化学除染後のPt 付着処理による放射能再付着抑制方法の開発
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
米国の沸騰水型原子力発電プラントでは、応力腐食割れ抑制対策として炉水に貴金属の白金を注入する貴金属注入運転(NMCA)が実施されており、国内の高経年化BWR プラントでもその適用が検討されている。NMCA では炉水に白金イオンを注入することで再循環系配管などの炉内構造材の冷却水接水部表面に白金の微粒子を付着させて、この白金微粒子の触媒反応作用によって構造材の腐食電位を下げて、応力腐食割れの進展速度を低減している。また、米国のNMCA適用プラントでは配管線量率がNMCA 適用前に比較して低下するプラントも見られる。これは構造材表面に付着した白金微粒子が、構造材に形成された酸化皮膜に作用して、酸化皮膜の組成を白金共存下で安定なものに再構築することで既存の酸化皮膜が溶解するためと考えられている[1][2]。 一方、定検時の被曝低減対策として、再循環系配管等の線量率の高い部位に対しては化学除染を実施する場合がある。化学除染では配管等の構造材表面に形成された酸化皮膜を溶解して放射性物質を取り除くことから、NMCAによって付着させた貴金属微粒子も化学除染によって酸化皮膜ごと除去されることになる。このため、化学除染後のプラント運転に際しては、白金の効果が無い状態で酸化皮膜が成長し、この酸化皮膜に炉水中の60Co が取り込まれることになる。この化学除染後に起こる60Co の再付着を抑制するため、化学除染に引き続いて白金の微粒子を付着させるPt コート法の開発を行った。 本法では高温水中で酸化皮膜が形成される前の化学除染後の配管金属表面に白金微粒子を付着させる。これにより定検終了後の運転再開時には白金が付着した状態で酸化皮膜が成長することになり、貴金属注入プラントで見られた線量低減効果が得られると考えた。次章以降ではPt コート法による60Co 付着抑制効果の確認と、化学除染後を模擬した条件でのPt コート法の施工条件の検討結果について述べる。
2.Pt コート法による60Co 付着抑制
2.1 Pt コート法による60Co 付着抑制効果 2.1.1 試験方法 Pt コート法による60Co 付着抑制効果について、既報[3] 以降に行った効果の持続性(1000h)の結果と、酸化皮膜構造への影響について述べる。 Pt 付着処理試験片(Pt コート試験片)は既報と同様に
- 43 -して作製した。SUS316 試験片(15mm×8mm×1.5mmt)を#600 の耐水研磨紙で研磨後、アセトン脱脂、純水洗浄した。純水1.をビーカーに取り、90℃に加熱後、ヘキサヒドロキソ白金(IV))酸ナトリウムをPt 濃度が1ppm となるように添加して溶解した。この溶液に試験片を浸漬後、ヒドラジンを100ppm となるように添加してPt 析出反応を開始させ、4h 維持した。こうして作製したPt コート試験片の一部は次の60Co 付着試験に供するとともに、一部は王水に溶解させ、溶解液のPt 濃度をICP-MS で測定しPt 付着量を定量した。 作製したPtコート試験片を用いた60Co付着試験はFig.1 に示す炉水環境を模擬できる試験装置に浸漬して行った。Pt コート試験片と未処理試験片を試験片ホルダー部に設置し、水素注入条件(溶存酸素濃度<5ppb、溶存水素濃度50ppb)に調製した高温水(280℃、7MPa)を試験部で10cm/s の流速で流した。この高温水にZn が5ppb、Co が0.1ppb、60Co が6.7Bq/kg となるように注入した。試験片は500h 後と1000h 後に取り出し、付着した60Co 量をGe 半導体式ガンマ線検出器で測定して経時変化を求めた。さらにPt微粒子による酸化皮膜への60Co取り込み影響を検討するため、既報[4]の方法で酸化皮膜を内層、外層別に分離溶解し、腐食量、皮膜量、皮膜中60Co 濃度を分析した。 N2,O2,H2 P DO PDemineralizer Condenser E. C. Electrical conductivity Circulation Regenerative heat exchanger pump meter 60Co P Pressure regulator Zn P T. P. holder Heater Fig. 1 Flow Diagram of Experimental Apparatus for 60Co Deposition Test 2.1.2 試験結果 今回準備したPtコート試験片のPt付着量は0.36μg/cm2 であった。同時に作製した試験片についても同量のPt 付着物が形成されるもとの考え、この試験片を用いて60Co 付着試験を行った。 