液滴エロージョンによる配管減肉事象とその対策

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
「配管減肉」事象は、これまで原子力プラントの高 経年化対策において重要な経年劣化事象として位置づ けられている[1]。原子力安全・保安院の「実用発電用 原子炉施設における高経年化対策の充実」(2005.8.31) では、配管減肉事象に係る高経年化対策がまとめられ ていたものの、高経年化対策として必要な技術開発の 位置付けは曖昧なものとなっていた。2007 年 10 月の 保安部会において、高経年化と新検査制度の関連付け が明確に定義され、劣化事象を経時的に体系化するこ とで、「配管減肉」事象の位置付けが明確にされた。2008年には新しい検査制度の諸制度が整い、2009年 1月1日より施行となった。具体的には、運転中のポ ンプの振動測定等による追加的な検査を義務付け、機 器の分解点検時の部品の劣化状態に関するデータを科 学的に取得・蓄積し、以降の点検方法・頻度に反映さ せることを求めるなど、事業者による保全の充実を促 すとともに、その実施計画や実施状況を国が確認する 仕組みを導入するものである。この運用には、日本電 気協会の原子力規格委員会にて、JEAC4209-2007 「原 子力発電所の保守管理規程」および JEAG4210-2007「原発電所の保守管理指針」が制定され、運転管理に適用 されるものとなった。特にその中の高経年化対策の部 分は、日本原子力学会の標準 AESJ-SC-P005:2008 「原 子力発電所の高経年化対策実施基準:2008」にて定め られる基準で運用される仕組みとなった。配管の減肉管理は、その現象の特性から運転初期か ら管理が求められているものであり、特に高経年化対 策として取り組むものではない。しかし、耐震安全性 評価については、高経年化対策評価として配管の減肉 に対する評価を求めている。 - 中越沖地震に伴い経年劣化が進んだ減肉配管の健全 性評価が重要な課題となった。発電プラントには多く の配管があり、重要度の高いものから一般の配管まで、 適切な手順で評価を行うための基準化が求められてい る。配管の劣化事象として減肉事象は重要な要素であ り、早急に基準化に密接な連携が必要である。配管の 設計においては、耐震設計評価は、日本電気協会の JEAG4601 「原子力発電所の耐震設計技術指針」にて規 定されており、その手順を適用している。基本的には 運用後のプラントの配管の耐震評価においてもこの手 法・手順を適用するとして評価を行なっている[2]。本研究では、液滴衝撃エロージョンのメカニズムの 究明と金属材料別のエロージョン速度の定量的評価、 および発生防止や抑制に向けた検討を行った。
2. 柏崎刈羽原子力発電所の地震被災時の減肉配管の微視的影響評価 1. 本研究の目標は、原子炉用配管の従来の配管損傷事 例を整理し、部分的な損傷や欠陥のある配管が万一、 地震荷重を受けた場合にその影響が配管健全性に与え る影響を最小限にするための技術開発をサポートする とともに、その成果を将来的に規格化につなげるため の方法を策定することにある。日本機械学会や原子力 学会などの学協会との連携を強化し,柏崎刈羽原子力 発電所の耐震補強工事などの進捗を調査しながら、規 格化を見据えた研究を推進している。1)配管設計に用いる地震動の指針を提案 a.減衰率に対する考え方: 支持部の評価→解析に導入 実際の配管構造に基づき,モデル配管の形状, 支持方法を設定. b.地震評価指標の提案地震応答⇔配管機器に対する標準負荷波形の相関従来の「加速度応答評価」との比較 2)配管設計に用いる尤度の考え方を提案 a材料損傷を確率事象として捉える手法 b.従来の決定論的設計手法との比較例えばLRFDの採用 (Load & Resistance Factor Design)DR, >>y, S.R:材料強度 と S:荷重に 安全係数を分配する手法3.原子炉用配管の従来の配管損傷事例調査 1. 原子力用配管の従来の損傷事例としては、応力腐食 割れ(SCC)や、Fig.1 に示す 1986 年の米サリー2号 機や 2002 年の美浜3号で死傷事故が発生した流れ加 速型腐食(FAC)、および液滴衝撃 (LDI) エロージョ ンがある。Fig.2 は米国の PWR プラントで発生した低 圧タービン抽気ラインの止め弁下流のエルボ部での液 滴衝撃(LD)エロージョンの事例である。 FAC はオリフ ィス下流などの配管が広範囲に腐食減肉(前面腐食) することが特徴で、主に PWR の給復水系の配管で発 生する。