高速増殖原型炉「もんじゅ」の保全の在り方 ‐「もんじゅ」保全の特徴と軽水炉保全経験の反映‐

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カテゴリ: 第11回
1. はじめに
高速増殖炉は、燃料の増殖と放射性廃棄物中のマイナーアクチニドを燃料として再利用できることから、ウラン燃料を有効に利用できるとともに環境負荷を低減できる特長を有している。「もんじゅ」は、原型炉として実証炉・実用炉の設計、運転保守に不可欠な技術を確立する役割、即ち安全・安定運転を達成しプラントとしての信頼性を実証するとともに、運転経験を通じて、高速増殖炉の運転、保全技術等を確立する役割を担っている。ここでは、冷却材としてナトリウムを用い、軽水炉と異なる固有の設備を有する「もんじゅ」の保全の在り方について、これまでの保全学会の「もんじゅ」保全に関する検討について報告する。
2. 「もんじゅ」について
2.1 「もんじゅ」の概要 Fig.1 Appearance of Monju 高速増殖原型炉「もんじゅ」、電気出力約28 万kW、わが国初のナトリウム冷却の高速増殖炉発電プラントである。高速増殖炉の冷却材として液体金属ナトリウムを使う利点は、中性子減速能が小さく高速中性子を利用可能で、燃料増殖やマイナーアクチニドの燃焼可能であること、沸点が高いため冷却材を単相で利用でき、水炉のように炉を高圧に耐えるようにする必要が無いこと、熱伝導性がよいため除熱能力が高いこと等が挙げられる。高速
増殖炉開発において、「もんじゅ」は、高速増殖炉発電所の国内技術の確立のため、 1)起動・停止、連続運転による発電プラントとしての信頼性の実証 2)炉心特性、しゃへい特性、プラント特性などの設計手法の検証 3)運転・保守経験に基づくナトリウム取扱い技術や検査装置等の保全技術の確立 を主たる目的とし、設計、建設が行われた。 2.2 保全の観点からの「もんじゅ」の特徴 ナトリウムを冷却材として用いる「もんじゅ」の保全の特徴は以下のとおりである。 1) 純度管理を実施しているナトリウム環境及びアルゴンカバーガス環境においては、腐食、浸食、SCC(応力腐食割れ)は生じがたい。(図2に「もんじゅ」改造工事で切断した配管の外管を示す。腐食等の劣化は観察されなかった) 2) ナトリウム環境下で想定される固着・閉塞あるいは機器故障に関しては、トラブル事例に基づく設計対応や運転条件の確立により対策が実施されている。定格運転時を含めその効果を今後状態監視等で確認することとしている。 3) ナトリウムとの共存性の良い材料を用い、適切なナトリウムの純度管理を行うことによりSCCを含め、腐食にかかる破損は生じがたい。カバーガス領域は不活性なアルゴンガス雰囲気に保たれ、機器が腐食により減肉することはない。また、ナトリウムは単相流で用いられ、適切な流速の選択によりエロージョンを想定する必要はない、これらの劣化がないことは「常陽」の高経年化評価【1】においても確認されている。このことから、ナトリウム及びアルゴンガス環境下での機器の劣化事象を確認するための機器の開放点検や分解点検は原則不要である。 4) 原子炉冷却材バウンダリ等においては、LBB (LBB:Leak Before Break)が成立し、ナトリウムの漏えいを検知することにより原子炉停止、崩壊熱除去を行い、原子炉施設の安全は確保される。 5) 設計、製作、検査、運転時の監視等によりナトリウム漏えいの防止を図るが、万が一漏えいが発生した場合は、補修を行う。ナトリウム環境下以外の高速炉特有の機器については、軽水炉とのベンチマークやトラブル事例、劣化事象を反映した保全計画に基づく状態監視を含む計画的点検により合理的な保全が実施可能である。 上記以外の特徴としては、「もんじゅ」はプラント停止中においても、燃料が炉心に装荷された状態であり、燃料の崩壊熱を除去するため、低温停止中の除熱機能を確保する必要があり、そのため、多くの設備が稼働状態にある。また、建設段階であり性能確認のステップであることが挙げられる。 