ディーゼル機関診断の適用について

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カテゴリ: 第5回
1.はじめに
我が国の原子力発電所においては、機器の健全性/ 信頼性の維持とトラブルの未然防止のため、予防保全 を基本とした広範囲な分解点検等が定期的に実施さ以降、「電力自由化」の動きが加速されており、原子 力発電も機器の健全性/信頼性維持とともに、他電源・ 一方、米国においては、機器の運転中の状態を把握 するための様々な技術が開発され、それらの適用によ り機器の状態を把握し、その結果に基づきその後の保器の健全性/信頼性を確保するとともに、保全コスト上記の状況に鑑み、当社(日本原子力発電株式会社) は、平成 11 年にそのための専任チームを発電所に設 置するとともに、米国にて多くの実績がある振動診断、 潤滑油分析を中心とした回転機器の診断を実施して きた。また、これと並行して電動弁、空気作動弁、デ ィーゼル機関等、特定機器用の診断システムについて 調査や技術開発等を行い、順次、CBM の導入を進め ている。 連絡先:吉永岳、〒914-8555 福井県敦賀市明神町 1番地、日本原子力発電株)敦賀発電所技術センター、 電話:0770-26-8043、e-mail:takeshi-yoshinaga@japc.co.jpこのうち、ディーゼル機関の診断システムは、エンジせで総合的にディーゼル機関の経年劣化状態や異常兆候 を診断するものであり、米国においては既に多くの原子本システムの実機への試適用においてその有効性を確認 した後、当社社員直営でのデータ採取及び診断・評価を
1. 本稿では、このディーゼル機関診断システムの原理、もに、当社原子力発電所のディーゼル機関にて確認さ2. 原子力発電所ディーゼル機関の特徴 - 表1に当社発電所のディーゼル機関の概要を記す。 当社のディーゼル機関は大きく分けて以下の3つに分 類される。 ・非常用ディーゼル発電機駆動用ディーゼル機関 ・高圧注水系ポンプ駆動用ディーゼル機関 ・高圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機駆動用ディーゼル機関 - いずれの設備も工学的安全設備に分類されており、所内電源の喪失時に、非常用炉心冷却システム機器等への電源を供給する役割を担っており、手動、
ゼル機関も非常に高い信頼性が要求されるため、 状態としておくことを保安規定において定めている。 時等、時間的に限定されており、年間を通じての運転 また、他の2つは ECCS 機器であり、いずれのディー 時間は高々、30 時間程度である。このため、摩耗のよ ゼル機関も非常に高い信頼性が要求されるため、そのうに運転時間により支配される劣化事象の進行は非 信頼性が確保されていることを確認すべく、月に1回、 常に緩やかであると考えられる。また、これまでの運 定期試験を行い、手動起動にて全負荷運転での運転性 転保守経験から、ディーゼル機関の起動失敗に至るよ 能の確認を行う他、発電所の定期検査時には、自動起 うな重大なトラブルは少ない。また、修理や取替の必 動・性能確認検査や分解検査等、法令に基づく検査を 要な部品も少なく、その部位も限られていることから、 実施している。劣化状況を的確に把握し、その状態を評価することが Table 1 Summary of Diesel Engines in JAPC Plants できれば、信頼性を維持しつつ、ディーゼル機関保全の合理化を進めることは十分可能であると考えられ る。
3.1 診断技術ディーゼル機関診断システムは、いくつかの診断技 術の組合せで総合的にディーゼル機関の状態を診断 するものである(図 2)。以下に、本システムで適用す る診断技術の概要を記す。一方、図1に示すように、ディーゼル機関は複雑な 系統構成をしている上、多くの部品から構成されてい るため、その保全においては非常に多くの労力を要す るとともに、高いレベルの品質保証体制が要求される。 そのため、保全コストが高くなるとともに、分解・組 立時のヒューマンエラーに伴うトラブルの懸念があNiigata 7,480PS 6,500kVAその保全においては非常に多くの労力を要す らに、高いレベルの品質保証体制が要求される。る。メータ(圧力、振動、超音波等)とエンジンのクラン ク角との相関を記録し、ベースラインデータや他シリ ンダデータ、あるいは同型の他号機のデータとの比較 を行う。採取されたデータについては、以下の2通り の分析が行われる。Fig. 1 Structure of Diesel Engine SystemEngine Signature Analysis: ESAVibrationCylinder PressureUT・Vibration & UT Signature__ 2Chemical SamplingVibration3 Temperature Measurement【定性分析(図 3)】 吸排気弁及び燃料噴射弁の開閉タイミング、燃料噴 射、排気ガス放出等のタイミング、及び振動、超音波【定量分析(図4)】燃焼分析による各シリンダの出力、シリンダ間の出 カバランス及び熱効率等の算出ESAにおいて計測されるパラメータの概要を表2に 示す。Fig. 4 Quantitative Analysis2化学サンプリング化学サンプリングでは、エンジンに作用する流体 (潤滑油、燃料油及び冷却水等)を定期的にサンプリ ングし、それらの分析を行う。