六ヶ所再処理工場における保守管理改善の取り組み

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
2013年12月に原子炉等規制法が改正され、再処理工場の性能が技術上の基準に適合し、維持することを求める新規制基準(以下、「性能の技術基準規則」という。)が 施行された。一方、六ヶ所再処理工場における設備は設置から十数年経過し、経年劣化を起因とした不具合が発生しており、更に性能の技術基準規則に確実に適合する 活動を強化していく必要がある。 再処理工場においては、原子力発電所等で実施している保守管理の考え方を参考とした網羅的な保守管理を実施し、最適な保守管理を実現することにより、設備を性能の技術基準を満たすレベルを維持管理できるよう、保守管理改善の取り組みを継続して実施している。図1に性能の技術基準規則と保守管理活動の考え方を示す。
各機器の初期設置状態
▽経年劣化
経 年 原子力発電所では保守管理活動の指針として、事業者 が実施する原子力安全のためのマネジメントシステムに 基づく活動のうち、原子力発電施設の供用期間中に組織 が実施するべき保守管理の基本要件が定められている。
六ヶ所再処理工場においても図 2 に示す保守管理の実 施フローを作成し、保守管理の改善を実施している。 保全 【保全対象範囲の策定】 点検・補修等の 不適合管理 および 是正処置 【保全の実施】 【保全の有効性評価】 本要旨 2-1 【保全重要度の設定】 本要旨 2-2 2-3 【保全計画の策定】 本要旨 2-4 ・劣化メカニズム整理 ・保全内容決定根拠書の作成 【点検・補修等の結果の確認・評価】 本要旨 2-5 適切な ・点検手入れ前状態確認チェックシート ・保全内容決定表 保守管理 許容値等 図2 保守管理の実施フロー 図1 性能の技術基準規則と保守管理活動の考え方 各項目のうち、(1)保全対象範囲の策定、(2)保全 重要度の設定、(3)保全計画の策定、(4)点検・補修 連絡先:川村 優文 〒039-3212 青森県上北郡六ヶ所 村大字駮字沖付4-108、日本原燃(株) 再処理事業部 等の結果の確認・評価の進捗について、六ヶ所再処理工 再処理工場 運営管理部 生産管理課 場での保守管理改善の取り組み状況を紹介する。 E-mail:masafumi.kawamura@jnfl.co.jp - 37 - 2.六ヶ所再処理工場における保守管理の改善 2.1 保全対象範囲の策定 これまで六ヶ所再処理工場では、再処理工場を構成す る設備のうち、機器の安全上の重要度や機器が故障した 場合の再処理運転への影響度に応じて機器を選定し、保 全対象として管理していた。 しかし、性能の技術基準規則で求められる性能維持要 求のある機器を保全対象範囲とする、という観点におい ては、工場の構成設備としては把握しているが、保全対 象範囲としては十分ではない部分があった。 よって、適正な管理とするため、使用前検査の受検有 無に係わらず、再処理施設と定義されているもの全ての 設備に対し指針・規定の整理を行い、改めて保全対象範 囲として管理する必要のある設備を整理した。 【整理により、保全対象範囲として明確化した設備】 ・配管、配管付フランジ・アクセサリ類 ・ダクト ・ケーブルトレイ・電線管 保全対象範囲として明確化した設備について、改めて 設計図書によるリスト化を行った。 その結果、従来は六ヶ所再処理工場の保全対象範囲と して管理するべき設備数を合計約15万としていたが、約 46 万点の機器を保全対象範囲として管理下に置くことと した。 2.2 保全重要度の設定 保守管理の改善活動における保全重要度の設定の目的 は、保全重要度のグレードに応じ保全対象機器の保全方 式を予防保全、事後保全に適切に振り分けた後、保全重 要度に応じた適正な保守管理を行うことであり、従来よ り六ケ所再処理工場の安全性を確保する上で重要と判断 する機器は保全重要度を高く設定していた。 