(5)オンラインメンテナンスの安全性評価

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カテゴリ: 第6回
1.緒言
新検査制度のもと,「適切な機器を,適切な時期] に,適切な方法で」保全活動を実施できる仕組みが 確立された。今後は状態監視技術の積極的な導入に よる状態監視の充実,さらにはオンラインメンテナ ンス(運転中保全)の範囲を拡大していくことで, 信頼性重視保全を進めていくことになる。 ・ 運転中保全は、 保全の実施時期の柔軟化による保 全の最適化等により、安全性・信頼性の向上につな がるものといえるが,諸外国では実運用上取り入れ られているものの、国内ではLCO 対象機器に対し て計画的に実施することは制度上制限されている。 そのため,これまで具体的な安全性について十分に 検討されていない。従って、計画的な運転中保全の 実施が可能となった場合に備え, 運転中保全の安全 性について検討しておく必要がある。 1. 本稿では, 運転中保全の方法とその安全性につい ての検討を行い,それらを踏まえた今後の展望につ いて報告する。. 我が国の現状 2.1 運転中保全の対象範囲と安全性 原子力発電所の系統・機器・構築物のうち原子
炉の安全性を担保する上で重要なものに対しては, 原子炉施設保安規定(以下,保安規定)にて運転 #UBE * 14 (LCO : Limiting Conditions for Operation)を規定し,機能が要求される運転状 態における待機除外を制限している。現状, LCO が規定されている機器(以下, LCO 対象機器)の意図的な予防保全作業等のための待 機除外(以下,能動的待機除外)は、やむを得な い場合(法令に基づく点検及び補修,事故又は故 障の再発防止対策の水平展開)を除き,認められ ていない。一方, LCO が規定されていない機器(以下,非 LCO 対象機器)の運転中保全の実施に制限はなく, 運転継続性,従事者被ばく等を考慮して,事業者 判断により実施している。 Table1 Example of LCO and Non-LCO systems Category | Example LCO ? Reactor Protection System systems? Emergency Core Cooling Systems ? Main Steam Isolation Valves? Emergency Diesel Generator etc. Non-LCO ? Main Turbine systems? Main Condenser ・Main Generator ・Radwaste Processing Systems etc.本検討においては, LCO 対象機器の運転中保全 を扱うものとし,非 LCO 対象機器については, 引き続き事業者判断により,実施対象を決定すべ きものとして扱うことから,本検討対象外とする。2.2 LCO 対象機器の機能要求(機能要求,待- 機要求)と保全の実施時期との関係。 LCO 対象機器は、1プラント運転中要求されるも の,2プラント停止中に要求されるもの,3運転中 停止中の双方において機能を要求されるものに大別される。Table2 Examples of LCO requirement and Maintenance Timing LCO | Maintenance | Examples (BWR-5) requiredTiming(In Japan) During During ?High Pressure Core Spray operation shutdown (HPCS)-Low Pressure CoreInjection (LPCI) 2During | During -Startup Range Neutron shutdown shutdown Monitor (SRNM) 3During During -Standby Gas Treatment operation shutdown System (SGTS) and-Residual Heat Removal shutdownSystem (RHR) ・Power Sources我が国では, 123のいずれのケースにおいても, やむを得ない場合を除き,プラント停止中に保全を 実施している。LCO 対象機器の保全実施時期を検討するに当た っては,いずれのケースを考える上でも安全確保が 前提となることは言うまでもない。特に,23のケ ースについては,運転中停止中を通じたサイクル全 体での適切な保全を検討すべきである。