Fig.2 に未処理試験片とPt コート試験片への60Co 付着量経時変化の測定結果を示した。この図ではZn 注入無しの未処理試験片の60Co 付着量の結果についても同時に示した。未処理試験片について、Zn 注入の有無による60Co 付着量を比較すると、Zn 注入によって60Co 付着量は約1/3 に抑制されていることがわかる。またこのZn 注入有りの未処理試験に比べて、Zn 注入有りのPt コート試験片では60Co付着量は約1/2 に抑制されていることがわかる。Zn 注入無しの未処理試験片とZn 注入有りのPt コート試験片を比較した場合、60Co 付着量は約1/6 に抑制された。 0204060801001201401600 500 1000 1500 Deposition amount of 60Co (Bq/cm2) Immersion time (h) Without Pt deposition, without Zn injection Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection Fig. 2 Time dependency of 60Co deposition 次に、Pt 付着微粒子による形成された酸化皮膜量と60Co 取り込み量への影響を調べるため、酸化皮膜の剥離溶解分析を行った。沸騰水型原子力発電プラントの水素注入条件でステンレス鋼に形成される酸化皮膜は、外層が結晶性のマグネタイトを主成分とするフェライト、内層が膜状のクロマイトの二層皮膜である。Co はクロマイトの方に取り込まれ易いが、Zn 注入条件ではこのクロマイトへのCo の取り込みが大きく抑制される特徴がある[4]。今回のZn 注入条件下で作製した未処理試験片とPt コート試験片の酸化皮膜についても、外層酸化皮膜と内層酸化皮膜とに分離溶解し、それぞれの酸化皮膜量と、そこに含まれる60Co 量を測定し、付着させたPt の効果を調べた。また、皮膜分離溶解後の試験片重量と高温水浸漬前の試験片重量の差分から腐食量も求めてPt の影響を調べた。その結果、腐食量と内層皮膜量、及び内層に含まれる60Co付着量には未処理試験片とPtコート試験片にほとんど差は見られなかった。一方、Fig.3 に示す外層皮膜量とFig.4 に示す外層皮膜中の60Co 付着量及びFig.5 に示す外層皮膜中の60Co濃度はPtコート試験片の方が少なくなっていた。これらの結果と外層に形成された結晶粒子の溶解をSEMで捉えた従来の報告[2]から、付着させたPt は酸化皮膜外層の溶解を促進するとともに、形成され- 44 -る外層酸化皮膜のCo 濃度を低下させる効果があり、外層の量と60Co濃度を減らす二つの効果で60Co付着量の低減に作用したものと考えられる。 Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection 0204060801001201400 500 1000 1500 Deposition amount of 60Co in outer oxide layer (Bq/cm2) Immersion time (h) Fig. 3 Time dependency of 60Co deposition amount in outer oxide layer 0501001502000 500 1000 1500 Film amount in outer oxide layer (ug/cm2) Immersion time (h) Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection Fig. 4 Time dependency of Film amount in outer oxide layer Without Pt deposition, with Zn injection 00.20.40.60.811.20 500 1000 1500 wt% of Co in outer oxide layer (%) Immersion time (h) With Pt deposition, with Zn injection Fig. 5 Time dependency of 60Co concentration in outer oxide layer 2.2 化学除染後のPt コート施工方法 2.2.1 試験方法 原子力発電所の化学除染では、ステンレス鋼配管に形成された60Co を取り込んだ酸化皮膜を溶解するため、マグネタイトを主成分とする外層に対してはシュウ酸を主成分とする還元除染剤を、クロマイトを主成分とする内層に対しては過マンガン酸を主成分とする酸化除染が行われる。