しかし、「保全対象範囲の策定」と同様に、性能の技術 基準規則で求められる性能維持の要求がある機器に対し、 適正な保全重要度を設定し、保全重要度に応じた適正な 保守管理を行う、という観点においては、十分ではない 部分があった。加えて、重大事故等対処設備を考慮する 点、人身・環境への影響を考慮する点についても改善の 余地があった。 よって、「保全重要度設定フロー」の見直しを行い、下 記の4点を考慮して改めて設定し直すことした。 【保全重要度設定フローにおいて新たに見直した観点】 a.重大事故対処設備は予防保全とすること。 b.設工認を申請し使用前検査を受検した機器は予防保 全とすること。 c.性能技術基準規則で性能を要求される機器は予防保 全とすること。 d.故障が生産性、人身、環境に影響する機器は予防保全 とすること。 図3に、従来の保全重要度設定フローを、図4に改善後の 保全重要度設定フローを示す。 性能に係る技術基準に関する規則 の要求性能があるか 図4 改善後の保全重要度 設定フロー 従来の設定フローで考慮すべき観点としていた、安全 機能の観点および施設の生産性への影響については改善 後も残しつつ、新たに見直した観点a~dを取り込んだフ ローに改善した。 また、法令点検機器、保全重要度の高い機器を隔離す る際に使用するバルブ等、予防保全としての管理が適す る機器を考慮できるよう、フローを見直している。 - 38 - 保全重要度 5 予防保全 事後保全 図3 従来の保全重要度 設定フロー 保全対象範囲 安重機器また は重大事故等 ※1 【観点a】 No フロー見直しで 追加された観点 : 対処設備か ※1:重大事故等対処設備を追加 Yes 機能喪失により No 安重機器の機能等 ※2:人身、環境への影響を追加 に影響を及ぼすか Yes No Yes No Yes ※2 No Yes 事後保全よりも No 予防保全の方が適切か Yes保全重要度 Yes 1 【観点b】 設計及び工事の方法の認可申請書 を申請し、使用前検査を受検したか 【観点c】 【観点d】 機器の機能喪失が 施設の生産、人身、環境へ 影響を与えるか 保全重要度 2 保全重要度 3 保全重要度 4 2.3 性能維持を求められる機器の整理結果 見直しした設定フローに基づく保全重要度の設定結果 の例を以下の表1に示す。これまで事後保全として管理し ていた機器を、予防保全機器として適正に管理していく。 表1 性能維持を求められる機器の整理結果(例) 従来 改善後 化学薬品系統 第12条(材料及び構 造) 【保全内容決定表の作成時に考慮する観点】 a.保全タスク根拠 「劣化事象と保全タスク」を基に、部位毎に実施す べき保全タスクを選定する。 b.保全方式根拠 選定する保全方式を記載する。また、劣化事象を あげたが、点検できない・実績や技術情報から劣化 が生じない等の理由により、点検を実施しない場合 はその旨を明記する。 c.保全周期根拠 保全タスクを実施すべき周期を選定する。また、 周期の理由(根拠)も記載する。 1383-P3111#001 建屋 系統 機器番号 機種コード 機種名 まとめ表No. KA 1713 P1121#001 M030008B 遠心ポンプ(横軸)本体 No.B01-05 1 ポンプ容量と揚程の 確保 主軸 ステンレス鋼 (SUS304) 純水 摩耗 保全重要度 対象系統 関連条文 検査対象機器 要求機能 ・弁、ポンプ、フランジ等のシール部を有 する機器(液張り状態) ・配管類 2.4 保全計画の策定 保全計画の策定にあたり、従来は設備の点検頻度、点 検内容の設定にあたっては、先行再処理プラントの実績、 プラントメーカの推奨内容等を考慮して点検項目とその 頻度を設定し、適正化を継続的に実施していた。 