信頼度を導入した自己修復型センサネットワーク

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カテゴリ: 第2回
1.緒言
・ インターネットをはじめとする各種ネットワークの 発達により、情報流通の利便性は格段に向上した。し かし、実世界の時々刻々変わる環境情報の取得や、広 域にわたる情報の同時把握については、新たな技術開 発の余地が残されている。その中でも、センサネット ワークは、これまで工場や化学プラントなどの特殊な 場所での利用が主であったが、センサの小型化やネッ トワーク環境の整備が急速に進んだことにより、利用 する場所がより広範囲になり、より我々に身近なアプ リケーション例も検討されつつある。それに従い、人 手介入なしで、センサネットワーク間の連携により、面的な拡がりを実現するものが求められるようになっ た。例えば宇宙空間における人工衛星に搭載されるセ ンサ群は、そのメンテナンスが非常に困難を極めるた め、このような状況においてはセンサのロバスト性が センサネットワークの効用を大きく左右する重要な要 素となってくる。しかし原理的に故障を伴わないセン サを実現することは不可能であるので、故障の発生を 前提とした上で故障に耐性のあるセンサネットワーク という概念が提唱されるようになった。センサネット ワークが故障に耐性をもつためには故障が発生しても システム全体の機能を保持し続けることができる修復
機能をもつことが望ましい。自己修復機能とは、故障 判定、故障診断、修復計画、修復実行を自動的に行う 機能のことである。自己修復型センサネットワークは これらの機能を実現するために、定性物理に基づくモ デルベースド推論を用いており、これを用いることで、 理論的には対象機械システムを記述した対象モデルを 得ることができれば、あらゆる機械システムに自己修 復機能を付加することが可能になる[2]。これはネット ワークの演算部がセンサ群から得られた情報を処理す ることで実現される。従来はセンサネットワークに情報処理部に CPU を 用いることが検討されてきた。しかし人工物の規模が 大きくなるにつれて自己修復機能の実現に必要な情報 の収集ならびに物理モデルに基づいた各部の健全性把 握のために必要な演算量が増大し、演算をいかに効率 よくするかが課題となっている。こうした背景から、 演算処理の負担を軽減するためにモジュール方式が提 案されているが[4]、よりきめ細かい処理や多数の部品 から構成される人工物に対してはモジュール方式でも 対応できず、分散型の情報処理回路よる並列演算を行 うことが有効であると考えられる。本研究では、多数 の光センサ群からなる形状・移動検知センサネットワ ークに自己修復機能を持たせ、それらの情報処理部を 専用回路(FPGA, CMOS ASIC)にて実装した。2.自己修復アルゴリズムの設計1522.1 自己修復機能 本自己修復機能を実現するには、人工物の故障を検知 しなければならない。情報処理回路は、人工物の挙動 をモデル化し、人工物の各部分から得られた情報とそ のモデルの間の関係を判断することによって故障を検 知する。2.2 定性推論 定性推論とは現象の定性的な側面に注目して推論を行 っていくものである [1]。例えば空気に関して、 PV = nRT という式と現在の温度と圧力から、体積を 厳密に求める方法を定量的推論とすると、定性推論で は「Tが増えればVも増える」「T1⇒V」とより抽 象化して推論を行う。自己修復機能に必要なのは故障 部分を推定することであり、特定の部分に関する厳密 な情報ではない、よって定性推論が有効に用いられて きた。2.3 回路の構想 一般的な(ノイマン型の)計算機は処理装置及び主記 憶装置から成り立つ。一方、定性推論型の演算を行う ための装置について考えてみると、ここの演算それ自 体は大まかなものでよく、それほど高い性能は求めら れない。すなわち定性推論演算においては演算の種類 がある程度限定されるので、現在の標準的なCPUの 能力を生かしきれているとは言い難い。また定性推論 演算においては扱う情報のサイズも定量的演算に比べ てかなり小さくなるので現在の標準的なメモリでもオ ーバースペックである。しかし、人工物が複雑になれ ばなるほど物理モデルは複雑化し、その演算の量は極 めて多くなり、既存のCPUでは計算が追いつかなく なり、物理モデルの縮小化を目指したモジュール化な どが行われている。以上をまとめると、従来の計算機 は定性推論型の演算には最適であるとはいえない。本 研究では自己修復型人工物に適した、新しい分散型情 報処理チップを実現することを目指して研究を進めて いる。これは、定性推論のための演算に必要十分な程 一度の、比較的低機能で回路サイズの小さい定性演算機 を多数用意し、独立に動作させることができるように するもので、物理モデルに応じて、それらの定性演算 機間の結線を行い、ネットワークを組み上げる、高速 かつ大量の情報処理を実現するものである。 