遠隔保守技術の大型ホットラボへの適用

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
近年の宇宙開発分野、海洋技術開発分野などでは、 作業環境の特殊性から、遠隔操作技術や遠隔保守技術 の開発が不可欠となっている。放射性物質を取扱う施(ホットラボ)においても、高放射線、封じ込め等 寺有な環境の中での作業となることから、遠隔保守技 等の開発は極めて重要である。特に高速炉で使用した プルトニウムを含有した燃料(集合体)を取扱う施設 では、放射線を遮へいし、且つ、密封性を確保した大 型のセルを配置する必要がある。大洗研究開発センタ 一 照射燃料集合体試験施設(FMF:Fuels Monitoring Facility)に設置されている試験セルは、セル内寸法 6 n×19.5m、高さ 7mで、その周囲は 1.1mのコンクリ ート遮へい壁で囲われている。遮へい壁には 14 箇所の 合ガラス製遮へい窓が設置されており、遮へい窓越し こマスタースレーブ(M/S) マニプレータによる遠隔操作で様々な試験を実施している。さらにセル内には、 式験機の他、重量物の移送を行うインセルクレーン、 式験機などの機器の操作や保守を行うためのパワーマ ニプレータが備え付けられており、これらの設備にお いても故障等を想定した遠隔保守技術が取り入れられ ている。本報では、FMF のインセルクレーン、パワー マニプレータ及びリペアホイストを中心とした大型ホ ントラボにおける遠隔保守技術と操業開始から 30 年 間に渡る運転保守管理の実績に基づく保全方法の確立 こついて述べる。
2. セル内クレーン設備の概要 2.1 構成
FMF の試験セルにおけるセル内クレーン設備は、イ ンセルクレーン2基、パワーマニプレータ2基及びイ ンセルクレーンとパワーマニプレータの保守に用いる Jペアホイストの3種類の機器によって構成されてい。各機器の操作は、基本的にセル周囲に設置されて いる遮へい窓からセル内を監視しながら専用のポータ
|リペアホイストエンクロージャーガイドチューブ・チェーンホットリペア室コンタクトリペア室サービスエリアトロリー--インセルクレーンセルクルーカンブリッジリペアホイスト操作室キャリッジ- ホイスト一本ハイブリッジテレスコピックチューブ走行レール多関節型ロボットアーム遮へい窓|パワーマニプレータ|除染セルクリーン セル試験セル操作室図1 セル内クレーン設備の全体配置図(FMF断面図)ブルコントローラにより実施する。また、必要に応じ てセル外で修理を実施するために、構成部品をユニッ ト化し、遠隔操作による分解・組立ができる構造とな っている。セル内クレーン設備の全体配置図を図1に 示す。2.2 インセルクレーンインセルクレーンは一般的に使用されている天井走 行クレーンと同様な構造で、セルの天井近くを走行す るブリッジ、ホイストを有し、ブリッジ上で横行を行 うトロリーで構成する。インセルクレーンの主な用途 は、照射済燃料集合体、セル内設置の試験機、セル内 で発生した廃棄物等の重量物の移送を行うものである。 インセルクレーンの仕様を表1に示す。表1 インセルクレーン仕様 動作内容| 仕様 ブリッジ走行速度2.0~7.0m/min トロリー横行速度2.0~7.0m/min ホイスト上下速度0.5~2.0m/min 定格荷重3.63ton 揚程10.0m2.3 パワーマニプレータ * パワーマニプレータは、インセルクレーンと同様に 天井付近(インセルクレーン走行レール下部)の走行 を行うブリッジとブリッジ上を横行するキャリッジで 構成する。キャリッジには上下駆動を行うテレスコピ ックチューブを取付け、その先端に多関節型のロボッ227トアームを取付けることができる。このロボットアー ムは、セル内に設置される試験機等の操作補助または 保守、重量物の搬送を行う。パワーマニプレータの仕 様を表2に示す。表2 パワーマニプレータ仕様 動作内容仕様 ブリッジ走行速度2.0~7.2m/min キャリッジ横行速度 2.0~7.0m/min テレスコピックチューブ 上下速度10.6~4.0m/min 上下ストローク 3.5m 定格荷重340kg 多関節型ロボットアーム最大取扱荷重 67kg2.4 リペアホイスト ・ リペアホイストは、昇降装置及び回転装置と昇降用 のガイドチューブ・チェーンで構成する機器であり、 試験セル中心位置の天井にあたるサービスエリアに設 置されたエンクロージャ内に収納している。