浜岡原子力発電所の建屋開口部へのフラップゲートの適用について
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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
浜岡原子力発電所では、防波壁を越流する津波が襲来した場合でも、安全上重要な設備が設置される建屋内への浸水を防止できるよう対策を進めている。ここでは、この対策の一環として研究を実施した自動閉止装置(以下、「フラップゲート」という。)の建屋開口部への適用について紹介する。
2.浜岡原子力発電所の津波対策 浜岡原子力発電所の基準津波については、敷地への影響が最も大きい「南海トラフのプレート間地震による津波」を選定し、この基準津波による敷地前面での最大上昇水位をT.P.+21.1m(防波壁前面の位置)と評価している。 浜岡原子力発電所の津波対策は、基準津波に対しては防波壁の設置等により津波が発電所敷地内に直接浸入することを防ぎ、さらに、基準津波を超える津波が防波壁を越流し敷地内に浸水した場合においても、建屋内浸水防止対策を施すことにより、重要設備を津波の影響から防護するものとしている。 建屋内浸水防止対策は、建屋内への浸水経路となる扉、配管等貫通部や空調開口部を対象とし、扉に対しては水密扉等の設置、また、配管等貫通部に対しては止水処理を実施している。 ここでは、空調開口部に対する浸水防止対策として、津波が襲来した際に適切に閉止して建屋内への浸水を防止するフラップゲート※に着目し、その適用性について検討した。フラップゲートは、駆動力や人為操作が不要で水に対する浮力により作動するものである。 ※一般的には、河川や港湾の水門等で使われている。最近では、津波や高潮時に浮力により起立するフラップゲート式の防潮堤が開発されている。
3.フラップゲートの作動原理 適用するフラップゲートの基本原理は、水流の強さによらず水に対する浮力を利用し、開口部に設ける浮体構造の扉を水位の上昇・下降に追従させて開閉させるものである。フラップゲートは、原理的に開口部からの浸水を全く無くすことはできないが、津波による海水の浸入を大幅に制限することができる。浸入した一部の水については、建屋空調開口部付近のダクトに排水用のドレン受けを設ける等の対応により、津波の浸水に対して建屋内の安全上重要な設備の機能確保に十分に寄与できるものと考えている。 連絡先:木村 浩樹、 〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町1 番地、 中部電力株式会社、 E-mail: Kimura.Hiroki@chuden.co.jp - 147 -4.津波対策へのフラップゲートの適用性検討 津波対策としてフラップゲートを適用するに当たり、設備の信頼性を確認するため、実機大の試験体を用いた検証試験を行った。4.1 水位上昇に対する作動確実性の検証 フラップゲートの繰り返し作動に対する信頼性を確認することを目的とし、水位上昇による作動試験を複数回(100 回以上)実施した。その結果、Fig.2 に示す通り、水位上昇に応答して扉体が確実に作動することが確認できた。また、100 回以上実施した試験において、浮上の失敗は一度も生じなかったことから、繰り返し作動の確実性についても確認できた。さらに、Fig.3 に示す通り、本試験で確認された漏水量は、最も多いケースでも670cc 程度であり、フラップゲートの高い止水性能について確認することができた。なお、漏水量が多くなったケース(試験回数が78 回から100 回の間)は、可動部との摺動面の塗装の剥がれが原因であったことから、実機への適用に当たっては、摺動部については塗装を行わず、止水性能を向上させることとした。(試験回数101 回から115 回は塗装除去後の試験結果である。) 4.2 漂流物影響の検証 フラップゲートの作動に対する漂流物影響の有無を確認するため、大型造波水路上に模擬漂流物や実物漂流物(木葉等)を配置し、試験体に波を作用(衝突)させるという厳しい条件下で作動試験を実施した。 Imitation debris picture size φ60×150 50×25×t3 300×10×10 assumed debris can leaf branch Fig.5 に示す通り、越流量※は漂流物の有無により大きな差はなく、漂流物によりフラップゲートの作動に支障を生じることはないことが確認できた。なお、実機においては、漂流物等の異物進入を防止するため、フラップゲート前面にネットを設置することとしている。※波が扉体を越えて流入することによる水量また、津波時の土砂の影響についても確認するため、砂を巻き込んだ波を作用させた試験についても実施した。