ドップラーライダによる浜岡原子力発電所での風向風速観測
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.緒言
浜岡原子力発電所では、従来よりプロペラ型および超音波型の風向風速計にて、排気筒高さの風向風速観測を行っている。 近年、レーザー光を用いたドップラーライダでの気象観測が実施されるようになってきており、原子力関連施設においてもドップラーライダにて風向風速観測が実施され、気象観測指針で要求される性能を有していることが確認されている[1]。 ドップラーライダは小型・軽量であり、また、本体を地上面に設置することが可能であることから保守性にも優れている。その一方、空中のエアロゾルで散乱されたレーザー光を受信して計測していることから、 欠測の可能性が考えられる。 以上のことから、浜岡原子力発電所においてドップラーライダでの観測が可能かを確認するために、試験的に観測を行った。
2.ドップラーライダでの観測
2.1 測定原理
ドップラーライダは、レーザー光を空間に発射し、大気中のエアロゾルからの散乱光を受信して周波数成分を解析するものである。この散乱光は、エアロゾルの速度成分(速度の大きさおよび方向)に対応した周波数の変化(ドップラーシフト)を有する。3方向以上 に発射したパルスレーザーの散乱光のドップラーシフトを合成することにより、風向風速を算出する(図1)。 なお、散乱光受光のタイミングを変化することにより、高度別の風向風速の算出が可能となる。
図1 ドップラーライダの原理 (三菱電機のホームページより)
2.2 浜岡原子力発電所における観測 浜岡原子力発電所の別館屋上(地上高 19m、海抜 29m)に、小型ドップラーライダ(三菱電機製 DIABREZZATM W series)を設置し、2015年12月2日 ~12月18日に風向風速観測を行った。三菱電機製のドップラーライダは、エアロゾル濃度に応じ、自動積算補正および自動焦点調整機能を有しているという特徴 がある。 なお、比較対象とするプロペラ型の風向風速計は、小型ドップラーライダよりSSE方向に約60m離れた位置の地上高96m、海抜106m高さに設置されている。
3.観測結果
3.1 全体の観測結果
小型ドップラーライダの高度分解能を20mとし、海抜 100m 高さにおける測定点について、プロペラ風向風速計の点検作業中やドップラーライダの欠測を除く 2,258データ(10分平均値)にて比較した。 ドップラーライダでの風速観測結果は、最大で 22.4m/s であり、プロペラ型の風速との相関係数は0.99であった(図2)。風向の一致率(16方位のうち±1方 位以内)は、全体では99%、一番低い一致率であったのはWSW 方向の87%であった。
図2 風速の相関
3.2 欠測時の状況 観測期間中、12月11日および12月18日に、ドップラーライダにて欠測が発生した。このうち、全ての高度にて欠測となった12月11日21:20~22:00、およびその前後について分析を行った。 ドップラーライダでの欠測期間中のプロペラ風向風速計の結果より、風速は約 10m/s、風向は WNW 方向 で急激な風向風速の変化はなかった。
図3 欠測前後の風速の経時変化(2015 年12月11日)
このとき、20:00頃からS/Nが低下してついには欠測状態に至っている。また、22:10 頃から徐々にS/Nが上昇している(図4)。 この期間中を通して、最寄りの気象庁の観測地点で ある御前崎での視程は常に20km以上であった。また、 一般に高度が高いほどエアロゾル濃度が下がる傾向が あり、図4より高度が高い方から S/N が低下し、欠測終了後も高度の高い方がS/N の回復が遅い傾向がある。 以上のことから、欠測の原因は大気中のエアロゾル が減少し散乱光が受信できなかったためと推察される。 なお、発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針では、欠測率は連続した12か月において、原則として10%以下とする、また連続した30日間においては、 この欠測率が30%以下になるように努めなければならないと記載されている。
図4 欠測前後のS/Nの経時変化(2015年12月11日)
4.まとめと今後の計画
これに対して、今回の風向風速を観測した期間中に おける、エアロゾルが原因と推察される欠測率は、0.8% と計算される。 以上のことから、ドップラーライダは従来から設置し ているプロペラ型の風向風速計と非常によく一致した観 測結果が得られた。また、エアロゾルが原因と推察され る欠測はあるものの、欠測率は十分小さいことから、浜岡原子力発電所への適用の可能性が認められた。 今後は、長期間の観測を実施し、台風のような強風時 や、欠測しやすい環境(降雨時や、降雨後の快晴時)に おける風向風速の観測データを蓄積していく計画である。
参考文献 [1] 中野 正尚 他, ドップラーライダの長期実用性に関する調査 -欠測率と風車型風向風速計データ との比較-, JAEA-Testing 2013-003, November 2013“ “ドップラーライダによる浜岡原子力発電所での風向風速観測“ “辻 建二,Kenji TSUJI,椎名 達雄,Tatsuo SHIINA
