突合せ配管内壁からのレーザ溶接部分に対する EMAT 探傷の試み
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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
近年のレーザ光技術の発展は目覚ましく、広く産業に応用されている。日本原子力研究開発機構レーザ共同研究所においてもこれまでにレーザを用いた原子力プラントの保守・保全技術の開発を行っており[1-2]、安全・安心な社会の構築に貢献してきた。そのなかでも配管のレーザ溶接技術は、遠方から操作可能であること、溶接状況やレーザ照射位置をモニタしながら作業可能であること、従来のアーク溶接のような感電災害やヒュームへの曝露がなく作業者の安全確保が容易であることから、プラントメンテナンス技術の一翼を担うと期待される。
Fig.1 (a):Laser Beam Welding Torch, (b):Operation Screen
Fig. 1 にこれまでに開発した配管突合せ溶接に使用するレーザ溶接トーチと溶接モニタ画面を示す。 レーザ溶接技術が広く応用されるにつれて、それらの溶接線を有する配管の数は増大していくと考えられる。一方、これらの溶接品質は現状目視点検するほかなく、遠隔操作・常時設置可能な溶接品質評価技術が望まれる。 本報告ではこれら配管のレーザ溶接線に対して高速・広範囲の非破壊評価が可能なガイド波検査を行い、溶接品質と検出信号の相関について調査する。ガイド波がレーザ溶接線の品質評価スクリーニングに対して適用可能であるかを検討する。
2.突合せ溶接配管の作成
突合せ溶接配管の作成方法は、同径、同肉厚のSS400炭素鋼配管を2つ用意し、突合せた後、配管内部にレーザ溶接用トーチを挿入する。トーチより配管内側の突合せ部に対してレーザを照射し、溶接する。実験に用いる突合せ溶接配管を Fig.2 に示す。配管肉厚は, 1.6[mm], 2.3[mm]の2種類用意し、レーザ溶接後の配管長手方向長さは 1.3[m]とする。突合せ溶接する配管の(a) (b)エッジはグラインダを用いて荒くし、溶接品質が低下するようにした。レーザ溶接線は配管終端から300[mm]の位置に設定し、レーザ源にはIPG-YLR-300 - AC(CW/300[W])を使用した。Fig.2 Schematic illustration of the Laser Beam Butt Welding and the actual test pipe. Fig.3 Overview of the Guided wave testing system 3.ガイド波検査システム 本報告で使用する EMAT ガイド波検査システム[3] を Fig.3 に示す。ガイド波送受信素子として EMAT を 使用した。EMATは2つの磁石とレーストラック型コ イルを用いた、いわゆるSH波型EMAT とし、磁石に はサマリウムコバルト磁石を使用した。送受信用とも に 8 個ずつの EMAT を配置し、T(0,1)モードガイド波 を励起させるため、磁束方向は配管円周方向となる向 きとした。 4.実験結果 Fig.4 にレーザ突合せ溶接線のガイド波探傷実験結 果を示す。Fig.4 (a)が配管肉厚1.6[mm], Fig. (b) が配管 肉厚2.3[mm]である。Fig.4 中の点線で囲った波束は不 感帯である。次に励起したガイド波束が受信位置で直 接観測される波束、レーザ溶接線の検出信号、配管端 からの反射信号となっている。配管肉厚 1.6[mm]、 2.3[mm]いずれの場合においてもレーザ突合せ溶接線 検出信号は明瞭に検出できており、ガイド波によるレ Fig.4 Comparison of guided wave signals. (a) is of 1.6[mm] thickness pipe and (b) is of 2.3[mm]. 一方、レーザ溶接線検出信号強度は、配管肉厚に応じ て異なっており、肉厚が薄い場合の方が検出信号強度は 小さくなっている。また、レーザ溶接線を目視で確認す ると、肉厚1.6[mm]の方がより荒く2.3[mm]の方が均一な 接合をしており溶接品質の良い場合の方が検出信号強度 は大きくなっている。鋭利な配管端面を高品質でレーザ 溶接した検出信号との比較については発表時報告する。 今後の課題として、配管肉厚、溶接品質などガイド波 検出信号に影響を与えるパラメータの抽出と整理が挙げ られる。 謝辞 本研究では神戸大学大学院システム情報学研究科小林・ 中本研究室の実験装置を借用した。ここに謝意を示す。 参考文献 [1] 寺田, 西村ら, “レーザー加工トーチを用いた配管表 面肉盛溶接技術の研究”, 保全学, Vol. 13, No. 4, 2015, pp.87-94. [2] A. Nishimura, et al, “Demonstration of Heat Resistant Fiber Bragg Grating Sensors Based on Femtosecond Laser Processing for Vibration Monitoring and Temperature Change” , JLMN, Vol. 9, No. 3, 2014, pp. 221-224. [3] A. Furusawa, et al., “Mode control of guided wave in magnetic hollow cylinder using electromagnetic acoustic transducer array”, NET, Vol. 47, No. 2, 2015, pp. 196?203. ーザ溶接線の検出が可能であることが確認できた。 (a) (b) - 420 -“ “突合せ配管内壁からのレーザ溶接部分に対する EMAT 探傷の試み “ “古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,鳥本 和弘,Kazuhiro TORIMOTO,竹仲 佑介,Yusuke TAKENAKA,西條 慎吾,Shingo SAIJO,外山 亮治,Ryoji TOYAMA
