志賀原子力発電所2号機 非常用ディーゼル発電設備 インジケータ弁からの潤滑油排出事象について
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
を待機除外とし,平成 21年11月 13 日に原子炉を手動停止した。本事象について調査した結果, D/G 機 -- 北陸電力株式会社志賀原子力発電所2号機は,平 関の潤滑油系統に設置されている逆止弁の動作不良 成21年7月から実施した第2回定期点検後の調整運が原因であったことから,対策として逆止弁の交換 転中に,非常用ディーゼル発電機 A 号機(以下, 等を実施した。 | 「D/G(A)」のように略す)の定例試験においてター 逆止弁交換後,平成 21 年 12月6日に機能検査の ニングを実施したところ, B列 No.3 シリンダ (以下,事前準備のため D/G(A)のターニングを実施したと 「B3 シリンダ」のように略す)のインジケータ弁か ころ, B7 シリンダのインジケータ弁から約 20cc の ら約 100cc の潤滑油が排出されたため、試験を中止 潤滑油が排出された。 LD/G(A)を待機除外とした。その後,保安規定に基 本報告は,この D/G(A)B7 シリンダのインジケー づき D/G(B)の動作確認を行うため, ターニングを実タ弁からの潤滑油排出事象に対して行った,原因調 施したところ, B2 シリンダのインジケータ弁から約 査から対策までを述べたものである。 2cc の潤滑油が排出された。このため, 2 台の DIG図1に DIG の概要を示す。
2.原因調査 2.1 原因調査内容 - 平成21年11月と平成 21 年 12月6日に発生した 事象は,ともに DIG 機関のインジケータ弁から潤滑 油が排出された事象であるが,先に発生した事象は 26 日間の D/G機関待機後に発生したのに対して,平 成21年12月6日に発生した事象は D/G 機関待機期 間が約1日間と短時間であったことが大きな違いで あった。このため, D/G(A)B7 シリンダインジケータ 弁からの潤滑油排出事象の原因は,先に発生した事 象と原因が異なると想定されたものの,両者の関連 も調査するため,先に発生した逆止弁の動作不良に よる事象において調査済みの項目についても再度確 認することとし,調査に抜けがないように網羅的に 実施した。 - 事象発生後の初期調査により,インジケータ弁か ら潤滑油が排出された D/G(A)B7 シリンダのシリン ダ内には潤滑油が滞留していることが確認されたこ とから,排出された潤滑油はシリンダ内に流入した 潤滑油がターニングにより外部に押し出されたもの であった。シリンダ内への潤滑油の流入は,先に発 生した逆止弁の動作不良のように機器に異常があっ た場合にも生じるが,運転時に未燃焼となった潤滑 油の排気側からの逆流や,シリンダヘッドの摺動部 からのシリンダ内への潤滑油落下等,DIG 機関の構 造上,機器に異常がない場合であっても, シリンダ 内に潤滑油が流入する事象は起こりうる。<事象>インジケータ弁 からの潤滑油排出 (シリンダ内に滞留)<流入経路> | シリンダ給・排気室 上部から の流入からの流入く要因> 110 燃料系統異常による燃焼不良 ○ 給気系統異常による燃焼不良 ○ 潤滑油系統圧力の異常 ○圧力制御逆止弁の異常 0 弁案内ブッシュと弁棒間隙の異常 10 給・排気弁の損傷 10 シリンダヘッドドレン孔の閉塞 ○シリンダヘッドの貫通欠陥 口 運転時に未燃焼となった潤滑油が * 排気ラインから逆流 ロシリンダヘッドの残留油のシリンダ内への滴下シリンダヘッド 爆発面からの流入10 シリンダヘッドの貫通欠陥 0雜手部のガスケット面の損傷 ○ガスケットの損傷」シリンダ ピストンリング部 下部からい より上側からのHO ピストンクラウンの貫通欠陥 の流入流入ピストンリング部○ ピストンリング損傷 を経由した流入○ ピストン連通孔閉塞によるオイルアップ増加 ○ ピストンクラウン継手部Oリングの損傷 TO ピストンクラウン継手部の損傷 10ピストンの貫通欠陥により給油ラインから連通孔へのバイパス流れ 発生 ○ ピストンリング損傷によるオイルアップ増加 ロピストンリングのポンプアップ現象 ロシリンダ内負圧によるオイルアップ現象 ロ オイルリング掻き落とし不足によるオイルアップ現象」 ロピストンリング合口位置の一致によるオイルアップ増加 ロピストン供給潤滑油の連通孔からの逆流 プロオイルリング掻き落とし不足によるオイルアップ現象 図2 抽出した要因<記号説明> 0:機器の異常による要因 ロ:構造上起こりうる要因このため, 「機器の異常による要因」と「構造上起 こりうる要因」とに分類して要因分析を行い,調査 を実施した。図2に抽出した要因を示す。また,標準設計からの変更が要因となっているこ とも考えられることから,このような変更点につい ても洗い出し,要因に対しての影響を評価した。2.2 機器の異常による要因の調査結果 - シリンダ内への潤滑油の流入経路を抽出し,経路 上の機器や部品の異常による要因について,分解点 検,漏えい確認等の調査を実施した結果,機器や部 品に異常がないことを確認した。2.3 構造上起こりうる要因の調査結果構造上起こりうる要因について調査するため,実 機による再現試験やモックアップ試験を実施した結 果,以下の結果が得られた。a.実機による再現試験結果DIG 機関停止後のシリンダ内温度の低下に伴いシ リンダ内が負圧となり,ピストンリング部に溜まっ ている潤滑油がシリンダ内に流入することが考えら れることから,要因分析に基づく調査として,実機 による再現試験を行いD/G機関停止後のシリンダ内 圧力測定を実施した。 * シリンダ内圧力測定の結果, DIG 機関停止後, シ リンダ内圧力が.4 kPaまで低下することを確認し, この負圧となったシリンダの内部には約 700cc の潤 滑油が流入していることを確認した。 図3にシリンダ内圧力の測定結果を示す。シリンダ内圧力(kPa)-DIGA) B9シリンダ|0.556253:45 4:57 6:09 7:21 8:33 945 10:57 12:09図3 D/G(A) 停止時シリンダ内圧力測定結果b.モックアップ試験結果 - 実機による再現試験結果から,シリンダ内の負圧 により内部に潤滑油が流入することが確認でき,こ の潤滑油は要因分析に基づく調査の結果,ピストン リング部から流入したものと考えられた。DIG 機関のピストンの概略構造を図4に示す。ピ ストンには5個のピストンリングが取り付けられて おり,この部分に保持されている潤滑油は 100cc 程 度である。ターニング時にインジケータ弁から潤滑 油が排出する場合,構造上,シリンダ内に約 210cc 以上の潤滑油が滞留している必要があり,実際に実 機による再現試験では約 700cc の潤滑油の流入を確 認した。このことから,今回の事象はピストンリン168グ部に連続して潤滑油が供給される別の要因が重畳 していると考えられた。 ・ピストンにはD/G機関運転中の潤滑油消費量低減 を目的として,最下部のピストンリングにて掻き落 とした油をピストン内側に排出するための孔(以下, 「ピストン連通孔」)が設けられている。このピスト ン連通孔を通じてピストン冷却用に供給されている 潤滑油が逆流し, ピストンリング部に連続して潤滑 油が供給されることが重畳している要因として考え られた。トーゴーストンリンク>ピストンリングThannピストンピストン連通孔図4 ピストン廻り概略構造図このため,詳細なメカニズムを確認するためモッ クアップ試験を実施した。(a)負圧によるオイルアップモックアップ試験負圧によるシリンダ内への潤滑油流入について確 認するため,実機のシリンダを用いたモックアップ 試験を実施した。図5にモックアップ試験装置を示 す。