その結果、試験終了後の試験体には砂の堆積が確認されたが、フラップゲートの作動に支障を生じることはないことが確認できた。5.まとめ 本試験により、フラップゲートの作動信頼性を確認することができたことから、建屋空調開口部への浸水防止対策として、フラップゲートを採用することとした。今後は、設備の経年劣化を考慮した保全方法の検討を実施していく予定である。0:00:0012:00:001899/12/311899/12/31 12:00:000 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 漏水量[l] 試験回数100 105 110 115 Fig.1Automatic closure system Table 1 Examples of imitation debris Fig.3Amount of leakage Debris Equipment Fig.4 Experimental setup Number of tests 0:00:001900/01/291900/02/281900/03/300 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 扉体角度θ [度] 水位上昇η [m] 17回目100回目設計値Fig.2Gate response Water level [m] Angle of gate [°] Seventeenth One hundredth Design value Amount of leakage [L] Fig.5Amount of leakage Amount of leakage [L] 01001900/07/183004001901/05/141901/08/22波形1 波形2 波形3 越流量[l] 漂流物なし模擬漂流物※6.6) 模擬漂流物-捕捉ネット実物漂流物-捕捉ネットNo debris Imitation debris Imitation debris - net Actual debris - net Wave1 Wave2 Wve3 Start of rising Close - 148 -“ “浜岡原子力発電所の建屋開口部へのフラップゲートの適用について “ “木村 浩樹,Hiroki KIMURA,涌永 隆夫,Takao WAKUNAGA,安田 光博,Mitsuhiro YASUDA,可児 直也,Naoya KANI,木村 雄一郎,Yuichiro KIMURA
浜岡原子力発電所では、防波壁を越流する津波が襲来した場合でも、安全上重要な設備が設置される建屋内への浸水を防止できるよう対策を進めている。ここでは、この対策の一環として研究を実施した自動閉止装置(以下、「フラップゲート」という。)の建屋開口部への適用について紹介する。
2.浜岡原子力発電所の津波対策 浜岡原子力発電所の基準津波については、敷地への影響が最も大きい「南海トラフのプレート間地震による津波」を選定し、この基準津波による敷地前面での最大上昇水位をT.P.+21.1m(防波壁前面の位置)と評価している。 浜岡原子力発電所の津波対策は、基準津波に対しては防波壁の設置等により津波が発電所敷地内に直接浸入することを防ぎ、さらに、基準津波を超える津波が防波壁を越流し敷地内に浸水した場合においても、建屋内浸水防止対策を施すことにより、重要設備を津波の影響から防護するものとしている。 建屋内浸水防止対策は、建屋内への浸水経路となる扉、配管等貫通部や空調開口部を対象とし、扉に対しては水密扉等の設置、また、配管等貫通部に対しては止水処理を実施している。 ここでは、空調開口部に対する浸水防止対策として、津波が襲来した際に適切に閉止して建屋内への浸水を防止するフラップゲート※に着目し、その適用性について検討した。フラップゲートは、駆動力や人為操作が不要で水に対する浮力により作動するものである。 ※一般的には、河川や港湾の水門等で使われている。最近では、津波や高潮時に浮力により起立するフラップゲート式の防潮堤が開発されている。