このリペ アホイストはセル内に配置したインセルクレーン及び パワーマニプレータの保守時に、ブリッジ、キャリッ ジ、トロリーなどを遠隔操作でセルの天井部付近から 床まで吊り降ろし、保守後に再び天井部付近まで吊り 上げる場合に使用する。リペアホイストの仕様を表3 に示す。表3 リペアホイスト仕様 動作内容| 仕様 定格荷重5.0ton ホイスト上下速度1.0m/min 揚程7.5m 回転速度0.058rpm 回転角度左回り 180° (0°を基準として) | 右回り9003. 遠隔保守技術 FMF の試験セル内環境は、放射線線量率 8mSv/h 以上、プルトニウム等による a線を放出する放射性物質 の表面密度 20Bq/cm2以上で、且つ、窒素ガス雰囲気(酸 素濃度 100ppm 以下)である。従って、作業者の立入 りによる直接保守が不可能であるため、セル内に設置 した試験機をはじめ、セル内クレーン設備等は、セル 外からの遠隔操作による保守、またはセル外へ持ち出 しての直接保守が可能な設計である。さらにセル内に は監視カメラを設置し、遮へい窓からは視認できない 場所も確認できるようにしている。遮へい窓近傍に設 置した試験機などの保守は、M/S マニプレータやセル 内クレーン設備による遠隔保守で対応可能であるが、 インセルクレーンのトロリーなどの保守は専用の昇降 装置を用いる必要がある。その昇降装置がリペアホイ ストであり、セル天井レールに設置されたトロリーな どをセル床面に吊り降ろし、保守後、再度天井レール に設置するための吊り上げに用いる。吊り降ろしたト ロリーなど、ユニット化された設備の構成部品は、除 染セルに移送し、遠隔除染を行った後、機器の保守を 行うホットリペア室に搬出する。移送にはインセルク レーンを使用するため、試験セル内には、同一走行レ ール上に2基のインセルクレーンを設置し、片方のイ ンセルクレーンが故障した場合でも、移送可能となっ ている。ホットリペア室は、空気雰囲気であり、放射 線線量率も低いため、作業者が立入り、直接保守が可 能なエリアである。これにより、遠隔では不可能な詳 細な保守を行うことができる。 - 以上のことから、リペアホイストを設置することに よって、インセルクレーンを含め、試験セル内に設置 した設備の完全なる遠隔保守ができる。以下にリペア ホイストを用いたトロリー等の保守手順を述べる。3.1 トロリー、キャリッジの着脱インセルクレーンのトロリー及びパワーマニプレー タのキャリッジは、専用の着脱治具を用いて、ブリッ ジ上からセル床面に吊り降ろす。その際、トロリー等 をリペアホイストの真下まで移動させる必要があるが、 トロリー等の故障により、動作不能な場合でも、イン セルクレーンまたはパワーマニプレータがそれぞれ別 に1基づつ設置されているため、その機器のけん引機 構を用いて真下まで移動することができる。セル床面228に降ろしたトロリー等の構成部品はパワーマニプレー タを用いて、全て遠隔操作での保守が可能である。なお、トロリーはセル床面に直接置く事ができるが、キ ・ャリッジは自立しないため、専用のキャリッジスタン ドを予めセルの中央に準備しておく必要がある。トロ リー等を遠隔着脱する際の主な手順を以下に示す。 O 専用着脱治具をリペアホイストの真下に設置し、 吊り上げる。 2 トロリー等をリペアホイストの真下まで移動させる。 3 専用着脱治具でトロリー等を吊り、セル床面に降ろす。 4 保守後、吊り降ろした逆の手順で復帰する。3.2 ブリッジ本体の遠隔分解インセルクレーン、パワーマニプレータのブリッジ 本体の保守をする場合は、ブリッジ本体をセル床面ま で吊り降ろして行う。なお、ブリッジ本体以外の走行 モータやリミットスイッチについては、ブリッジがレ ール上にある状態でも分解・組立を含む保守を行うこ とが可能である。ブリッジ本体を遠隔分解する際の主 な手順を以下に示す。 1 ブリッジ吊り具及びブリッジスタンドをセル床面の所定の位置に設置する。 2 ブリッジをリペアホイストの中心まで移動する。 3 リペアホイストを降ろし、ブリッジ吊り具を吊 り上げ、ブリッジビームの下に固定する。 4 ブリッジ吊り具をリペアホイストで持ち上げ、 * 電気コネクタが外れるまで吊り上げる。 5 ブリッジを約90°回転させ、セル床面のブリッジスタンドまで吊り降ろす。 6 保守後、吊り降ろした逆の手順で復帰する。4. 遠隔保守の実績FMF は、操業開始から 30 年を経過し、この間にイ ンセルクレーン等については様々な保守を行った。そ の中で、実際にリペアホイストを用いた大掛かりな保 守実績は合計 12 件である。