フェーズドアレイ式超音波探傷装置の開発
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カテゴリ: 第5回
1.緒言
フェーズドアレイ法とは、アレイセンサ内部の複 数の圧電素子に遅延時間を与えて、超音波の位相を制 御して送受信することにより、任意の位置にビームを 集束するとともに、遅延時間を電子的に制御してビー ム走査が可能な検査技術である。これにより、検査対 象の内部を画像化して検査できるため、迅速かつ高度 な超音波検査が可能になっている。 近年、フェーズドアレイ方式の探傷装置は、半導体 部品の高性能化に伴い、小型化・高機能化など目覚し い技術的発展を遂げている。また、原子力プラントを はじめとして、航空機、鉄鋼など、その適用範囲が広 がりつつある[1]。さらに、規格化や標準化の動きも活 発化してきており、フェーズドアレイ法の更なる発展 が期待されている。そこで、今回このフェーズドアレイ方式の現場での 適用性向上のための小型化と探傷性能向上の両立、さ らには、高機能装置へ拡張することを念頭に、フェー ズドアレイ式超音波探傷装置を開発した。本報告では、 開発したフェーズドアレイ式超音波探傷装置を紹介す るとともに、探傷時の SN 比向上のために採用した矩 形バースト発振パルサの効果を検証した。さらに、探 傷画像の SN 比向上、分解能手法として搭載した S-SAFT(Sector-scan SAFT)法[2,3]についても、その効果 を検証した。
2. 装置及び試験体2.1 装置 - 今回開発したフェーズドアレイ方式超音波探傷装置 を Fig.1 に示す。Fig.1(a)の小型装置(型式:ES3300)は、 同時送受信素子数 32、対応素子数 128 である。本装置 は、検査員が1人で装置を現場まで持って行き、検査 可能な寸法(350×370×100mm)及び重量(7.5kg)とする ことを目標として開発した。また、この装置を拡張す ることで、同時送受信素子数を大幅に増強し、高機能 装置を構成可能とした。その一例が、Fig.1(b)に示す 3D Focus-UT(型式:ES3300F)である。詳細は別報に譲るが、 同時送受信素子数が 256 あり、マトリクスアレイセン サを使用して、3次元走査が可能な装置である。これらの装置の共通仕様を Tablel にまとめる。パル サについては、出力電圧 28~125V、出力波形は矩形波 を基本に、正極と負極発振や、これを組み合わせた両 極発振、さらに複数回繰り返すことで SN 比向上が期 待できるバースト発振(最大 5 サイクル)を可能な構成 とした。探傷条件や検査対象の材料特性に合わせて、 最適な出力波形選択することで、より高度な探傷が可 能となる。また、レシーバの周波数帯域は 0.5~20MHz であり、様々な適用対象をカバーできるように開発し た。表示においても、探傷画像の SN 比と分解能を向 上するために開発した S-SAFT 法を搭載した。解能を 向上するために開発した S-SAFT 法を搭載した。(a) Portable phased array UT equipment (ES3300)(b) 3D Focus-UT equipment (ES3300F) Fig. 1 HITACHI phased array UT equipments.Table 1 Specification of phased array equipments Pulser Voltage28~125V Pulse Width 5~1000ns at Sns step Pulse Shape square (negative, positive,bipolar, burst) Receiver Band width 0.5 ~20MHz(-3dB)90dB for single channel Gain(Analog:50dB, Digital:40dB) Sampling freq. 200MHz with interpolation Output res. 8bit/16bit selectable Focal laws 1024 Digital filter LPF:1~20, HPF: 0.5~15MHz DAC8 point programmable: Visualization OnlineA, B, S scan OfflineC, D scan, S-SAFT Frame rate > 20 f/s InterfacePC interface Ethernet (100Base-T) I/O2axis encoder input2.2 試験体及び試験条件 1. 本研究では、深さ 40~65mm に、3mm のサイド ドリルホールを計6箇所付与した SUS 製の試験体 (寸法:80×50×300mm)を用いて試験を行った。ま た、アレイセンサの周波数による変化を検証するた めに、Table2 に示す一般的な 1、2、5MHzのアレイ センサを用いた。なお、2MHz のアレイセンサは、 素子数が 24 素子のため同時送受信素子数も 24 素子 であり、また、5MHz の場合は 64 素子のうち 32 素 子を同時送受信素子として用いて試験を行った。