プラント従業員の繁忙感に影響を及ぼす背景要因に関する研究

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
してメンタルワークロード研究があるが、メンタルワ 近年日本では、製造や運輸、発電や医療など、安全 * ークロードの主観的評価尺度のうち最も知られている に関する制度・体制や活動が十分に整っていると思わNASA-TLX には「忙しさ」項目が含まれてはいる[3]。 れていたはずの産業分野において、複数の死傷者が生 しかし、その「忙しさ」も「時間切迫性」のみで構成 じる大事故が続発している。このような事故は多くのされており、従業員の「忙しさ」の詳細な構成要素や 要因が複雑に絡みあって発生しているが、当事者であメンタルモデルは考慮されていない。これには、従来 る現場従業員は、「忙しくてついうっかり」「忙し過ぎのメンタルワークロード研究が主に個人を対象に実施 てチェックを怠った」などと繁忙を一因として報告すされたことが影響していると思われる。 ることが少なくない。特に保守業務において時間圧が以上のように、繁忙感の一側面を取り上げた研究は 過度に高くなれば、手順書からの逸脱や記憶のラプス行われてはいる。しかし、組織における業務中の人間 (短期的な記憶の欠落,忘却)が高まり、非常に危険だ の諸現象に迫ろうとするならば、組織要因を無視する との指摘もある[1]。ことは出来ず、業務量と時間圧のみ考慮されているこ 確かに、極端な人員削減や、コンプライアンスへのれまでの繁忙感研究では不十分である。たとえば、そ 過剰な反応による業務量の増大が、現場従業員の繁忙 の業務が予定していた業務であるか、突発的に飛び込 感を増大させ、品質保持・安全確保に必要な業務に不んできた想定外の業務であるかなど、業務の質的要素 確実性をもたらしている可能性も十分に考えられる。 も従業員の繁忙感に影響を与えている可能性がある。 そのため、業務量と繁忙感の関係を調査し、人員配置さらには, 能力やモチベーション,当該業務の全体像・ の適正化や業務の効率化を図った研究も行われている到達点が把握出来ているかどうかといった従業員の内 [2]。しかし、それらのほとんどは、従業員の繁忙感は 的要因,リーダーシップやチームワークなどの作業体 業務の物理的な量や、必要となる工程数によって規定制要因も繁忙感に影響を与えていると推測される。 されるという従前の考えを無条件に前提としており、 上述のような考えに基づいて、組織環境下の従業員 それ以外の要因を考慮していない。の繁忙感に影響を与える要因にはいかなるものが存在
し、どれだけの影響を与えているかを包括的に明らか にするために、繁忙感の直接要因を測定する質問紙を 開発した[4][5]。以下に繁忙感に影響を与える直接要因の内容につい て簡単に言及しておく。 「情報量」 :当該業務に関する情報が過多もしくは過少。適度な量であれば問題はないが、過多であ れば繁忙感が高くなると推測される。 「情報時機」:他部署や協力会社との間で行なう情報の遣り取りのタイミング。時期を得た送受が行 われなければ繁忙感は高くなると推測される。 「支援性」 : 当該業務もしくは業務の遂行の冗長性。サポートし合えない業務内容や職場環境であれば繁忙感は高くなると推測される。 「阻害性」:本来行うべき業務を阻害する間接的な業 務が多くなれば、繁忙感が高くなると推測される。「業務量」:シリアルで処理する業務の量。量が増えれば繁忙感は高くなると推測される。 「重複性」:パラレルで処理しなければならない業務数。同時に処理しなければならない数が増えれ ば繁忙感は高くなると推測される。 「制御性」 : 当該業務の自律性、他律性。自分でコントロールが困難な、他律的な業務であれば繁忙感は高くなると推測される。 「切迫性」:当該業務が時間的に切迫しているかどうか。切迫しているほど、繁忙感は高くなると推 測される。 「突発性」 : 当該業務が予定していた業務であるか、 突発的に飛び込んできた想定外の業務であるか。 突発的でイレギュラーな業務が多くなれば、繁忙感が高くなると推測される。 「到達性」:当該業務の目標や到達点が見えているか 否か。その業務の全体や現在地が見えていなければ、繁忙感が高くなると推測される。 「能力」:当該業務が担当者の能力・経験に見合っているかどうか。能力・経験以上のものを要求されているほど、繁忙感は高くなると推測される。 繁忙感なるものをコントロールするためには、上記 このような直接要因とそれらの相互関係を明確にすること、さらには各直接要因の背景にはどのような要因が 存在するのかを明らかにすることが重要である。そこ で本稿では、先の調査結果[4][5]を踏まえ、繁忙感の直接要因に影響を与えている背景要因とこれら相互の関 係について明らかにすることを目的とした。相関係数平均値 ●相関係数0性切迫性性情報量業務 突発性制御性 報時 到性能力支性 Fig. 1 The influential factors of the feeling of busyness.2. 