コスト重要度を用いた保全計画策定手法に関する研究
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カテゴリ: 第1回
1.研究の背景と目的
原子力発電所の保全については、従来、安 全性を重視するあまり過剰な点検・取り替え 等が行われてきた。しかし現在は、ただ高度 の安全性を維持出来れば良いだけではなく、 許容され得る安全性の中で保全活動の経済性 を同時に追求していかなければならない状況 にある。 * 原子力発電所のような大規模システムは構 成機器の数が膨大であり、かつ保全費用関数 が不連続であるため、微分・積分を用いて数 理的に最適化する事は困難である。そこで、 実際の保全分野では、技術者の経験によって 機器の重要度を定めて分類を行い、これに応 じて保全の優先順位を定めている。しかし、 この手法は体系化・一般化されていないため、 十分な社会的受容性を持つとは言えない。そこで、本研究では保全コストの概念を含 めた定量的な機器重要度を評価する指標を提 案し、モデルに適用する事で有効性を検討した。
2.解析手法
2.1 頂上事象発生確率の評価 * 本研究では、構成機器の故障率データから 頂上事象発生確率を定量的に算出するためにPS1-3Fault Tree 解析(FTA) を利用し、ミニマル カットセットを求めた。 2.2. 機器重要度の評価 2.2.1 従来の評価指標信頼性解析には、一般に数種類の指標が使 用されており、その中でも Fussell-Vesely (FV)、RAWは多くの分野で用いられている。 F._P(top) - P(topli = 0)(1) P(top) Fussell-Vesely (FV):頂上事象の発生を仮定 した時に機器の故障が寄与している条件付確 率を表す指標であり、次式で定義されている。FV =-P(top) - P(top/i = 0)P(top)P(top) は 頂上事象の発生確率を表し、 P(top/i=0)は機器 i が故障していない場合に 頂上事象が発生する確率である。リスク増加価値(RAW): ある機器が故障した 時の頂上事象の発生確率の増加を示す指標で あり、次式で定義される。12RAW = --2P(top/i = 1)P(top) P( top/i=1)は機器 i が故障している場合に頂 上事象が発生する確率を表す。-2-1792.2.2 新たに提案する評価指標本研究で定めた独自の指標はコスト Fussell-Vesely と絶対リスク価値である。こ れらを用いた機器重要度評価の結果を、FV、 RAW による評価結果と比較した。コスト Fussell-Vesely (C-FV) : FV は保全効 果を示す指標であるが、コストを重視する保 全計画においては保全効果もコストで表現さ れるべきである。そこで、C-FV を保全効果と 保全コストの比として、次式の様に定義する こととした。CFV = L.P(top) - P(opli = 0) 1,.P(top)iCFV - L.P(OP) - P(top/i = 0, 1..P(top) MiMi(3) ここで、Lは頂上事象発生時の損害、Mi は機 器 i の保全コストを表す。絶対リスク価値(A-RAW):リスクは一般的に、 生じる結果とその可能性との積で定義される。 RAW は故障の結果を示す相対的な指標である ので、絶対的なリスク価値を論じるために機 器の故障率(非信頼度)との積を A-RAW とし、 次式の様に定義した。ARAW = Fi・RAWただし、Fi は機器 i の故障率を表す。ただし、Fi は機器 i の故障率を表す。2.3 期待保全費用と保全計画の合理化保全計画は、期待保全費用と非信頼度によ って評価される。期待保全費用とは、頂上事 象発生時の損失の期待値と保全コストの和で ある。また、各機器に適用する保全方式を以下の 様に定義した。 (1)事後取替 機器が故障した時点で、新品 と取り替えたり、修理を行ったりして、機器 に要求された機能を回復する方式 (2)予防取替システムや機器の状態に関 係なく、機器の取り替えや修理を行って、機能を回復する方式。 (3)点検システムを停止させて機器の状 態を点検し、故障に至るような劣化が発見さ れた場合に機能回復措置をとる方式 (4)状態監視 機器の状態を計器等で常時 モニタリングし、劣化が発見された場合はシ ステムを停止して機能回復措置をとる方式* 本研究では重要度と保全方式の決定につい ての関連を見出す事を目的としているため、 保全計画の決定については、その時点での保 全行為が経済的合理性を持っているかどうか についてのみ判断している。