モックアップ試験の結果, -1.8kPa, -3kPa 程度の 負圧でシリンダ内に潤滑油が流入することを確認し た。また, ピストン連通孔のピストン内側開口部へ の潤滑油かかり具合の影響を確認した結果,ピスト ン連通孔のピストン内側開口部に潤滑油がかからな い状態の場合は,ピストンリング部に保持されてい る潤滑油量(100cc 程度)の範囲で流入し,開口部 が潤滑油で覆われた状態では、ピストンリング部に 保持されている潤滑油量(100cc 程度)を超えて連 続的に流入するケースがあった。下側連通孔2箇所に かかるように油を供給圧力計、真空ポンプシリンダライナBIG 圧縮機ピストン ヒータ燃焼室ピストン連通孔油供給 ノズル油圧ジャッキー (ピストン上下に使用)熱交換器 生オイルパン潤滑油ポンプ図5 モックアップ試験装置 (負圧によるオイルアップ)(b)ピストン連通孔逆流現象モックアップ試験ピストン連通孔からの潤滑油逆流について確認す るため,実機のピストン及び連接棒を用いたモック アップ試験を実施した。図6にモックアップ試験装 置を示す。 * モックアップ試験の結果,連接棒頂部形状,ピス トンへの潤滑油供給量等の条件が整った場合に,ピ ストン冷却用の潤滑油が連接棒頂部で跳ね返り,こ の跳ね返った潤滑油がピストン連通孔を通じてピス トン内側からピストンリング部に向けて逆流するこ とを確認した。 - 実機の連接棒頂部形状を調査した結果,ピストン リングに保持されている潤滑油量(100cc 程度)を 超えてシリンダ内に潤滑油が流入したシリンダは連 接棒頂部が共通してフラットな形状であり,モック アップ試験の結果と一致した。標準設計からの変更点についての影響調査の結果、 D/G 機関停止中の機関入口潤滑油圧力を高めに変更 しているため,DIG 機関停止中に冷却用にピストン に供給される潤滑油量が多くなっていることが確認 された。本モックアップ試験において,この潤滑油供給量 でピストン連通孔からの逆流が発生することを確認 した。ピストン連通孔からの 漏出検出管油供給管流量計熱交換器本オイルパン調節弁 潤滑油ポンプ図6 モックアップ試験装置 (ピストン連通孔逆流現象)2.4 推定原因DIG 機関が運転状態から停止した後,給・排気弁 が閉まっている状態でピストンが停止している場合, シリンダ内の温度低下に伴いシリンダ内が負圧とな り,ピストンリング部に保持されている潤滑油がシ リンダ内に流入する。この時,ピストン冷却用の潤滑油がピストンに供 給された状態の位置でピストンが停止し,連接棒頂 部の形状等の条件が整った場合は、ピストンに供給 された潤滑油が下部に排出される際に連接棒頂部で 跳ね返り,この跳ね返った潤滑油がピストン連通孔 から逆流し, ピストンリング部に供給されることで,169ピストンリング部に保持されている潤滑油量を超え てシリンダ内に潤滑油が流入する。D/G(A)はこの状態でターニングを行ったため,イ ンジケータ弁から潤滑油が排出されたと推定した。 図7に事象の推定メカニズムを示す。 ・ピストン連通孔からの潤滑油逆流については, DIG 機関待機中の機関入口潤滑油圧力が標準設計に 比べて高く, ピストンへの潤滑油供給量が多くなっ ていたことも要因として考えられる。3.対策 * 今回の事象の対策として以下の対策を実施した。 これらの対策を検証するため,モックアップ試験及 び実機による試験を行った結果, DIG 機関停止後の シリンダ内温度低下に伴う負圧は低減され,シリン ダ内への潤滑油滞留についても,モックアップ試験 では 35cc 程度, 実機による試験ではほとんど確認さ れない程度まで滞留量が減少した。このことから, 対策は十分な効果が得られるものであることを確認 した。1) DIG 機関停止後,シリンダ内が負圧となる可能 性がある期間の潤滑油供給を連続供給から間欠供 給に変更した。この変更により潤滑油供給停止中 にピストン連通孔からシリンダ内へ空気を流入さ せることでシリンダ内の負圧を低減する。