超伝導電磁超音波送信システムの構築と数値解析による超音波送信特性の定量的評価
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カテゴリ: 第13回
1.緒言
構造部材の超音波探傷試験では、溶接部残留応力やき 裂内の充填酸化物によりき裂が閉口すると、超音波の透過によりき裂深さを過小評価する可能性がある。この課題を解決する手法として、非線形超音波法が挙げられる。 閉じたき裂に入射した超音波と異なる周波数の超音波がき裂部で発生することを利用した計測法であり、非線形超音波法は超音波探傷試験の高信頼化につながる技術として、多くの研究者により研究がなされている[1,2]。特に分調波は閉じたき裂部のみから発生するため、これまでに多くの研究者により分調波の発生とき裂評価への適用が報告されている[1]。一方、定量的なモデル解析に基づく実験結果の再現に成功した例はまだない。 一方、電磁超音波探触子(Electromagnetic acoustic transducer : EMAT)は電磁現象を用いて超音波の送受信を行うものである。試験対象が非磁性の材料である場合、バイアス磁場と渦電流によるローレンツ力により、超音波を対象に直接発生させることができ、接触媒質は不要である。このため、接触媒質における超音波の減衰がなく、かつ与えた電磁力を定量的に評価することが可能である。また、圧電型探触子に比べ試験周波数を容易に制御することが可能である。以上の理由から、EMAT は非線形超音波現象を解明するためのツールとしての可能性を有する。非線形超音波法においては、大振幅の超音波を入力することが必要であり、EMATによる大振幅超音波の送信には強磁場が必要であると考えられる。しかし、 永久磁石を用いた場合、磁場強度が低く、かつEMAT は 一般に電磁機械変換効率が悪い点が課題として挙げられる。 本研究では、非線形超音波現象の解明のために、超伝導電磁石による強磁場を利用した大振幅の超伝導電磁超音波送信システムを構築する。構築したシステムを用いて超音波の送信をレーザードップラー振動計により確認するとともに、超音波伝播解析との比較によりシステムの検証を行う。
2.実験条件
超伝導マグネットを用いた電磁超音波送信システムと レーザー変位計から構成される実験体系を図 1 に示す。 連絡先: 時田祐樹、〒980-8577 宮城県仙台市青葉区 試験片側面から送信用 EMAT でパルス波を入射し、RF 片平2-1-1 流体科学研究所403、東北大学、 モニターで確認される入力電圧は 34.4V とする。入射面 E-mail: tokita@wert.ifs.tohoku.ac.jp と反対側の側面からレーザードップラー振動計による表 - 194 - 面変位の測定を行う。使用した試験片はアルミ合金 A5052の直方体で、長さ50mm、幅50mm、厚さ40mm で ある。EMATコイルの形状は径0.14mm で巻き数は80の 円形である。測定に用いる超伝導電磁石は、冷凍機冷却 超 伝 導 マ グ ネ ッ ト ( 住 友 重 機 械 工 業 ( 株 ) 、 HF5-100VT-50/50HT-2)であり、中空領域内(φ100mm)に おいて、最大5Tのほぼ一様な磁場を発生させることがで きる。試験片表面の変位測定用にはレーザードップラー 振動計(Polytec 社、OFV-505、DD-300)を用いており、 24MHzまでの広域な振動周波数に対応している。変位計 で取得した振幅データに対し、振幅1Vを50nmに換算す ることで、試験片表面の変位を得ることができる。本実 験では、超伝導電磁石による磁場の磁束密度を0.5T、0.75T、 1.0T のように変化させた場合の振幅を測定し、オシロス コープからPCに取り込む。 Fig.1 Experimental setup 3.結果と考察 図2に磁束密度0.5Tの場合の変位計により取得した振 幅波形の結果を示す。EMAT より送信された電磁超音波 の伝搬距離は 40mm で、到達時間である6μs 付近で変位 のピークが確認された。ここで、得られた振幅の peak-to-peak値を変位に換算し、変位と磁束密度との関係 を図 3 に示す。