過大荷重によるSCC、疲労、水素脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化
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カテゴリ: 第7回
1.緒言
機械・構造物では、使用中にき裂が発生することが ある。このき裂に対応する技術としては、次の如き 方法がある。 1) 発生したき裂を材料自身に自己治癒させ、強度を完全回復させる1]~[3]。 2) 許容欠陥の場合には、早期にき裂の進展を阻止し、無害化する[4]~[6]。 3) 許容欠陥の場合には、 非許容欠陥となるまで放置し、使用を継続する。 4) 直ちに修理する。 * 一部の構造用セラミックスでは、稼働中に発生し たき裂を稼働中に自己治癒し、その温度での強度を 完全回復できる[1]~[3]。しかし鉄鋼材料では、いろい ろ試みたものの、残念ながらそのような技術を開発 できなかった.次善の技術は、表面き裂を無害化す ることである。事実、材料の強度レベルにもよるが、深さが 0.2~1mm以下の微小き裂は、ピーニング により無害化可能である。大きいき裂については、 研究例が少ないが、IHSI やL-SIP技術を使 用すれば、相当大きいき裂を無害化できることが報 告されている(51, 61。そこで、本論文では、上記技術 を応用して、過大予荷重によるSCC,疲労、水素 脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化に関する基礎的 研究を実施した。 2.過大荷重効果によるき裂進展阻止の機構 2.1 基本モデルき裂材に、過大予荷重(Pov,それによる応力拡大 係数Kov)を負荷すれば、図1の如くそれによる塑 性域Rov が生じる。
Rov=1/ 元 (Kov/a oy) 2-1ここで、ayは降伏応力、aは平面応力で1、平面 ひずみで「3である。Pov を除荷すれば、き裂先端 部に圧縮降伏の塑性域Rry が生じ、その大きさは下 式で与えられる「5, [6]。連絡先: 安藤 柱, 〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区 常盤台 79-5, 横浜国立大学,電話:045-339-4016, E-mail: andokoto@ynu.ac.jpRry=1/ 元 (Kov/2a oy) 2-2-156* 一部の構造用セラミックスでは、稼働中に発生し たき裂を稼働中に自己治癒し、その温度での強度を 完全回復できる[1]~[3]。しかし鉄鋼材料では、いろい ろ試みたものの、残念ながらそのような技術を開発 できなかった.次善の技術は、表面き裂を無害化す ることである。事実、材料の強度レベルにもよるが、深さが 0.2~1mm以下の微小き裂は、ピーニング により無害化可能である!4」。大きいき裂については、 研究例が少ないが、IHSI PL-SIP技術を使 用すれば、相当大きいき裂を無害化できることが報 告されている「5), 61。そこで、本論文では、上記技術 を応用して、過大予荷重によるSCC,疲労、水素 脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化に関する基礎的 研究を実施した。かしカ こりPov が塑性崩壊荷重に近い場合には、(1)式は適 用できないが、Rry はRov に比べて小さいために、 そのような場合でも適用可能である。 - 今、無限板に長さ2aのき裂があり、無限遠で応 Boov を受けた場合を考える。図1において、き裂 が圧縮降伏の塑性域Rxy だけ進展したとすると、R ry 領域における圧縮残留応力による応力拡大係数 Krs0 は次式で与えられる [5], [6]。Krs0=-2a oys {(a+Rry )/}arccos {a/(a+Rry)}-32.2 SCCと水素脆性き裂の場合 図2に過大荷重の模式図を示した。今、Kov≦K1scc の場合には、過大荷重効果は発生しない。そこで、 見かけのKiscは,下式の如く材料定数Kisccに等し くなる。NK iscc=Kisce-4しかし、Kov>Kisccの場合には下式で与えられる。NK iscc=Kiscc - Krs-5ここで、Krsは圧縮塑性域による応力拡大係数であ り、(3)式を修正して下式で与えられる。Krs=-2a oy/{(a+Rry)/}arccos{(a+Rry)/(a+Rry)}ここで、Rryは、Kisce時のRry であり、(2) 式の Kov の代わりにKisccを代入して得られる。以上の議論は、KisccとKisccを、それぞれKIE とKeに置き換えることにより、水素脆性にも適用 できる。2.3 疲労き裂の場合疲労き裂の場合には、応力比Sが大きな影響を及 ぼすので、2.2 節に比べてやや複雑であり、その模 式図を図3に示した。応力比Sが、S≦0の場合に は、2.2 の結果を適用可能である。 しかし、S>0の場合にはやや複雑である。いま、 応力比がSの時の下限界応力拡大係数範囲を AKAS, 見掛けのその値をAKISとする。 (A) Kov≦AK S/(1-S) の場合には、Kov は OA間にあり、(3)式と同様の理由により AKは下式で与えられる。