耐放射線性カメラ用撮像素子のγ線照射効果

公開日:
カテゴリ: 第13回
1. 緒言
東京電力株式会社福島第一原子力発電事故で得られた 教訓から、既設原子力発電所の安全対策高度化として、プラント状態の情報把握能力の向上が必要不可欠である。 これまで、既存高感度ハイビジョン型カメラについて、γ線照射試験を行った結果、画像にノイズが発生し、被写体が写らない現象が発生した。この主要因は撮像素子内の暗電流増加によるものと考えられた。そこで、暗電流を抑制するため、構造の異なるカメラ用撮像素子を試作し、γ線環境下における特性を調べた。その結果、200kGyにおいても十分に使用可能見通しを得た。 次章以降で、これらの技術開発状況について報告する。
2. 既存カメラのγ線照射試験
Fig.1に示すように、一般的な3板型ハイビジョンカメ ラは、レンズとプリズムからなる光学系、撮像素子と、 映像処理や映像出力を行う信号処理系で構成される。 耐放射線性カメラの開発を行うにあたり、課題の明確 化のため、既存の高感度 3 板型ハイビジョンカメラの 60Co線源によるγ 線照射試験を実施した。 γ 線照射前の画像をFig.2(a)に示す。照射室内のナトリ ウム灯の影響で黄色味がかっているが、正常にテストチ ャートの画像が取得できている。試験開始直後から、画 像に白点ノイズが急激に増加した。積算線量が増加する につれ白点ノイズも増加していき、積算線量74 [Gy] 時 点でFig.2(b)の画像となった。さらにγ 線の照射を継続す 連絡先: 田中 茂雄、〒210-9533 川崎市川崎区塩浜 るとFig.2(c)に示すように画像がノイズで埋もれ、被写体 4-13-15、 池上通信機株式会社、 の判別が不可能となった。この現象から検討を行い、撮 E-mail: tanaka-si@ikegami.co.jp 1 - 391 - Fig.1 Structure of three-sensor type hi-vision camera (a) 0 [Gy] (b) 74 [Gy] (c) Upper 74 [Gy] Fig.2 Pictures of test chart 像素子内の暗電流増加がカメラ劣化の主要因であると推 測した[1]。このことから γ 線環境において暗電流発生を 抑制できる撮像素子の開発を開始した。 3. 画素回路の構造 撮像素子の画素回路にはFig.3 に示すように、(a) 3 ト ランジスタ(3Tr)型と(b) 4トランジスタ(4Tr)型の2つの構 造がある。3Tr 型はフォトダイオードに蓄積した電荷を リセットするリセットゲート、蓄積した電荷を読み出す 選択ゲート、電荷増幅のアンプと1画素内に3 個のトラ ンジスタが組み込まれている。画素の構造が簡単で、初 期のCMOS イメージセンサに多く使われていたが、後述 する 4Tr 型に比べノイズが多く、近年はあまり採用され ない。 4Tr 型は 3Tr 型の構造に加え、転送ゲートと呼ばれる トランジスタが1つ追加されている。これによってフォ トダイオードをリセットした際の残存電荷を検出し、リ Fig.3 Pixel circuits of image sensors セットノイズ補正が可能で3Tr 型よりもノイズが少な い。 通常の環境下では 4Tr 型が優位であるが、3Tr 型の単 純構造が放射線による影響を受けにくい可能性を考慮し 本研究ではこの2つの構造を評価対象とした。 4. 光電変換素子の構造 Fig.4(a)に示すように、光電変換素子にγ 線を照射する と、表面の厚い酸化膜内に正孔が蓄積され、暗電流発生 の原因になる[2]。 この正孔の蓄積を低減するため、Fig.4(b)に示すように 光検変換素子の上部に薄い電極を配置するフォトゲート (PG)構造を採用した。ただし、PG 構造は光を吸収するた め、感度低下の懸念がある。そこで、光電変換素子の上 部ではなく側面で暗電流の発生を抑制するフィールドプ Fig.4 Structure of photoelectric conversion element - 392 - 1900/01/01レート(FP)構造についても評価対象とした。 Fig.5 に、通常のフォトダイオード構造とFP 構造の違 いを示す。Fig.5(a)に示す FP 無しの通常構造の場合、半 導体表面でフォトダイオードの端に空乏層が存在する。 通常動作では問題ないが、γ 線照射時には γ 線が持つエ ネルギーによって空乏層の電子が過剰に励起される。そ のため、半導体表面にあふれた電荷はフォトダイオード に流れ込み、暗電流が増加する。 一方、Fig.5(b)に示す FP 構造では、フォトダイオード の端をP層でガードし、空乏層が半導体表面に現れない ようにしている。また、γ 線によるフォトダイオード表 面の正孔蓄積に対しては、半導体表面に配置した FP 電 極によって電荷を接地電極へと逃がすことができる。 Fig.5 Structure of photo diode 5. 実験 撮像素子のトランジスタ及び光電変換部について 3Tr 型でFP構造を有する素子 (3TPD)、同型でフォトゲート を有する素子 (3TPG)及び 4Tr 型でフォトゲートを有す る素子(4TPG) を試作した。これらに対してγ 線の照射中 の暗電流と照射後の光電変換感度を測定した。 試験系を Fig.6 に示す。撮像素子と信号処理系を分離 した構造とし、信号処理部を鉛ブロックで遮蔽しながら、 撮像素子に対してのみγ 線照射を行うことを可能とした。 