本研究で作成を目指す情報処理回路は、自己修復型人工物の活躍すべき極限環境下における動作を考慮し、 情報処理回路それ自体の故障に対処することを考えた、 以下のようなものである(Fig.1)。 まず回路の外延に並べられた比較回路が、外部から入 力される定量的な情報を、「多い」「少ない」「正」「負」 「ゼロ」等のより単純で抽象度の高い定性的な情報に 変換する。 回路の中央部には定性推論のための簡単な演算をする セルが数多く並べられている。各セルは、個々がそれ ぞれ決められた簡単な演算を行う専用回路である。挙 動のモデルから導かれる値と、外部から入力される定 性値の間に矛盾がないか推論を行う。 セル間でもネットワークが形成されており、セル同士 で演算結果に矛盾が生じた場合には多数決が行われた り、互いの信頼度が変化する機能も実装される。 本回路の利点は、リアルタイムでの並列情報処理が可 能である点である。また回路上のあるセルが故障した としても、故障を含むユニット以外には影響が生じな い。このようにモジュールを組み合わせることにより 大規模な演算処理が可能になると考えられる。3. 回路の試作 3.1 形状・移動検知センサへの適用 上記の回路を実現するため、まず光センサ(フォトト ランジスタ)を一様に配置した形状・移動検知機能を 持つセンサネットワークを設計し(Fig.1)、これに自己 修復機能を持たせることを試みた。DOOOOOOOOD00066OooooooooOOOOOOO100000000000 1000000000000 00000000000OOK000000000OOOOOOOK 00000000000OOOOO 00 000 00 00 00 00 00 00a0000000 OOOOOOOO000000O optical sensorFig.1 形状・移動検知センサ各光センサに信頼度という概念を持たせることにより、 定性的に光センサの故障を検知し、故障したセンサを ネットワークから断線し、正常なセンサ同士で再配線 することにより、センサネットワークとしての機能を153維持する。3.2 自己修復アルゴリズム 光センサネットワークの性質上、隣接するセンサから 得られる値は同じである確率が高いので隣接するセン サから得られる値を比較し、信頼性を決定する。具体 的には以下のようになる。ロロロロcompare sensor's outputロロロロsamedifferロロロロreliability pointPhoto Transistor O Hardware ModuleFig.2 信頼度決定アルゴリズムゴリズム・Fig.2 のように隣接するセンサとの値を比べ、値が 同じであれば信頼度を1プラスし、値が違えば信頼度 が1下がるようになっている。・各センサは 16bit(1-65536)の信頼度を表す点数を持 っている。これにより正確な故障診断を阻害する例外 事象のうち短期的に起こるものの影響を緩衝すること ができる。なおセンサの信頼度が 0 点になった時に故 障と診断される。・配線を変更する機能:故障と診断されたモジュール が出たとき、配線を Fig.3 のように変更する。すなわち、 故障と判断されたモジュールに代わり、2 つ隣のセン サに対応するモジュールが比較対象となる。隣のセン サからの情報を遮断しても比較対象となるセンサを確 保することで評価の客観性を保つ。次に述べる移動を 検知する機能の保持にも効用がある。ただしあまり離 れたセンサ同士が信頼性評価を互いにするのは適切で はないので、2 つ隣より遠いセンサとの比較は行わな いようにした。OKOKOKOK HOK HOKOK NG HOK For H or H or ]OKNGOKOKOKOK| OKOKOKOKOKNGOKOKOKOKOK OK Fig.3 再配線機能OKまた自己修復機能の他に 16 個センサ群と演算部を合 わせてモジュール化することにより、センサネットワ ークをスケーラブルにした。移動検知・自己修復機能 も分散処理で行うことによってセンサの数が巨大にな ろうとも演算速度を損なうことなく処理を行える。 以上の機能を持ったプログラムを Verilog-HDL で記述 し、FPGA に実装し、その動作を検証した。 ・ 全てのセンサに光を当てながら、一部のセンサへの 光を遮断することで故障を模擬し、さらに十分な時間 が経過した場合の影響を確かめた。Fig.4 の中の色が塗 られたセンサは故障したセンサであり、中の数字はセ ンサの信頼度を 16bit で表したものである。・正常なセンサが四方を故障したセンサで囲まれた場 合は適切な挙動を示した(Fig.4-1)が、八方を囲まれた場 合は中央の正常なセンサまで信頼度が下がり、故障と 診断された(Fig.4-2)。