近年のレーザ光技術の発展は目覚ましく、広く産業に応用されている。日本原子力研究開発機構レーザ共同研究所においてもこれまでにレーザを用いた原子力プラントの保守・保全技術の開発を行っており[1-2]、安全・安心な社会の構築に貢献してきた。そのなかでも配管のレーザ溶接技術は、遠方から操作可能であること、溶接状況やレーザ照射位置をモニタしながら作業可能であること、従来のアーク溶接のような感電災害やヒュームへの曝露がなく作業者の安全確保が容易であることから、プラントメンテナンス技術の一翼を担うと期待される。
Fig.1 (a):Laser Beam Welding Torch, (b):Operation Screen
Fig. 1 にこれまでに開発した配管突合せ溶接に使用するレーザ溶接トーチと溶接モニタ画面を示す。 レーザ溶接技術が広く応用されるにつれて、それらの溶接線を有する配管の数は増大していくと考えられる。一方、これらの溶接品質は現状目視点検するほかなく、遠隔操作・常時設置可能な溶接品質評価技術が望まれる。 本報告ではこれら配管のレーザ溶接線に対して高速・広範囲の非破壊評価が可能なガイド波検査を行い、溶接品質と検出信号の相関について調査する。ガイド波がレーザ溶接線の品質評価スクリーニングに対して適用可能であるかを検討する。
2.突合せ溶接配管の作成
突合せ溶接配管の作成方法は、同径、同肉厚のSS400炭素鋼配管を2つ用意し、突合せた後、配管内部にレーザ溶接用トーチを挿入する。トーチより配管内側の突合せ部に対してレーザを照射し、溶接する。実験に用いる突合せ溶接配管を Fig.2 に示す。配管肉厚は, 1.6[mm], 2.3[mm]の2種類用意し、レーザ溶接後の配管長手方向長さは 1.3[m]とする。突合せ溶接する配管の(a) (b)エッジはグラインダを用いて荒くし、溶接品質が低下するようにした。レーザ溶接線は配管終端から300[mm]の位置に設定し、レーザ源にはIPG-YLR-300 - AC(CW/300[W])を使用した。Fig.2 Schematic illustration of the Laser Beam Butt Welding and the actual test pipe. Fig.3 Overview of the Guided wave testing system 3.ガイド波検査システム 本報告で使用する EMAT ガイド波検査システム[3] を Fig.3 に示す。ガイド波送受信素子として EMAT を 使用した。EMATは2つの磁石とレーストラック型コ イルを用いた、いわゆるSH波型EMAT とし、磁石に はサマリウムコバルト磁石を使用した。送受信用とも に 8 個ずつの EMAT を配置し、T(0,1)モードガイド波 を励起させるため、磁束方向は配管円周方向となる向 きとした。 4.実験結果 Fig.4 にレーザ突合せ溶接線のガイド波探傷実験結 果を示す。Fig.4 (a)が配管肉厚1.6[mm], Fig. (b) が配管 肉厚2.3[mm]である。Fig.4 中の点線で囲った波束は不 感帯である。次に励起したガイド波束が受信位置で直 接観測される波束、レーザ溶接線の検出信号、配管端 からの反射信号となっている。配管肉厚 1.6[mm]、 2.3[mm]いずれの場合においてもレーザ突合せ溶接線 検出信号は明瞭に検出できており、ガイド波によるレ Fig.4 Comparison of guided wave signals. (a) is of 1.6[mm] thickness pipe and (b) is of 2.3[mm]. 一方、レーザ溶接線検出信号強度は、配管肉厚に応じ て異なっており、肉厚が薄い場合の方が検出信号強度は 小さくなっている。また、レーザ溶接線を目視で確認す ると、肉厚1.6[mm]の方がより荒く2.3[mm]の方が均一な 接合をしており溶接品質の良い場合の方が検出信号強度 は大きくなっている。鋭利な配管端面を高品質でレーザ 溶接した検出信号との比較については発表時報告する。 今後の課題として、配管肉厚、溶接品質などガイド波 検出信号に影響を与えるパラメータの抽出と整理が挙げ られる。 謝辞 本研究では神戸大学大学院システム情報学研究科小林・ 中本研究室の実験装置を借用した。ここに謝意を示す。 参考文献 [1] 寺田, 西村ら, “レーザー加工トーチを用いた配管表 面肉盛溶接技術の研究”, 保全学, Vol. 13, No. 4, 2015, pp.87-94. [2] A. Nishimura, et al, “Demonstration of Heat Resistant Fiber Bragg Grating Sensors Based on Femtosecond Laser Processing for Vibration Monitoring and Temperature Change” , JLMN, Vol. 9, No. 3, 2014, pp. 221-224. [3] A. Furusawa, et al., “Mode control of guided wave in magnetic hollow cylinder using electromagnetic acoustic transducer array”, NET, Vol. 47, No. 2, 2015, pp. 196?203. ーザ溶接線の検出が可能であることが確認できた。 (a) (b) - 420 -“ “突合せ配管内壁からのレーザ溶接部分に対する EMAT 探傷の試み “ “古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,鳥本 和弘,Kazuhiro TORIMOTO,竹仲 佑介,Yusuke TAKENAKA,西條 慎吾,Shingo SAIJO,外山 亮治,Ryoji TOYAMA