例えば, BWR, PWR ともに持っている残留熱除去 系は, プラント運転中は待機状態を維持することを求 められており,プラント停止中は,原子炉の崩壊熱除 去のため常時運転を求められている。本系統及び関連 する系統・機器 (電源,計測制御設備,冷却水系等) については, 運転中に実施する方が合理的と考えるこ ともできる。また,BWR で3に該当するケースとして,非常用 ガス処理系が挙げられる。プラント運転中は原子炉冷却材喪失事故 (LOCA) を想定し待機状態であること を要求される。また, プラント停止中は燃料集合体落 下事故(FHA)を想定し,照射燃料作業を行う際に 待機状態であることを要求されている。この場合も, その時々の状況を踏まえて, プラント運転中・停止中 問わず合理的に保全実施時期を判断するのが適切と 考えられる。なお, LOCA 時の公衆への被ばく線量 は,FHA 時より小さくなっており,保全実施時期を 検討する上では、ひとつの要素として考慮することが 望ましい。3.運転中保全の安全性について 3.1 単一系統/複数系統の運転中保全 米国では,同時に複数の系統を待機除外して保全 を行う場合と,同時に複数の系統の待機除外を行わ ない場合に分けて安全性確認の扱いを区別している。 保全の実施でプラントの構成が変わることから,保 全実施前にリスクを評価するが,後者に関しては Tech.Spec.を満たすことが求められているものの, 必ずしもリスク評価が要求されてはいない[1]。これ は, Tech.Spec.が最終安全解析報告書(FSAR)の事 故解析を反映したものであり,安全性の確認がなさ れた状態であるとの位置づけで整理されていると考 えられる。米国の状況および我が国の基本設計段階での安全 性確認の内容を踏まえ,安全解析の前提条件に抵触 しない範囲で運転中保全を検討するのが適切と考え る。具体的には,単一系統の運転中保全 (Table3) であれば,安全解析の前提条件を逸脱することがな く,安全性が確認された状態と解釈できる。Table3 運転中保全の区分と定義 | 分類 定義 単一系統の「LCO 対象機器を複数,同時に待機除外とせ 運転中保全 |ずに実施する運転中保全。当該 LCOに係る系統内の複数機器の保全も含む。| LCO 対象機器を複数, 同時に待機除外と 運転中保全 「して実施する運転中保全。複数3.2 能動的待機除外と受動的待機除外の差異 LCO に規定される許容待機除外時間(以下, AOT) は意図しない突発的な機能喪失に伴う待機除外(以下, 受動的待機除外)を想定して規定したものであり,予44防保全のための使用(以下,能動的待機除外)は、や むを得ない場合に限定されている。これは LCO 対象 機器に対する運転中保全が否定されていたというよ りも, 両者の違いが具体的に整理されていなかったた めと考えられる。本節では、能動的待機除外と受動的 待機除外の差異についての検討結果を示す。 - まず,設備状態としては,両者に区別はなく、安全 評価上の区別は困難なため、いずれも同程度の安全性 と評価されるのが通常である。次に、LCO 対象機器待機除外時の対応としては, 受動的な LCO 対象機器待機除外は突発事象であるが ため、設備の状態は予測できず,LCO 対象機器の待 機除外が発覚してから臨機応変に当該故障等に対応 する必要がある。これに対し,運転中保全の実施は, 保安規定に定められた AOT の範囲で,計画された点 検を事前に整備された体制のもとで実施するもので あり,労働安全上, プラント安全上ともに十分配慮さ れた状態である。このように,能動的な LCO 対象機器待機除外であ る運転中保全の実施は,受動的な待機除外と比較する と,設備状態としては差がないものの、計画的な実施 であること等を考慮すれば、能動的な LCO 対象機器 待機除外の方が高い作業品質が期待できる。また,能動的な運転中保全は,そもそも予防保全の 観点から実施するものであり,適切な時期に保全を実 施することで, トラブルを未然に防ぐことを目的とし ている。現行保全のもとでも、何らかの原因により故 障が発生した場合には,当該安全系を除外し保全作業 をせざるを得なくなる。これらの発生可能性を低減す るという観点から,一時的なリスク上昇を考慮したと しても,運転中保全導入後も,運転サイクルを通じた 安全性は同程度に維持できると考えることができる。3.3 運転中保全実施時のリスク評価確率論的安全評価手法を用い, BWR-5 主要系統の LCO 対象機器の単一系統運転中保全を実施した場合 の炉心損傷頻度(CDF)を評価した。ここでは,2つの指標,1当該期間の CDF 値,2 当該機関の炉心損傷確率の増分(ICCDP:条件付炉 心損傷確率)を評価した。