分析は、流体に含まれる摩耗粉や化学組成の状態を確認することによりエ ンジンの健全性を評価するとともに、それらの酸化度 や水分含有量を確認することで、流体自体の健全性の 確認も併せて行う。熱電対、サーモグラフィ等により、電気的な結線の緩大きい場所、高温流体・ガスの漏れ、高い電気的抵抗原 等を検出できる。P-0Table 2 Parameters measured at ESA EngineEngine Engine Condition PerformanceSignature Monitored ParameterEngine balance, Peak Firingcombustion PressureperformanceEngine balance, Peak Firingcombustion Pressure Angleperformance, fuelinjection performance ExpansionCombustion Reference P-0 performance, fuel Pressureinjection performanceExhaust flow pathway Terminalis open, proper function Pressureof exhaust valve openingCylinder pressure Compressioncompression ReferenceP.8performance, ring Pressuresealing, valve sealing IndicatedP-V Engine balance Horse Power Indicated MeanLog PEffectiveEngine balanceLog V PressureRing sealing, valve Compression Log PCoefficientLog Vsealing, compression ratioCombustion Start ofdP-d0 performance, fuel Combustioninjection timing MaximumDetonation, fuel Pressure Rise |dP-d0injection timing Rate MaximumHeat Combustion Heat Release Release performance, fuel RateRate3.2 ディーゼル機関の劣化モードEx.) “Brow-by““ at Piston Wring 表3に、ディーゼル機関の主な劣化モードと、本診・ Lack of lub oil slick? Cylinder liner abrasion 断システムによる検出方法を記す。表3からわかるよ うに、多くの部品に対する劣化モードが本システムにLeak of combustion gas より検知可能であることがわかる。図5にピストンリ 1000sailing across a piston ring(Brow-by) ングでのブローバイ(燃焼後の排気ガスがピストンリ ングの隙間から漏れる事象)が発生している場合の ESA による検知の例を示す。この場合、図3の通常時signature (at A) の波形と比べ A部に大きな振幅信号が認められる。こCrank Angle のデータと他のデータやパラメータを確認し、総合的 Fig. 5 Typical Signature of “Brow-by““ at Piston Ring に評価することにより、起きている事象がピストンリ ングのブローバイであることが推測される。4. 当社発電所ディーゼル機関への試適用 大部分の劣化モードが検出可能ではあるが、連接棒 12本診断システムを用いたデータ採取及び診断・評価 軸受でのフレッティングや燃料噴射弁での冷却水にを当社直営で行うことができるようにすることを目 よる腐食等、本システムでは検知できない故障モード的とし、平成 13 年 11 月に敦賀発電所において約2週 も存在するため、これらに対してはボアスコープ等に間に渡り、ESA に関するトレーニングを実施した。本 よる内部確認を行うこと等を検討する。 Table 3 Failure Modes detected by Diagnostic Techniques ディーゼル機関診断に多くの実績を持つ米国コンサ Diesel Engine Failure Mode or Diagnostic Element Degradation Detectionわれた。以下に、そのトレーニングの概要を示す。 Monitored Mechanism Method Pistons and Scuffing of liner Vibration1机上トレーニング |analysis,●エンジン理論lube oil analysis Pistons and Cracked pistons Vibration analysis Cylinder Liners解を習得するための講義 Piston Rings Excessive blowby Ultrasound・エンジンの熱力学的なサイクル |analysis, crankcase・燃料噴射と燃料噴射システムの機器 manometer・エンジンの機械的なサイクル Intake/Exhaust Burned or eroded Ultrasound Valves seatsanalysis Intake/Exhaust Excessive seating Vibration analysis Valves noise●データ採取 Intake/Exhaust