3.「もんじゅ」保全検討会 「もんじゅ」の保全手法の確立を目的として、軽水炉の保全方式及び保全に関する規格・基準について詳細に調査し、ナトリウムを冷却材とする「もんじゅ」と軽水炉の比較によりその違いを明らかにし、軽水炉を念頭に制定された「原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)」等の保全に係わる諸規程の「もんじゅ」への適用性や「もんじゅ」保全のあり方について、保全学会に「もんじゅ」保全検討会を組織し、学術経験者、軽水炉を持つ電気事業者、プラントメーカ技術者の参画により主に以下の検討が行われた。 1) 軽水炉を念頭に制定された原子力発電所の保守管理規程(JEAC-4209-2007)の高速炉への適用性 2) 保全の観点からの「もんじゅ」の特徴 3) 「もんじゅ」機器と軽水炉機器の保全に関するベンチマーク 4) 高速炉劣化メカニズム 5) 軽水炉の保全に係る改善及びその経験の反映 6) 原子力発電所の保全実施体制 7) 「もんじゅ」保全のあるべき姿 8) 高速炉保全技術確立に向けてのロードマップ ここでは、軽水炉諸規定の高速炉への適用、軽水炉の保Fig.2 Photographs of the appearance of the Monju secondary cooling system pipe that was removed from the plant - 416 - 全経験の反映、軽水炉機器とのベンチマークについて述べる。 4.軽水炉保全の調査 軽水炉の保全に関する規格・基準を調査した。調査した規格・基準は、 a. 日本機械学会 発電用設備規格 維持規格【2】など b. 日本原子力学会 高経年化対策実施基準【3】 c. 日本電気協会 原子力発電所の保守管理規程及び指針(JEAC4209-2007、JEAG-4210-2007)【4、5】 などを参考にした。 軽水炉保全プログラムの調査や保全重要度、分解・開放・外観点検等の保全内容と適用対象設備、As Found Data、運転期間(機械学会 保全の最適化に係る検討報告書(H18.9)) 【6】等について、軽水炉での実施内容を調査した。これらの調査の結果、「もんじゅ」の保守管理へのJEAC- 4209(供用期間中の軽水炉を念頭に策定)の適用性に関し、軽水炉知見を反映すべき事項等を明確にすると共に、保守管理の考え方において、大きな差がないことを確認した。 また、軽水炉の日本への導入時期からの保全に係る改善の歩みを調査した。損傷の発生防止を設計では十分考慮しているはずであるが、共振や流体連成等設計で考慮できていなかった要因や製作の不具合等で発生する損傷もあり、高速炉保全ではこうした軽水炉の反省も考慮すべきである。また、軽水炉同様に高経年化を見通した保全計画も必要であり、運転実績を踏まえた保全の適正化を目指していくことが必要である。 5. 軽水炉機器とのベンチマーク ナトリウム環境下等で使用する「もんじゅ」特有機器について、軽水炉で同様の機能を有する機器を選定し、使用材料や環境の違いから想定される劣化とそれを発見するために必要な点検内容を比較し、適正な「もんじゅ」機器の保全内容を検討した。「機器の選定においては、保全の最適化に係る検討報告書」(日本機械学会) において、「要」となる機器と同様の機能を有する機器を抽出しナトリウムの環境を考慮し、選定した。 また、軽水炉と同様機器においては、劣化メカニズムも同様と考えられるが、確認のため仕様、設置環境を比較し、検証した。 ① 「もんじゅ」機器の構造・機能の明確化 機器に要求される構造及び機能を整理した。 ② 軽水炉の同種機器の選定 「保全の最適化に係る検討報告書」において、「要」となる機器と①で整理した機能に合致する機器を選定した。 ③ 軽水炉機器と「もんじゅ」機器の仕様比較によるベンチマークの適用性検討 ①で整理した機器の仕様と②で選定した機器の仕様を比較し、ベンチマークとして適切であるかを検討した。なお、ベンチマークとして適切であるかを判断する基準として、機器の主要構成部品が同様であることとした。 ④ 機器の部位毎の劣化事象(不具合)、点検内容を整理し、軽水炉機器と比較・検討 主要構成部品が同様であることから、それぞれの部品の部位毎に劣化事象(不具合)を整理し、劣化事象に対する現状の検知方法を軽水炉機器と比較した。 なお、軽水炉機器との使用環境、構造等の違いによる保全の相違について合わせて検討した。 ベンチマークの結果、軽水炉と同様の機器については、保全に関する軽水炉の知見が「もんじゅ」機器に適用可能であることを確認した。このことから、軽水炉機器と「もんじゅ」機器において、機器の仕様と設置環境、使用状況が同じであれば、軽水炉で実施している点検の内容及び頻度を用いて、「もんじゅ」機器の点検内容・頻度を適正化できる。 5.1 制御棒駆動機構 ベンチマークを行った機器の例として制御棒駆動機構の概要を示す。 No. 部位 材質/設置場所① ハウジングステンレス鋼(SS)/炉上部② 案内管 SS/炉内 ③ ④ ⑤ ラッチロック機構SS/炉上部⑥ ストローク・ラッチ動作伝達部SS/炉上部/ 炉内 ⑦ 制御棒ラッチ機構SS/炉内 ⑧ ⑩ 保持用マグネット電磁軟鉄/炉上部⑨ - - ⑪ 炉心上部機構上部ハウジング炭素鋼/炉上部⑫ 駆動モータ・減速機 炉上部 ⑬ 位置検出装置⑭ ボールスクリュ⑮ 加速機構 SS/炉上部⑯ 過負荷防止機構炉上部 ⑰ ベローズ SS/炉内 Fig.3 Monju CRDM - 417 - 「もんじゅ」の制御棒駆動機構とPWR の制御棒駆動機構を比較し、相違点はあるものの主な構成部品や規模、機能は類似しており、保守性等の観点から基本的なベンチマークは可能であると判断する。図3、図4 にそれぞれ「もんじゅ」及びPWR の概略図を、表-1 に主要仕様に比較を示す。 主要な構造の差異としては、 1)軽水炉では駆動軸は炉内に設置されるのに対して、もんじゅではストローク・ラッチ動作伝達部が炉上部から炉内に渡っており、バウンダリを形成するため炉上部との間にベローズを有している。 2)軽水炉ではコイル電流のみで作動する磁気ジャック式なのに対し、もんじゅでは駆動モータとボールスクリュによる電動駆動であるため位置検出器や過負荷防止機構などのセンサ類を搭載している。 3)軽水炉では制御棒は重力落下のみであるのに対し、もんじゅでは重力落下に加えてガス圧などによる加速機構を搭載している。 ベンチマークの結果として、「もんじゅ」機器、軽水炉機器を比較し、バウンダリの維持機能を担う圧力ハウジングにおいては、双方共に定期的な漏えい試験を実施し、健全性を確認することとしている。制御棒の引抜・挿入・保持機能の喪失を担う、主要部品として、ラッチ機構、駆動軸、コイルハウジング、駆動機構等であり、定期的な作動試験、分解点検、交換、電気部品の絶縁確認を「もんじゅ」、PWR とも実施しており、同等の保全を実施している。 この結果から、「もんじゅ」特有の機器についても、軽水炉と同様の機能を有する機器を選定し、使用材料や環境の違いから想定される劣化とそれを検知するための点検を比較することにより「もんじゅ」の保全の検討が可能である。 上記の制御棒駆動機構以外に、1 次冷却系循環ポンプとBWR 再循環ポンプ、蒸気発生器、原子炉容器、1 次主冷却系配管についてベンチマークを実施し、冷却材にナトリウムを使用することによる軽水炉保全方式の相違点を明らかにし、「もんじゅ」の保全計画の妥当性を確認した。 5.2 格納容器 軽水炉と同様の機器として「もんじゅ」の格納容器とPWR の格納容器の比較を以降に示す。 格納容器の機能、形状、使用環境、材質、構造等は同等であり、ベンチマーク可能と判断した。主な相違点は、「もんじゅ」の許容漏えい率は、ナトリウム注入後、200℃の1 次系ナトリウムを内包しているため、漏えい率試験時にも換気空調設備の運転が必要であり、測定精度の不確定さから許容漏えい量を安全側に設定している。また、貫通部数が異なり、「もんじゅ」のほうが多い。 格納容器の機能は、バウンダリの維持であり、「もんじゅ」、PWR とも、漏えい率試験、外観点検、消耗品等の取替えにより機能維持を図っている。