さらなる点検項目とその頻度の適正化に向けて、以下 に示す改善を行った。 【保全計画の策定において新たに見直した観点】 a.新たに設定された保全重要度を勘案すること。 b.網羅的に劣化故障モードを考慮すること。 c.劣化故障モードにこれまで発生した不適合を追加 すること。 【見直した観点を反映する様式】 1劣化メカニズム整理表 対象機器の部品毎に発生することが考えられる劣 化故障モードを網羅的に整理し、劣化故障モードに 対して実施すべき保全タスク(劣化の状況を確認で きる点検方法)を整理する様式。 2保全内容決定根拠書 整理された劣化故障モードに対し、有効な保全タ スク・保全方式・保全周期の根拠を整理する様式。 図5に劣化メカニズム整理表の作成例を、図6 に保全内 容決定根拠書の作成例を示す。作成した保全内容決定根 拠書に基づき点検計画が策定されることで、点検項目と その頻度の適正化が図られる。 バウンダリ維持 BまたはC 1または2 蒸気・水系統 第12条(材料及び構 造) 弁、ポンプ、フランジ等のシール部を有 する機器(安全蒸気系以外の系統) ・配管類 バウンダリ維持 AからC 1または2 逆止ダンパ・弁 第15条(換気) 逆止ダンパ 流体の逆流防止機能 第25条(廃棄施設) C 1または2 第13条(閉じ込めの機 能) 逆止弁 流体の逆流防止機能 C 1または2 防火ダンパ 第4条(火災防止) 防火ダンパ 火災拡大防止 C 1または2 HEPAフィルタ 第15条(換気) 第25条(廃棄施設) HEPAフィルタ DF性能の確保 AからC 1または2 電気設備、計装設備の 静的機器 第22条(計測制御系統) 第23条(安全保護回路) 等々 計装ラック、スタンション 所定の機能の維持 C 1または2 電気設備、計装設備の 静的機器 第22条(計測制御系統) 第23条(安全保護回路) 等々 ケーブルトレイ、電線管 所定の機能の維持 C 1または2 対象機器の部品毎に発生 することが考えられる劣化 故障モードを網羅 劣化故障モードに対して実 施すべき保全タスクを整理 機器名称 第1高レベル濃縮廃液貯槽冷却水Aポン プA本体 No. 機能達成に 必要な項目 部位 材料 環境 経年劣化事象 有効保全項目 備考 劣化メカニズム整理表より 保全内容決定根拠書に 転記する箇所 図5 劣化メカニズム整理表の作成例 劣化メカニズム整理表の情報 部位ごとに保全タスク、方式、周期 とその根拠を整理する。 摩耗 分解点検(目視 点検) TBM 5年 No.1 2 ポンプ容量と揚程の 確保 主軸 ステンレス鋼 (SUS304) 純水 疲労割れ(高サイ クル疲労割れ) 分解点検(目視点 検),分解点検(寸 法測定) No.2 3 ポンプ容量と揚程の 確保 主軸 ステンレス鋼 (SUS304) 純水 分解点検(目視点 検),非破壊試験 (PT) 疲労割れ(フレッ 分解点検(目視点 No.3 ティング疲労割 検),非破壊試験 れ) (PT) 機機器 能 部位 材料 環境 事象 有効保全内容 保全タスク 保全方式 周期 根拠 第1高レベル濃縮廃液貯槽冷却水AポンプA本体 ポ主軸 ステンレ 純水 ンス鋼 プ(SUS304 容) 量と揚程の確保 長期間の運転により摩耗が想定される。取 扱説明書では、点検は連続運転で1年周期 を推奨している。現状5年周期で点検を実 施しており推奨周期を超過している。しか し、過去の点検において当該部位の劣化 現象が見られないことから点検周期5年と する。 疲労割れ(高 サイクル疲労 割れ) 長期間の運転により疲労割れ(高サイクル 疲労割れ)が想定される。取扱説明書で は、点検は連続運転で1年周期を推奨して いる。現状5年周期で点検を実施しており 推奨周期を超過している。