6. 結果・考察 Fig.7 に暗電流及び光電変換感度の照射量依存性を示 す。照射前は、4TPG の暗電流が 3TPD 及び 3TPG に比 べて1 桁小さかった。また、光電変換感度は4TPG 及び 3TPG が 3TPD よりも 2 倍程度大きかった。一方、照射 後は、4TPG の暗電流は急激に増加し、50kGyまでに3Tr 型を上回るとともに、50kGy以上では出力最大値、すな わち飽和レベルにまで達した。照射前に対する50kGy 時 の増加率で比較すると、4TPG は、3TPG 及び3TPDより もそれぞれ約70倍及び60倍であった。光電変換感度は、 4TPG は上述の暗電流の急増によって50kGy 以上では光 電変換感度がほとんど無くなったが、3Tr 型では 70kGy 照射後も感度をもち、3TPGのほうがわずかに高かった。 これらの結果から、γ 線照射前は 4Tr 型の方が良い特 性を示すが、γ 線照射下においては 3Tr 型が有利である ことが判明した。また、同じ3Tr 型でも表面に厚い酸化 膜を持つフィールドプレート型よりも、酸化膜の薄いPG 型の方が、γ 線照射による表面酸化膜内の正孔蓄積を抑 制し、暗電流を軽減できることが判明した。 次に、3TPG と4TPGのγ 線照射前後の画像をFig.8 に 示す。4TPG の照射前(Fig.8(a))では正常な画像が出力され ているが、積算線量200 kGy時点(Fig.8 (b))では暗電流が 増加し、ダイナミックレンジが失われた。一方、3TPG では、照射前(Fig.8 (c))は4TPG 同様にクリアな画像が出 力されており、積算線量200 kGy時点(Fig.8(d))でも、暗 電流増加により白浮きが発生しているものの、被写体は 十分に認識可能な画質である。また、照射前に白色であ った箇所が灰色として映っている。これはγ 線照射によ って飽和レベルが低下しているためである。Fig.9に示す 光電変換特性からも、照射量が増えるにしたがって飽和 レベルが低下することがわかる。しかし、照射前の半分 程度は維持されており、信号処理系で増幅を行うことに より画像コントラストは十分に確保することができると 考えられる。 Fig.6 Test environment of image sensor - 393 - 1900/01/02Fig.7 Absorbed dose dependence of dark current and sensitivity of photoelectric conversion (a) 4TPG 0 [Gy] (b) 4TPG 200 [kGy] (c) 3TPG 0 [Gy] (d) 3TPG 200 [kGy] Fig.8 Pictures which was taken in 4TPG and 3TPG Fig.9 Photoelectric conversion properties of 3TPG - 394 - 4今回、もっとも良い特性を示した3TPG 型であるが、 暗電流低減のため、フォトゲートに負電圧を印加してい る。その結果、暗電流は低減したが、同時に撮像素子の 飽和レベルが低下した。そこで、リセットゲート電圧を 上げて飽和レベルの維持を試みたが、暗電流が増加した。 3TPG 型については強い電界が発生しない構造の検討 を行い、TAT効果に起因する暗電流低減と映像信号の飽 和レベル確保の両立を図る。 謝 辞 本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事 業として実施している「発電用原子炉等安全対策高度化 技術基盤整備事業(特殊環境下で使用可能な監視システ ム高度化)」の成果である。 7. まとめ 耐放射線性の向上を狙った撮像素子の検討を行い、3 種類の撮像素子を設計・試作した。その結果、3Tr 型か つフォトゲートゲートを有する撮像素子はγ 線による暗 電流の増加を軽減できることから、積算線量200 kGy に 達しても十分なダイナミックレンジを維持可能であり、 105Gy レベルの耐放射線性を有する監視カメラの開発に 目途を付けた。 8. 今後の展開 これは、フォトゲートに負電圧を印加する事で、電荷 検出部とフォトゲートの間の電位差が大きくなることで 強い電界が生じ、TAT(Trap-assisted tunneling)効果に由来 する暗電流が発生したためだと考えられる。 参考文献 [1] T. Takeuchi et al., Proc. 6th International Symp. on Material Testing Reactors(2013) [2] D. Burt et al., Proc. SPIE, “Improving radiation tolerance in e2v CCD sensors” vol.7439_02,(2009)“ “耐放射線性カメラ用撮像素子のγ線照射効果“ “武内 伴照,Tomoaki TAKEUCHI,大塚 紀彰,Noriaki OTSUKA,土谷 邦彦,Kunihiko TSUCHIYA,田中 茂雄,Shigeo TANAKA,小沢 治,Osamu OZAWA,駒野目 裕久,Hirohisa KOMANOME,渡辺 恭志,Takashi WATANABE,上野 俊二,Shunji UENO
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)