化学除染の終了工程では還元除染に続いて還元剤分解工程、浄化工程を行い、循環水中のシュウ酸濃度や溶解した金属イオン濃度を目標値以下に浄化している。Pt コート法ではこの浄化後の循環水に薬剤を注入する。循環水には浄化目標濃度以下ではあるがシュウ酸や金属イオン残留しており、この不純物がPt の付着に影響する可能性を検討した。不純物としては化学除染の還元除染工程で使用するシュウ酸と、溶解した酸化皮膜の主成分であるFe3+イオンを想定し、除染剤分解浄化工程後にシュウ酸10ppm、Fe3+イオン1ppm 残留した場合のPt の付着への影響を調べた。 試験は前章のPt コート試験片の作製と同様に行うが、水を90℃に加熱した後、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウム添加後の試験片浸漬前に不純物としてFe3+イオン200ppmを含むシュウ酸2000ppm水溶液を5ml 添加した。Fe3+イオンを含むシュウ酸溶液の作製は、水1.にシュウ酸2水和物2.8gを溶解して90℃に加熱し、α-FeOOH を0.318g 溶解して作製した。その後は試験片を浸漬してヒドラジンを100ppm となるように添加してPt 析出反応を開始させ、4h 維持した。施工中は試験片や溶液の状態を観察し、4h 終了後に試験片を取り出し、王水へ溶解して白金濃度をICP-MS で測定して付着量を求めた。 2.2.2 試験結果及び検討 不純物を含むPt 付着処理溶液中における試験片の外観写真をFig.6 に示す。試験片には黒色藻状のマグネタイト粒子が徐々に付着してきた。試験片に付着したPt 量を測定するため、試験片を超音波洗浄してから王水で表面を溶解したが、超音波洗浄の段階で、黒色の粒子は剥離した。また、表面を溶解した王水の溶液から求めたPt 付着量は測定下限の0.01.g/cm2以下であった。Pt 付着が抑制された原因はPt がマグネタイト粒子に付着してしまい、試験片表面に到達しなかったためと推定した。 - 45 -SUS 316 specimen Magnetite particles deposited on the specimen Fig. 6 Surface appearance of specimen in Pt deposition process solution containing oxalic acid and ferric ions Pt 付着量を増加させる方法として、マグネタイトの析出を抑制する方法を検討し、Fe3+イオンを錯イオンとして安定化させて析出を抑制する方法を考えた。錯化剤としてはPt イオンの還元に使用するヒドラジンがアルカリ性であるため、同じアルカリ性を示して構造が類似しておりFe3+イオンと錯イオンを形成可能なアンモニアを選定した。2.2.1の不純物共存下のPt 付着試験において、不純物添加後にアンモニアを1700ppmとなるように添加して、その後ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウムを添加し、以後同様に試験を行った。その結果、Pt 付着処理中の溶液にはマグネタイトの析出は見られず、試験片にもマグネタイト粒子の付着は見られなかった。試験片に形成されたPt コート量の測定結果をFig.7 に示す。アンモニアを添加していない条件で作製した5 枚の試験片のPt 付着量は測定下限以下あったのに対して、アンモニアを添加した条件で作製した10 枚の試験片のPt 付着量は60Co 付着抑制効果が見られた0.36.g/cm2 よりも多い4.8.g/cm2 であった。これにより、シュウ酸10ppm、Fe3+ イオン1ppm を含む化学除染終了後の模擬廃液中でもアンモニアを添加することでPt コート法が成立可能であることを確認できた。3.結言 Pt 付着処理による60Co 付着抑制効果の確認と、化学除染後のPt 付着処理に及ぼす除染残留不純物の影響について検討し、以下の結論を得た。(1) ステンレス鋼表面に付着させたPt は外層酸化皮膜の形成量を低減する効果と、外層皮膜中の60Co 濃度を低減する効果によって60Co 付着量を減少させた。(2) 化学除染の残留不純物であるFe3+イオンが共存した状態でPt 付着処理を行うと、マグネタイト粒子が形成されて試験片表面へのPt 付着が阻害された。(3) 錯イオン形成剤としてアンモニアを添加することによって、Fe3+イオンが共存する条件でもPt 付着処理が可能となった。これにより、化学除染に引き続いて行うPt コート法の成立の見通しを得た。