3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」の開発
公開日:
カテゴリ: 第5回
1.緒言
フェーズドアレイ法は、アレイセンサ内部の複数の 圧電素子に遅延時間を与えて、超音波の位相を制御し て送受信することにより、任意の位置にビームを集束 するとともに、遅延時間を電子的に制御してビーム走 査することが可能な検査技術である。特に、医療分野 で先行して適用されてきたが、近年、原子力プラント をはじめとして、航空機、鉄鋼など、工業分野でもそ の適用が広がりつつある[1]。従来のフェーズドアレイ法では、1次元アレイセン サによる線集束ビームを2次元的に走査して検査対象 内部の2次元断面像から検査を行う。この手法を高度 化し、2次元マトリクスアレイセンサによる点集束ビ ームを3次元的に走査できれば、検査速度の迅速化だ けでなく、欠陥検出性の向上も期待できるため、近年、 様々な手法が提案されている[2, 3]。しかし、マトリク スアレイセンサの各素子に適切な遅延時間を与えるた めの膨大な走査条件解析が必要なうえ、装置にも素子 数に対応した送受信回路が必要であり、また探傷デー タを評価するための3次元表示技術も必要であった。そこで、3次元走査条件解析、マトリクスアレイセ ンサ対応探傷装置、3次元データ表示ソフトを組込んだ3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」を開発し た。本システムは、センサを固定したままで、任意の 3次元電子走査が可能で、探傷データを3次元表示す ることにより、探傷領域を一括して評価可能である。 本報告では、3D Focus-UT の概要と探傷例について述 べる。
2. 3D Focus-UT の概要
3D Focus-UT の装置概観と基本仕様を Fig.1 および Table 1 に示す。本システムは、以下の特徴を有する。 (1)走査条件設定: 3D レイトレースによる伝播解析 (2)探傷データ収録: 256素子送受信による高速計測 (3)探傷画像処理: 高速ボクセル化による 3D 表示 まず、(1)走査条件設定については、3D-CAD と連携 したレイトレースシミュレータで各素子への超音波伝 播時間を解析する。このシミュレータにより、代表的 な例として、セクタ並進走査、セクタ回転走査、セク タ煽り走査などが解析可能であるが、この他にも検査 対象に合わせた任意のスキャン設定が可能である。次 に(2)探傷データ収録については、256 素子マトリクス アレイセンサの全素子同時の送受信により、(1)で求め た走査条件を用いて、各素子に与える遅延時間を制御することで、センサを固定したままで検査対象の内部 に点集束ビームを 3 次元走査して一括データ収録を行 う。さらに、(3)探傷画像処理については、従来の2次 元断面表示も可能であるが、今回開発した専用の高速 ボクセル変換・表示ソフトウェアにより、3次元一括 処理が可能である。また、検査対象の 3D-CAD データ を読込み、探傷データと融合表示することも可能なう え、平面、直方体、円筒などの単純形状図形であれば、 画面上で作成することも可能である。この機能は、底 面など基準面としてマーカー表示させたい場合に有効 である。また、3次元探傷データの任意断面を表示し、 距離計測などを行える機能も備えている。Fig. 1 HITACHI “3D Focus-UT” system.