なお、時間計画 保全の周期の最適化までは行っていない。3.例題解析 1. 本研究では、機器数 52、ミニマルカットセ ット数 176 である軽水炉のある制御系を対象 としたモデルについて解析を行った。Fault Tree (FT) データは実際のプラントのものを 使用した。機器の故障率はワイブル分布に従 うものと仮定し3)、そのパラメータや保全コ ストは““Weibull Database““4)等から決定した。 - 解析は2段階に分けて行った。第1段階と して、保全方式を事後取替と予防取替のみに 限定し、重要度指標が保全計画に及ぼす影響 についての比較を行った。次に第2段階とし て、点検、状態監視を含めた合理化を行い、 保全方式の選択と重要度指標の関連性につい て検討した。4.結果重要度指標の比較の結果は Figure 1のよう になった。C-FV を用いると期待保全費用が増 加し、A-RAW を用いると減少した。ただし、 故障率のパラメータの設定によっては期待費 用の相対的な高低が逆転する事もある。故障 率の高い場合には C-FV を用いた場合の費用 が低下し、故障率の低い場合は A-RAW を用い た場合の費用が低下する傾向が見られた。ま た、非信頼度については有意な差が見られな かった。信頼度を真に左右する重要な機器に180は保全方式の違いが見られなかった事による と考えられる。次に、保全方式の決定との関連を調べた。 得られた保全方式を Table 1 に、保全方式と 指標の関連を Figure 2 に示す。A-RAW の高い 機器は状態監視、C-FV の高い機器は予防取替 や点検を選択する傾向が見られた。FV、RAW を用いた時にはこの様な傾向は見られず、 C-FV と A-RAW の指標の有効性が示された。Table 1 Examples of Importance of the Components and Optimized Maintenance 「機器名方式|C-FV |A-RAW | 空気作動弁7|事後|0.0038 | 0.0367 「フィルタ1 | 監視 | 0.2322 10.4414 |1系ポンプ 点検 10.6889 10.3936 | 1系逆止弁 予防 | 0.2200 | 0.0373 |1.04 1.040.960.92FV, RAWCFV, ARAWCFV, RAW FV, ARAW重要度指標Figure 1 Comparison of Expectedlaintenance Cost and Non-Reliability for 4 Different Importance Factors5.結論本研究では、保全コストやリスクの絶対的 な価値に着目した指標である C-FV、A-RAW を 是案した。これらの指標は保全方式の選択とも関連性 を持ち、これは直感的な理解とも一致してい る。他の例にも適用可能であるので、これを 応用し、機器に対して選択すべき保全方式に 指針を与える事が出来れば、効率的な保全計 画の最適化が可能となる。これが、C-FV と -RAW を指標として用いる事の利点であると 言える。しかしこれらの指標は、故障率パラメータ への依存性等により、重要機器の絞り込みつ いては一般的な有効性が示されたと言う事が 出来なかった。この点については、データの 蓄積等を含め、今後さらに詳細な検討が必要 である。 貝寺でるの、デ夜ごらに詳細は快司 安ある。++UITx X000の予防取替 ●点検 +状態監視 X事後取替0.010.00010.0110010000C-FVFigure 2 Correlation between Optimized laintenance Methods and Used Importance ““actors 参考文献1] 井上威恭 監修,総合安全工学研究所 編; 『FTA 安全工学』,日刊工業新聞社(1979) 2]『確率的安全評価実施手順に関する調査検 寸 レベル 1 PSA、内的事象』,pp.125-127,原 子力安全研究協会(1992) 3] 三根久,河合一;『信頼性・保全性の基礎 女理』,日科技連(1984) 4] http://www.barringer1.com/wdbase.htm“ “コスト重要度を用いた保全計画策定手法に関する研究“ “藤井 秀樹,Hideki FUJII,関村 直人,Naoto SEKIMURA“ “コスト重要度を用いた保全計画策定手法に関する研究“ “藤井 秀樹,Hideki FUJII,関村 直人,Naoto SEKIMURA