012345670 500 1000 1500 2000 Amount of Pt coat (ug/cm2) Concentration of NH3 (ppm) Average of 10 test pieces Average of 5 test pieces Fig. 7 Influence on Pt coat by NH3 addition into Pt coat solution including impurities 参考文献[1] A.D. Odell, K. E. Russell, M. L. Jarvis, “Radiation Levels at Boiling Water Reactors of a Commercial Nuclear Power Plante Fleet”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2010, Quebec City, Canada, October 3-7, 2010 et al. NPC 2010 [2] K. Ishida, Y. Wada, M. Tachibana, H. Hosokawa, M. Nakamura, “Effect of Noble Metal Deposition upon Corrosion Behavior of Structural Materials in Nuclear Power Plants, (I) “, Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 42, 2005, No. 9, pp.799-808 [3] 伊藤剛、他4 名、“原子炉起動時の腐食環境緩和及び放射性核種付着抑制技術の開発”、日本原子力学会2014 年春の年会予稿集、東京、2014, G03, pp.259 [4] H. Hosokawa and M. Nagase, “Investigation of Cobalt Deposition Behavior with Zinc Injection on Stainless Steel under BWR Conditions”, Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 41, 2004, No. 6, pp.682-689 - 46 -
“ “化学除染後のPt 付着処理による放射能再付着抑制方法の開発 “ “細川 秀幸,Hideyuki HOSOKAWA,伊藤 剛,Tsuyoshi ITO,大橋 利正,Ohashi TOSHIMASA,長瀬 誠,Makoto NAGASE
米国の沸騰水型原子力発電プラントでは、応力腐食割れ抑制対策として炉水に貴金属の白金を注入する貴金属注入運転(NMCA)が実施されており、国内の高経年化BWR プラントでもその適用が検討されている。NMCA では炉水に白金イオンを注入することで再循環系配管などの炉内構造材の冷却水接水部表面に白金の微粒子を付着させて、この白金微粒子の触媒反応作用によって構造材の腐食電位を下げて、応力腐食割れの進展速度を低減している。また、米国のNMCA適用プラントでは配管線量率がNMCA 適用前に比較して低下するプラントも見られる。これは構造材表面に付着した白金微粒子が、構造材に形成された酸化皮膜に作用して、酸化皮膜の組成を白金共存下で安定なものに再構築することで既存の酸化皮膜が溶解するためと考えられている[1][2]。 一方、定検時の被曝低減対策として、再循環系配管等の線量率の高い部位に対しては化学除染を実施する場合がある。化学除染では配管等の構造材表面に形成された酸化皮膜を溶解して放射性物質を取り除くことから、NMCAによって付着させた貴金属微粒子も化学除染によって酸化皮膜ごと除去されることになる。このため、化学除染後のプラント運転に際しては、白金の効果が無い状態で酸化皮膜が成長し、この酸化皮膜に炉水中の60Co が取り込まれることになる。この化学除染後に起こる60Co の再付着を抑制するため、化学除染に引き続いて白金の微粒子を付着させるPt コート法の開発を行った。 本法では高温水中で酸化皮膜が形成される前の化学除染後の配管金属表面に白金微粒子を付着させる。これにより定検終了後の運転再開時には白金が付着した状態で酸化皮膜が成長することになり、貴金属注入プラントで見られた線量低減効果が得られると考えた。次章以降ではPt コート法による60Co 付着抑制効果の確認と、化学除染後を模擬した条件でのPt コート法の施工条件の検討結果について述べる。
2.Pt コート法による60Co 付着抑制
2.1 Pt コート法による60Co 付着抑制効果 2.1.1 試験方法 Pt コート法による60Co 付着抑制効果について、既報[3] 以降に行った効果の持続性(1000h)の結果と、酸化皮膜構造への影響について述べる。 Pt 付着処理試験片(Pt コート試験片)は既報と同様に