但し、「もんじゅ」では、格納容器貫通部が多いこともあり、現状では、A 種漏えい率試験を定検ごとに実施することにしている。 No. 部位 材質/設置場所 ① ラッチハウジング SS/原子炉蓋と一体 ② 駆動軸ハウジング ③ プランジャー SS/炉内 ④ ラッチアーム ⑤ ばね Ni 基合金/炉内 ⑥ 駆動軸 SS/炉内 ⑦ 接手 ⑧ コイルハウジング 鋳鉄/炉上部 ⑨ タイロッド 炭素鋼 ⑩ コイル 銅、絶縁物 ⑪ 耐震サポート 炭素鋼/炉上部 「もんじゅ」 PWR 機器区分 クラス2 管(上部案内管上) クラス1容器 安全機能の重要度分類 MS-1 PS-2 MS-1 PS-1 型式 電動駆動一体落下型 磁気ジャック式駆動装置 個数 10 体(粗調整棒駆動機構) 3 体(微調整棒駆動機構) 6 体(後備棒駆動機構) 53 体(4 ループプラントの場合) 最高使用圧力 約0.1MPa 約17.2MPa 最高使用温度 60~80℃(炉上部) 550℃(炉内) 343℃ 運転圧力 約0.1MPa(炉上部) 約55kPa(炉内) 約15.4MPa スクラム時間 85%挿入まで1.2sec 以下 85%挿入まで2.2sec 以下 概略高さ 5m(炉上部) 5.5m(炉上部) Fig.4 PWR CRDM Table-1 Comparison between Monju and PWR CRDM major specifications - 418 - 軽水炉と同様の機器として、安全保護系の計装品、排気筒、換気空調設備、原子炉補機冷却水系、原子炉補機冷却海水系について、「もんじゅ」と軽水炉の仕様、設置環境、劣化事象、劣化の検知方法の比較を行った。これらの機器は軽水炉機器と有意な相違点がなく、軽水炉の保全方式の適用が妥当であることを確認した。 6.ナトリウム冷却炉の点検の在り方 6.1 長期停止プラントの保全 「もんじゅ」は長期にわたりプラント停止中であるが、燃料が炉心に装荷された状態であり、燃料の崩壊熱を除去するため低温停止中の除熱機能は確保する必要がある。また、炉心の監視機能、電源の供給機能は必要となる。これらについては、プラント停止中においても機能を確保することが保安規定に規定されている。図4 に「もんじゅ」のプラント停止時に機能が要求される系統設備を示す。 こうした状態における保全はどうあるべきかについて、約2 年間プラント停止を余儀なくされた軽水炉の、「特別な保全計画」における点検対象機器選定の考え方や点検内容等について調査した。 (1)軽水炉点検対象機器選定の考え方【7】 通常時においては、ユニット毎に3 万~3 万5 千の機器に対して保全計画を策定し、予防保全を基本とし 「もんじゅ」 PWR 機器区分 クラスMC容器 クラスMC容器安全機能及び重要度分類 MS-1 同左 型式 鋼製格納容器 (上部半球形、下部皿形縦型円筒容器) 同左 最高使用圧力 内圧 0.049MPa、 外圧 0.0049MPa 0.283MPa 最高使用温度 150℃ 132℃ 使用環境 運転床上:空気、 運転床下:窒素ガス 空気 許容漏えい率 1%/day (窒素、空調運転) (ナトリウム注入前:0.1%/day (空気、空調停止)) 0.1%/day ( 空気、空調停止) 貫通部数 約200 箇所 約80 箇所 主要材料 中・常温圧力容器用炭素鋼鋼板(SGV480) 同左 概略寸 法 胴内径 49.5m 40m 全高 79.4m 75m 肉厚(胴/半球部) 38mm / 19mm 44.5mm/ 22.5mm Table-2 Major specification of containment vessel Fig.4 Monju facilities to be operated during plant shut down