3.試験体及び試験条件本研究で用いた試験体及び試験体系を Fig.2 に示す。 本試験体は、SUS304 製であり、3次元ビーム走査によ る欠陥表示と検出性を確認するため、高さ:20mm、直 径:1mm 及びゅ2mm の平底穴(以下、FBH: Flat Bottom Hole)を放射状に 25 ヶ所付与したものを用いた。また、 本試験で用いたマトリクスアレイセンサの仕様と走査 条件を Table2 に示すが、素子数:256 素子(16×16)、周 波数:2MHz のアレイセンサを用い、試験体の上面に 固定して、+20°のセクタスキャンを 7.5°ピッチで回 転走査することで、360°一括してデータを収録した。 この場合、スキャン範囲は試験体の全領域ではなく、 Fig.2 に破線で示す領域となっている。
4.試験結果Fig.2 で示した試験体をセクタスキャンの回転走査 で探傷したデータのうちの一枚のセクタ画像を Fig. 3 に示す。この画像中には、底面エコーの上方に、1mm およびゅ2mm の FBH 反射エコーが表示されている。次に、このセクタスキャンと回転走査の組合せで探 傷したデータをボクセル変換処理により、3次元表示 した結果を Fig.4 に示す。ここで、Fig.4 (a)は、3Dデー タを上方から見下ろした結果を示しており、また、(b) は約斜め45°から見下ろした結果を示している。なお、 ここでは、紙面上での見易さを考慮して、底面エコー は表示させていない。この結果を見ると FBH からの反 射強度が強い中2mm のエコーは大きく表示されてお り、また、FBH からの反射エコーが弱いか1mm は小さ く表示されていることがわかる。本画面は 8bit カラー 表示され、マウス操作により自由に回転、平行移動さ せることができるとともに、表示サイズも任意に変更 可能である。この場合、探傷データ収録後から 3D 表 示までにかかった時間は約5秒である。3次元表示で は、主に欠陥の位置と形状を直感的・空間的に把握し、 サイジング等の評価作業は、2次元断面やセクタ画面 で行うことを想定している。それぞれの表示方法の特 徴を活かして使い分けていくことにより、効率的に欠 陥を評価可能である。
5.結言3次元超音波探傷システム 3D Focus-UT を開発し、 以下を紹介した。今後様々な対象に適用していく。 1) 256 素子のマトリクスアレイセンサを用い、センサを固定したままで任意の3次元走査が可能である。 2) 探傷データを高速にボクセル変換し、3次元表示す ることで探傷領域を一括して評価可能である。参考文献 ]] 横野 泰和、“フェーズドアレイ UT の適用事例及び 標準化の世界的動向”、非破壊検査、Vol.56, No.10,pp.510-515 (2008). 2] S. Chaffai-Gargouri, et al., ““SIMULATION AND DATA PROCESSING FOR ULTRASONIC PHASEDARRAYS APPLICATIONS”, in Review of Progress inQNDE, 27,799-805 (2007) 3] A.MacNab, et al., ““Role of 3-D graphics in NDT dataProcessing”, IEE Proc.-Sci. Meas. Technol., Vol. 148, No. 4, pp. 149-158 (2001)
“ “3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」の開発“ “馬場 淳史,Atsushi BABA,北澤 聡,SO KITAZAWA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,安達 裕二,Yuji ADACHI,小田倉 満,Mitsuru ODAKURA,菊池 修,Osamu KIKUCHI
フェーズドアレイ法は、アレイセンサ内部の複数の 圧電素子に遅延時間を与えて、超音波の位相を制御し て送受信することにより、任意の位置にビームを集束 するとともに、遅延時間を電子的に制御してビーム走 査することが可能な検査技術である。特に、医療分野 で先行して適用されてきたが、近年、原子力プラント をはじめとして、航空機、鉄鋼など、工業分野でもそ の適用が広がりつつある[1]。従来のフェーズドアレイ法では、1次元アレイセン サによる線集束ビームを2次元的に走査して検査対象 内部の2次元断面像から検査を行う。この手法を高度 化し、2次元マトリクスアレイセンサによる点集束ビ ームを3次元的に走査できれば、検査速度の迅速化だ けでなく、欠陥検出性の向上も期待できるため、近年、 様々な手法が提案されている[2, 3]。しかし、マトリク スアレイセンサの各素子に適切な遅延時間を与えるた めの膨大な走査条件解析が必要なうえ、装置にも素子 数に対応した送受信回路が必要であり、また探傷デー タを評価するための3次元表示技術も必要であった。そこで、3次元走査条件解析、マトリクスアレイセ ンサ対応探傷装置、3次元データ表示ソフトを組込んだ3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」を開発し た。本システムは、センサを固定したままで、任意の 3次元電子走査が可能で、探傷データを3次元表示す ることにより、探傷領域を一括して評価可能である。 本報告では、3D Focus-UT の概要と探傷例について述 べる。
2. 3D Focus-UT の概要
3D Focus-UT の装置概観と基本仕様を Fig.1 および Table 1 に示す。本システムは、以下の特徴を有する。 (1)走査条件設定: 3D レイトレースによる伝播解析 (2)探傷データ収録: 256素子送受信による高速計測 (3)探傷画像処理: 高速ボクセル化による 3D 表示 まず、(1)走査条件設定については、3D-CAD と連携 したレイトレースシミュレータで各素子への超音波伝 播時間を解析する。このシミュレータにより、代表的 な例として、セクタ並進走査、セクタ回転走査、セク タ煽り走査などが解析可能であるが、この他にも検査 対象に合わせた任意のスキャン設定が可能である。次 に(2)探傷データ収録については、256 素子マトリクス アレイセンサの全素子同時の送受信により、(1)で求め た走査条件を用いて、各素子に与える遅延時間を制御することで、センサを固定したままで検査対象の内部 に点集束ビームを 3 次元走査して一括データ収録を行 う。さらに、(3)探傷画像処理については、従来の2次 元断面表示も可能であるが、今回開発した専用の高速 ボクセル変換・表示ソフトウェアにより、3次元一括 処理が可能である。また、検査対象の 3D-CAD データ を読込み、探傷データと融合表示することも可能なう え、平面、直方体、円筒などの単純形状図形であれば、 画面上で作成することも可能である。この機能は、底 面など基準面としてマーカー表示させたい場合に有効 である。また、3次元探傷データの任意断面を表示し、 距離計測などを行える機能も備えている。Fig. 1 HITACHI “3D Focus-UT” system.