またピ給・排気弁機関停止後、 温度が低下して 負圧となる*1流入した潤滑油負圧負圧ピストン連通孔」メ ピストンリングの切れ間を 通じて、潤滑油がシリンダ 内へ流入する。ン連通孔ピストン、連接ビストン内を冷却した潤滑油が 下部へ落ちる際に、連接棒頂部 に当たって跳ね返り、連通孔に 流入する。圧縮,膨張行程で停止 (給・排気弁「閉」)*1 シリンダ内が負圧となるのは、ヒストンが圧縮・膨張行程で停止し、給・排気弁が「閉」となっている状態の一部のシリンダで発生する。サトー:潤滑油の流れシリンダ21ビストン一連接棒クランク軸図7 シリンダ内への潤滑油流入の推定メカニズムことで,潤 への潤滑油ストンリング部に空気層を形成させることで,潤 滑油の吸い上げを遮断し, シリンダ内への潤滑油 流入量を減少させる。2) D/G 機関停止中に潤滑油を供給するポンプの出 口側に戻り配管を設置し,ポンプから出た潤滑油 の一部をポンプ入口側へ戻すことで, D/G 機関停 止中の機関入口潤滑油圧力を下げ, ピストンへの 潤滑油供給量を減少させ,連接棒頂部で跳ね返っ た潤滑油のピストン連通孔からの逆流を発生しに くくする。4.結言D/G 機関のインジケータ弁から潤滑油が漏れ出す 事象が短期間の間に2回発生したが,それぞれ別の 原因による事象であった。今回の原因調査において は実機による再現試験や実機のシリンダを用いたモ ックアップ試験を多数実施し,機器の異常がなくて も構造上起こりうる事象として原因を特定し,適切 な対策を講じることができた。 - 対策後,平成 22 年2月 18 日に志賀2号機は第2 回定期点検を終え営業運転を開始しており,これま での定例試験においてもD/G の運転状態に異常はない。170“ “?志賀原子力発電所2号機 非常用ディーゼル発電設備 インジケータ弁からの潤滑油排出事象について“ “倉田 勝,Masaru KURATA,水上 優,Masaru MIZUKAMI,西田 毅,Takeshi NISHITA,立壁 圭一郎,Keiichiroh TATEKABE
を待機除外とし,平成 21年11月 13 日に原子炉を手動停止した。本事象について調査した結果, D/G 機 -- 北陸電力株式会社志賀原子力発電所2号機は,平 関の潤滑油系統に設置されている逆止弁の動作不良 成21年7月から実施した第2回定期点検後の調整運が原因であったことから,対策として逆止弁の交換 転中に,非常用ディーゼル発電機 A 号機(以下, 等を実施した。 | 「D/G(A)」のように略す)の定例試験においてター 逆止弁交換後,平成 21 年 12月6日に機能検査の ニングを実施したところ, B列 No.3 シリンダ (以下,事前準備のため D/G(A)のターニングを実施したと 「B3 シリンダ」のように略す)のインジケータ弁か ころ, B7 シリンダのインジケータ弁から約 20cc の ら約 100cc の潤滑油が排出されたため、試験を中止 潤滑油が排出された。 LD/G(A)を待機除外とした。その後,保安規定に基 本報告は,この D/G(A)B7 シリンダのインジケー づき D/G(B)の動作確認を行うため, ターニングを実タ弁からの潤滑油排出事象に対して行った,原因調 施したところ, B2 シリンダのインジケータ弁から約 査から対策までを述べたものである。 2cc の潤滑油が排出された。このため, 2 台の DIG図1に DIG の概要を示す。