図 3 より、試験片表面の変位は磁束密度 に対して比例関係をもつことが示された。また、近似曲 線が概ね原点を通ることから、今回の測定はある程度ノ イズによる影響を抑えた測定であったとみなせる。超伝 導電磁石によって発生させる磁場について、磁束密度は 最大5Tまで発生できるため、磁束密度の増加により更に 大きな変位を得ることが可能であると考えられる。 Fig.2 Signal amplitude (B=0.5T) 本研究では、非線形超音波現象の解明のために、超伝 導電磁石による強磁場を利用した超伝導電磁超音波送信 システムを構築し、超音波の送信をレーザー変位計によ り確認した。測定より、磁束密度と試験片表面の変位と の比例関係を確認した。今後、数値解析ソフトComWAVE を用いて超音波伝搬解析を実施し、本実験との比較を行 う。また、EMAT の非線形超音波法への適用には未だ振 幅が不十分であるため、EMAT 用コイルの形状や試験条 件の改善を推し進める。 謝辞 本研究はJSPS科研費 15K13826の助成を受けたものであ る。また、独立行政法人日本学術振興会の研究拠点形成 事業(A.先端拠点形成型)「省エネルギーのための知的層 材料・層構造国際研究拠点」の助成を得た。 参考文献 [1] 小原良和、新宅洋平、橋本真琴、堀之内聡、山中一 司、“サブハーモニック超音波フェーズドアレイ SPACE を用いた閉じたき裂の映像化”、電子情報通 信学会 信学技報、2004、pp.5-10 [2] 廣瀬壮一、酒井綾子、小倉幸夫、高橋雅和、“疲労き 裂を透過した非線形超音波の挙動について”、土木学 会第64回年次学術講演会、2009、pp.255-256 - 195 - Fig.3 Surface displacement of the specimen 4. 結言“ “超伝導電磁超音波送信システムの構築と数値解析による超音波送信特性の定量的評価“ “時田 祐樹,Yuki TOKITA,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,小原 良和,Yoshikazu OHARA
構造部材の超音波探傷試験では、溶接部残留応力やき 裂内の充填酸化物によりき裂が閉口すると、超音波の透過によりき裂深さを過小評価する可能性がある。この課題を解決する手法として、非線形超音波法が挙げられる。 閉じたき裂に入射した超音波と異なる周波数の超音波がき裂部で発生することを利用した計測法であり、非線形超音波法は超音波探傷試験の高信頼化につながる技術として、多くの研究者により研究がなされている[1,2]。特に分調波は閉じたき裂部のみから発生するため、これまでに多くの研究者により分調波の発生とき裂評価への適用が報告されている[1]。一方、定量的なモデル解析に基づく実験結果の再現に成功した例はまだない。 一方、電磁超音波探触子(Electromagnetic acoustic transducer : EMAT)は電磁現象を用いて超音波の送受信を行うものである。試験対象が非磁性の材料である場合、バイアス磁場と渦電流によるローレンツ力により、超音波を対象に直接発生させることができ、接触媒質は不要である。このため、接触媒質における超音波の減衰がなく、かつ与えた電磁力を定量的に評価することが可能である。また、圧電型探触子に比べ試験周波数を容易に制御することが可能である。以上の理由から、EMAT は非線形超音波現象を解明するためのツールとしての可能性を有する。非線形超音波法においては、大振幅の超音波を入力することが必要であり、EMATによる大振幅超音波の送信には強磁場が必要であると考えられる。しかし、 永久磁石を用いた場合、磁場強度が低く、かつEMAT は 一般に電磁機械変換効率が悪い点が課題として挙げられる。 本研究では、非線形超音波現象の解明のために、超伝導電磁石による強磁場を利用した大振幅の超伝導電磁超音波送信システムを構築する。構築したシステムを用いて超音波の送信をレーザードップラー振動計により確認するとともに、超音波伝播解析との比較によりシステムの検証を行う。