ディーゼル発電機設備制御用圧縮空気設備原子炉格納容器中間熱交換器1次系ポニーモータ空気冷却器循環水ポンプ取水口復水脱塩装置高圧給水加熱器低圧給水加熱器復水ポンプ主発電機復水器主給水ポンプ※過熱器タービン原子炉容器2次系ポニーモータ酸素濃度測定装置送風機ナトリウム漏えい監視装置エリアモニタプロセスモニタ原子炉補機冷却水熱交換器原子炉補機冷却水ポンプ原子炉補機冷却海水ポンプ1次系メンテナンス冷却系中間熱交換器2次系メンテナンス冷却系空気冷却器2次系メンテナンス冷却系空気冷却器用送風機主循環ポンプ冷却系電磁ポンプ冷却系1次系メンテナンス冷却系循環ポンプ2次系メンテナンス冷却系循環ポンプ放水口非常用直流電源廃棄物処理設備補助ボイラ:低温停止時除熱機能(2次系) :ナトリウム関連及び炉心監視機能:保管管理:プラント運用機能:電源供給機能:低温停止時除熱機能(1次系) 原子炉容器ナトリウム液位線源領域系運転中設備又は待機要求のある設備停止中又は保管中設備換気空調設備外部電源所内非常用母線開閉所変圧器※蒸発器換気空調設備屋外排気屋外給気・停止時に点検する系統はナトリウムドレンし、運転しない不要計装として安全保護系(但し、原子炉トリップ,手動トリップ回路を除く) ※蒸気発生器(蒸発器、過熱器) は低温停止時除熱機能を有しないが、崩壊熱除去を実施している系統ではナトリウムを内包している。Fig. 4 Outline of Monju facilities to be operated during plant shut down - 419 - て計画的な点検を実施している。一方、長期停止の場合には通常の点検周期に従って機械的に機器を選定 すれば、不必要な機器まで点検することになってしまうので、工夫が必要になる。以下にその基本的な考え方を列挙する。 ・ 補機冷却水系のように、プラント停止中であっても運転している機器のうち、次回定検までに当該機器の健全性が維持できない可能性のあるもの。 ・ 過去に不具合経験のある設備。 ・ 腐食、目詰まり等の観点を織り込む。具体的には、防食材の交換、熱交換器細管清掃等。 ・ ドリフトが懸念される計装品の校正。 ・ ユーティリティー設備(補助ボイラー等)のように、発電に直接影響がない系統・機器は対象外。 (2) 軽水炉点検内容の検討 点検対象の機器に応じて、以下に記載する点検内容を適切に選択・組み合わせる。実際の各機器の点検内容決定に当たっては、機器の構造はもちろん、運転方法、過去の点検内容、不具合経験等を考慮して決定している。 ① 保管対策 ・ 系統の保管対策(乾燥保管、満水保管等系統の特性と停止想定期間に応じた最適な保管方法を選択) ・ 定期運転等による機能確認運転(切り替え運転、手回し確認、弁作動確認等) ② 追加保全 ・計装品の特性試験 ・外観点検、分解点検、軸受け・軸封部点検、潤滑油補給、消耗品交換他 ・機能・性能試験(必要な場合は、「定期事業者検査」実施) ③ 起動時の健全性確認及び運転中の追加措置 ・パトロール等 (3)「もんじゅ」における点検 もんじゅ」においては、プラント停止中においても、燃料が炉心に装荷された状態であるため、多くの機器の機能が必要となる。一方、燃料の崩壊熱を除去するために必要な冷却材流量は通常運転状態に比べ少ないことからポンプの動力源を主モータから小型のポニーモータに切り替える等、通常運転時に比べ運転状態が異なる。これらを踏まえ、長期停止中の合理的な点検としては以下の4 項目に留意することにより合理的な保全計画とすることができる。 ① プラント停止中においても機能を要求される機器 運転している機器あるいは待機状態の機器は運転状態を考慮し点検計画に従い点検を実施する。この中には、機能要求のある計装品の校正も含まれる。 ② 発電時のみに機能が要求される機器は、系統の特性と想定停止期間に応じた適切な保管対策を実施する。停止状態における劣化を考慮し、起動時における不具合を防止するため、外観目視確認や機器の定期運転、タービン等の手回し、弁の固着防止のための作動確認等を実施する。 ③ プラント状態による設備・機器の運転状況、使用環境の変化がない機器は従来の点検計画に従い点検を実施する。 ④ 過去の停止期間の保守経験を反映した保全計画とする。 