繁忙感背景要因の把握 2.1 方法本調査の対象者は、ある企業に属する複数のプラン トの事務系と技術系部門の課長以下全員 (n=1378、回 収率は 98.1%)で、調査実施時期は 2006年2月。Fig.1 は 2005年11月に実施した直接要因調査の結果 である(n=1321、5件法) [4][5] 。平均値が高いほど、 当該要因をより感じていることを示す。一方、相関係 数は各直接要因と繁忙感との間の相関である。この結 果より、繁忙感への寄与が高い直接要因は「阻害性」 「切迫性」「重複性」「情報量」「業務量」の5つである ことが明らかとなった。そこで、これらについて、そ れぞれの背景になっていると思われる事柄の記述を自 由記述形式で求めた。「突発性」については、その内容が「切迫性」「阻害 性」に吸収され得ることと、繁忙感との相関係数が「切 迫性」より低いことなどを考慮して、記述対象からは 除外した。質問紙のフェイスシートでは、所属、年齢、職位、 勤務年数、現職務の経験年数などに関する質問への回 答を求めた。 2.2 結果「阻害性」「切迫性」「重複性」「情報量」「業務量」 の各直接要因に対する自由記述内容を概観し、背景要 因と規定し得るタームを抽出した。続いて、それらを KJ 法によって「文書作成・管理(文書作成の多さや、 必要時の検索の困難さなど)」「工程・時間管理(計画 の立て方や、業務の期限など)」「情報伝達・共有(メ214ールの量や情報共有の程度など)」など 14 の背景要因 に整理することを試みた(「その他」を含めて 15 分類)。 その上で、調査対象者の直接要因に関する記述を 15 の 背景要因に分類した(1つの記述に複数の背景要因が 記載されていれば、複数の分類にカウントした)。さらに、このカウント結果を「直接要因(5)×背景要 因(15)」の度数データのマトリックスにし、各要因間の 特性を視覚的に把握するために、コレスポンデンス分 析を行った。本分析結果の累積説明率は第2軸までで 71.3%であ る。座標として表現する次元の決定に際しては、1つ の次元での説明率が20%以上のものを取り上げること とし、第1軸(縦軸)、第2軸(横軸)でカテゴリース コアの散布図を作成した (Fig. 2)。第1軸」 第2軸 第3軸 第4軸Table 1 Eigenvalues and Proportions.固有? ?明率累積?明率 0.464 0.4940.494 0.309 0.2190.713 0.271 0.1680.881 0.228 0.1191.000 Table 2 Chi-square test. 統計量 自由度pfi 1880.98170.000 780.19150.000 590.940.000 414.06110第1軸 第2軸 第3軸 第4軸0.0[規定-0.4機能DB・カシステム0.8情報伝達0.4文書作る費 任・権限・役割 18きっ性 現場実態・指示 決定体0.0(規定◆その他JR東分館人民日・分担切迫性 工程・時間管理,意性-0.8検査体制-1.2-1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4 0.8 1.2 Fig. 2 Scatter diagram of the background factorsaccording to Correspondence Analysis.コレスポンデンス分析の散布図では、類似度・関係 性の強い要素同士は近くに、弱い要素同士は遠くにプ ロットされる。したがって、今回の結果からは、「阻害 性」は「承認・指示意志決定体制」「責任・権限・役割」 と、「切迫性」は「工程・時間管理」「業務内容・分担 整備」と、「重複性」は「検査体制」「人員数」「人員配 置・分担」と、「情報量」は「DB・入力システム」「情 報伝達・共有」「文書作成・管理」と、「業務量」は「業 務量・内容」「現場実態把握」「ルール・標準・基準」 「文書作成・管理」「能力・経験・育成」「人員配置・ 分担」「人員数」とそれぞれ相対的に関連が強いことが 明らかとなった。 1. 続いて、保全を担当する部署とそれ以外の部署に分 けて分析した。前述の 2005 年 11 月に実施した直接要 因調査(保全部署 n=423、保全部署以外 n=888)では、 繁忙感、各直接要因ともに保全担当部署の方がそれ以 外の部署よりも有意に高い値となっていた。そこで、 背景要因の自由記述についても保全部署とそれ以外に 分け、全体と同様にコレスポンデンス分析を実施した。 第2軸まででの累積説明率はそれぞれ 72.6%、71.5% で、カイ二乗検定はともに有意であった(Fig. 3,4) 。保全部12351 保全部|4 411 -***保全部署以外3.7***p<.001Fig.3 The feeling of busyness : Maintenances, non-Maintenances.