なお,冗長系については, 最大となるものを代表とした。また,ICCDP 算出に 当たっては,待機除外期間として,現行保安規定の AOT値を使用した。Table4 PSA results of BWR-5 single systemOn-line Maintenance within AOT | System (or Component) CDF[/ry] ICCDP[-] RHR+LPCI5.9E-07 | 1.6E-08 LPCS4.1E-08 4.8E-10 HPCS3.9E-07 | 1.0E-08 RCIC1.0E-07 | 2,2E-09 FCS2.4E-08 negligible SGTS2.4E-08 | negligible RHRC, RHRS2.9E-08 1.3E-10 EECW8.3E-07 2.25-08 HPCSC,HPCSS3.9E-07 | 1.0E-08 D/G1.5E-07 | 3.4E-09 Pilot cell and Battery1.8E-06 | 3.4E-08 Base Case0.000000024解析結果について,各種リスク許容基準類との比 較を実施した。CDF について,我が国の性能目標(案) [2]1.0E-04/ry と比較したところ, 最大となるケース (パイロットセル・充電器待機除外ケース)におい ても,約2桁下回る結果となった。また, ICCDP値については、国内基準がないこと から,米国 NUMARC93-01 における基準(しきい 値)との比較を行った。最大となるケース(パイロ ットセル・充電器待機除外ケース)でも,基準値か ら約3桁下回る結果となった。3.4 運転中保全の安全性向上に対する効果 3.2で述べたとおり,運転中保全を行うことで, トラブルを未然に防ぐ効果を期待できるだけでなく, 「運転中」に実施することに起因する、現状保全とは 異なる効果を期待することができる。これらについて は,必ずしも定量化できるものではないが,安全性の 向上に寄与するものと考える。 (1)平準化による良質な作業員の確保 現状,プラント停止中にほとんどの作業が集中し, 作業量のピークが発生しており,経験豊富な良質な作 業員の作業調整が難しい状況が発生する。 - 運転中保全の導入でピーク時の作業を低減するこ とで,これらの調整が容易になり,良質な作業員を確 保し易くなり,結果として作業品質の向上が期待でき る。45(2) 作業平準化による作業輻輳の低減ピーク時の作業輻輳は, 作業スペースの干渉等を引 き起こす。運転中保全の導入で, 作業輻輳が軽減され, これらの問題が緩和される。結果として,実作業に専 念できる環境が整い,作業効率の改善,作業品質の向 上が期待できる。(3)被ばく線量の低減 1 残留熱除去系(余熱除去系)は、プラント停止中の 崩壊熱を除去するためにプラント停止中に運転を行 っている。この系統内機器の点検は,系統運転を冗長 系に切り替えた直後に実施することが多く,配管に付 着したクラッド等により,線量が大きく上昇する状況 下で作業を行うことになる。運転中保全を導入することで,系統運転から長い時 間が経過した後に点検時期を設定し、線量が十分低い 時期に点検することが可能となる。き起こす。運転中保全の導入で, 作業輻輳が軽減され, 中保全」の実績を蓄積し,リスク情報の活用を含む適 これらの問題が緩和される。結果として,実作業に専切な安全評価手法を確立するなど,検討を継続し, 念できる環境が整い,作業効率の改善,作業品質の向 「AOT の延長」により「単一系統の運転中保全」の 上が期待できる。範囲を拡大し,さらには「複数系統の運転中保全」の (3)被ばく線量の低減導入により米国並みの取組みとするよう,運転中保全 残留熱除去系(余熱除去系)は、プラント停止中の 範囲の段階的かつ計画的に拡大するが適切と考える。 崩壊熱を除去するためにプラント停止中に運転を行 っている。この系統内機器の点検は,系統運転を冗長 系に切り替えた直後に実施することが多く,配管に付 5.結言 着したクラッド等により,線量が大きく上昇する状況 本稿では, 運転中保全の方法とその安全性について 下で作業を行うことになる。の検討を行った。その結果, 単一系統の運転中保全に 運転中保全を導入することで、系統運転から長い時ついては,現行保安規定に則って実施することが可能 4. 4. KIMHOTOHEATI土肥西山団していく。大の展望 _LCO 対象機器の計画的な予防保全としての運転中 保全の範囲を拡大するに当たり,保全のニージと安全 参考文献 性を考慮の上,段階的にその範囲を拡大していくのが [1]NUMARC93-01 Rev. 3 ;““ INDUSTRY 適当と考える。