2.原因調査 2.1 原因調査内容 - 平成21年11月と平成 21 年 12月6日に発生した 事象は,ともに DIG 機関のインジケータ弁から潤滑 油が排出された事象であるが,先に発生した事象は 26 日間の D/G機関待機後に発生したのに対して,平 成21年12月6日に発生した事象は D/G 機関待機期 間が約1日間と短時間であったことが大きな違いで あった。このため, D/G(A)B7 シリンダインジケータ 弁からの潤滑油排出事象の原因は,先に発生した事 象と原因が異なると想定されたものの,両者の関連 も調査するため,先に発生した逆止弁の動作不良に よる事象において調査済みの項目についても再度確 認することとし,調査に抜けがないように網羅的に 実施した。 - 事象発生後の初期調査により,インジケータ弁か ら潤滑油が排出された D/G(A)B7 シリンダのシリン ダ内には潤滑油が滞留していることが確認されたこ とから,排出された潤滑油はシリンダ内に流入した 潤滑油がターニングにより外部に押し出されたもの であった。シリンダ内への潤滑油の流入は,先に発 生した逆止弁の動作不良のように機器に異常があっ た場合にも生じるが,運転時に未燃焼となった潤滑 油の排気側からの逆流や,シリンダヘッドの摺動部 からのシリンダ内への潤滑油落下等,DIG 機関の構 造上,機器に異常がない場合であっても, シリンダ 内に潤滑油が流入する事象は起こりうる。<事象>インジケータ弁 からの潤滑油排出 (シリンダ内に滞留)<流入経路> | シリンダ給・排気室 上部から の流入からの流入く要因> 110 燃料系統異常による燃焼不良 ○ 給気系統異常による燃焼不良 ○ 潤滑油系統圧力の異常 ○圧力制御逆止弁の異常 0 弁案内ブッシュと弁棒間隙の異常 10 給・排気弁の損傷 10 シリンダヘッドドレン孔の閉塞 ○シリンダヘッドの貫通欠陥 口 運転時に未燃焼となった潤滑油が * 排気ラインから逆流 ロシリンダヘッドの残留油のシリンダ内への滴下シリンダヘッド 爆発面からの流入10 シリンダヘッドの貫通欠陥 0雜手部のガスケット面の損傷 ○ガスケットの損傷」シリンダ ピストンリング部 下部からい より上側からのHO ピストンクラウンの貫通欠陥 の流入流入ピストンリング部○ ピストンリング損傷 を経由した流入○ ピストン連通孔閉塞によるオイルアップ増加 ○ ピストンクラウン継手部Oリングの損傷 TO ピストンクラウン継手部の損傷 10ピストンの貫通欠陥により給油ラインから連通孔へのバイパス流れ 発生 ○ ピストンリング損傷によるオイルアップ増加 ロピストンリングのポンプアップ現象 ロシリンダ内負圧によるオイルアップ現象 ロ オイルリング掻き落とし不足によるオイルアップ現象」 ロピストンリング合口位置の一致によるオイルアップ増加 ロピストン供給潤滑油の連通孔からの逆流 プロオイルリング掻き落とし不足によるオイルアップ現象 図2 抽出した要因<記号説明> 0:機器の異常による要因 ロ:構造上起こりうる要因このため, 「機器の異常による要因」と「構造上起 こりうる要因」とに分類して要因分析を行い,調査 を実施した。図2に抽出した要因を示す。また,標準設計からの変更が要因となっているこ とも考えられることから,このような変更点につい ても洗い出し,要因に対しての影響を評価した。2.2 機器の異常による要因の調査結果 - シリンダ内への潤滑油の流入経路を抽出し,経路 上の機器や部品の異常による要因について,分解点 検,漏えい確認等の調査を実施した結果,機器や部 品に異常がないことを確認した。2.3 構造上起こりうる要因の調査結果構造上起こりうる要因について調査するため,実 機による再現試験やモックアップ試験を実施した結 果,以下の結果が得られた。a.実機による再現試験結果DIG 機関停止後のシリンダ内温度の低下に伴いシ リンダ内が負圧となり,ピストンリング部に溜まっ ている潤滑油がシリンダ内に流入することが考えら れることから,要因分析に基づく調査として,実機 による再現試験を行いD/G機関停止後のシリンダ内 圧力測定を実施した。 * シリンダ内圧力測定の結果, DIG 機関停止後, シ リンダ内圧力が.4 kPaまで低下することを確認し, この負圧となったシリンダの内部には約 700cc の潤 滑油が流入していることを確認した。 図3にシリンダ内圧力の測定結果を示す。