***阻害性突発性切迫性******到達性重複性***情報時制御壁1 業務量***5,001 保全部ロ保全部署以外 The influential factors of the feeling of busyness : Maintenances, non-Maintenances.Fig. 4215DB・入力システム0.81...伝0.41自作り・指示 個性決定体0.0 (規定 ------その他現実重任・権限・投..0.41....人員配置 ・分担工図・時間管理複袋協容は動1.21.2-1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4 0.8Fig. 5 Scatter diagram of the background factors according to Correspondence Analysis : Maintenances.“DB・入力システム2.8・共有0.41 ..責任・権限・役1.0 (規定]性目指示決定。・ 分割3分・育成置組付その他工時間管理18.0 (規定]-0.8-1.2 412-1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4 0.8 1.2Fig. 6 Scatter diagram of the background factors ccording to Correspondence Analysis ; non-Maintenances.その結果、直接要因と背景要因の関連では、保全部 署と保全部署以外で大きな相違は見出せない(Fig. 5,6)。 ただ、詳細に見るならば、「能力・経験・育成」は、保 全部署では「情報量」「業務量」と、保全部署以外では 「重複性」「阻害性」と関連が強く、また、「ルール・ 票準・基準」は保全部署では「重複性」「業務量」と、 保全部署以外では「情報量」と関連が強くなっている。 2.3 考察Fig 2,5,6 の各要素の配置から、第1軸(縦軸)を「構 告一機能」、第2軸(横軸)を「規定-運用」とラベリ ングした。例えば、「重複性」は、「機能」的な問題というよりも「構造」的な問題であり、「阻害性」は「規 定」というよりも「運用」面に関する特徴が強いと言 える。一方、両軸の原点に近い「業務量」とその背景 要因群は、こういった特徴は相対的に弱い。また、保全を担当する部署はそれ以外の部署よりも 繁忙感や直接要因の値が高いが、各々に影響を与えて いる背景要因に大きな差はない。これは、繁忙感の背 景となる問題は同じであっても、背景要因の程度や影 響の受け方が両者で異なっているからだと推測される。3.結言) 今回調査した5つの繁忙感の直接要因の背景にあ るものは、「業務内容・分担整備」「工程・時間管理」「検査体制」など 14 に分類出来た。 三) 本調査における繁忙感要因は、「構造-機能」と「規 *定-運用」の2軸で約7割を説明出来る。 5)5つの直接要因は、各々幾つかの背景要因に影響を受けている。 ) 保全部署は、それ以外よりも繁忙感や直接要因の値 は高いが、背景要因の構成に関しては、大差はない。4.今後の予定各繁忙感直接要因の背景に存在するものとして、幾 つかの背景要因を挙げたが、さらなる背景には、組織 外要因や品質管理制度、組織文化などの存在が推察さ てる。今後は、こういった背景要因間の関係について も明らかにし、包括的な繁忙感モデルの開発・改良を 図っていきたい。参考文献1) Reason, J., & Hobbs, A., Managing Maintenance Error: A Practical Guide. Ashgate Publishing Limited. 2003 (リーズン, J.、ホッブズ, A.、高野研 (監訳)、“保守事故““日科技連出版社、2005. 2] 虎の門病院看護部、“TNS- 「忙しさ」の尺度と看護人員配置-““、1990. B] 芳賀繁、“メンタルワークロードの理論と測定”、日 * 本出版サービス、2001 ■] 作田博、井上枝一郎、細田聡、施桂栄、余村朋樹、奥村隆志、“原子力発電所の職場における繁忙感に ・ ついて”、日本保全学会 3 第回学術講演会要旨集、2006、pp.26-29. 日] 余村朋樹、奥村隆志、細田聡、施桂栄、伊藤典幸、 「井上枝一郎、作田博、“プラント作業員の繁忙感規 一定要因に関する研究”、産業・組織心理学会第 22回大会発表論文集、2006、pp.73-76
“ “?プラント従業員の繁忙感に影響を及ぼす背景要因に関する研究“ “余村 朋樹,Tomoki YOMURA,奥村 隆志,Takashi OKUMURA,作田 博,Hiroshi SAKUDA,施 桂栄,Guirong SHI,細田 聡,Satoshi HOSODA,伊藤 典幸,Noriyuki ITOH,井上 枝一郎,Shiichiro INOUE
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