炉内補修技術について
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カテゴリ: 第1回
1. 概要
我が国の原子力発電プラントは,運転開始 から 20 年を経過しようとするプラントも少 なくなく,基幹電力として,安全かつ安定的 な電力供給を維持していくために,総合的な 保全策の適用検討がなされている。保全策の 二本柱は,予防保全と,適切な頻度の点検と 「点検結果の評価に基づく維持管理であり,点 検により万一欠陥が確認された場合には,そ の部位,程度によっては補修が必要になる場 合がある。炉内構造物で,万一補修を実施する場合に は,基本的に工事は遠隔操作による実施が要 求されることから,一般的にその準備及び工 事実施には長い期間を要することになる。こ のため,想定される補修技術については,予 め,技術的な妥当性を確認し,工事に必要な 装置類の計画的準備が望まれる。本稿では, BWR プラントについて,これ までの炉内補修実績及び炉内補修技術の検討 状況について紹介する。
2. これまでの炉内補修技術の適用実績 - 補修技術は大きく分けて,機器の取替と部 分補修に大別される。 - 機器の取替は,損傷のある部位を含めて機 器単位で取替える比較的大規模な工法で,国 内 BWR プラントで適用実績のある工事とし ては,炉内計測(ICM) ハウジング取替工事, 制御棒駆動機構(CRD) ハウジング取替工事 等が挙げられる。予防保全として国内数プラ ントで実施された炉心シュラウド取替工事も、 補修工事として適用可能な実績のある工法の ひとつである。取替工法の特徴は,対象とす る機器の全部位の損傷に対応できる反面, 一 一般的に工事規模ガ大きく,工事に長期間を要する。取替工事の代表例として, ICM ハウジ ング取替工事の概略手順を図1に示す。 ・ 一方,部分補修は,欠陥を研削等により除 去,あるいはクランプ等の補強部材を取付け る等の部分的な施工により,機器の強度,機 能を維持するもので,最近多くのプラントで 実施された炉心シュラウド補修(欠陥を研削, 放電加工等により除去)工事,形状記憶合金 を用いて管を接合復旧するジェットポンプセ ンシングライン補修工事が,それぞれ代表実 績として挙げられる。部分補修工事は,取替 工事に比較して,工事規模期間とも小さい。 - 補修に際しては,取替, 部分補修に係わら ず,機器の健全性確保という観点から,既存 部位との取り合い部の加工、溶接等の施工条 件の妥当性を確認することが最重要課題であ る。ICM ハウジング取替工事においては, ICM ハウジングの原子炉圧力容器 (RPV) 底 部への取付け溶接であるJ溶接(図1 の step 6参照)の健全性が確保される溶接施工条件 の確認,炉心シュラウド補修工事では,欠陥 除去後の加工面の耐応力腐食割れ性の確認が 主要課題であり,それぞれ,実機を模擬した 施工モックアップ試験により,その妥当性を 事前に確認した上で実機に適用されている。3. 炉内補修技術の検討状況 - 維持基準の適用が進められており,欠陥が 存在した場合でも,欠陥の進展を考慮しても 必要な強度,機能を確保できると評価されれ ば,そのまま損傷部位に補修施工を加えない で運転継続することが技術的に適切と考えら れるが,損傷部位の機能,構造及び損傷の, 程度によっては,補修が必要となる場合がある。数年前までは,国内プラント損傷事例が特-165定の部位に限定されていたこともあり,前述 の実績工法のように,それぞれの部位に特化 した補修工法の開発が主流となっていたが, 最近報じられている炉内点検では,様々な部 位に損傷が確認されており,多様化した損傷 部位に対して適用が可能な汎用的な補修技 術として,前述のシュラウド補修工事で実績 のある研削等による欠陥除去に,溶接による 欠陥補修を組合せた工法が期待されている。 損傷部位と損傷程度により,表1に示す組合 せ工法の適用が考えられる。溶接による欠陥補修の適用に際しては,適 切な溶接品質の確保と,溶接継手強度の評価 確認が必要となる。 - このうち,適切な溶接品質を確保するにあ たっては,既設炉内機器への適用に特有の課 題がある。高い中性子照射を受けた部位に溶 接施工を行うと,溶接入熱により粒界他に He が析出する現象が生じ,溶接欠陥を引き 起こす可能性があるため,このような条件下 でも適切な溶接品質を確保できる補修溶接施 工条件の確立ガ必要である。このため,財団 法人発電設備技術検査協会の「原子力プラ ント照射材料安全補修溶接技術に関する事 業」(平成 9年度~平成 16 年度(予定))に より, TIG 低入熱溶接, YAGレーザ溶接等を 対象とした国レベルでの溶接条件の研究が継 続実施されているが,現段階では,高照射部 位への適用においては微細な溶接欠陥の生成 回避は困難な状況である。 - 炉心近傍の高照射部位等への適用につい ては,上記のように溶接品質の課題が残って いるものの,ICM ハウジング取替工法のJ溶 接の施工実績があるように,中性子照射量の 低い RPV 底部近傍への適用に関しては,こ の溶接品質確保の課題はすでに克服されて いる。 - 表 1 に示す溶接補修と欠陥除去の組合せ 工法のうち, 1~3については,その施工に より欠陥は存在しなくなるため,溶接品質が 確保されれば,溶接継手強度には基本的な問 題はないと考えられるが,2の欠陥封止溶接 については,欠陥が残存し,炉水環境からの隔離により SCC による欠陥の進展は回避さ れるもの,残存欠陥の疲労進展等を考慮した 通常運転時,地震時での溶接継手強度評価方 法を確立しておく必要がある。まとめ ・ 国内プラントの高経年化に伴い,炉内機器の様々な部位の損傷事例が出現し てきており,従来開発してきた特定の 部位に適用する補修工法だけでは対応 は十分でなく,様々な部位に汎用性を もって適用できる溶接補修の実用化の ニーズが大きい ・ RPV 炉底部等の中性子照射量の低い部 位への溶接補修の適用には,基本的に 溶接品質上の課題はない。今後,欠陥 を残した溶接補修工法である封止溶接 の実用化に際しては,溶接継手強度評 価方法の確立が必要である。-166Step 1Step 2IStep 3 _IStep 4Step 5Step 6Step 7 TIG CladNotchJoint weldNew weld buildup1mgPrepmachiningweldtrimingSUPPCOREWald plugWork in each stepPul out-Notch HSG -Pull out HSGCut out existing HSG/GTRemove out weld buildup-inspectweld surface -Setwelding plug -Weld buildup Retnove plugTrim weld buildup Machine prep -InspectionIngen Insertnew HSG -Weld new HSGo int weld) - InspectionTIG clad weld (with water(In RPV)fig.1 ICM ハウジング取替工事の概略手順table 1 欠陥除去と溶接補修の組合せと適用対象部位「No. 補修工法適用対象部位 1|欠陥除去| ・欠陥除去したままで,強度裕度が高い部位 欠陥溶融溶接・欠陥除去が困難な程、板厚が薄い部位 ・欠陥は浅いが,欠陥除去による強度裕度の低下を回避する必要がある部位 | 欠陥除去+除去部肉盛溶|・強度裕度の低下を回避する必要がある部位 接(当初肉厚確保) 欠陥封止溶接・1~3が適用不可の部位 |[又は欠陥表面に当て板(欠陥残存だが,炉水から欠陥を隔離し, SCC進 を溶接]|展を回避) 注1:欠陥除去は,研削等の機械的加工または放電加工により行う。 注2:欠陥溶融溶接は,ノンフィラー溶接により欠陥をその周辺母材とともに溶融する。 注3:欠陥封止溶接は,欠陥の表面開口部を肉盛溶接により封止する。-167“ “炉内補修技術について “ “伊東 敬,Takashi ITO“ “炉内補修技術について “ “伊東 敬,Takashi ITO