シリンダ内圧力(kPa)-DIGA) B9シリンダ|0.556253:45 4:57 6:09 7:21 8:33 945 10:57 12:09図3 D/G(A) 停止時シリンダ内圧力測定結果b.モックアップ試験結果 - 実機による再現試験結果から,シリンダ内の負圧 により内部に潤滑油が流入することが確認でき,こ の潤滑油は要因分析に基づく調査の結果,ピストン リング部から流入したものと考えられた。DIG 機関のピストンの概略構造を図4に示す。ピ ストンには5個のピストンリングが取り付けられて おり,この部分に保持されている潤滑油は 100cc 程 度である。ターニング時にインジケータ弁から潤滑 油が排出する場合,構造上,シリンダ内に約 210cc 以上の潤滑油が滞留している必要があり,実際に実 機による再現試験では約 700cc の潤滑油の流入を確 認した。このことから,今回の事象はピストンリン168グ部に連続して潤滑油が供給される別の要因が重畳 していると考えられた。 ・ピストンにはD/G機関運転中の潤滑油消費量低減 を目的として,最下部のピストンリングにて掻き落 とした油をピストン内側に排出するための孔(以下, 「ピストン連通孔」)が設けられている。このピスト ン連通孔を通じてピストン冷却用に供給されている 潤滑油が逆流し, ピストンリング部に連続して潤滑 油が供給されることが重畳している要因として考え られた。トーゴーストンリンク>ピストンリングThannピストンピストン連通孔図4 ピストン廻り概略構造図このため,詳細なメカニズムを確認するためモッ クアップ試験を実施した。(a)負圧によるオイルアップモックアップ試験負圧によるシリンダ内への潤滑油流入について確 認するため,実機のシリンダを用いたモックアップ 試験を実施した。図5にモックアップ試験装置を示 す。モックアップ試験の結果, -1.8kPa, -3kPa 程度の 負圧でシリンダ内に潤滑油が流入することを確認し た。また, ピストン連通孔のピストン内側開口部へ の潤滑油かかり具合の影響を確認した結果,ピスト ン連通孔のピストン内側開口部に潤滑油がかからな い状態の場合は,ピストンリング部に保持されてい る潤滑油量(100cc 程度)の範囲で流入し,開口部 が潤滑油で覆われた状態では、ピストンリング部に 保持されている潤滑油量(100cc 程度)を超えて連 続的に流入するケースがあった。下側連通孔2箇所に かかるように油を供給圧力計、真空ポンプシリンダライナBIG 圧縮機ピストン ヒータ燃焼室ピストン連通孔油供給 ノズル油圧ジャッキー (ピストン上下に使用)熱交換器 生オイルパン潤滑油ポンプ図5 モックアップ試験装置 (負圧によるオイルアップ)(b)ピストン連通孔逆流現象モックアップ試験ピストン連通孔からの潤滑油逆流について確認す るため,実機のピストン及び連接棒を用いたモック アップ試験を実施した。図6にモックアップ試験装 置を示す。 * モックアップ試験の結果,連接棒頂部形状,ピス トンへの潤滑油供給量等の条件が整った場合に,ピ ストン冷却用の潤滑油が連接棒頂部で跳ね返り,こ の跳ね返った潤滑油がピストン連通孔を通じてピス トン内側からピストンリング部に向けて逆流するこ とを確認した。 - 実機の連接棒頂部形状を調査した結果,ピストン リングに保持されている潤滑油量(100cc 程度)を 超えてシリンダ内に潤滑油が流入したシリンダは連 接棒頂部が共通してフラットな形状であり,モック アップ試験の結果と一致した。標準設計からの変更点についての影響調査の結果、 D/G 機関停止中の機関入口潤滑油圧力を高めに変更 しているため,DIG 機関停止中に冷却用にピストン に供給される潤滑油量が多くなっていることが確認 された。本モックアップ試験において,この潤滑油供給量 でピストン連通孔からの逆流が発生することを確認 した。