浜岡原子力発電所では、従来よりプロペラ型および超音波型の風向風速計にて、排気筒高さの風向風速観測を行っている。 近年、レーザー光を用いたドップラーライダでの気象観測が実施されるようになってきており、原子力関連施設においてもドップラーライダにて風向風速観測が実施され、気象観測指針で要求される性能を有していることが確認されている[1]。 ドップラーライダは小型・軽量であり、また、本体を地上面に設置することが可能であることから保守性にも優れている。その一方、空中のエアロゾルで散乱されたレーザー光を受信して計測していることから、 欠測の可能性が考えられる。 以上のことから、浜岡原子力発電所においてドップラーライダでの観測が可能かを確認するために、試験的に観測を行った。
2.ドップラーライダでの観測
2.1 測定原理
ドップラーライダは、レーザー光を空間に発射し、大気中のエアロゾルからの散乱光を受信して周波数成分を解析するものである。この散乱光は、エアロゾルの速度成分(速度の大きさおよび方向)に対応した周波数の変化(ドップラーシフト)を有する。3方向以上 に発射したパルスレーザーの散乱光のドップラーシフトを合成することにより、風向風速を算出する(図1)。 なお、散乱光受光のタイミングを変化することにより、高度別の風向風速の算出が可能となる。
図1 ドップラーライダの原理 (三菱電機のホームページより)
2.2 浜岡原子力発電所における観測 浜岡原子力発電所の別館屋上(地上高 19m、海抜 29m)に、小型ドップラーライダ(三菱電機製 DIABREZZATM W series)を設置し、2015年12月2日 ~12月18日に風向風速観測を行った。三菱電機製のドップラーライダは、エアロゾル濃度に応じ、自動積算補正および自動焦点調整機能を有しているという特徴 がある。 なお、比較対象とするプロペラ型の風向風速計は、小型ドップラーライダよりSSE方向に約60m離れた位置の地上高96m、海抜106m高さに設置されている。
3.観測結果
3.1 全体の観測結果
小型ドップラーライダの高度分解能を20mとし、海抜 100m 高さにおける測定点について、プロペラ風向風速計の点検作業中やドップラーライダの欠測を除く 2,258データ(10分平均値)にて比較した。 ドップラーライダでの風速観測結果は、最大で 22.4m/s であり、プロペラ型の風速との相関係数は0.99であった(図2)。風向の一致率(16方位のうち±1方 位以内)は、全体では99%、一番低い一致率であったのはWSW 方向の87%であった。
図2 風速の相関
3.2 欠測時の状況 観測期間中、12月11日および12月18日に、ドップラーライダにて欠測が発生した。このうち、全ての高度にて欠測となった12月11日21:20~22:00、およびその前後について分析を行った。 ドップラーライダでの欠測期間中のプロペラ風向風速計の結果より、風速は約 10m/s、風向は WNW 方向 で急激な風向風速の変化はなかった。
図3 欠測前後の風速の経時変化(2015 年12月11日)
このとき、20:00頃からS/Nが低下してついには欠測状態に至っている。また、22:10 頃から徐々にS/Nが上昇している(図4)。 この期間中を通して、最寄りの気象庁の観測地点で ある御前崎での視程は常に20km以上であった。また、 一般に高度が高いほどエアロゾル濃度が下がる傾向が あり、図4より高度が高い方から S/N が低下し、欠測終了後も高度の高い方がS/N の回復が遅い傾向がある。 以上のことから、欠測の原因は大気中のエアロゾル が減少し散乱光が受信できなかったためと推察される。 なお、発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針では、欠測率は連続した12か月において、原則として10%以下とする、また連続した30日間においては、 この欠測率が30%以下になるように努めなければならないと記載されている。
図4 欠測前後のS/Nの経時変化(2015年12月11日)
4.まとめと今後の計画
これに対して、今回の風向風速を観測した期間中に おける、エアロゾルが原因と推察される欠測率は、0.8% と計算される。 以上のことから、ドップラーライダは従来から設置し ているプロペラ型の風向風速計と非常によく一致した観 測結果が得られた。また、エアロゾルが原因と推察され る欠測はあるものの、欠測率は十分小さいことから、浜岡原子力発電所への適用の可能性が認められた。 今後は、長期間の観測を実施し、台風のような強風時 や、欠測しやすい環境(降雨時や、降雨後の快晴時)に おける風向風速の観測データを蓄積していく計画である。
参考文献 [1] 中野 正尚 他, ドップラーライダの長期実用性に関する調査 -欠測率と風車型風向風速計データ との比較-, JAEA-Testing 2013-003, November 2013“ “ドップラーライダによる浜岡原子力発電所での風向風速観測“ “辻 建二,Kenji TSUJI,椎名 達雄,Tatsuo SHIINA