Incorrect Vibration analysis Valvesデータ採取に用いる各種装置の理論を習得するため closing/opening timeの講義 Piston Wrist Pin Excessive Vibration analysis and Bushing bushing/bearingwear Connecting Rod Excessive bearing Vibration analysis・振動加速度計 Bearing wear・超音波変換器 Crankshaft Main Excessive bearing Vibration analysis Bearing・クランク軸位置検出器 等 wear Fuel Injection |Off-design pump Trending of fuel Pump Metering settings metering rod定量的に得られるデータについては、その判定基準と Rodpositionその技術的根拠、定性的に評価するものについては、 その解釈の方法についての講義376●分析・診断方法 得られたデータの分析・診断のポイント ・判定基準を満足しているか? ・問題の兆候は見られないか? ・シリンダ間の出力バランスにバラツキはないか? ・問題を解決するには、どのような措置を取るのが最善か? ●不具合事例のケーススタディ 正常な状態と異常のある状態を比較することで、どの ような「異常状態」が発生しているかを判断する方法 について習得するための講義 2当社発電所の実機ディーゼル機関での、当社社員直この実機でのデータ採取及びその後の分析の結果、当 社プラントのディーゼル機関に対する ESA の有効性 が確認された。その一例を以下に記す。|2つのシリンダの排気温度が他のシリンダと比較し て低いという事象が認められた。これは、深刻な問題味であることが推測された。この推測結果は、その後検時に正しかったことが確認された。も同様の実機データ採取を行い、本システムの適用性 を確認するとともに、同年 12 月には ESA 以外の主要・潤滑油、燃料油、冷却水の各システムの構成とその機能 ・潤滑油、燃料油、冷却水の化学的組成・分析すべき主要パラメータと、その判定基準 ・ESA にて得られたデータとの相関 以上の ESA 及び化学サンプリングに関するトレー ニングの結果、受講者は今後、直営でのデータ採取、 診断・評価が可能であるとの確信を得るとともに、米 国コンサルタント会社からも、当社社員が十分な知識を行ってきた中で、ディーゼル機関の性能自体には大5.1 排気弁のバウンシング(跳ね)現象がB部に認められている。ただし、B 部以降の波形かとともに、吸気弁閉止後の圧縮工程も設計どおりに行 われており、定量分析からも所定の燃焼圧力を確保で前記1~3を考慮すると、 ・主軸受あるいはクランクピンの摩耗が発生(進Fig.7 Signature of Back-seat leak at Indicator Valve 5.3 排気弁の「閉止遅れ」現象排気弁は、当該シリンダの上死点前-295 度において 閉止するよう設計されているが、図8に示すシリンダはず ・従って、現状で主軸受あるいはクランクピンの摩 耗は発生(進行)しておらず、高い鉛濃度の原因は過去の蓄積によるものである可能性がある と推測した。 この推測を検証するために、次の定検時に当該機の本事象も、その他部位の定性分析や定量分析において は機関の性能上問題ないと判断し、現在も継続監視中 である。1K0LINESIRIUS 1050.70:2011EDG2A Cylinder 11 2006/03/02 15:30:19 Perlod 17で2回(計3回)のサンプリング・分析を実施した。ディーゼル機関本体、あるいは熱交換器等の補機類 における過度の摩耗や損傷の有無を確認するため、潤 滑油・冷却水の分析を平成 15 年度より開始した。サ ンプリングは直営にて行い、分析については専門会社 に委託を行っている。平成 15年度及び 16年度の潤滑油分析結果において、 敦賀1号機非常用ディーゼル機関B号機の鉛濃度が高 いことが判明した(平成 15 年度:89ppm、平成 16年 度:73ppm、A 号機は 4~7ppm)。当該機関において 鉛が使用されているのは主軸受とクランクピン軸受 であり、これらの摩耗が懸念されたことから詳細検討きたが、診断システムの導入によりディーゼル機関の 運転状態を確認し、必要な時期に必要な箇所のみ保全 を行う CBM への移行が可能であるとの確信を得た。 しかしながら、当社における本装置によるディーゼル 機関診断データはまだ少ないことから、当面は診断デ ータの蓄積を図りつつ、分解点検の周期を段階的(10 定検毎→11 定検毎→12 定検毎...)に延長し、診断デ ータと分解点検結果を合わせて評価することで将来 的に完全な CBM への移行を目指すこととした。今後は、診断システムによるデータ採取、診断・評 価と、分解点検の周期を延長したことによる影響の有 無を確認しながら、最終的にはディーゼル機関の完全 な CBM 化を目標として進めていく所存である。
“ “?ディーゼル機関診断の適用について“ “吉永 岳,Takeshi YOSHINAGA,林 治次,Haruji HAYASHI,笛吹 博巳,Hiromi USUI,鶴園 篤哉,Atsuya TSURUZONO,松田 隆文,Takafumi MATSUDA
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