ピストン連通孔からの 漏出検出管油供給管流量計熱交換器本オイルパン調節弁 潤滑油ポンプ図6 モックアップ試験装置 (ピストン連通孔逆流現象)2.4 推定原因DIG 機関が運転状態から停止した後,給・排気弁 が閉まっている状態でピストンが停止している場合, シリンダ内の温度低下に伴いシリンダ内が負圧とな り,ピストンリング部に保持されている潤滑油がシ リンダ内に流入する。この時,ピストン冷却用の潤滑油がピストンに供 給された状態の位置でピストンが停止し,連接棒頂 部の形状等の条件が整った場合は、ピストンに供給 された潤滑油が下部に排出される際に連接棒頂部で 跳ね返り,この跳ね返った潤滑油がピストン連通孔 から逆流し, ピストンリング部に供給されることで,169ピストンリング部に保持されている潤滑油量を超え てシリンダ内に潤滑油が流入する。D/G(A)はこの状態でターニングを行ったため,イ ンジケータ弁から潤滑油が排出されたと推定した。 図7に事象の推定メカニズムを示す。 ・ピストン連通孔からの潤滑油逆流については, DIG 機関待機中の機関入口潤滑油圧力が標準設計に 比べて高く, ピストンへの潤滑油供給量が多くなっ ていたことも要因として考えられる。3.対策 * 今回の事象の対策として以下の対策を実施した。 これらの対策を検証するため,モックアップ試験及 び実機による試験を行った結果, DIG 機関停止後の シリンダ内温度低下に伴う負圧は低減され,シリン ダ内への潤滑油滞留についても,モックアップ試験 では 35cc 程度, 実機による試験ではほとんど確認さ れない程度まで滞留量が減少した。このことから, 対策は十分な効果が得られるものであることを確認 した。1) DIG 機関停止後,シリンダ内が負圧となる可能 性がある期間の潤滑油供給を連続供給から間欠供 給に変更した。この変更により潤滑油供給停止中 にピストン連通孔からシリンダ内へ空気を流入さ せることでシリンダ内の負圧を低減する。またピ給・排気弁機関停止後、 温度が低下して 負圧となる*1流入した潤滑油負圧負圧ピストン連通孔」メ ピストンリングの切れ間を 通じて、潤滑油がシリンダ 内へ流入する。ン連通孔ピストン、連接ビストン内を冷却した潤滑油が 下部へ落ちる際に、連接棒頂部 に当たって跳ね返り、連通孔に 流入する。圧縮,膨張行程で停止 (給・排気弁「閉」)*1 シリンダ内が負圧となるのは、ヒストンが圧縮・膨張行程で停止し、給・排気弁が「閉」となっている状態の一部のシリンダで発生する。サトー:潤滑油の流れシリンダ21ビストン一連接棒クランク軸図7 シリンダ内への潤滑油流入の推定メカニズムことで,潤 への潤滑油ストンリング部に空気層を形成させることで,潤 滑油の吸い上げを遮断し, シリンダ内への潤滑油 流入量を減少させる。2) D/G 機関停止中に潤滑油を供給するポンプの出 口側に戻り配管を設置し,ポンプから出た潤滑油 の一部をポンプ入口側へ戻すことで, D/G 機関停 止中の機関入口潤滑油圧力を下げ, ピストンへの 潤滑油供給量を減少させ,連接棒頂部で跳ね返っ た潤滑油のピストン連通孔からの逆流を発生しに くくする。4.結言D/G 機関のインジケータ弁から潤滑油が漏れ出す 事象が短期間の間に2回発生したが,それぞれ別の 原因による事象であった。今回の原因調査において は実機による再現試験や実機のシリンダを用いたモ ックアップ試験を多数実施し,機器の異常がなくて も構造上起こりうる事象として原因を特定し,適切 な対策を講じることができた。 - 対策後,平成 22 年2月 18 日に志賀2号機は第2 回定期点検を終え営業運転を開始しており,これま での定例試験においてもD/G の運転状態に異常はない。170“ “?志賀原子力発電所2号機 非常用ディーゼル発電設備 インジケータ弁からの潤滑油排出事象について“ “倉田 勝,Masaru KURATA,水上 優,Masaru MIZUKAMI,西田 毅,Takeshi NISHITA,立壁 圭一郎,Keiichiroh TATEKABE