習指導要領(平成 24 年度全面実施)では、(a) FAC Accident in Surry 2-1986(b) FAC Accident in Mihama 3 (2002) Fig.1 Typical Pipe Ruptures by Flow AcceleratedCorrosion (FAC)Fig.2 Typical LDI leak in a PWR in USA一方、液滴衝撃エロージョンは、PWR および BWR の主蒸気配管およびドレン管、タービンのクロスアラ ウンド管や抽気配管など液滴を含む蒸気が流れる配管 系統で過去に発生しており、オリフィスの下流やエル ボ部の背側で局所的に発生する。 BWR では、原子炉内 上部に設置された主蒸気乾燥器の高性能化による水分 除去により湿り度が 1.5%以下に管理されるようにな582the Kansal Electdc Pomor Co., INC. Operating Condition of the PipeOD: 558 8 mm Thickness: 10 mm Max. Design Press.: 13kg/crnog Max. Dosign Temp: 195 doto Iatariat Carbon Steel (SB42)Temp at normal Ope.: App. 140 dog 01 Press at normal Ope:App.0.93MPa Flow rate: 1700m3/h/locp Flow Speect App. 2.2m's Operation time: Ann 185.700 hrs pH: 8.6~9.3 Cissolved Oxygen; less than 5 ppbCurtainment VesselSteveMain SteamIntakaGENNFIVって、その発生はドレン管などの小口径配管に限定さい。 原子力発電プラントにおいては、系統配管の肉厚が時 れるようになった。ただし、微少リークであってもプ間の経過と共に徐々に減少する配管減肉現象が見られ、 ラント停止に至ることがあるため、地震被災後の点検人災を伴う大規模破断に至る場合もあるため、プラン が必要である。発生箇所が限定されるため、点検の重 ト事業者としては定期的な配管肉厚測定や予防・保全 点化が可能である。対策を講ずることが必要である。このため日本機械学会では2004年9月に減肉対応特別 PWR では、海外で主蒸気系およびタービン系抽気配管に液滴衝撃エ タスクを設置し、2005年3月には配管減肉管理を定め ロージョン(LDI)の発生事例が報告されている。る指針が満足すべき要件を規定した「発電用設備規格配管減肉管理に関する規格(JSME S CA1-2005)」を制定 Flow Diagram Pico Spagした。またその下部組織として、現象・データベース 等の技術的検討を行う技術サブタスクを設置し、2005 年9月に配管減肉管理に係わる技術的な参考事項の調 査結果を規格 JSME S CA1-2005 としてとりまとめた。応力腐食割れ(SCC)き裂については、過去に膨大な Wanne 研究が成され、日本機械学会発電用原子力設備規格等 wowにまとめられている。配管減肉技術サブタスクでとり まとめた配管減肉管理指針を作成する際に配慮すべき 現象は FAC と LDIであるが、キャビテーションエロー ジョンについても過去に膨大な研究が成され、キャビテーション係数に基づくキャビテーション防止対策が PWR では、蒸気発生器(SG)の細管の健全性維持の観点から管板へ確立されている。また、流れ加速型腐食(FAC)につ の腐食生成物の蓄積を防止するため、給復水の溶存酸素濃度を下げ て強アルカリの水質にしているが、オリフィス下流などで、流れ加速型 いては、米国サリーおよび美浜において死傷事故が発 腐食(FAC)が発生しやすく、定期的な点検が必要である。生したことから、広範な研究が実施されている。 (a) PWRこのため、本研究では液滴衝撃エロージョンの規格化に注力することとし、SCCやFAC については他の研究 BWR では、主蒸気系およびタービン系配管に過去に液滴衝撃エロー ジョン(LDI)が発生した。蒸気乾燥機の性能向上によって湿り度を低下成果を参考にして配管健全性維持評価を行うこととし させてから大口径配管での発生はみられなくなったが、ドレン配管やた。 抽気配管などの小口径配管で蒸気リークが近年も発生している。4. 柏崎刈羽原子力発電所の耐震補強工事MartHPHTRINOutletCond. DerriGeendWaterMFWP2RCPPoint of the ruptureLPETRFand watertendensare waterブーン平成21年3月に、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発 電所の耐震補強工事を見学した。