GUIDELINE FOR MONITORING THE - 米国では, Tech.Spec.に基づく単一系統の運転中保 EFFECTIVENESS OF MAINTENANCE AT 全のような限られた範囲での運転中保全を古くから NUCLEAR POWER PLANTS”, July 2000 実施してきている。リスク情報を活用した規制の整備 [2] 「発電用軽水型原子炉施設の性能目標について一 がなされた 1990 年代後半より、運転中保全の作業時 安全目標案に対応する性能目標について-」, H18.3, 間確保のため,Reg.Guide.1.177 に基づく AOT の延原子力安全委員会安全目標専門部会 長申請が多く出され, Tech.Spec.に抵触しない範囲が [3] Electric Power Research Institute, “On-Line 拡大してきている。2000 年には、メンテナンスルー Maintenance at Nuclear Power Plants: History, ルの 2)4)項が追加され、保全作業実施前のリスク評価 Implementation, and Benefits““, January 2009. 4. 我が国における運転中予防保全範囲拡大の展望 LCO 対象機器の計画的な予防保全としての運転中 保全の範囲を拡大するに当たり,保全のニージと安全 性を考慮の上、段階的にその範囲を拡大していくのが 適当と考える。 - 米国では, Tech.Spec.に基づく単一系統の運転中保 全のような限られた範囲での運転中保全を古くから 実施してきている。リスク情報を活用した規制の整備 がなされた 1990 年代後半より,運転中保全の作業時 間確保のため, Reg.Guide.1.177 に基づく AOT の延 長申請が多く出され, Tech.Spec.に抵触しない範囲が 拡大してきている。2000 年には、メンテナンスルー ルの a)4)項が追加され,保全作業実施前のリスク評価 が要求されるに至り,現在では保全作業の70%が運 転中保全となっており、90%にも及ぶ稼働率の向上と 安全性の向上に寄与している[1]。このように米国においては、運転中保全の実施や対 応する規制要件の整備が段階的に進められてきてお り,我が国で運転中保全の範囲を拡大していくにあた り,参考となりうるものである。すなわち,我が国に おける運転中保全範囲拡大は、現行の規制の範囲を踏 まえて小規模な範囲からはじめ, リスク情報の活用を 踏まえて徐々にその範囲を拡大していくことが適当 と考える。具体的には、安全解析により安全性の確認がなされ、 り,我が国で運転中保全の範囲を拡大していくにあた り,参考となりうるものである。すなわち,我が国に おける運転中保全範囲拡大は、現行の規制の範囲を踏 まえて小規模な範囲からはじめ、リスク情報の活用を 踏まえて徐々にその範囲を拡大していくことが適当 と考える。 具体的には, 安全解析により安全性の確認がなされ,-46保安規定の範囲で実施する,「単一系統の運転中保全」 を第一段階の取組みとする。次に,「単一系統の運転 中保全」の実績を蓄積し,リスク情報の活用を含む適 切な安全評価手法を確立するなど,検討を継続し, 「AOT の延長」により「単一系統の運転中保全」の 範囲を拡大し,さらには「複数系統の運転中保全」の. 導入により米国並みの取組みとするよう, 運転中保全 範囲の段階的かつ計画的に拡大するが適切と考える。5.結言 1. 本稿では, 運転中保全の方法とその安全性について の検討を行った。その結果, 単一系統の運転中保全に ついては,現行保安規定に則って実施することが可能 であり,安全性を損なうことはない。今後,単一系統 の運転中保全の経験を積み,AOT の延長によりその 範囲を拡大させていく。その一方,複数系統の運転中 保全については,その導入を踏まえた安全評価方法を 検討していく。 NUCLEAR POWER PLANTS”, July 2000 [2] 「発電用軽水型原子炉施設の性能目標について安全目標案に対応する性能目標について-」, H18.3, 原子力安全委員会安全目標専門部会 , [3] Electric Power Research Institute, “On-Line Maintenance at Nuclear Power Plants: History,“ “オンラインメンテナンスの安全性評価“ “宮田 浩一,Koichi MIYATA,今井 英隆,Hidetaka IMAI
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