電動機電流診断装置(GA-500)の開発と適用事例

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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
回転機器の状態監視手法としては主に『振動法』が用いられているが、原子力発電所における高放射線域あるいは高所・狭所や水中・高温等により作業安全上、人が近づいて直接センシングが困難な対象機器については、状態監視が困難な状況が見受けられる。この様な機器について電気室等の遠隔よりデータ採取および診断が行える電動機電流兆候解析(MCSA:Motor Current Signature Analysis)は非常に有用である。従来、MCSAでは電源周波数FL 周りの±fp 側帯波(fp= 電動機極数p×すべりs)に着目した電動機のロータバー折損診断やスロット周波数fc(ロータバー×電動機回転数)周りの側帯波に着目した電動機回転子の偏芯や巻線異常等の電気的異常の診断が行われてきた[1][2]。また、fc 周りの側帯波によるアンバランスやミスアライメント等の機械的異常の診断も提案されているものの、発生する側帯波のレベルが非常に小さく、診断が困難であるという問題があった。今回、我々は上述の問題をクリアする為、ダイナミックレンジおよびS/N 比を大幅に向上させた診断装置を開発し、実験装置にて様々な異常を模擬したデータを採取する事で着目すべき周波数領域を明確にした。また、発生する周波数のレベルと異常の程度についての相関を見出し、異常判定基準を策定した。2.異常模擬試験
2.1 試験装置Fig.1 に示す試験装置(電動機容量15kW、回転数1776rpm)を用いて、アンバランスやカップリングのミスアライメント、軸受のきず、摩耗、油ぎれ、ポンプの流量低下、エア巻き込みといった機械的異常を模擬し、電流スペクトルに現れる特性を把握する試験を行った。また、異常程度を把握する意味で振動計測も併せて行っている。Fig.1 Experimental equipment 連絡先:金子 修一旭化成エンジニアリング株式会社プラントライフ事業部 診断技術部〒882-0847 宮崎県延岡市旭町2-1-3 E-mail: kaneko.sz@om.asahi-kasei.co.jp Fly wheel Bearing Rotor Fly wheel Stator Pump - 179 - 2.2 電動機電流診断装置(GA-500) Fig.2 に示す電動機電流診断装置GA-500 を用いて電流波形の収集を行った。Fig.2 System composition 電動機の 1 次側電源ケーブルより電流波形を採取するクランプ電流計と変換器、およびデータ収集と解析を行うパーソナルコンピュータというシンプルな構成である。パーソナルコンピュータでは電流波形をフーリエ変換やエンベロープ処理などを行い、電流スペクトルの重ね書き機能や倍率表示機能などを有している。2.3 試験結果2.3.1 アンバランス・ミスアライメントFig.1 に示した試験装置の電動機に設置したフライホイールに20g~200g の錘を取付けてアンバランスを発生させる試験を行った。錘重量200g 時と正常時を比較した電流スペクトルの比較をFig.3に示す。電源周波数FL(60Hz) の周りに側帯波FL±fr(fr:電動機回転周波数=29.6Hz) が発生しており異常時にはレベルが上昇している事が分かる。正常時の側帯波レベルが-72.5dB、-76.0dB に対し、アンバランス時は-55.5dB、-59.0dB と明確な差が見られている。Fig.3 Comparison of the current spectrum (Unbalance and normal) これは、アンバランスによって電動機内部の回転子が回転周波数により揺れるために、電流波形が回転周波数による振幅変調を受ける事でスペクトルにおいて側帯波が発生しているものである。この側帯波のレベルと各錘重量との関係はFig.4に示すように相関が見られ、この側帯波レベルによりアンバランス異常の判定が可能であると言える。Fig.4 Relation between sideband level and unbalanceweight 生産現場においては、アンバランス異常は振動速度による状態監視が広く実施されている。そこで、本試験で計測した振動速度レベルと電流スペクトルにおける側帯波レベル(電源周波数レベルとの差)の関係を検討した(Fig.5)。振動速度値と電流スペクトルにおける電源周波数±回転周波数の側帯波レベルとは相関が見られ、振動速度と同様にアンバランスの状態監視が可能と言える。Fig.5 Relation between vibration velocity level and current sideband level Data converter Clamp ammeter Current waveform analysis software Frequency (Hz) Current spectrum amplitude (dB) Unbalance Normal FL-fr FL+fr - 180 - Fig.6 Comparison of the current spectrum (Angle misalignment and normal) また、カップリングのミスアライメント(オフセットおよびアングル)時においても同様の結果が得られた。 