原子力発電所の保全については、従来、安 全性を重視するあまり過剰な点検・取り替え 等が行われてきた。しかし現在は、ただ高度 の安全性を維持出来れば良いだけではなく、 許容され得る安全性の中で保全活動の経済性 を同時に追求していかなければならない状況 にある。 * 原子力発電所のような大規模システムは構 成機器の数が膨大であり、かつ保全費用関数 が不連続であるため、微分・積分を用いて数 理的に最適化する事は困難である。そこで、 実際の保全分野では、技術者の経験によって 機器の重要度を定めて分類を行い、これに応 じて保全の優先順位を定めている。しかし、 この手法は体系化・一般化されていないため、 十分な社会的受容性を持つとは言えない。そこで、本研究では保全コストの概念を含 めた定量的な機器重要度を評価する指標を提 案し、モデルに適用する事で有効性を検討した。
2.解析手法
2.1 頂上事象発生確率の評価 * 本研究では、構成機器の故障率データから 頂上事象発生確率を定量的に算出するためにPS1-3Fault Tree 解析(FTA) を利用し、ミニマル カットセットを求めた。 2.2. 機器重要度の評価 2.2.1 従来の評価指標信頼性解析には、一般に数種類の指標が使 用されており、その中でも Fussell-Vesely (FV)、RAWは多くの分野で用いられている。 F._P(top) - P(topli = 0)(1) P(top) Fussell-Vesely (FV):頂上事象の発生を仮定 した時に機器の故障が寄与している条件付確 率を表す指標であり、次式で定義されている。FV =-P(top) - P(top/i = 0)P(top)P(top) は 頂上事象の発生確率を表し、 P(top/i=0)は機器 i が故障していない場合に 頂上事象が発生する確率である。リスク増加価値(RAW): ある機器が故障した 時の頂上事象の発生確率の増加を示す指標で あり、次式で定義される。12RAW = --2P(top/i = 1)P(top) P( top/i=1)は機器 i が故障している場合に頂 上事象が発生する確率を表す。-2-1792.2.2 新たに提案する評価指標本研究で定めた独自の指標はコスト Fussell-Vesely と絶対リスク価値である。こ れらを用いた機器重要度評価の結果を、FV、 RAW による評価結果と比較した。コスト Fussell-Vesely (C-FV) : FV は保全効 果を示す指標であるが、コストを重視する保 全計画においては保全効果もコストで表現さ れるべきである。そこで、C-FV を保全効果と 保全コストの比として、次式の様に定義する こととした。CFV = L.P(top) - P(opli = 0) 1,.P(top)iCFV - L.P(OP) - P(top/i = 0, 1..P(top) MiMi(3) ここで、Lは頂上事象発生時の損害、Mi は機 器 i の保全コストを表す。絶対リスク価値(A-RAW):リスクは一般的に、 生じる結果とその可能性との積で定義される。 RAW は故障の結果を示す相対的な指標である ので、絶対的なリスク価値を論じるために機 器の故障率(非信頼度)との積を A-RAW とし、 次式の様に定義した。ARAW = Fi・RAWただし、Fi は機器 i の故障率を表す。ただし、Fi は機器 i の故障率を表す。2.3 期待保全費用と保全計画の合理化保全計画は、期待保全費用と非信頼度によ って評価される。期待保全費用とは、頂上事 象発生時の損失の期待値と保全コストの和で ある。また、各機器に適用する保全方式を以下の 様に定義した。 (1)事後取替 機器が故障した時点で、新品 と取り替えたり、修理を行ったりして、機器 に要求された機能を回復する方式 (2)予防取替システムや機器の状態に関 係なく、機器の取り替えや修理を行って、機能を回復する方式。 (3)点検システムを停止させて機器の状 態を点検し、故障に至るような劣化が発見さ れた場合に機能回復措置をとる方式 (4)状態監視 機器の状態を計器等で常時 モニタリングし、劣化が発見された場合はシ ステムを停止して機能回復措置をとる方式* 本研究では重要度と保全方式の決定につい ての関連を見出す事を目的としているため、 保全計画の決定については、その時点での保 全行為が経済的合理性を持っているかどうか についてのみ判断している。