- 43 -して作製した。SUS316 試験片(15mm×8mm×1.5mmt)を#600 の耐水研磨紙で研磨後、アセトン脱脂、純水洗浄した。純水1.をビーカーに取り、90℃に加熱後、ヘキサヒドロキソ白金(IV))酸ナトリウムをPt 濃度が1ppm となるように添加して溶解した。この溶液に試験片を浸漬後、ヒドラジンを100ppm となるように添加してPt 析出反応を開始させ、4h 維持した。こうして作製したPt コート試験片の一部は次の60Co 付着試験に供するとともに、一部は王水に溶解させ、溶解液のPt 濃度をICP-MS で測定しPt 付着量を定量した。 作製したPtコート試験片を用いた60Co付着試験はFig.1 に示す炉水環境を模擬できる試験装置に浸漬して行った。Pt コート試験片と未処理試験片を試験片ホルダー部に設置し、水素注入条件(溶存酸素濃度<5ppb、溶存水素濃度50ppb)に調製した高温水(280℃、7MPa)を試験部で10cm/s の流速で流した。この高温水にZn が5ppb、Co が0.1ppb、60Co が6.7Bq/kg となるように注入した。試験片は500h 後と1000h 後に取り出し、付着した60Co 量をGe 半導体式ガンマ線検出器で測定して経時変化を求めた。さらにPt微粒子による酸化皮膜への60Co取り込み影響を検討するため、既報[4]の方法で酸化皮膜を内層、外層別に分離溶解し、腐食量、皮膜量、皮膜中60Co 濃度を分析した。 N2,O2,H2 P DO PDemineralizer Condenser E. C. Electrical conductivity Circulation Regenerative heat exchanger pump meter 60Co P Pressure regulator Zn P T. P. holder Heater Fig. 1 Flow Diagram of Experimental Apparatus for 60Co Deposition Test 2.1.2 試験結果 今回準備したPtコート試験片のPt付着量は0.36μg/cm2 であった。同時に作製した試験片についても同量のPt 付着物が形成されるもとの考え、この試験片を用いて60Co 付着試験を行った。 Fig.2 に未処理試験片とPt コート試験片への60Co 付着量経時変化の測定結果を示した。この図ではZn 注入無しの未処理試験片の60Co 付着量の結果についても同時に示した。未処理試験片について、Zn 注入の有無による60Co 付着量を比較すると、Zn 注入によって60Co 付着量は約1/3 に抑制されていることがわかる。またこのZn 注入有りの未処理試験に比べて、Zn 注入有りのPt コート試験片では60Co付着量は約1/2 に抑制されていることがわかる。Zn 注入無しの未処理試験片とZn 注入有りのPt コート試験片を比較した場合、60Co 付着量は約1/6 に抑制された。 0204060801001201401600 500 1000 1500 Deposition amount of 60Co (Bq/cm2) Immersion time (h) Without Pt deposition, without Zn injection Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection Fig. 2 Time dependency of 60Co deposition 次に、Pt 付着微粒子による形成された酸化皮膜量と60Co 取り込み量への影響を調べるため、酸化皮膜の剥離溶解分析を行った。沸騰水型原子力発電プラントの水素注入条件でステンレス鋼に形成される酸化皮膜は、外層が結晶性のマグネタイトを主成分とするフェライト、内層が膜状のクロマイトの二層皮膜である。Co はクロマイトの方に取り込まれ易いが、Zn 注入条件ではこのクロマイトへのCo の取り込みが大きく抑制される特徴がある[4]。今回のZn 注入条件下で作製した未処理試験片とPt コート試験片の酸化皮膜についても、外層酸化皮膜と内層酸化皮膜とに分離溶解し、それぞれの酸化皮膜量と、そこに含まれる60Co 量を測定し、付着させたPt の効果を調べた。また、皮膜分離溶解後の試験片重量と高温水浸漬前の試験片重量の差分から腐食量も求めてPt の影響を調べた。その結果、腐食量と内層皮膜量、及び内層に含まれる60Co付着量には未処理試験片とPtコート試験片にほとんど差は見られなかった。一方、Fig.3 に示す外層皮膜量とFig.4 に示す外層皮膜中の60Co 付着量及びFig.5 に示す外層皮膜中の60Co濃度はPtコート試験片の方が少なくなっていた。