AKAS =AKAS-7(B) Kov>AK S/(1-S) で、Kov が図3のA B間にある場合。この場合には、図3の如く ▲Kの変動幅は変化しないが、Krs の効果により応)/T }arccos{(a+力比Sが低下する。この場合のANK. はやはり (7)式で与えられるが、Sは刻々の値であり、K ov で変化する。なお、B点での応力比Sは0なので、 KovBと Krsは下式で与えられ、 Krsが得られる。Krs' + SAKAS/(1-S) =0_-8上式を書き換えると下式のようになり、これからB 点でのRryBを、またそれを(2)式に代入してK ovBが得られる。Krs=-2a oy/{(a+Rry5 )/ 元 }arccos{(a++ Rry^)/(a+RryB)} (9)(C) Kov> KovPの場合。 いま、過大予荷重に よるKov負荷後に、AKSで疲労実験を開始したと する。この場合には、図3の如くA点での Kov^ で過大予荷重効果が開始し、B点での KovBで 応力比が零になる。更にKov が大きい場合には、△ Kの有効な部分の変動幅△ Keff は、Krs の効果に より Kov の増大につれて低下する。 B点での応力比Sは0なので、KovPとKrs““はおよ びAKSの関係は下式で与えられ、Krsが得られる。Krs““ + SAKS/(1-S) =0_-10疲労き裂の停留条件は下式で与えられる。AKeff =AKO-11この場合のKrsやAKAS , およびAKASは、そ れぞれ(12) (13) (14)式で与えられる。 1-S) = 0_ (10)式で与えられる。 KO (11), およびATMKSは、そ FREED in z-12-13rsB-14Krs=-2a oy/{(a+Rry)/}arccos{(a+Rry^)/(a+Rry) }-12△ KrsB = Krs -Krs-13△Kah = AKI- AKrsB (14)3.実験結果との比較 3.1 SCCの場合 - 試験片はWOL型であり、板厚、幅および背は、 それぞれ 12.7、31.4、及び 40.5mmである。材料は SUS304 と SUS316 であり、鋭敏化処理温度と時 間は共に 650°C、20 時間である。試験は純水(1L) に対してテトラチオン酸カリウム(10g)を配合後、 硫酸を添加してpH=2とした溶液中にて300時 間で実施した。実験結果を図4の(a) と (b)に示 した。SUS304 の実験結果は平面ひずみの解と良 く一致している。しかし、SUS316 の場合には、 Kov が 20MPa/ m 以下の場合には一致しているもの157 の、それ以上のKov 領域では、実験のKiscの方が 高い値を示している。この原因としては、SCCの 感受性が低い SUS316 では、試験時間 300hが充 分でなかったと考えられる。現在、SUS316 に対 して、1000 時間のSCC試験を計画中である。なお、 SUS304 とSUS316 の割れ形態は、それぞれ粒界 破壊と粒内破壊であった。SCCが成長した場合と、 成長しない場合の破面写真を図5に示した。3.2 水素脆性の場合 - 試験片はWOL型であり、材料はSUP9を焼入 れ・焼戻し処理したもので硬さは 48HRCである。 試験は 5%硫酸液中にて 40 時間実施した。実験結果 を図5に示した。SUP9の実験結果は、Kov が 70MPa/mまで平面ひずみの解とかなり良く一致し ている。なお、この場合の割れは粒内破壊であった。 また、Kov が 70MPa/m以上の実験は、この材料の Kicが約 75MPa/ m のために実施できなかった。3.3 疲労の場合 - SUS316 の室温大気中におけるS=0.1 の試験 結果を図6に示した。実験結果は、Kov が約 100MPa 「mまで解析結果を非常によく一致しており、ATMK .1は、約7 MPa/ m から 33 MPa/mまで大幅に向上 している。図7は、材料の降伏応力が、255~1200MPa の4種類の鋼材の結果を示したものである。実験結 果は、解析結果と同様に、材料の降伏応力に依存せ ずほぼ一本の直線で示せる。なお、疲労試験での割 れは全て粒内破壊割れであった。 き裂無害Fig. 1 Plastic zone ahead of a crack4.結論 1)過大予荷重によるき裂進展阻止並びにき裂無害 化のモデルを提案し、解析した。 2)表記式には降伏応力やき裂長さaが入ってい るが、過大荷重によるKisceやATMKS の向上挙動 は、oやa にほとんど依存せずほぼ1本の直線で示 せる。 3) 実験で得られた SUS304 の ““Kisco や SUP9 のK IHE 向上挙動は、解析結果と良く一致していた。し かし、SUS316 の結果は、Kovが大きい部分で一致 がわるい。これは、SUS316 ではSCC感受性が低い ために、実験時間が不足したためと考えられる。 4) 疲労では,材料のoyレベルに依らずKoy ~AN K.関係は、ほぼ一本の直線で示せ、解析結果と 良く一致していた。 5)疲労では,応力比の影響が大きく、それが大き い場合にはKov の影響度が低下する。 6)以上のことから、過大荷重効果により比較的大 きいき裂の進展を阻止し、無害化できるものと結論】 される。 