁石金属カバー低圧室高圧室作動値調整用ばね 作動値調整用ねじ 図6 新たな気密構造の差圧スイッチ - 225 - (2)特性 図7に新たな気密構造の差圧スイッチ特性を示す。 従来品の作動試験と同様の試験を行った結果、課題であった気密ダイアフラムの影響が取り除かれ、低圧室の負圧に関わらず、従来品の作動範囲(±0.04kPa)で作動することが確認できた。また、切断圧についても従来品と同程度の性能を有していることを確認した。 図7 新たな気密構造の差圧スイッチ特性 (3)受圧ダイアフラムの伸びによる新たな課題 課題であった、低圧室に加わる負圧が大きくなるに従い、作動値から外れて作動する事象については、金属カバーによる気密を保持する構造にしたことで解決したが、低圧室に負圧を継続して加えると、受圧ダイアフラムに一時的に伸びが生じ、作動範囲内ではあるが、作動値が変化する新たな課題を確認した。図8に受圧ダイアフラムの伸びの影響による作動値の変化を示す。 この受圧ダイアフラムが伸びる状態は、低圧室の負圧が深くなった場合、より大きくなると考えられる。 図8 受圧ダイアフラムの伸びの影響による作動値の変化 3.2 受圧ダイアフラムを用いない構造 (1)構造 新たな課題である受圧ダイアフラムの伸びによる作動値の変化をなくすため、受圧部材をダイアフラムから金属ベローズに変更し、受圧ダイアフラムの伸びを防止する構造を考案した。 また、気密ダイアフラムを用いない差圧スイッチと同じくリードスイッチを用いて間接的に検知する方法を採用した。 図9に受圧部材にベローズを用いた差圧スイッチの構造を示す。 ベローズリードスイッチ作動値調整用ねじばね磁石低圧高圧 図9 ベローズを用いた差圧スイッチの構造 (2)特性 図10に受圧部材にベローズを用いた差圧スイッチの特性を示す。 作動試験の結果、本構造では、受圧部材をダイアフラムからベローズに変更したことにより、低圧室に大きな負圧が加わった場合及び低圧室に負圧が継続して加わった場合でも作動値が変化することなく、計測環境の影響を受けない安定した作動を繰り返すことが確認できた。図10に受圧部材にベローズを用いた差圧スイッチの特性を示す。 図10 ベローズを用いた差圧スイッチの特性 (3)ベローズの振れ防止対策 ①ベローズの振れ防止構造 受圧部材に使用したベローズは、リードスイッチを作動させるために相当の伸縮変化が必要であり、非常に柔軟なものを選択した。柔軟な部材としたことで、固定した状態であっても地震等の振動により、ベローズが伸縮し、作動する恐れが考えられた。 このため、ベローズの縦方向の振れを防止するため、ベローズを挟む形で低圧室と高圧室にショックアブソー- 226 - バをそれぞれ1個ずつ設置した。また、ベローズの横方向の振れを防止するためにガイドを設けた。 図11 にベローズの振れ防止対策後の構造を示す。 図11 ベローズの振れ防止対策後の構造 ②作動試験 大気圧において作動値を確認した後、高圧室及び低圧室を-57.85kPa とした場合の作動値を確認した。その結果、ベローズの振れ防止対策(ショックアブソーバ及びガイド)を実施した後も、作動範囲内で作動することを確認した。しかし、従来品の切断圧が、0.08kPa 以内に対し、対策後は約0.15kPa と広がり、復帰性能が従来品の仕様を満たさないことを把握した。図12 にベローズの振れ防止対策後の差圧スイッチの特性を示す。 図12 振れ防止対策後の差圧スイッチの特性 ③加振試験 地震や振動の影響を確認するため、加振試験を実施した。加振試験では、差圧スイッチの作動値が0.5kPa であることを確認後、作動値に近い差圧である0.45kPa にした状態で、X、Y 方向は20Hz で0.8G を30 秒間、Z 方向は20Hz で0.2G を30 秒間加振し、加振前後の作動値の確認と加振中の誤作動の有無を確認した。その結果、加振前後で作動値が最大約0.02kPa 変化したが、作動範囲内であった。また、X、Y、Z のどの方向の加振中においても誤作動することはなかった。このことから、ベローズの振れ防止対策の有効性が確認できた。 図13 に加振試験の概要を示す。 図13 加振試験の概要 ④耐久性試験 長年の使用においても差圧スイッチの作動が持続することを確認するため、耐久性試験を実施した。耐久性試験では、加振試験後、作動値より大きな差圧を5000 回繰り返して加え、その後の作動値及び復帰値の変化から、耐久性を確認した。試験後に確認した作動値は試験前から最大0.002kPa変化したが、十分に作動範囲内であった。 4.結言 開発した差圧スイッチは、大気圧下はもちろんのこと、課題であった負圧環境下で安定して作動することが試験結果より得られた。また、5000 回の繰り返し作動試験により十分な耐久性があることを確認することができた。 切断圧については、従来品の仕様に対しわずかに拡大“ “負圧環境下で正確に作動する差圧式圧力スイッチの開発 “ “森本 憲次,Kenji MORIMOTO,安尾 清志,Kiyoshi YASUO,瀬戸 信彦,Nobuhiko SETO,綿引 誠一,Seiichi WATAHIKI
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