3.試験体及び試験条件本研究で用いた試験体及び試験体系を Fig.2 に示す。 本試験体は、SUS304 製であり、3次元ビーム走査によ る欠陥表示と検出性を確認するため、高さ:20mm、直 径:1mm 及びゅ2mm の平底穴(以下、FBH: Flat Bottom Hole)を放射状に 25 ヶ所付与したものを用いた。また、 本試験で用いたマトリクスアレイセンサの仕様と走査 条件を Table2 に示すが、素子数:256 素子(16×16)、周 波数:2MHz のアレイセンサを用い、試験体の上面に 固定して、+20°のセクタスキャンを 7.5°ピッチで回 転走査することで、360°一括してデータを収録した。 この場合、スキャン範囲は試験体の全領域ではなく、 Fig.2 に破線で示す領域となっている。
4.試験結果Fig.2 で示した試験体をセクタスキャンの回転走査 で探傷したデータのうちの一枚のセクタ画像を Fig. 3 に示す。この画像中には、底面エコーの上方に、1mm およびゅ2mm の FBH 反射エコーが表示されている。次に、このセクタスキャンと回転走査の組合せで探 傷したデータをボクセル変換処理により、3次元表示 した結果を Fig.4 に示す。ここで、Fig.4 (a)は、3Dデー タを上方から見下ろした結果を示しており、また、(b) は約斜め45°から見下ろした結果を示している。なお、 ここでは、紙面上での見易さを考慮して、底面エコー は表示させていない。この結果を見ると FBH からの反 射強度が強い中2mm のエコーは大きく表示されてお り、また、FBH からの反射エコーが弱いか1mm は小さ く表示されていることがわかる。本画面は 8bit カラー 表示され、マウス操作により自由に回転、平行移動さ せることができるとともに、表示サイズも任意に変更 可能である。この場合、探傷データ収録後から 3D 表 示までにかかった時間は約5秒である。3次元表示で は、主に欠陥の位置と形状を直感的・空間的に把握し、 サイジング等の評価作業は、2次元断面やセクタ画面 で行うことを想定している。それぞれの表示方法の特 徴を活かして使い分けていくことにより、効率的に欠 陥を評価可能である。
5.結言3次元超音波探傷システム 3D Focus-UT を開発し、 以下を紹介した。今後様々な対象に適用していく。 1) 256 素子のマトリクスアレイセンサを用い、センサを固定したままで任意の3次元走査が可能である。 2) 探傷データを高速にボクセル変換し、3次元表示す ることで探傷領域を一括して評価可能である。参考文献 ]] 横野 泰和、“フェーズドアレイ UT の適用事例及び 標準化の世界的動向”、非破壊検査、Vol.56, No.10,pp.510-515 (2008). 2] S. Chaffai-Gargouri, et al., ““SIMULATION AND DATA PROCESSING FOR ULTRASONIC PHASEDARRAYS APPLICATIONS”, in Review of Progress inQNDE, 27,799-805 (2007) 3] A.MacNab, et al., ““Role of 3-D graphics in NDT dataProcessing”, IEE Proc.-Sci. Meas. Technol., Vol. 148, No. 4, pp. 149-158 (2001)
“ “3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」の開発“ “馬場 淳史,Atsushi BABA,北澤 聡,SO KITAZAWA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,安達 裕二,Yuji ADACHI,小田倉 満,Mitsuru ODAKURA,菊池 修,Osamu KIKUCHI