、それが大きより比較的大Fig. 2 Schematic of overload るものと結論」治癒できるセラミックス、PP.127-158. 平 [2] K. Ando etal, “SelfMaterial” Wiley-VCH, (2008) 参考文献 [1] 安藤 柱“ここまできた自己修復材料”第5章 セラミックスの自己き裂治癒一稼働下でもき裂を全 治癒できるセラミックス、工業調査会,(2003) PP.127-158. [2] K. Ando etal, “Self-healing Material““ Wiley-VCH, (2008), PP183-217. [3] K. Ando etal, “Advanced Nano-materials““ Wiley-VCH, (2009), P555-594. [4] 安藤柱 他、“特集 I:構造用材料におけるき 裂の無害化と自己治癒”金属、アグネ技術センター、(2007)、pp 1078-1097. [5] 安藤 他4名、圧力技術、47 巻5号、(2009)、 p p22-28. [6] 安藤 他3名、圧力技術、47 巻6号、(2009)、 pp11-18. [4] 安藤柱 他、“特集 I :構造用材料におけるき 裂の無害化と自己治癒”金属、アグネ技術センター、 (2007)、pp 1078-1097. [5] 安藤 他4名、圧力技術、47 巻5号、(2009)、 ““pp22-28. [6] 安藤 他3名、圧力技術、47 巻6号、(2009)、 pp11-18.RovKov)at overcrackat unloadRARCOM20)K KoAKNumber of cycles- 158 -Kmx=KovKmin%3D0強制破断面-----0_AKov900yum 「放電加エスリット Koru=30、K=12 [NIPana4““]Koru%3D30、K=12KovFig. 3 Schematic of stress ratio on fatigue threshold by overload強制破断5. 3 Schematic of stress ratio on fatigue threshold overload強制破断面Propagation Non-propagation40SCCStress intensity factor K[MPa・m172]t疲労予き900pm 【放電加エスリット Koi-%3D20. K=13 [A][Pam']10 5 10 15 2025303540 Stress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Fig. 5 Fracture surface of SUS304 SCC tested No .WA-1 - LINUM CIAL 」chematic of stress ratio on fatigue threshold load強制破断面Propagation 40f ◆Non-propagationSCC900mm 【放電加エスリット Koi-%3D20. K=13 [ATPam'?]10 5 10 15 20 25 30 35 40 Stress intensity factor by overload Kov [MPa'm'/2]Fig. 5 Fracture surface of SUS304 SCC testedFig. 4(a) SCC test results on SUS304■108SUS316? Room temperaturePotassium tetrathionate solution (pH=2)401|351ISHEEN.Pan」XXaxxx QXPropagation ◆Non-propagation|254Onon-failured x failuredKjscc, Prediction0_801002040 60Kov[MPaTS)0 5 10 15 20 25 30 35 40 -tress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Fig. 4(b) SCC test results on SUS316Fig. 6 Effect of overload on hydrogen enbrittlement KJESUS31640? Room temperaturePotassium tetrathionate solution (pH=2)Propagation Non-propagationKUHB[MPani““)Stress intensity factor K[MPa・m102]Kiscc, Prediction05 10 152025303540 Stress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]05 10 152025303540 tress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Kov[NIPAISFig. 