過酷事故環境用高温型MIケーブルの開発

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
平成26年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」[1]において、いかなる事態においても国民生活や経済活動に支障がないよう、エネルギー需給に万全を期す事が 示されている。一方、安全が確認された原子力発電所については重要な電源として活用する事が示されている。 既設の原子力発電所については、安全第一の原則に基 づき、原子力規制委員会が科学的な安全基準に基づいて 安全と認めた場合には再稼働を進める事としている。原子力の安全確保は至上命題であり、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、シビアアクシデント対策として安全対策の高度化を進め、原子力発電所でシビアアクシデントが発生した時でも、事象進展を迅速かつ的確に把握する為に、プラント状態の監視能力を向上させることが重要である。 本報告は、過酷事故環境下においても確実に炉内のデータを伝送できる計測線の開発の現状についてまとめたものである。
2.炉内過酷事故環境用高温型MIケーブルの開発目標と計画
過酷事故環境下において利用する炉内計測線の概要を図1に示す。計測線は、BWRの原子炉圧力容器内(RPV)やPWRの原子炉容器(RV)内の温度、圧力、水位等 の計測データが炉心溶融時にも破損せず、監視するものでなければならない。この炉内計測線の開発にあたっては、原子炉内での設置場所及び過酷事故が起こった際の使用環境の設定を行う必要がある。 事故事象を想定した特殊環境条件の設定を表1[2]に、炉内計測線に要求される想定事故及び製作条件を表2に、その開発目標を表3に示す。計測線の開発目標は、表1 に示した過酷環境でも、より精度の高いデータを伝送で きる様にすることである。 具体的には、耐熱性の高い無機絶縁ケーブル(MIケ ーブル)を選定し、放射線の影響を低減するために、放射化断面積が小さい材料で 1000°Cに耐え、水蒸気を伴う酸化雰囲気でかつ核分裂物質の被毒にも耐える計測線でなければならない。この計測線の開発計画を図2に示す。 表3 炉内計測線の開発目標
基盤技術課題 目標 目標の設定理由 (1)原子炉情報伝送の要素技術 a.炉内特殊環境伝送技術開発
事故発生時の炉心近傍 の過酷環境(高温・高放 射線等環境下)でもその機能を失わずに使用可能 な信号線を開発する。 原子炉内に設置した計測機器に用いる計測線 に対し、炉心溶融を想定した環境での計測データ (温度、水位、圧力等)を正確に伝送可能な信号線を開発し、開発した計測線の高温(1000°C)・ 高放射線(108Gy)環境での特性を評価する。
表2炉内計測線に要求される想定事故及び製作条件 (信号線) 特殊環境伝送技術 格納容器 圧力容器 計測器
図1 開発する炉内計測線の概要
表1 事故事象を想定した特殊環境条件の設定 原子炉圧力容器等 【測定データ】 ・温度 ・冷却水の水位 ・中性子・γ線強度
など。
年 度 H24 H25 H26 H27 H28 炉内特殊環境伝送技術
(a) 高温用計測線の仕様決定と試作 (b) 炉外試験装置の準備 (c) 照射試験用計測線の製作 (d) 照射試験準備 (e) JMTR照射試験
図2 基盤技術開発の年度別計画
3.過酷事故環境用高温型MIケーブルの開発
成果 3.1 高温試験
過酷事故を想定した過程で、軽水炉内部が運転温度から 1000°Cまでに注水による冷却と昇温を繰り返した場合、高温型MIケーブルの絶縁特性や導通抵抗等の高温特性がどの様に変化するかを確認する試験を実施した。この試験に於いてシース材の酸化などの影響を無くし、高温型MIケーブルの絶縁特性や導通抵抗等の温度による影響を調べるため、真空中での昇降温試験を実施した。試験は、PWRの定常運転温度(325°C)から1000°Cまでの昇降温を繰返した温度条件を設定した(図3参照)。325°CにおけるMIケーブルの体積固有抵抗(絶縁抵抗)及び導通抵抗の測定結果を図4に示す。その結果、MIケーブル内の熱電対素線は断線も無く、絶縁抵抗は高く、導通抵抗も一定に維持されていることが分かる。 