Fig.6 にアングルミスアライメント(0.52mm)時と正常時の電流スペクトルの比較を示す。明確にアンバランス時と同様、電源周波数周りに回転周波数の側帯波の発生が見られていることがわかる。2.3.2 軸受摩耗 Fig.1 に示した試験装置の電動機反負荷側軸受(型式: NU308)の内輪軌道面について深さ50μm~200μm 摩耗させたものを用いた軸受を用いた試験を行い、データを採取した結果をFig.7 に示す。 Fig.7 Comparison of inner ringwear bearing and normal bearing (900Hz~1500Hz) 軸受摩耗時には高周波成分レベル(周波数範囲:900Hz ~1500Hz)が正常時と比較して上昇している事が分かる。 また、このレベルと摩耗量にはFig.8 に示す様に相関が見られている。これより、電流スペクトルレベルによって軸受磨耗が診断できると言える。Fig.8 Relation between current spectrum level and bearing wear depth 2.3.3 ポンプ流量低下、エア巻き込み、軸受油切れFig.1 に示した実験装置のポンプにエア巻き込みを発生させた場合の電流スペクトルについて、正常スペクトルで異常時スペクトルを除した縦軸を倍率で表示させたものをFig.9 に示す。エア巻き込み時には低周波成分40Hz ~80Hz(FL±20Hz)が上昇する事が分かる。 これは、エア巻き込みによって流体が乱流になり、周期性がなく負荷変動の大きさがランダムに時間の経過とともに変化する影響を受けて電動機内部の回転子が揺れ、電流波形が振幅変調を受けている事によるものである。尚、流量低下や軸受の油切れについても同様に、低周波成分の上昇として異常を検知できる事を確認した。 Fig.9 Magnification of the current spectrum 2.3.4 軸受傷今回の試験において軸受傷については明確に検知できなかった。電流兆候解析では回転機器の異常によって発生する電流波形の微小な変化(変調)を捉える事によって診断を行うが、軸受きず程度が低い異常においては電動機の回転子がほとんど揺れていない事から検知は困難であると考える。しかし、今後検知方法並びに解析手法について再度検討を行い、状態監視技術を開発する。- 181 - 3.適用事例 3.1 診断結果 実設備である電動機直結ファン(電動機容量22kW、電源周波数FL:50Hz、回転周波数fr:49.6Hz)に対して適用した事例の測定状況をFig.10 に示す。Fig.10Measurement situation GA-500にて計測した電流波形のスペクトルをFig.11に示す。FL+fr 側帯波(99.6Hz)が発生しており、そのレベル(電源周波数との差:67dB)からアンバランスやミスアライメントが発生していると判断した。また、振動診断を実施した結果、速度値が9.0mm/sec であり、旭化成振動管理基準(AMD 速度判定基準)で悪化領域にあった。卓越周波数は回転周波数(fr:49.6Hz) であったことから、ファンの羽根のアンバランスと判断した。Fig.11 Comparison of current spectrum 3.2 検証結果 診断後に機器を停止し、羽根の開放検査を実施した結果をFig.12 に示す。羽根表面にダストが付着しており、これによりアンバランスが発生していたものと思われる。 羽根の清掃を行い、再度測定した電流スペクトルを確認すると、FL+fr 側帯波のレベル(電源周波数レベルとの差)は75.5dB と羽根清掃前よりも8.5dB 低下している。 また、振動速度レベルについても2.6mm/sec とAMD 速度判定基準の良好域に低下している事を確認した。 Fig.12 Result of overhaul inspection 4.おわりに 今回、電気室における電源盤から状態監視ができる装置を開発した。また、この装置を用いた試験結果を基に、各異常を判定する基準値を策定した。これにより、従来振動やAE の計測が困難だった設備への適用が可能となる。例えば、原子力発電所における高放射線域あるいは高所・狭所や水中・高温等の条件により作業安全上、人が近づいて直接センシングすることが困難な対象機器、あるいはレール搬送装置やロボット等の可動設備への適用を拡大していくことが可能である。また、従来困難とされている小さな軸受きずの検出についても、信号処理技術の活用により検出可能となることが期待されており、研究を継続している。今後、さらなるフィールドデータの積み重ねにより、基準値の精度向上、診断対象設備の拡大を図っていく予定である。参考文献[1] BETHEL N P, The New Role of Current Analysis in Predictive Maintenance, AISE Steel Technology, Vol.80, NO.1, (2003). [2] KRYTER R C, HAYNES H D ,Condition Monitoring of Machinery Using Motor Current Signature Analysis , SOUND AND VIBRATION,Vol.23, No.9, (1989). - 182 -
“ “電動機電流診断装置(GA-500)の開発と適用事例 “ “金子 修一,Syuichi KANEKO,迫 孝司,Takashi SAKO
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