4(b) SCC test results on SUS316Fig. 6 Effect of overload on hydrogen enbrittlement KTHEX X××× 30 x x x00 201×26Onon-failured X failured4060801001120 - 159 -SUS316R-0.1Threshold stress intensity factor range AKh[MPa . m12]AKin=0.28Kov+3.15●:fracture O: Non-fracture° 20 40 60 80 100 120Stress intensity factor by overload Koy[MPa.m!2] Relationship between 4K and Kor for large crack-like surface defectRelationship between AK, and Kor for large crack-like surface defectFig. 7 Effect of overload on fatigue threshold stress intensity factor range of SUS316.ingeExperimental Data ■; SUS316 (01-286MPa) present dataExperimental Data 1; SUS316 (0,=286MPa) present dataHT540(00-1200MPa) り X; SFVQIA (=460MPa) 2) ◆; S10C (0,-255MPa) 2)R0-0.1Plane Strain Calculated data 0, -1500MPaThreshold Stress intensity factor rangeSAKA [MPam112]Plane Strain Calculated data 0,%3D286MPa2 0 _ 2040 60 80 100 120Stress intensity factor by overload Koy [MPam!/2] Fig. 8 Effect of overload on fatigue threshold stress intensity factor range of various steel (Yield stress:255MPa-1200MPa). - 160円“ “過大荷重によるSCC,疲労、水素脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化“ “安藤 柱,Kotoji ANDEO,高橋 宏治,Koji TAKAHASHI,北條 恵司,Keiji HOUJYOU,橋倉 靖明,Yasuaki HASHIKURA,水上 博嗣,Hiroshi MIZUKAMI,佐野 勇人,Hayato SANO
機械・構造物では、使用中にき裂が発生することが ある。このき裂に対応する技術としては、次の如き 方法がある。 1) 発生したき裂を材料自身に自己治癒させ、強度を完全回復させる1]~[3]。 2) 許容欠陥の場合には、早期にき裂の進展を阻止し、無害化する[4]~[6]。 3) 許容欠陥の場合には、 非許容欠陥となるまで放置し、使用を継続する。 4) 直ちに修理する。 * 一部の構造用セラミックスでは、稼働中に発生し たき裂を稼働中に自己治癒し、その温度での強度を 完全回復できる[1]~[3]。しかし鉄鋼材料では、いろい ろ試みたものの、残念ながらそのような技術を開発 できなかった.次善の技術は、表面き裂を無害化す ることである。事実、材料の強度レベルにもよるが、深さが 0.2~1mm以下の微小き裂は、ピーニング により無害化可能である。大きいき裂については、 研究例が少ないが、IHSI やL-SIP技術を使 用すれば、相当大きいき裂を無害化できることが報 告されている(51, 61。そこで、本論文では、上記技術 を応用して、過大予荷重によるSCC,疲労、水素 脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化に関する基礎的 研究を実施した。 2.過大荷重効果によるき裂進展阻止の機構 2.1 基本モデルき裂材に、過大予荷重(Pov,それによる応力拡大 係数Kov)を負荷すれば、図1の如くそれによる塑 性域Rov が生じる。
Rov=1/ 元 (Kov/a oy) 2-1ここで、ayは降伏応力、aは平面応力で1、平面 ひずみで「3である。Pov を除荷すれば、き裂先端 部に圧縮降伏の塑性域Rry が生じ、その大きさは下 式で与えられる「5, [6]。連絡先: 安藤 柱, 〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区 常盤台 79-5, 横浜国立大学,電話:045-339-4016, E-mail: andokoto@ynu.ac.jpRry=1/ 元 (Kov/2a oy) 2-2-156* 一部の構造用セラミックスでは、稼働中に発生し たき裂を稼働中に自己治癒し、その温度での強度を 完全回復できる[1]~[3]。しかし鉄鋼材料では、いろい ろ試みたものの、残念ながらそのような技術を開発 できなかった.次善の技術は、表面き裂を無害化す ることである。