30mm Side drilled hole(3mm)80mm5mm300mm Fig. 2 Specimen.Table 2 Specification of 1D-array and condition FrequencyIMHz 2MHz 5MHz Number of elements 32 2 4 64 Simultaneously active 32 24 32 channels3.試験結果及び検討 3.1 バースト波の効果検証 - 前述したように、今回開発したフェーズドアレイ式 超音波探傷装置のパルサは、負極、正極、両極、さら にこれを複数回繰り返すことで、矩形のバースト波を 発振可能である。Fig.3 に計測したオシロスコープの波 形を例として示す。Fig.3(a)は 0.5 サイクル(負極矩形波)、 (b)は2サイクル、(c)は4サイクルの矩形バースト波で ある。この計測の際のパルス幅は 100ns、パルス電圧 120VP-P である。本研究では、バースト波のサイクル 数をパラメータとして、その感度を検証した。具体的 には、送受信の焦点は試験体の底面(80mm)とし、その エコー強度を計測した。Fig.4 にその計測結果を示すが、 1、2、5MHz の全ての場合において、バースト波のサ イクル数が増すにつれて、エコー強度が増加し、約3 サイクルで飽和することを確認した。矩形単極に相当 する 0.5 サイクルと比較すると、10dB以上の感度向上 を確認できたと考える。311(a)0.5cycleVoltage(b)2cycle|ALL(c)4cycleTime Fig. 3 Output waveform of pulser at no-load.(Pulse width: 100ns, Voltage: 120VP-P)Relavive amplitude [dB]1MHz ●-2MHz -5MHz1899/08/01)0 1 2 3 4 5 6Number of burst cycles [n] Fig. 4 Echo amplitude by number of the burst cycles3.2 S-SAFT法の効果検証今回開発したフェーズドアレイ式超音波探傷装置に は、探傷画像の SN 比と分解能向上を目的として開発 した、S-SAFT 法を搭載した。S-SAFT 法の基本原理を Fig.5 に示すが、セクタスキャンを行いながら、アレイ センサの機械走査(もしくは電子走査)することで、複数 枚の探傷画像を収録して、合成処理を行うことで、平 均化で SN 比の向上効果が得られるだけでなく、開口 合成(SAFT)による分解能向上の効果も得ることができ る。本報告では、S-SAFT 法について、開発した装置 用いて、その効果を検証した。Fig.6 に通常のセクタス キャンの探傷画像と S-SAFT 法を適用した探傷画像の 比較を示す。SN 比の面では、本試験体が母材のため明 確ではないが、ノイズ振幅は半分以下に低減している。 また、通常のセクタスキャンでは、ドリルホールから のエコーが横方向に広がり、探傷角度が大きいほどエ コーも広がってしまう。しかしながら、S-SAFT 法を適 用した探傷画像は、合成処理の効果でドリルホールの 形状に近い探傷画像が得られ、エコーの空間分解能の 向上が確認でき、その有効性を確認できた。Scanning direction Array 'y? yes sensor mmmmm homlmmmmmmmFlaw echoFig. 5 Flaw imaging principle by S-SAFT.......(a) S-Scan(b) S-SAFT Fig. 6 Comparison of inspection image.(Frequency of array sensor: 2MHz)4.結言1. 新型フェーズドアレイ装置を開発し、バースト波と S-SAFT 法の評価を行い、以下の結果を得た。 1) バースト波のサイクル数が増すにつれて、エコー強度が増加し、矩形単極の 0.5 サイクルと比較して - 10dB以上の感度向上を確認できた。 2) サイドドリルホールを用いて試験を行い、S-SAFT ・ 処理前と比較して、SN比の向上とエコーの空間分解能向上に効果があり、S-SAFT の有効性を確認でき た。参考文献 [1] 横野 泰和、“フェーズドアレイ UT の適用事例及び - 標準化の世界的動向”、非破壊検査、Vol.56, No.10, - pp.510-515 (2008). [2] 江原和也、他5名、“配管超音波検査におけるアレイ探触子を利用した欠陥画像化手法の開発““、JSNDI平成 19年度春季大会 講演概要集、pp.39-40 (2007). [3] C. Matsuoka et al., ““COMPATIVE STUDY ONULTRASONIC IMAGING METHODS WITH ARRAY TRANSDUCERS”, in Review of Progress in QNDE, edited by D. 0. Thompson and D. E. Chimenti, 27, 707-714 (2008)312
“ “フェーズドアレイ式超音波探傷装置の開発“ “菊池 修,Osamu KIKUCHI,大和谷 直史,Naofumi YAMATOYA,海野 友洋,Tomohiro UMINO,馬場 淳史,Atsushi BABA