なお、時間計画 保全の周期の最適化までは行っていない。3.例題解析 1. 本研究では、機器数 52、ミニマルカットセ ット数 176 である軽水炉のある制御系を対象 としたモデルについて解析を行った。Fault Tree (FT) データは実際のプラントのものを 使用した。機器の故障率はワイブル分布に従 うものと仮定し3)、そのパラメータや保全コ ストは““Weibull Database““4)等から決定した。 - 解析は2段階に分けて行った。第1段階と して、保全方式を事後取替と予防取替のみに 限定し、重要度指標が保全計画に及ぼす影響 についての比較を行った。次に第2段階とし て、点検、状態監視を含めた合理化を行い、 保全方式の選択と重要度指標の関連性につい て検討した。4.結果重要度指標の比較の結果は Figure 1のよう になった。C-FV を用いると期待保全費用が増 加し、A-RAW を用いると減少した。ただし、 故障率のパラメータの設定によっては期待費 用の相対的な高低が逆転する事もある。故障 率の高い場合には C-FV を用いた場合の費用 が低下し、故障率の低い場合は A-RAW を用い た場合の費用が低下する傾向が見られた。ま た、非信頼度については有意な差が見られな かった。信頼度を真に左右する重要な機器に180は保全方式の違いが見られなかった事による と考えられる。次に、保全方式の決定との関連を調べた。 得られた保全方式を Table 1 に、保全方式と 指標の関連を Figure 2 に示す。A-RAW の高い 機器は状態監視、C-FV の高い機器は予防取替 や点検を選択する傾向が見られた。FV、RAW を用いた時にはこの様な傾向は見られず、 C-FV と A-RAW の指標の有効性が示された。Table 1 Examples of Importance of the Components and Optimized Maintenance 「機器名方式|C-FV |A-RAW | 空気作動弁7|事後|0.0038 | 0.0367 「フィルタ1 | 監視 | 0.2322 10.4414 |1系ポンプ 点検 10.6889 10.3936 | 1系逆止弁 予防 | 0.2200 | 0.0373 |1.04 1.040.960.92FV, RAWCFV, ARAWCFV, RAW FV, ARAW重要度指標Figure 1 Comparison of Expectedlaintenance Cost and Non-Reliability for 4 Different Importance Factors5.結論本研究では、保全コストやリスクの絶対的 な価値に着目した指標である C-FV、A-RAW を 是案した。これらの指標は保全方式の選択とも関連性 を持ち、これは直感的な理解とも一致してい る。他の例にも適用可能であるので、これを 応用し、機器に対して選択すべき保全方式に 指針を与える事が出来れば、効率的な保全計 画の最適化が可能となる。これが、C-FV と -RAW を指標として用いる事の利点であると 言える。しかしこれらの指標は、故障率パラメータ への依存性等により、重要機器の絞り込みつ いては一般的な有効性が示されたと言う事が 出来なかった。この点については、データの 蓄積等を含め、今後さらに詳細な検討が必要 である。 貝寺でるの、デ夜ごらに詳細は快司 安ある。++UITx X000の予防取替 ●点検 +状態監視 X事後取替0.010.00010.0110010000C-FVFigure 2 Correlation between Optimized laintenance Methods and Used Importance ““actors 参考文献1] 井上威恭 監修,総合安全工学研究所 編; 『FTA 安全工学』,日刊工業新聞社(1979) 2]『確率的安全評価実施手順に関する調査検 寸 レベル 1 PSA、内的事象』,pp.125-127,原 子力安全研究協会(1992) 3] 三根久,河合一;『信頼性・保全性の基礎 女理』,日科技連(1984) 4] http://www.barringer1.com/wdbase.htm“ “コスト重要度を用いた保全計画策定手法に関する研究“ “藤井 秀樹,Hideki FUJII,関村 直人,Naoto SEKIMURA“ “コスト重要度を用いた保全計画策定手法に関する研究“ “藤井 秀樹,Hideki FUJII,関村 直人,Naoto SEKIMURA