次に、MIケーブルを 600~1000°Cの高温大気中(湿度30~50%)に約 15 日間保持し、絶縁抵抗特性や表面状態の変化を調べた。その電気的特性結果を図5に示す。この結果、800°C以下の高温大気中では、SUS316及びNCF600シース材とも15日間の連続計測はできたが、1000°CでのSUS316シース材のMIケーブルは、約60時間から絶縁が低下し始め、約100時間で計測ができなくなった。 1000°Cの高温大気中にMIケーブルを約15日間保持後のシース材の外表面写真を図6に示す。その結果、SUS316シース材は破損し、絶縁材が露出したため、計測不能と なったものと考えられる。
10001000°C 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 800 750°C 600500°C 400200室温 0 400 600 経過時間(h) 図3 真空中における昇降温試験の加熱条件
325°C ※:第1~5回耐熱試験 温度:1000°C(最大)、加熱時間 :約10時間 0 200 800 1000 2※:φ1.6mmも同様な傾向400 350 図5 大気中1000°Cの加熱試験中の電気的特性結果 101510141902/10/091012101110101900/04/181900/04/170 200 400 600 800 1000 図4 真空中における昇降温試験の電気的特性結果 φ3.2mm φ3.2mm (NCF600/ Al2O3) (NCF600/MgO) φ1.6mm (SUS316/ Al2O3) φ3.2mm φ1.6mm (SUS316/ Al2O3) (SUS316/MgO) φ3.2mm (SUS316/MgO) 図6 大気中1000°Cの加熱試験後の外観写真 表4 SUS316とNCF600の酸化速度(1015°C) 1091081071061051010990:NCF600-MgO :NCF600-Al2O3 10000 50 100 150 200 250 300 経過時間(h) 加熱条件 :325°C(真空中) MIケーブル:K型熱電対(直径3.2mm) 固有抵抗 導通抵抗 シース材 絶縁材 ※:第1~5回耐熱試験 加熱条件 :1000°C SUS316 Al2O3 NCF600 Al2O3 加熱時間 :約10時間 NCF600 MgO シース径:φ3.2mm SUS316(MgO, Al2O3) 絶縁劣化 SUS316(Al2O3) 指示値低下 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 SUS316(Al2O3)導通抵抗の変化 SUS316(MgO)温度計測不能 0102030 MgOについて、体積固有抵抗が向上 :SUS316-MgO :SUS316-Al2O3 φ1.6mm (NCF600/ Al2O3) 3015SUS316 0 NCF600 MgO Al2O3 φ1.6mm (NCF600/MgO) 水蒸気によるシース材(SUS316とNCF600)の酸化特性を 明らかにするために、TG-DTA 装置を用いて、酸化速度を 評価した(表4参照)。試験条件は、20%O2 雰囲気と 20%O2 +H2O(90°CD.P.)雰囲気とした。その結果、水蒸気の添加 により酸化が増大すること、大気中 1000°Cで酸化による 破損が起こる可能性があることを明らかにした。 3.2過酷事故環境用高温型MIケーブルの開発成果 (1) FPガス環境下の模擬試験 過酷事故時の雰囲気にはヨウ素(I2)やセシウム(Cs)等 の核分裂生成物が含まれるため、シース材の被毒性(腐 食)を調べた。試験に先立って、シース材とI2、CsI 及び CH3I の被毒性を評価した。その結果、I2ガスの被毒性が 非常に大きいことから、模擬試験は I2で行った。まず、 700°C×24 時間、「空気+I2雰囲気(I2圧力54mmHg)」に暴 露した結果、SUS316 の腐食厚みは30~40μm、NCF600 の 腐食厚みは3μmであり、SUS316 の被毒性が大きかった。 