これらについては、遠隔保 守の設備設計思想を十分満足できる保守ができた。ま た、保守を行った中で作業者の負傷やセル内に設置された設備等を損傷させた事例はなく、安全性も確保で きた。以下に保守内容の詳細を述べる。4.1 保守内容リペアホイストを用いた保守内容は、インセルクレ ーン、パワーマニプレータ共に、機器の老朽化に伴う 動作不良の修理または部品交換、更には人為的な理由 により発生した故障の修理である。直近では電磁ブレ ーキとモータに動作不良が発生している。電磁ブレー キの動作不良は、原因がケーブルの断線であったため、 本体ごと交換し正常に復帰した。また、モータの絶縁 不良は、原因がモータのカーボンブラシ磨耗によるも ので、カーボン粉がモータ内に付着して絶縁不良を起 こしていた。そのため、モータ内に付着したカーボン 粉を除去することで絶縁抵抗値が正常な値に回復した。 次に、人為的な理由により発生した故障は、インセル クレーンのワイヤ乱巻きがある。これは吊り荷を斜め 吊りにした結果、ワイヤがドラムの溝からずれ、修復 しようと巻上げ、巻下げを繰り返したところ、ワイヤ がドラム上で乱巻状態になり、またワイヤの1本がド ラムから外れたというものである。これについてはト ロリーごとホットリペア室に移送し、ワイヤの巻き直 しを行った。リペアホイストを用いない軽微な保守内 容としては、パワーマニプレータの爪先開閉異常が最 も多く、爪先固定ピンの脱落やグリップモータの異常 が主な原因となっている。機器の老朽化に伴う故障は、 定期的に行う点検と部品交換においてある程度減らす ことは可能であるが、人為的な理由による故障につい ては、作業者の各種設備に対する知識と操作能力の更 なるスキル向上、危機管理意識の向上が必要である。4.2 作業者の被ばく試験セル内は高線量率下にあるため、そこに設置さ れているインセルクレーン及びパワーマニプレータも 高線量化となっている。従って、ホットリペア室に移 送する際には、除染セルにて十分な遠隔除染を行い、 表面線量率をできるだけ低く抑える必要がある。アル コールガーゼにより表面の拭き取り除染を行うことで、 表面線量率は 500uSv/h以下となる。ホットリペア室は、 作業者が空気供給ホース付のフロッグマンスーツを着229用し立入ることができるため、そこで更に詳細な直接 除染を行い、最終的には約 100uSv/h にすることができ る。遠隔除染及び直接除染を行うことで、フロッグマ ン作業一回当たりの被ばくは約0.03mSv/h程度であり、 十分低減化が図られている。4.3 課題現在のところ発生はしていないが、大きな障害とし て想定される事象は、試験セルから除染セルへの移送 の際に用いるインセルクレーン2 基が同時に故障した 場合には、移送が不可能となる。その事象を避けるた めに、定期的な点検及び一方に故障が発生した際の速 やかな修理を行っている。それはパワーマニプレータ、 リペアホイストについても同様の管理である。また、 リペアホイストを用いた修理は、分解、除染、移送と いった多くの手順を踏んだ作業となるため、復帰まで には約1ヶ月の期間を要する。その間、セル内クレー ン設備を用いた燃料集合体の移送、試験機の操作補助 等に多大な影響を及ぼすため、大掛かりな修理になる 前に、できるだけリペアホイストを用いない、軽微な 修理で済むよう使用前点検を含め常に設備の状態を把 握しておく必要がある。5.結言FMF の遠隔保守技術は、これまでの保守実績によっ て、遠隔分解、遠隔除染、修理及び復帰の手順を確立 しており、十分満足できるものである。さらに、これ らの作業において、作業者の被ばく低減化、作業安全 性の確保などが図られている。大型ホットラボへ適用 した現在の遠隔保守技術は、本来の照射後試験を継続 して行う上で、必要不可欠なものである。また、これ まで誰一人としてセル内に立入ることなく、計画通り の遠隔保守で 30 年間運転してきた実績があるため、技 術確立できたものと判断している。 参考文献 [1] 高放射性物質取扱施設設計マニュアル 1985 年 11月 「遠隔操作技術」研究専門委員会 (社)日本原子力 学会- 230 -
“ “?遠隔保守技術の大型ホットラボへの適用“ “坂本 直樹,Naoki SAKAMOTO,吉川 勝則,Katsunori YOSHIKAWA,櫛田 尚也,Naoya KUSHIDA,中村 保雄,Yasuo NAKAMURA,助川 清志,Kiyoshi SUKEGAWA
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