11111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111) 1111111111111111 1111111100000000 0000000011111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111100000000 0000000011111111 1111111100000000 0000000011111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111100000000 0000000011111111 1111111111111111 1111111111111111)11111111 1111111111111111 11111111)11111111 1111111111111111 11111111Fig.4-1 検証結果115411111111 1111111111111111 1111111111111111 11111111| 11111111 11111111| 11111111 1111111111111111 1111111100000000 0000000000000000 | 0000000000000000 000000011111111 1111111111111111 1111111100000000 0000000000000000 0000000000000000 0000000011111111 1111111111111111 1111111100000000 0000000000000000 0000000000000000 | 0000000011111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 11111111Fig.4-2 検証結果2・まとまった範囲のセンサが故障した場合において、 その範囲の広さによって結果が異なる。例えば1列 まとめてセンサが故障した場合は、故障と診断される が2列まとめて故障した場合は故障と診断されない00000000 0000000000000000 0000000000000000 00000000 | 00000000 | | 0000000000000000 0000000011111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 1111111111111111 11111111Fig.4-3 検証結果3またこの設計したプログラムが FPGA での動作が確認 できたので、CMOS ASIC にするためのデザインファイ ルの設計を行った。ASIC にするため設計ファイル (Fig.5)の作成には以下のツールを用いた。論理合成に は DesignCompiler、配置配線には Apollo、レイアウト データの出力には Milkyway を利用した。イラックコスメ・コスプレイには3つ!EEEEEEEBXXEC CEECEKXことがあるためにききたいお店にしたFig.5 ASIC デザインファイル結言移動検知センサ群に自己修復機能をもたらす分割 情報処理のためのプログラムを設計し、さらにハ ードウェアとして専用回路を製作し、その挙動を 確認した。 均質な構造を持つセンサ群に対して、専用回路に よる分散処理を行うことで、CPU を用いることで は不可能な高速処理を実現した。 センサの故障率が著しく高い場合を除いて、セン サに信頼度という概念を持たせることはセンサネ ットワークに自己修復機能を実現させるにあたっ て有効である。 本センサネットワークは光センサによる移動検知 や、CTスキャナなど比較的均質なセンサを用いて 動きのある対象に適用する際に有効に機能すると 考えられる。4)参考文献[1] 西田豊明:「定性推論の諸相」, 1993. [2] Y. Shimomura, S. Tanigawa , Y. Umeda, and T.Tomiyama, Development of Self-Maintenance Photocopiers. In AI Magagine, The American Association for Artificial Intelligence(AAAI), Vol.16,pp.41-53, No.4, 1995. [3] 坪井泰憲,下村芳樹: 「自己修復モジュールのための概念設計手法」,2004. [4] K. Nagami, K. Oguri, T. Shiozawa, H. Ito, and R.Konishi, ““Plastic Cell Architecture: Towards Reconfigurable Computing for General-Purpose,““ Proc. of 6th Annual IEEE Symposium on FPGAs for Custom Computing Machines (FCCM '98), pp.68-77, Apr. 1998155“ “信頼度を導入した自己修復型センサネットワーク“ “藤原 健,Takeshi FUJIWARA,高橋 浩之,Hiroyuki TAKAHASHI,中沢 正治,Masaharu NAKAZAWA
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