我が国の原子力発電プラントは,運転開始 から 20 年を経過しようとするプラントも少 なくなく,基幹電力として,安全かつ安定的 な電力供給を維持していくために,総合的な 保全策の適用検討がなされている。保全策の 二本柱は,予防保全と,適切な頻度の点検と 「点検結果の評価に基づく維持管理であり,点 検により万一欠陥が確認された場合には,そ の部位,程度によっては補修が必要になる場 合がある。炉内構造物で,万一補修を実施する場合に は,基本的に工事は遠隔操作による実施が要 求されることから,一般的にその準備及び工 事実施には長い期間を要することになる。こ のため,想定される補修技術については,予 め,技術的な妥当性を確認し,工事に必要な 装置類の計画的準備が望まれる。本稿では, BWR プラントについて,これ までの炉内補修実績及び炉内補修技術の検討 状況について紹介する。
2. これまでの炉内補修技術の適用実績 - 補修技術は大きく分けて,機器の取替と部 分補修に大別される。 - 機器の取替は,損傷のある部位を含めて機 器単位で取替える比較的大規模な工法で,国 内 BWR プラントで適用実績のある工事とし ては,炉内計測(ICM) ハウジング取替工事, 制御棒駆動機構(CRD) ハウジング取替工事 等が挙げられる。予防保全として国内数プラ ントで実施された炉心シュラウド取替工事も、 補修工事として適用可能な実績のある工法の ひとつである。取替工法の特徴は,対象とす る機器の全部位の損傷に対応できる反面, 一 一般的に工事規模ガ大きく,工事に長期間を要する。取替工事の代表例として, ICM ハウジ ング取替工事の概略手順を図1に示す。 ・ 一方,部分補修は,欠陥を研削等により除 去,あるいはクランプ等の補強部材を取付け る等の部分的な施工により,機器の強度,機 能を維持するもので,最近多くのプラントで 実施された炉心シュラウド補修(欠陥を研削, 放電加工等により除去)工事,形状記憶合金 を用いて管を接合復旧するジェットポンプセ ンシングライン補修工事が,それぞれ代表実 績として挙げられる。部分補修工事は,取替 工事に比較して,工事規模期間とも小さい。 - 補修に際しては,取替, 部分補修に係わら ず,機器の健全性確保という観点から,既存 部位との取り合い部の加工、溶接等の施工条 件の妥当性を確認することが最重要課題であ る。ICM ハウジング取替工事においては, ICM ハウジングの原子炉圧力容器 (RPV) 底 部への取付け溶接であるJ溶接(図1 の step 6参照)の健全性が確保される溶接施工条件 の確認,炉心シュラウド補修工事では,欠陥 除去後の加工面の耐応力腐食割れ性の確認が 主要課題であり,それぞれ,実機を模擬した 施工モックアップ試験により,その妥当性を 事前に確認した上で実機に適用されている。3. 炉内補修技術の検討状況 - 維持基準の適用が進められており,欠陥が 存在した場合でも,欠陥の進展を考慮しても 必要な強度,機能を確保できると評価されれ ば,そのまま損傷部位に補修施工を加えない で運転継続することが技術的に適切と考えら れるが,損傷部位の機能,構造及び損傷の, 程度によっては,補修が必要となる場合がある。数年前までは,国内プラント損傷事例が特-165定の部位に限定されていたこともあり,前述 の実績工法のように,それぞれの部位に特化 した補修工法の開発が主流となっていたが, 最近報じられている炉内点検では,様々な部 位に損傷が確認されており,多様化した損傷 部位に対して適用が可能な汎用的な補修技 術として,前述のシュラウド補修工事で実績 のある研削等による欠陥除去に,溶接による 欠陥補修を組合せた工法が期待されている。 損傷部位と損傷程度により,表1に示す組合 せ工法の適用が考えられる。溶接による欠陥補修の適用に際しては,適 切な溶接品質の確保と,溶接継手強度の評価 確認が必要となる。 - このうち,適切な溶接品質を確保するにあ たっては,既設炉内機器への適用に特有の課 題がある。高い中性子照射を受けた部位に溶 接施工を行うと,溶接入熱により粒界他に He が析出する現象が生じ,溶接欠陥を引き 起こす可能性があるため,このような条件下 でも適切な溶接品質を確保できる補修溶接施 工条件の確立ガ必要である。このため,財団 法人発電設備技術検査協会の「原子力プラ ント照射材料安全補修溶接技術に関する事 業」(平成 9年度~平成 16 年度(予定))に より, TIG 低入熱溶接, YAGレーザ溶接等を 対象とした国レベルでの溶接条件の研究が継 続実施されているが,現段階では,高照射部 位への適用においては微細な溶接欠陥の生成 回避は困難な状況である。 - 炉心近傍の高照射部位等への適用につい ては,上記のように溶接品質の課題が残って いるものの,ICM ハウジング取替工法のJ溶 接の施工実績があるように,中性子照射量の 低い RPV 底部近傍への適用に関しては,こ の溶接品質確保の課題はすでに克服されて いる。 - 表 1 に示す溶接補修と欠陥除去の組合せ 工法のうち, 1~3については,その施工に より欠陥は存在しなくなるため,溶接品質が 確保されれば,溶接継手強度には基本的な問 題はないと考えられるが,2の欠陥封止溶接 については,欠陥が残存し,炉水環境からの隔離により SCC による欠陥の進展は回避さ れるもの,残存欠陥の疲労進展等を考慮した 通常運転時,地震時での溶接継手強度評価方 法を確立しておく必要がある。まとめ ・ 国内プラントの高経年化に伴い,炉内機器の様々な部位の損傷事例が出現し てきており,従来開発してきた特定の 部位に適用する補修工法だけでは対応 は十分でなく,様々な部位に汎用性を もって適用できる溶接補修の実用化の ニーズが大きい ・ RPV 炉底部等の中性子照射量の低い部 位への溶接補修の適用には,基本的に 溶接品質上の課題はない。今後,欠陥 を残した溶接補修工法である封止溶接 の実用化に際しては,溶接継手強度評 価方法の確立が必要である。-166Step 1Step 2IStep 3 _IStep 4Step 5Step 6Step 7 TIG CladNotchJoint weldNew weld buildup1mgPrepmachiningweldtrimingSUPPCOREWald plugWork in each stepPul out-Notch HSG -Pull out HSGCut out existing HSG/GTRemove out weld buildup-inspectweld surface -Setwelding plug -Weld buildup Retnove plugTrim weld buildup Machine prep -InspectionIngen Insertnew HSG -Weld new HSGo int weld) - InspectionTIG clad weld (with water(In RPV)fig.1 ICM ハウジング取替工事の概略手順table 1 欠陥除去と溶接補修の組合せと適用対象部位「No. 補修工法適用対象部位 1|欠陥除去| ・欠陥除去したままで,強度裕度が高い部位 欠陥溶融溶接・欠陥除去が困難な程、板厚が薄い部位 ・欠陥は浅いが,欠陥除去による強度裕度の低下を回避する必要がある部位 | 欠陥除去+除去部肉盛溶|・強度裕度の低下を回避する必要がある部位 接(当初肉厚確保) 欠陥封止溶接・1~3が適用不可の部位 |[又は欠陥表面に当て板(欠陥残存だが,炉水から欠陥を隔離し, SCC進 を溶接]|展を回避) 注1:欠陥除去は,研削等の機械的加工または放電加工により行う。 注2:欠陥溶融溶接は,ノンフィラー溶接により欠陥をその周辺母材とともに溶融する。 注3:欠陥封止溶接は,欠陥の表面開口部を肉盛溶接により封止する。-167“ “炉内補修技術について “ “伊東 敬,Takashi ITO“ “炉内補修技術について “ “伊東 敬,Takashi ITO