事実、材料の強度レベルにもよるが、深さが 0.2~1mm以下の微小き裂は、ピーニング により無害化可能である!4」。大きいき裂については、 研究例が少ないが、IHSI PL-SIP技術を使 用すれば、相当大きいき裂を無害化できることが報 告されている「5), 61。そこで、本論文では、上記技術 を応用して、過大予荷重によるSCC,疲労、水素 脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化に関する基礎的 研究を実施した。かしカ こりPov が塑性崩壊荷重に近い場合には、(1)式は適 用できないが、Rry はRov に比べて小さいために、 そのような場合でも適用可能である。 - 今、無限板に長さ2aのき裂があり、無限遠で応 Boov を受けた場合を考える。図1において、き裂 が圧縮降伏の塑性域Rxy だけ進展したとすると、R ry 領域における圧縮残留応力による応力拡大係数 Krs0 は次式で与えられる [5], [6]。Krs0=-2a oys {(a+Rry )/}arccos {a/(a+Rry)}-32.2 SCCと水素脆性き裂の場合 図2に過大荷重の模式図を示した。今、Kov≦K1scc の場合には、過大荷重効果は発生しない。そこで、 見かけのKiscは,下式の如く材料定数Kisccに等し くなる。NK iscc=Kisce-4しかし、Kov>Kisccの場合には下式で与えられる。NK iscc=Kiscc - Krs-5ここで、Krsは圧縮塑性域による応力拡大係数であ り、(3)式を修正して下式で与えられる。Krs=-2a oy/{(a+Rry)/}arccos{(a+Rry)/(a+Rry)}ここで、Rryは、Kisce時のRry であり、(2) 式の Kov の代わりにKisccを代入して得られる。以上の議論は、KisccとKisccを、それぞれKIE とKeに置き換えることにより、水素脆性にも適用 できる。2.3 疲労き裂の場合疲労き裂の場合には、応力比Sが大きな影響を及 ぼすので、2.2 節に比べてやや複雑であり、その模 式図を図3に示した。応力比Sが、S≦0の場合に は、2.2 の結果を適用可能である。 しかし、S>0の場合にはやや複雑である。いま、 応力比がSの時の下限界応力拡大係数範囲を AKAS, 見掛けのその値をAKISとする。 (A) Kov≦AK S/(1-S) の場合には、Kov は OA間にあり、(3)式と同様の理由により AKは下式で与えられる。AKAS =AKAS-7(B) Kov>AK S/(1-S) で、Kov が図3のA B間にある場合。この場合には、図3の如く ▲Kの変動幅は変化しないが、Krs の効果により応)/T }arccos{(a+力比Sが低下する。この場合のANK. はやはり (7)式で与えられるが、Sは刻々の値であり、K ov で変化する。なお、B点での応力比Sは0なので、 KovBと Krsは下式で与えられ、 Krsが得られる。Krs' + SAKAS/(1-S) =0_-8上式を書き換えると下式のようになり、これからB 点でのRryBを、またそれを(2)式に代入してK ovBが得られる。Krs=-2a oy/{(a+Rry5 )/ 元 }arccos{(a++ Rry^)/(a+RryB)} (9)(C) Kov> KovPの場合。 いま、過大予荷重に よるKov負荷後に、AKSで疲労実験を開始したと する。この場合には、図3の如くA点での Kov^ で過大予荷重効果が開始し、B点での KovBで 応力比が零になる。更にKov が大きい場合には、△ Kの有効な部分の変動幅△ Keff は、Krs の効果に より Kov の増大につれて低下する。 B点での応力比Sは0なので、KovPとKrs““はおよ びAKSの関係は下式で与えられ、Krsが得られる。Krs““ + SAKS/(1-S) =0_-10疲労き裂の停留条件は下式で与えられる。AKeff =AKO-11この場合のKrsやAKAS , およびAKASは、そ れぞれ(12) (13) (14)式で与えられる。 1-S) = 0_ (10)式で与えられる。 KO (11), およびATMKSは、そ FREED in z-12-13rsB-14Krs=-2a oy/{(a+Rry)/}arccos{(a+Rry^)/(a+Rry) }-12△ KrsB = Krs -Krs-13△Kah = AKI- AKrsB (14)3.実験結果との比較 3.1 SCCの場合 - 試験片はWOL型であり、板厚、幅および背は、 それぞれ 12.7、31.4、及び 40.5mmである。材料は SUS304 と SUS316 であり、鋭敏化処理温度と時 間は共に 650°C、20 時間である。試験は純水(1L) に対してテトラチオン酸カリウム(10g)を配合後、 硫酸を添加してpH=2とした溶液中にて300時 間で実施した。実験結果を図4の(a) と (b)に示 した。SUS304 の実験結果は平面ひずみの解と良 く一致している。しかし、SUS316 の場合には、 Kov が 20MPa/ m 以下の場合には一致しているもの157 の、それ以上のKov 領域では、実験のKiscの方が 高い値を示している。