次に、過酷事故環境模擬条件として、「0.0017%I2+ 1.4%H2O+38.4%CO+2%O2(ベースガス:N2)」で行った。 過酷事故環境模擬条件における腐食試験の概略図を図7 に示す。SUS316及びNCF600の表面観察結果を図8に示す。 この結果、SUS316表面の腐食生成物は剥離を観測したが、 NCF600表面の腐食生成物は薄く、剥離はなかった。 ヨウ素 (H2O+CO+O2) 試験容器 N2 電気炉 図7 過酷事故環境模擬条件における腐食試験の概略図 ヨウ素単体条件 過酷環境模擬条件 SUS316 NCF600 腐食生成物の剥離 図8 過酷事故環境模擬条件での外観写真 3 - 389 - 2mm 2mm 2mm 2mm (2) 放射線照射場での特性試験 ガンマ線照射下における絶縁材の照射誘起伝導を調べ るために、Co-60 照射施設のホットセル内に試験装置を設 置し、照射試験を行った。γ線照射試験の概略図(シー ス材の酸化防止の為、電気炉内部不活性ガス雰囲気)を 図9に、その結果を図10に示す。この結果、放射線に よる絶縁抵抗への照射誘起伝導の影響は約 300°Cまでで あり、過酷事故を想定した1000°Cでは温度による絶縁抵 抗の低下の寄与が大きいことを明らかにした。 図9 ホットセル内γ線照射試験の概略図 図10 γ線環境下における電気的特性結果 4.カタログ化へ向けた評価 MIケーブルを構成する芯線や絶縁材やシース材等に ついて、軽水炉定常運転時から過酷環境(高温、高圧、水、 高放射線環境等)を模擬した状態まで特性試験を実施し、 過酷事故模擬環境下における信号線の健全性について、 カタログ化へ向けた評価を行っている。その評価結果(中 間まとめ)を表5に示す。 本報告では割愛したが、定常運転時においては、SUS316 及び NCF600 をシース材とするMIケーブルは問題なく、 長期使用が可能であることが再確認できた。 一方、過酷事故を想定したMIケーブルの特性試験に Φ1.6mm、NCF600(シース材) 300°C 絶縁材の材質 :Al2O3 :MgO(高純度) :MgO 1000°C おいて、SUS316 シース材は、割れ・破損が生じ、絶縁が 劣化し、1000°C×3日間の使用が困難であることが明らか になった。一方、NCF600 シース材は、過酷事故時の雰囲 気に於いても健全性を保ちシース材としての優位性が明 らかになった。 表5 高温型MIケーブルのカタログ化へ向けた評価結果 (中間まとめ) NCF600 をシース材とするMIケーブルが、過酷事故環 境でも使用できる高温型MIケーブルとして、提案でき る見通しが得られ、今後カタログ化へ向けた仕様につい てまとめていく予定である。 謝 辞 本研究開発は、経済産業省資源エネルギー庁の受託「発 電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業(特殊環 境下で使用可能な監視システム高度化)」の成果であり、 関係各位に感謝します。 参考文献 [1] 平成26年4月11日閣議決定,エネルギー基本計画, http://www.enecho.meti.go.jp/category/others /basic_plan/. [2] 日立GEニュークリア・エナジー株式会社,株式会 社東芝, 三菱重工業株式会社編,「過酷事故用計装シ ステムに関する研究(フェーズI)概要説明資料」,SA 計装開発情報:クラスC, 2012 年 5 月,資源エネルギ ー庁技術アイデア公募説明資料(平成 24 年 6 月 29 日), http://www.enecho.meti.go.jp/notice/event /029. 4 - 390 - 5.おわりに“ “過酷事故環境用高温型MIケーブルの開発“ “三浦 邦明,Kuniaki MIURA,柴田 裕司,Yuuji SHIBATA,鬼澤 達也,Tatsuya ONIZAWA,中野 寛子,Hiroko NAKANO,武野 尚文,Takafumi TAKENO,武内 伴照,Tomoaki TAKEUCHI,土谷 邦彦,Kunihiko TSUCHIYA
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