しかし、過去の 点検において当該部位の劣化現象が見ら れないことから点検周期5年とする。 疲労割れ(フ レッティング 疲労割れ) 分解点検(目視 点検) TBM 5年 長期間の運転により疲労割れ(フレッティン グ疲労割れ)が想定される。取扱説明書で は、点検は連続運転で1年周期を推奨して 非破壊試験(PT) TBM 5年 いる。現状5年周期で点検を実施しており 推奨周期を超過している。しかし、過去の 点検において当該部位の劣化現象が見ら れないことから点検周期5年とする。 図6 保全内容決定根拠書の作成例 - 39 - 2.5 点検・補修等の結果の確認・評価 現在、保全計画(保全頻度、保全内容)が適切である かどうかを評価するために、分解点検時に点検手入れ前 データを採取する。設備の劣化程度の確認及び分析評価 を行い、その結果をもとに点検頻度等への保全計画に反 映している。図7に保全内容変更検討書の例を示す。 変更のインプット情報 設備が停止している等の理由で点検時 期を変更する場合に根拠を記載する。 図7 保全計画変更検討書 保全内容の最適化として、保全業務の PDCA サイクル を確実にまわし、点検手入れ前データの評価や過去の不 適合情報、運転時のトラブル情報、その他学術研究成果 等を参考とし、設備状態を的確に評価することで、保全 内容(点検頻度や点検内容)の最適化を進めている。図8 に保全業務のPDCAサイクルを示す。 従来より実施しているPDCA サイクルの考え方を継続 して実施することに変更は無いが、「保全計画の策定」に て改善した、網羅的に整理した劣化故障モードに基づき 機器を評価することで、より適切な保守管理を実現でき るよう、充実化が図られた。 図8 保全業務のPDCA サイクル 保全方式、点検内容、点検周期の変更根拠 について、以下を考慮し検討する。 ・保全データの推移(As found data含む) ・過去の不適合情報、運転時のトラブル情報 ・その他学術研究成果 など 3.今後の取り組み 保守管理の実施フローに基づく保全業務の厳格な運用 管理(取り組み1)を行い、各設備の保全内容の更なる 最適化(取り組み2)を継続して実施していく。最適化 の継続にあたり、保全業務システムを構築(取り組み3) することで、保全業務への更なる支援を図っていく。 「再処理工場 保守管理要領(仮称)」を制定し、 「P:保全対象範囲の策定」、「P:保全重要度の設定」、 「P:保全計画の策定」、「D:保全の実施」、「C: 点検・補修等の結果の確認・評価」、「A:点検・補修 等の結果の確認・評価」、「A:点検・補修等の不適合 管理及び予防処置」、「A:保全の有効性評価」及び「保 守管理の有効性評価」に係る事項について、明確化す る。 取り組み2:各設備の保全内容の更なる最適化 PDCAサイクルを継続し、改善を進めていくことで、 最適化を図る。 ・更なるCBM化 ・劣化メカニズムに応じた点検内容の最適化 等 取り組み3:保全業務システムの改修 本格的な保全業務システムの構築を進めるため、現 在、エクセルを用いた簡易ツールで管理している「保 全に関する情報(設備仕様、点検計画表、保修実績管 理表)」について、約 46 万の機器の管理に向けデータ ベース化を優先して実施している。 - 40 - 取り組み1:改善を推進するための明確なルール化 4.参考文献 [1]尾形 圭司、北条 隆志、日本原燃(株) 「六ヶ所再処理工場の設備の保全」 日本保全学会 第11 回 学術講演会要旨“ “六ヶ所再処理工場における保守管理改善の取り組み“ “川村 優文,Masafumi KAWAMURA,尾形 圭司,Keiji OGATA,新岡 将,Tadashi NIIOKA,須田 憲司,Kenji SUDA
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