この原因としては、SCCの 感受性が低い SUS316 では、試験時間 300hが充 分でなかったと考えられる。現在、SUS316 に対 して、1000 時間のSCC試験を計画中である。なお、 SUS304 とSUS316 の割れ形態は、それぞれ粒界 破壊と粒内破壊であった。SCCが成長した場合と、 成長しない場合の破面写真を図5に示した。3.2 水素脆性の場合 - 試験片はWOL型であり、材料はSUP9を焼入 れ・焼戻し処理したもので硬さは 48HRCである。 試験は 5%硫酸液中にて 40 時間実施した。実験結果 を図5に示した。SUP9の実験結果は、Kov が 70MPa/mまで平面ひずみの解とかなり良く一致し ている。なお、この場合の割れは粒内破壊であった。 また、Kov が 70MPa/m以上の実験は、この材料の Kicが約 75MPa/ m のために実施できなかった。3.3 疲労の場合 - SUS316 の室温大気中におけるS=0.1 の試験 結果を図6に示した。実験結果は、Kov が約 100MPa 「mまで解析結果を非常によく一致しており、ATMK .1は、約7 MPa/ m から 33 MPa/mまで大幅に向上 している。図7は、材料の降伏応力が、255~1200MPa の4種類の鋼材の結果を示したものである。実験結 果は、解析結果と同様に、材料の降伏応力に依存せ ずほぼ一本の直線で示せる。なお、疲労試験での割 れは全て粒内破壊割れであった。 き裂無害Fig. 1 Plastic zone ahead of a crack4.結論 1)過大予荷重によるき裂進展阻止並びにき裂無害 化のモデルを提案し、解析した。 2)表記式には降伏応力やき裂長さaが入ってい るが、過大荷重によるKisceやATMKS の向上挙動 は、oやa にほとんど依存せずほぼ1本の直線で示 せる。 3) 実験で得られた SUS304 の ““Kisco や SUP9 のK IHE 向上挙動は、解析結果と良く一致していた。し かし、SUS316 の結果は、Kovが大きい部分で一致 がわるい。これは、SUS316 ではSCC感受性が低い ために、実験時間が不足したためと考えられる。 4) 疲労では,材料のoyレベルに依らずKoy ~AN K.関係は、ほぼ一本の直線で示せ、解析結果と 良く一致していた。 5)疲労では,応力比の影響が大きく、それが大き い場合にはKov の影響度が低下する。 6)以上のことから、過大荷重効果により比較的大 きいき裂の進展を阻止し、無害化できるものと結論】 される。 、それが大きより比較的大Fig. 2 Schematic of overload るものと結論」治癒できるセラミックス、PP.127-158. 平 [2] K. Ando etal, “SelfMaterial” Wiley-VCH, (2008) 参考文献 [1] 安藤 柱“ここまできた自己修復材料”第5章 セラミックスの自己き裂治癒一稼働下でもき裂を全 治癒できるセラミックス、工業調査会,(2003) PP.127-158. [2] K. Ando etal, “Self-healing Material““ Wiley-VCH, (2008), PP183-217. [3] K. Ando etal, “Advanced Nano-materials““ Wiley-VCH, (2009), P555-594. [4] 安藤柱 他、“特集 I:構造用材料におけるき 裂の無害化と自己治癒”金属、アグネ技術センター、(2007)、pp 1078-1097. [5] 安藤 他4名、圧力技術、47 巻5号、(2009)、 p p22-28. [6] 安藤 他3名、圧力技術、47 巻6号、(2009)、 pp11-18. [4] 安藤柱 他、“特集 I :構造用材料におけるき 裂の無害化と自己治癒”金属、アグネ技術センター、 (2007)、pp 1078-1097. [5] 安藤 他4名、圧力技術、47 巻5号、(2009)、 ““pp22-28. [6] 安藤 他3名、圧力技術、47 巻6号、(2009)、 pp11-18.RovKov)at overcrackat unloadRARCOM20)K KoAKNumber of cycles- 158 -Kmx=KovKmin%3D0強制破断面-----0_AKov900yum 「放電加エスリット Koru=30、K=12 [NIPana4““]Koru%3D30、K=12KovFig. 3 Schematic of stress ratio on fatigue threshold by overload強制破断5. 