これらの結果と外層に形成された結晶粒子の溶解をSEMで捉えた従来の報告[2]から、付着させたPt は酸化皮膜外層の溶解を促進するとともに、形成され- 44 -る外層酸化皮膜のCo 濃度を低下させる効果があり、外層の量と60Co濃度を減らす二つの効果で60Co付着量の低減に作用したものと考えられる。 Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection 0204060801001201400 500 1000 1500 Deposition amount of 60Co in outer oxide layer (Bq/cm2) Immersion time (h) Fig. 3 Time dependency of 60Co deposition amount in outer oxide layer 0501001502000 500 1000 1500 Film amount in outer oxide layer (ug/cm2) Immersion time (h) Without Pt deposition, with Zn injection With Pt deposition, with Zn injection Fig. 4 Time dependency of Film amount in outer oxide layer Without Pt deposition, with Zn injection 00.20.40.60.811.20 500 1000 1500 wt% of Co in outer oxide layer (%) Immersion time (h) With Pt deposition, with Zn injection Fig. 5 Time dependency of 60Co concentration in outer oxide layer 2.2 化学除染後のPt コート施工方法 2.2.1 試験方法 原子力発電所の化学除染では、ステンレス鋼配管に形成された60Co を取り込んだ酸化皮膜を溶解するため、マグネタイトを主成分とする外層に対してはシュウ酸を主成分とする還元除染剤を、クロマイトを主成分とする内層に対しては過マンガン酸を主成分とする酸化除染が行われる。化学除染の終了工程では還元除染に続いて還元剤分解工程、浄化工程を行い、循環水中のシュウ酸濃度や溶解した金属イオン濃度を目標値以下に浄化している。Pt コート法ではこの浄化後の循環水に薬剤を注入する。循環水には浄化目標濃度以下ではあるがシュウ酸や金属イオン残留しており、この不純物がPt の付着に影響する可能性を検討した。不純物としては化学除染の還元除染工程で使用するシュウ酸と、溶解した酸化皮膜の主成分であるFe3+イオンを想定し、除染剤分解浄化工程後にシュウ酸10ppm、Fe3+イオン1ppm 残留した場合のPt の付着への影響を調べた。 試験は前章のPt コート試験片の作製と同様に行うが、水を90℃に加熱した後、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウム添加後の試験片浸漬前に不純物としてFe3+イオン200ppmを含むシュウ酸2000ppm水溶液を5ml 添加した。Fe3+イオンを含むシュウ酸溶液の作製は、水1.にシュウ酸2水和物2.8gを溶解して90℃に加熱し、α-FeOOH を0.318g 溶解して作製した。その後は試験片を浸漬してヒドラジンを100ppm となるように添加してPt 析出反応を開始させ、4h 維持した。施工中は試験片や溶液の状態を観察し、4h 終了後に試験片を取り出し、王水へ溶解して白金濃度をICP-MS で測定して付着量を求めた。 2.2.2 試験結果及び検討 不純物を含むPt 付着処理溶液中における試験片の外観写真をFig.6 に示す。試験片には黒色藻状のマグネタイト粒子が徐々に付着してきた。試験片に付着したPt 量を測定するため、試験片を超音波洗浄してから王水で表面を溶解したが、超音波洗浄の段階で、黒色の粒子は剥離した。また、表面を溶解した王水の溶液から求めたPt 付着量は測定下限の0.01.g/cm2以下であった。Pt 付着が抑制された原因はPt がマグネタイト粒子に付着してしまい、試験片表面に到達しなかったためと推定した。 - 45 -SUS 316 specimen Magnetite particles deposited on the specimen Fig. 6 Surface appearance of specimen in Pt deposition process solution containing oxalic acid and ferric ions Pt 付着量を増加させる方法として、マグネタイトの析出を抑制する方法を検討し、Fe3+イオンを錯イオンとして安定化させて析出を抑制する方法を考えた。