フェーズドアレイ法とは、アレイセンサ内部の複 数の圧電素子に遅延時間を与えて、超音波の位相を制 御して送受信することにより、任意の位置にビームを 集束するとともに、遅延時間を電子的に制御してビー ム走査が可能な検査技術である。これにより、検査対 象の内部を画像化して検査できるため、迅速かつ高度 な超音波検査が可能になっている。 近年、フェーズドアレイ方式の探傷装置は、半導体 部品の高性能化に伴い、小型化・高機能化など目覚し い技術的発展を遂げている。また、原子力プラントを はじめとして、航空機、鉄鋼など、その適用範囲が広 がりつつある[1]。さらに、規格化や標準化の動きも活 発化してきており、フェーズドアレイ法の更なる発展 が期待されている。そこで、今回このフェーズドアレイ方式の現場での 適用性向上のための小型化と探傷性能向上の両立、さ らには、高機能装置へ拡張することを念頭に、フェー ズドアレイ式超音波探傷装置を開発した。本報告では、 開発したフェーズドアレイ式超音波探傷装置を紹介す るとともに、探傷時の SN 比向上のために採用した矩 形バースト発振パルサの効果を検証した。さらに、探 傷画像の SN 比向上、分解能手法として搭載した S-SAFT(Sector-scan SAFT)法[2,3]についても、その効果 を検証した。
2. 装置及び試験体2.1 装置 - 今回開発したフェーズドアレイ方式超音波探傷装置 を Fig.1 に示す。Fig.1(a)の小型装置(型式:ES3300)は、 同時送受信素子数 32、対応素子数 128 である。本装置 は、検査員が1人で装置を現場まで持って行き、検査 可能な寸法(350×370×100mm)及び重量(7.5kg)とする ことを目標として開発した。また、この装置を拡張す ることで、同時送受信素子数を大幅に増強し、高機能 装置を構成可能とした。その一例が、Fig.1(b)に示す 3D Focus-UT(型式:ES3300F)である。詳細は別報に譲るが、 同時送受信素子数が 256 あり、マトリクスアレイセン サを使用して、3次元走査が可能な装置である。これらの装置の共通仕様を Tablel にまとめる。パル サについては、出力電圧 28~125V、出力波形は矩形波 を基本に、正極と負極発振や、これを組み合わせた両 極発振、さらに複数回繰り返すことで SN 比向上が期 待できるバースト発振(最大 5 サイクル)を可能な構成 とした。探傷条件や検査対象の材料特性に合わせて、 最適な出力波形選択することで、より高度な探傷が可 能となる。また、レシーバの周波数帯域は 0.5~20MHz であり、様々な適用対象をカバーできるように開発し た。表示においても、探傷画像の SN 比と分解能を向 上するために開発した S-SAFT 法を搭載した。解能を 向上するために開発した S-SAFT 法を搭載した。(a) Portable phased array UT equipment (ES3300)(b) 3D Focus-UT equipment (ES3300F) Fig. 1 HITACHI phased array UT equipments.Table 1 Specification of phased array equipments Pulser Voltage28~125V Pulse Width 5~1000ns at Sns step Pulse Shape square (negative, positive,bipolar, burst) Receiver Band width 0.5 ~20MHz(-3dB)90dB for single channel Gain(Analog:50dB, Digital:40dB) Sampling freq. 200MHz with interpolation Output res. 8bit/16bit selectable Focal laws 1024 Digital filter LPF:1~20, HPF: 0.5~15MHz DAC8 point programmable: Visualization OnlineA, B, S scan OfflineC, D scan, S-SAFT Frame rate > 20 f/s InterfacePC interface Ethernet (100Base-T) I/O2axis encoder input2.2 試験体及び試験条件 1. 本研究では、深さ 40~65mm に、3mm のサイド ドリルホールを計6箇所付与した SUS 製の試験体 (寸法:80×50×300mm)を用いて試験を行った。ま た、アレイセンサの周波数による変化を検証するた めに、Table2 に示す一般的な 1、2、5MHzのアレイ センサを用いた。なお、2MHz のアレイセンサは、 素子数が 24 素子のため同時送受信素子数も 24 素子 であり、また、5MHz の場合は 64 素子のうち 32 素 子を同時送受信素子として用いて試験を行った。