3.フラップゲートの作動原理 適用するフラップゲートの基本原理は、水流の強さによらず水に対する浮力を利用し、開口部に設ける浮体構造の扉を水位の上昇・下降に追従させて開閉させるものである。フラップゲートは、原理的に開口部からの浸水を全く無くすことはできないが、津波による海水の浸入を大幅に制限することができる。浸入した一部の水については、建屋空調開口部付近のダクトに排水用のドレン受けを設ける等の対応により、津波の浸水に対して建屋内の安全上重要な設備の機能確保に十分に寄与できるものと考えている。 連絡先:木村 浩樹、 〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町1 番地、 中部電力株式会社、 E-mail: Kimura.Hiroki@chuden.co.jp - 147 -4.津波対策へのフラップゲートの適用性検討 津波対策としてフラップゲートを適用するに当たり、設備の信頼性を確認するため、実機大の試験体を用いた検証試験を行った。4.1 水位上昇に対する作動確実性の検証 フラップゲートの繰り返し作動に対する信頼性を確認することを目的とし、水位上昇による作動試験を複数回(100 回以上)実施した。その結果、Fig.2 に示す通り、水位上昇に応答して扉体が確実に作動することが確認できた。また、100 回以上実施した試験において、浮上の失敗は一度も生じなかったことから、繰り返し作動の確実性についても確認できた。さらに、Fig.3 に示す通り、本試験で確認された漏水量は、最も多いケースでも670cc 程度であり、フラップゲートの高い止水性能について確認することができた。なお、漏水量が多くなったケース(試験回数が78 回から100 回の間)は、可動部との摺動面の塗装の剥がれが原因であったことから、実機への適用に当たっては、摺動部については塗装を行わず、止水性能を向上させることとした。(試験回数101 回から115 回は塗装除去後の試験結果である。) 4.2 漂流物影響の検証 フラップゲートの作動に対する漂流物影響の有無を確認するため、大型造波水路上に模擬漂流物や実物漂流物(木葉等)を配置し、試験体に波を作用(衝突)させるという厳しい条件下で作動試験を実施した。 Imitation debris picture size φ60×150 50×25×t3 300×10×10 assumed debris can leaf branch Fig.5 に示す通り、越流量※は漂流物の有無により大きな差はなく、漂流物によりフラップゲートの作動に支障を生じることはないことが確認できた。なお、実機においては、漂流物等の異物進入を防止するため、フラップゲート前面にネットを設置することとしている。※波が扉体を越えて流入することによる水量また、津波時の土砂の影響についても確認するため、砂を巻き込んだ波を作用させた試験についても実施した。その結果、試験終了後の試験体には砂の堆積が確認されたが、フラップゲートの作動に支障を生じることはないことが確認できた。5.まとめ 本試験により、フラップゲートの作動信頼性を確認することができたことから、建屋空調開口部への浸水防止対策として、フラップゲートを採用することとした。今後は、設備の経年劣化を考慮した保全方法の検討を実施していく予定である。0:00:0012:00:001899/12/311899/12/31 12:00:000 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 漏水量[l] 試験回数100 105 110 115 Fig.1Automatic closure system Table 1 Examples of imitation debris Fig.3Amount of leakage Debris Equipment Fig.4 Experimental setup Number of tests 0:00:001900/01/291900/02/281900/03/300 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 扉体角度θ [度] 水位上昇η [m] 17回目100回目設計値Fig.2Gate response Water level [m] Angle of gate [°] Seventeenth One hundredth Design value Amount of leakage [L] Fig.5Amount of leakage Amount of leakage [L] 01001900/07/183004001901/05/141901/08/22波形1 波形2 波形3 越流量[l] 漂流物なし模擬漂流物※6.6) 模擬漂流物-捕捉ネット実物漂流物-捕捉ネットNo debris Imitation debris Imitation debris - net Actual debris - net Wave1 Wave2 Wve3 Start of rising Close - 148 -“ “浜岡原子力発電所の建屋開口部へのフラップゲートの適用について “ “木村 浩樹,Hiroki KIMURA,涌永 隆夫,Takao WAKUNAGA,安田 光博,Mitsuhiro YASUDA,可児 直也,Naoya KANI,木村 雄一郎,Yuichiro KIMURA