耐震補強工事は主に 配管サポートを強化しており、熱膨張がある配管は、 メカニカルスナッバー(制震装置)を取り付け、熱膨 張を吸収しつつ、地震のように速い現象には、メカニ カルスナッバー内部のドラムブレーキがボールネジ上 を軸方向に移動する際の回転の遠心力により作動し、 しっかりと配管をサポートする。配管のサポートとし ては Fig.4 に示すように、主蒸気逃がし安全弁の排気管 にスナッバーが多数取り付けられていた。その他、排 気筒のサポート補強のオイルスナッバー(油圧制震器) や原子炉建屋の天井クレーンの走行レールの脱線防止 金具などの耐震性向上対策が完了していた。emmer.WNDAfromw.wwwwwwwwstrieromBWR では、給復水系配管の水質は配管内面に酸化皮膜膜が維 持・形成されるような溶存酸素濃度に管理されているため、一部 の復水 を水源とする溶存酸素濃度が低い CRDポンプの吸い込み側を除 いて流れ加速型腐食(FAC)の発生事例は無い。(b) BWR Fig.3 Hazard map of pipe degradation583IRI0Fig.4 Pipe support by using mechanical sunubbers5. 液滴衝撃エロージョン試験結果- Fig.5 に高速回転円盤を用いた液滴衝撃エロージョ ン試験装置の外観写真を示す.液滴衝撃エロージョン を発生させるためには,高速の液滴を目的の箇所に長 時間衝突させる必要がある. 高速回転円盤の外周部に 2つの試験片を取り付け、内径 2mmゅのノズルから落 下する水流が液滴化する状況で、試験片が高速で横切 り、試験片表面で液滴衝撃エロージョンが発生する. Fig.6 にアルミ、真鍮、ステンレス(SUS304)の試験 片を用いた試験結果を示す。減肉速度が測定可能な 2mm/year 以上でLDIによる配管減肉が生じているとし た。高速回転円盤の周速度を変えて測定した結果を Fig.7 に示す。Sanchez の式からは液滴速度の5乗に比 例すると予測されるが、ほぼ 5乗の曲線にのっている ことがわかる。Fig.5LDI test by using a high-speed rotating disc807060Impingement pood m/s)Aluminum8070Wastage speed over 2mm/year6040Impingernent peed ms)AluminumBrassStainlessstoelmaterialFig.6 LDI Test results by using the high-speed rotating disc.A experimental value CY=ax^5_Cpm (1-x)V*F.F.m%3Dac km 14 PEZAwastage speed (mm/year)== kpA7(:: in = pAV)10_2040 60 80 100120Impingement speed (m/s)Fig. 7 Wastage rate data for various speed of the discFig.8 にディジタル顕微鏡で測定した LDI 発生部位の 表面形状を示す写真である。(a)の平滑な金属表面は液 滴1つずつの弾痕が付く訳ではなく、10°回程度の液滴 の衝突による繰り返し応力が作用して、はじめて次第 に表面があばた状になって、(b)のように表面剥離が発 生して減肉が進行するようになることから、LDI は腐 食ではなく、金属疲労が主要なメカニズムであると考 えられる。(c)は 50m/s の液滴衝撃速度で 312 時間後の 試験片の表面形状である。ノズルからの落下水流の中 心の液滴よりも水流の外側の液滴の方がエロージョン 速度が大きく、W 形の表面プロファイルとなっている。 今後は、表面を加熱酸化した試験片を用いてデータを 取り、腐食の影響などを明らかにする。5845. TRAC コードによる管内液滴流速評価(a) Initial surface二流体モデルを用いた二相流解析が可能な原子炉過 渡解析コード TRAC(Transient Reactor Analysis Code) を用いて主蒸気管に接続されたドレン配管内の蒸気お よび液滴の流速を解析した。オリフィスは、(a)柏崎1 号の実機で配管からのリークが発生した当初の上流に 5mm小の限流オリフィスを入れた場合と、(b)ドレン管 の下流の復水器手前に入れた場合、および(c)恒久対策 とした上流に加えて下流にも設置した場合の3ケース の解析を実施した。なお、配管形状は傾向を把握する ために実機よりも簡略化して解析を行った。 * 析結果を Fig.10 に示すが、上流のオリフィスのみ では配管断面内の速度分布を仮定すると下流側のエル ボでは液滴速度が 45m/s に達する箇所も出るが、オリ フィスを下流のみ、もしくは、上流と下流の両方に設 置した場合は、管内流速は低く抑えられてエロージョ ンは防止可能となる。