6.2 ナトリウム冷却炉の保全の在り方 (1)点検の基本的考え方 一般にプラントを構成する機器は、運転時間の経過とともに劣化事象が発生・進展し、それらが講じると、破壊等の機能喪失に至る。この劣化事象の発生/進展を把握し、機能喪失を防止するため点検を行うが、この点検は対象とする劣化事象によって部品レベル、機器レベル、系統レベル、プラントレベルの4段階で行われる。部品レベルで行われる点検は、その部品の素材の劣化を捉えようとするもので、金属、ケーブル、コンクリートなどに対して実施される非破壊試験および破壊試験がこれに当たる。機器レベルでは、機器の振動、温度などのほか、機器単体での性能などが点検される。系統レベル、プラントレベルでは基本的に性能、機能が点検対象である。(表‐3) Table-3 Inspection objects and test methods このように、機器等の状態を把握するため、対象とする劣化事象毎にそれらを捉えられる点検方法が採用される。これら各種の点検を合理的に組み合わせて№ 点検対象試験の種類(例) 1 部品 非破壊試験、破壊試験、分解(開放) 点検 2 機器 外観試験、振動等の状態モニタリング、単体機能(性能)試験 3 系統 機能(性能)試験 4 プラント 性能試験 - 420 - 機器等の状態を的確に把握することが重要である。 (2) 「もんじゅ」点検の基本的考え方 1) ナトリウム冷却高速増殖炉条件で発生可能性を否定できない劣化事象の抽出 ナトリウム冷却高速増殖炉の設計条件(材料、構造、応力(寸法)、環境)と運転条件から、考え得る全ての劣化事象を機器毎に抽出し、その劣化事象の発生・進展を考慮して点検計画を立案する 2) ナトリウム冷却高速増殖炉の運転保守経験の反映 「もんじゅ」はナトリウム冷却高速増殖炉であるので、国内外のナトリウム冷却高速増殖炉の先行プラントにおける運転・保守経験を活用して点検計画を立案するのが最も合理的である。しかしながら、ナトリウム冷却高速増殖炉の運転経験は必ずしも多くなく、限定されたものであるので、ナトリウム冷却高速増殖炉の運転保守経験は勿論のこと、軽水型原子力発電所の運転保守経験も可能な限り活用すべきである。 3) 軽水型原子力発電所の運転保守経験の反映 軽水型原子力発電所の運転保守経験を反映することは重要である。機器設計、運転条件が類似している機器は勿論のこと、それ以外でも材料、応力、環境のほか、運転条件などを比較し、軽水型原子力発電所の条件よりも厳しくないことが証明できれば、軽水型原子力発電所の点検計画を踏襲し、保全経験を積むことによって徐々にその計画内容を修正して行くことが考えられる。 「もんじゅ」は、ナトリウムを冷却材とする1 次系および2 次系、そして水を冷却材とする3 次系から成り立っている。したがって、「もんじゅ」の点検計画を立案するに当たっては、基本的に1 次系および2 次系はナトリウム冷却高速増殖炉の運転保守経験を活用し、3 次系は軽水型原子力発電所の主タービン周辺機器の運転保守経験を活用することが合理的と考えられる。ただし、1 次系および2 次系の機器であっても、電気設備、計測制御設備および土木建築設備は使用している機器の仕様や型式のほか、運転条件、使用環境も同等であると考えられるものが大部分であることから、その事が証明できるものにあっては軽水型原子力発電所の運転保守経験を活用できると考えられる. 図5 に軽水炉の保全経験を活かした「もんじゅ」点検計画策定のフローを示す。 発電所の全系統機器評価すべき経年劣化事象の抽出同左できるだけ上位の系統レベルで設計仕様、運転条件等を比較検討し、両者が同等であることを証明して、軽水炉の経験を活用する。土木建築構造物水-蒸気系機器(機械,電気,制御,土木建築) 「もんじゅ」特有機器(ベンチマーク検討機器) 同左設計仕様、運転条件等が軽水炉と類似機器同左劣化事象に対する点検の計画を立案。①対象機器(部位)、②点検方法、③点検時期※ 1,2次系機器(電気,制御) 1,2次系機器(機械) 念のための点検の必要性を検討。要の場合、下記を検討。