2.実験条件
超伝導マグネットを用いた電磁超音波送信システムと レーザー変位計から構成される実験体系を図 1 に示す。 連絡先: 時田祐樹、〒980-8577 宮城県仙台市青葉区 試験片側面から送信用 EMAT でパルス波を入射し、RF 片平2-1-1 流体科学研究所403、東北大学、 モニターで確認される入力電圧は 34.4V とする。入射面 E-mail: tokita@wert.ifs.tohoku.ac.jp と反対側の側面からレーザードップラー振動計による表 - 194 - 面変位の測定を行う。使用した試験片はアルミ合金 A5052の直方体で、長さ50mm、幅50mm、厚さ40mm で ある。EMATコイルの形状は径0.14mm で巻き数は80の 円形である。測定に用いる超伝導電磁石は、冷凍機冷却 超 伝 導 マ グ ネ ッ ト ( 住 友 重 機 械 工 業 ( 株 ) 、 HF5-100VT-50/50HT-2)であり、中空領域内(φ100mm)に おいて、最大5Tのほぼ一様な磁場を発生させることがで きる。試験片表面の変位測定用にはレーザードップラー 振動計(Polytec 社、OFV-505、DD-300)を用いており、 24MHzまでの広域な振動周波数に対応している。変位計 で取得した振幅データに対し、振幅1Vを50nmに換算す ることで、試験片表面の変位を得ることができる。本実 験では、超伝導電磁石による磁場の磁束密度を0.5T、0.75T、 1.0T のように変化させた場合の振幅を測定し、オシロス コープからPCに取り込む。 Fig.1 Experimental setup 3.結果と考察 図2に磁束密度0.5Tの場合の変位計により取得した振 幅波形の結果を示す。EMAT より送信された電磁超音波 の伝搬距離は 40mm で、到達時間である6μs 付近で変位 のピークが確認された。ここで、得られた振幅の peak-to-peak値を変位に換算し、変位と磁束密度との関係 を図 3 に示す。図 3 より、試験片表面の変位は磁束密度 に対して比例関係をもつことが示された。また、近似曲 線が概ね原点を通ることから、今回の測定はある程度ノ イズによる影響を抑えた測定であったとみなせる。超伝 導電磁石によって発生させる磁場について、磁束密度は 最大5Tまで発生できるため、磁束密度の増加により更に 大きな変位を得ることが可能であると考えられる。 Fig.2 Signal amplitude (B=0.5T) 本研究では、非線形超音波現象の解明のために、超伝 導電磁石による強磁場を利用した超伝導電磁超音波送信 システムを構築し、超音波の送信をレーザー変位計によ り確認した。測定より、磁束密度と試験片表面の変位と の比例関係を確認した。今後、数値解析ソフトComWAVE を用いて超音波伝搬解析を実施し、本実験との比較を行 う。また、EMAT の非線形超音波法への適用には未だ振 幅が不十分であるため、EMAT 用コイルの形状や試験条 件の改善を推し進める。 謝辞 本研究はJSPS科研費 15K13826の助成を受けたものであ る。また、独立行政法人日本学術振興会の研究拠点形成 事業(A.先端拠点形成型)「省エネルギーのための知的層 材料・層構造国際研究拠点」の助成を得た。 参考文献 [1] 小原良和、新宅洋平、橋本真琴、堀之内聡、山中一 司、“サブハーモニック超音波フェーズドアレイ SPACE を用いた閉じたき裂の映像化”、電子情報通 信学会 信学技報、2004、pp.5-10 [2] 廣瀬壮一、酒井綾子、小倉幸夫、高橋雅和、“疲労き 裂を透過した非線形超音波の挙動について”、土木学 会第64回年次学術講演会、2009、pp.255-256 - 195 - Fig.3 Surface displacement of the specimen 4. 結言“ “超伝導電磁超音波送信システムの構築と数値解析による超音波送信特性の定量的評価“ “時田 祐樹,Yuki TOKITA,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,小原 良和,Yoshikazu OHARA