このときの管内圧力分布をFig.11 に示すが、下流側にオリフィスを設置することで、ド レン管内の蒸気圧力が高くなり、比体積が小さくなる ことから流速が低下する。Impingement speed: 50m/s Impingement frequency: 2.5 × 108 Test time: 167 hour(b) 167 hour with 50m/s disc speed2507001Impingement speed : 50m/s Impingement frequency: 4.7 × 108 Test time: 312 hour15mm28mm/20nm)蓋孔Fig. 9 LDI leak from a drain pipe at KK-1 PlantMain steam pipeOrificeDirection of flowCondenserDrain pipe(c) 312 hours with 50m/s speed Fig. 8 Wastage surface results by digital microscope(a) Upstream Orifice Case585、Main steam pipeOrificeDirection of flowDrain pipeCondenser(b) Downstream Orifice CaseMain steam pipeOrificeDirection of flowCondenserDrain pipe(c) Upstream and Downstream Case Fig.10 TRAC analysis model for Orifice effectliquid droplet velocity(m/s) steam velocity(m/s)elocity (m/s)Flow1510_1520Distance from pipe entrance (m)(a) Analytical result for upstream orifice caseliquid droplet velocity(m/s) steam velocity(m/s)Flow elocity m/s)15_10_1520Distance from pipe entrance (m)(b) Analytical result for upstream orifice case450-liquid droplet velocity(m/s) steam velocity(m/s)Flow elocity m/s)10 15 10 15 20 Distance from pipe entrance (m)25(c) Analytical result for upstream and downstream orificesFig.11 TRAC analytical results of orifice effectOrifice at downstreamPressure (MPa)Orifice at both sideOrifice at upstream10115 120 Distance from pipe inlet (m)Fig. 12 Pressure distribution for orifice positionOrifice at both sideOrifice at upstream2025101 Distance from pipe inlet (m)5.結言 1. 本研究では、液滴衝撃エロージョンのメカニズムの 究明と金属材料別のエロージョン速度の定量的評価、 および発生防止や抑制に向けた検討を行った。速回転円盤を用いた液滴衝撃エロージョン試験の 結果、減肉速度が液滴速度の5乗に比例することが分 かった。TRAC コードを用いたドレン配管内の蒸気中 の液滴速度を解析した結果、上流のオリフィスのみで は、ドレン配管内の流速がエロージョン発生可能領域 に到達する可能性があるが、下流あるいは上流および 下流にオリフィスを設置することでエロージョンを防 止できることが分かった。参考文献 [1] 森田、奈良林、JSME 講習会「配管減肉管理に関する性能規定化規格と技術的知見」(2006)。 [2] 宮野廣「高経年化プラントにおける配管減肉」、 平成 21 年度高経年化対策強化基盤整備事業方針、 (2009)。586“ “?液滴衝撃エロージョンによる配管減肉事象とその対策“ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,東 侑麻,Yuma HIGASHI,大森 修一,Syuichi OHMORI,手塚 健一,Kenichi TEZUKA,森 治嗣,Michitsugu MORI
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