30mm Side drilled hole(3mm)80mm5mm300mm Fig. 2 Specimen.Table 2 Specification of 1D-array and condition FrequencyIMHz 2MHz 5MHz Number of elements 32 2 4 64 Simultaneously active 32 24 32 channels3.試験結果及び検討 3.1 バースト波の効果検証 - 前述したように、今回開発したフェーズドアレイ式 超音波探傷装置のパルサは、負極、正極、両極、さら にこれを複数回繰り返すことで、矩形のバースト波を 発振可能である。Fig.3 に計測したオシロスコープの波 形を例として示す。Fig.3(a)は 0.5 サイクル(負極矩形波)、 (b)は2サイクル、(c)は4サイクルの矩形バースト波で ある。この計測の際のパルス幅は 100ns、パルス電圧 120VP-P である。本研究では、バースト波のサイクル 数をパラメータとして、その感度を検証した。具体的 には、送受信の焦点は試験体の底面(80mm)とし、その エコー強度を計測した。Fig.4 にその計測結果を示すが、 1、2、5MHz の全ての場合において、バースト波のサ イクル数が増すにつれて、エコー強度が増加し、約3 サイクルで飽和することを確認した。矩形単極に相当 する 0.5 サイクルと比較すると、10dB以上の感度向上 を確認できたと考える。311(a)0.5cycleVoltage(b)2cycle|ALL(c)4cycleTime Fig. 3 Output waveform of pulser at no-load.(Pulse width: 100ns, Voltage: 120VP-P)Relavive amplitude [dB]1MHz ●-2MHz -5MHz1899/08/01)0 1 2 3 4 5 6Number of burst cycles [n] Fig. 4 Echo amplitude by number of the burst cycles3.2 S-SAFT法の効果検証今回開発したフェーズドアレイ式超音波探傷装置に は、探傷画像の SN 比と分解能向上を目的として開発 した、S-SAFT 法を搭載した。S-SAFT 法の基本原理を Fig.5 に示すが、セクタスキャンを行いながら、アレイ センサの機械走査(もしくは電子走査)することで、複数 枚の探傷画像を収録して、合成処理を行うことで、平 均化で SN 比の向上効果が得られるだけでなく、開口 合成(SAFT)による分解能向上の効果も得ることができ る。本報告では、S-SAFT 法について、開発した装置 用いて、その効果を検証した。Fig.6 に通常のセクタス キャンの探傷画像と S-SAFT 法を適用した探傷画像の 比較を示す。SN 比の面では、本試験体が母材のため明 確ではないが、ノイズ振幅は半分以下に低減している。 また、通常のセクタスキャンでは、ドリルホールから のエコーが横方向に広がり、探傷角度が大きいほどエ コーも広がってしまう。しかしながら、S-SAFT 法を適 用した探傷画像は、合成処理の効果でドリルホールの 形状に近い探傷画像が得られ、エコーの空間分解能の 向上が確認でき、その有効性を確認できた。Scanning direction Array 'y? yes sensor mmmmm homlmmmmmmmFlaw echoFig. 5 Flaw imaging principle by S-SAFT.......(a) S-Scan(b) S-SAFT Fig. 6 Comparison of inspection image.(Frequency of array sensor: 2MHz)4.結言1. 新型フェーズドアレイ装置を開発し、バースト波と S-SAFT 法の評価を行い、以下の結果を得た。 1) バースト波のサイクル数が増すにつれて、エコー強度が増加し、矩形単極の 0.5 サイクルと比較して - 10dB以上の感度向上を確認できた。 2) サイドドリルホールを用いて試験を行い、S-SAFT ・ 処理前と比較して、SN比の向上とエコーの空間分解能向上に効果があり、S-SAFT の有効性を確認でき た。参考文献 [1] 横野 泰和、“フェーズドアレイ UT の適用事例及び - 標準化の世界的動向”、非破壊検査、Vol.56, No.10, - pp.510-515 (2008). [2] 江原和也、他5名、“配管超音波検査におけるアレイ探触子を利用した欠陥画像化手法の開発““、JSNDI平成 19年度春季大会 講演概要集、pp.39-40 (2007). [3] C. Matsuoka et al., ““COMPATIVE STUDY ONULTRASONIC IMAGING METHODS WITH ARRAY TRANSDUCERS”, in Review of Progress in QNDE, edited by D. 0. Thompson and D. E. Chimenti, 27, 707-714 (2008)312
“ “フェーズドアレイ式超音波探傷装置の開発“ “菊池 修,Osamu KIKUCHI,大和谷 直史,Naofumi YAMATOYA,海野 友洋,Tomohiro UMINO,馬場 淳史,Atsushi BABA