①対象機器(部位) ②点検方法③点検時期(注)想定される劣化がないとする技術的根拠を明確にする。※劣化の発生・進展速度と検査技術の精度の関係から点検時期を特定(注) 点検の決定に当たっては、原子炉安全設計上の特徴(自然冷却可能)やナトリウム冷却材環境が軽水炉の水‐蒸気環境と比較して格段にマイルドな腐食環境であること等を明確にした上で、それらを踏まえた技術的合理性のある計画とする。「もんじゅ」に想定される経年劣化事象*ナトリウム環境で想定される経年劣化事象*軽水炉の経年劣化事象軽水炉の点検計画をベースに検査計画を立案する。①対象機器(部位)、②点検方法、③点検時期※ グループ内他機器への展開①対象機器(部位)、②点検方法、③点検時期※ 類似機器をグループ化代表機器選定(重要度、使用条件等を考慮) 経年劣化事象の評価想定される劣化無有Fig. 5 Flow chart for reflecting LWR maintenance experience on the Monju examination plan - 421 - 4)ナトリウム冷却高速増殖炉原型炉としての保全の在り方 我国においてナトリウム冷却高速増殖炉の運転保守経験は未だ限定されたものであると言わざるを得ない。したがって、原型炉である「もんじゅ」は、後続のナトリウム冷却高速増殖炉のために必要な運転保守データを採取することも必要である。特に、設計上、劣化事象が想定されず、点検不要としている機器あるいは部位、劣化事象が発生/進展しても安全上の問題に至ることはないので点検不要としている機器あるいは部位などは、設計想定通りであることを適切な時期に確認し、データ収集しておくなどの配慮が求められる。 7.おわりに これまでの保全学会における高速炉保全のあり方に関する検討において、技術的側面での保全の在り方については、完全とは言えないまでも高速炉保全技術を確立するための道筋は明確になったと考えられる。この道筋を実証し、高速炉保全技術を確立するためには、プラントの運転・保守経験を積むことが肝要である。一方、保全対象設備や保全の方法が明確にされ、その保全に使用する保全技術が確立されたとしても、保全を実施するのは組織・人間であり、組織・人間系における能力の維持・向上、確実な行為の実施は保全においては不可欠である。保全学会は、保全学の構築とその原子力発電設備への適用が設立の動機であり、また、保全学会は、自由な雰囲気の中で、軽水炉を持つ電気事業者、プラントメーカの技術者、学識経験者が技術的な議論が可能な場であり、高速炉保全の確立に向け多くの知恵を結集して進めることが可能である。 参考文献 [1] 礒崎他「高速実験炉「常陽」の定期的な評価-高経年化に関する評価-」日本原子力研究開発機構 [2] 日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)」 [3] 日本原子力学会標準「原子力発電所の高経年化対策実施基準:2008」 [4] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理規定」(JEAC 4209-2007) [5] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理指針」(JEAG 4210-2007) [6] 日本機械学会 保全の最適化に係る検討報告書(平成18 年9 月) [7] 日本保全学会 保全の潮流 第13 号 2012 年12 月21 日 - 422 -
“ “高速増殖原型炉「もんじゅ」の保全の在り方 ‐「もんじゅ」保全の特徴と軽水炉保全経験の反映‐ “ “仲井 悟,Satoru NAKAI,西尾 竜一,Ryuichi NOSHIO,内橋 昌也,Masaya UCHIHASHI,金子 義久,Yoshihisa KANEKO,山下 裕宣,Hironobu YAMASHITA,青木 孝行,Takayuki AOKI
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