錯化剤としてはPt イオンの還元に使用するヒドラジンがアルカリ性であるため、同じアルカリ性を示して構造が類似しておりFe3+イオンと錯イオンを形成可能なアンモニアを選定した。2.2.1の不純物共存下のPt 付着試験において、不純物添加後にアンモニアを1700ppmとなるように添加して、その後ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウムを添加し、以後同様に試験を行った。その結果、Pt 付着処理中の溶液にはマグネタイトの析出は見られず、試験片にもマグネタイト粒子の付着は見られなかった。試験片に形成されたPt コート量の測定結果をFig.7 に示す。アンモニアを添加していない条件で作製した5 枚の試験片のPt 付着量は測定下限以下あったのに対して、アンモニアを添加した条件で作製した10 枚の試験片のPt 付着量は60Co 付着抑制効果が見られた0.36.g/cm2 よりも多い4.8.g/cm2 であった。これにより、シュウ酸10ppm、Fe3+ イオン1ppm を含む化学除染終了後の模擬廃液中でもアンモニアを添加することでPt コート法が成立可能であることを確認できた。3.結言 Pt 付着処理による60Co 付着抑制効果の確認と、化学除染後のPt 付着処理に及ぼす除染残留不純物の影響について検討し、以下の結論を得た。(1) ステンレス鋼表面に付着させたPt は外層酸化皮膜の形成量を低減する効果と、外層皮膜中の60Co 濃度を低減する効果によって60Co 付着量を減少させた。(2) 化学除染の残留不純物であるFe3+イオンが共存した状態でPt 付着処理を行うと、マグネタイト粒子が形成されて試験片表面へのPt 付着が阻害された。(3) 錯イオン形成剤としてアンモニアを添加することによって、Fe3+イオンが共存する条件でもPt 付着処理が可能となった。これにより、化学除染に引き続いて行うPt コート法の成立の見通しを得た。012345670 500 1000 1500 2000 Amount of Pt coat (ug/cm2) Concentration of NH3 (ppm) Average of 10 test pieces Average of 5 test pieces Fig. 7 Influence on Pt coat by NH3 addition into Pt coat solution including impurities 参考文献[1] A.D. Odell, K. E. Russell, M. L. Jarvis, “Radiation Levels at Boiling Water Reactors of a Commercial Nuclear Power Plante Fleet”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2010, Quebec City, Canada, October 3-7, 2010 et al. NPC 2010 [2] K. Ishida, Y. Wada, M. Tachibana, H. Hosokawa, M. Nakamura, “Effect of Noble Metal Deposition upon Corrosion Behavior of Structural Materials in Nuclear Power Plants, (I) “, Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 42, 2005, No. 9, pp.799-808 [3] 伊藤剛、他4 名、“原子炉起動時の腐食環境緩和及び放射性核種付着抑制技術の開発”、日本原子力学会2014 年春の年会予稿集、東京、2014, G03, pp.259 [4] H. Hosokawa and M. Nagase, “Investigation of Cobalt Deposition Behavior with Zinc Injection on Stainless Steel under BWR Conditions”, Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 41, 2004, No. 6, pp.682-689 - 46 -
“ “化学除染後のPt 付着処理による放射能再付着抑制方法の開発 “ “細川 秀幸,Hideyuki HOSOKAWA,伊藤 剛,Tsuyoshi ITO,大橋 利正,Ohashi TOSHIMASA,長瀬 誠,Makoto NAGASE