3 Schematic of stress ratio on fatigue threshold overload強制破断面Propagation Non-propagation40SCCStress intensity factor K[MPa・m172]t疲労予き900pm 【放電加エスリット Koi-%3D20. K=13 [A][Pam']10 5 10 15 2025303540 Stress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Fig. 5 Fracture surface of SUS304 SCC tested No .WA-1 - LINUM CIAL 」chematic of stress ratio on fatigue threshold load強制破断面Propagation 40f ◆Non-propagationSCC900mm 【放電加エスリット Koi-%3D20. K=13 [ATPam'?]10 5 10 15 20 25 30 35 40 Stress intensity factor by overload Kov [MPa'm'/2]Fig. 5 Fracture surface of SUS304 SCC testedFig. 4(a) SCC test results on SUS304■108SUS316? Room temperaturePotassium tetrathionate solution (pH=2)401|351ISHEEN.Pan」XXaxxx QXPropagation ◆Non-propagation|254Onon-failured x failuredKjscc, Prediction0_801002040 60Kov[MPaTS)0 5 10 15 20 25 30 35 40 -tress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Fig. 4(b) SCC test results on SUS316Fig. 6 Effect of overload on hydrogen enbrittlement KJESUS31640? Room temperaturePotassium tetrathionate solution (pH=2)Propagation Non-propagationKUHB[MPani““)Stress intensity factor K[MPa・m102]Kiscc, Prediction05 10 152025303540 Stress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]05 10 152025303540 tress intensity factor by overload Kov [MPa.m““2]Kov[NIPAISFig. 4(b) SCC test results on SUS316Fig. 6 Effect of overload on hydrogen enbrittlement KTHEX X××× 30 x x x00 201×26Onon-failured X failured4060801001120 - 159 -SUS316R-0.1Threshold stress intensity factor range AKh[MPa . m12]AKin=0.28Kov+3.15●:fracture O: Non-fracture° 20 40 60 80 100 120Stress intensity factor by overload Koy[MPa.m!2] Relationship between 4K and Kor for large crack-like surface defectRelationship between AK, and Kor for large crack-like surface defectFig. 7 Effect of overload on fatigue threshold stress intensity factor range of SUS316.ingeExperimental Data ■; SUS316 (01-286MPa) present dataExperimental Data 1; SUS316 (0,=286MPa) present dataHT540(00-1200MPa) り X; SFVQIA (=460MPa) 2) ◆; S10C (0,-255MPa) 2)R0-0.1Plane Strain Calculated data 0, -1500MPaThreshold Stress intensity factor rangeSAKA [MPam112]Plane Strain Calculated data 0,%3D286MPa2 0 _ 2040 60 80 100 120Stress intensity factor by overload Koy [MPam!/2] Fig. 8 Effect of overload on fatigue threshold stress intensity factor range of various steel (Yield stress:255MPa-1200MPa). - 160円“ “過大荷重によるSCC,疲労、水素脆性き裂の進展阻止とき裂の無害化“ “安藤 柱,Kotoji ANDEO,高橋 宏治,Koji TAKAHASHI,北條 恵司,Keiji HOUJYOU,橋倉 靖明,Yasuaki HASHIKURA,水上 博嗣,Hiroshi MIZUKAMI,佐野 勇人,Hayato SANO