改良9Cr鋼溶接部の微視組織を考慮した異方性クリープ解析

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カテゴリ: 第7回
1.緒 言
本研究は,溶接部周辺組織を直交異方性で近似し たすべり系を有する多結晶体としてモデル化し、60 年の長期使用を想定した有限要素法クリープ解析を 行い,各組織を等方性均質体で近似したモデルから 得られた結果と比較して、Type IV 損傷の発生機構 について検討することとした。 CO2排出量を削減するためには発電効率の向上が 有効であり,そのためには発電タービン内の蒸気を 高温高圧化する必要がある。 改良 9Cr 鋼は, VやNG 量を最適化して,9Cr 鋼の強度,耐食性,耐熱性をCO2 排出量を削減するためには発電効率の向上が 有効であり,そのためには発電タービン内の蒸気を 高温高圧化する必要がある。改良 9Cr 鋼は, V や NB 量を最適化して,9Cr 鋼の強度,耐食性,耐熱性を より一層高め,超々臨界圧(Ultla supercritical, USC) 火力発電用としても使用可能にした材料である[1,2]。この改良 9Cr 鋼は,オーステナイト系耐熱鋼と比 較して熱膨張率が低く熱伝導率が高いため熱応力を 低減することができることから,内外部の温度差に 起因する熱応力によるクリープ疲労損傷が深刻とな る大型構造物に用いられてきた[1,2] 。もんじゅやその後の実証炉においては、一体型蒸 気発生器伝熱管の材料として改良 9Cr 鋼の使用が考 えられており[31,低熱膨張率・高熱伝導率による配 管総長短縮等の経済的利点も期待されている[4]。高クロム鋼は一般に, Cr量を高め,組織を焼戻し マルテンサイトとして転位密度を高めることにより 高いクリープ強度と耐食性を実現している[5]が,溶 接継手の熱影響部(HAZ) の細粒域に Type IV と呼ば れる内部損傷が生じ,溶接部のクリープ強度が母材 よりも低下する現象が報告されている[6]。この現象に対して, HAZ 細粒域の粒界強化や粒径 を母材程度にまで大きくすることにより Type IV 損 傷そのものを生じにくくする研究[71や,様々なシミ ュレーションや実験により Type IV 損傷の発生・成 長過程を明らかにし、クリープ損傷挙動や溶接継手 の破断を推定しようと試みた研究(8,9]がある。しか し,溶接部の微視組織を考慮してクリープ解析を行 った研究は多くない。
(b) Fig. 1 Schematic illustrations of microstructures (a)and creep damage (b) around the weld joint [10,11].- 227 - 2. 溶接部の微視組織を模擬した 2 次元有限要素法モデルの構築 溶接部周辺は図 1(a)に示すように,様々な形状や 粒径を持つ多数の結晶で構成されており,大きく分 類すると領域1の凝固溶融金属の針状組織,領域2 の HAZ, そして領域3の熱の影響を受けていない母 材の3種類となっている[10]。さらに,領域1~領HさてIIIIV* Roman numbers I to IV indicate types of damages.域2の中央付近に示した細粒域までの間には,クリ ープ損傷として図 1(b)に示すような Type I~Type IV の分類がなされている[11]。TypeIは凝固溶融金属内に生じる損傷, Type II は 凝固溶融金属から HAZに進展した損傷, Type III は HAZ 粗粒域に生じる損傷で, 粒界におけるキャビテ ーションや粒界き裂を伴い,基本的に外表面から生 じる損傷である。そして Type IV は HAZ 細粒域に生 じ,基本的に板厚内部から生じる損傷である。図2には両面 U形開先で突合せ溶接をした平板状 試験片,図3には,図 1(a)の溶接部組織を参照して 図2 の試験片の微視組織を模擬して作成した有限要 素モデルを示す。図 3 中の△は底辺と垂直方向への 変位拘束条件,矢印はy軸方向に負荷した一軸引張 応力を示す。なお, 荷重は、 十分大きな弾性定数を有 する平板を介して試験片モデルに負荷し,変形が進 むに従って試験片に曲げが生じないように配慮した。 また,図3中の領域1~3は,図 1(a)のそれらと対 応しており,領域1の凝固溶融金属の針状組織,領 域2の粗粒 HAZと細粒 HAZ(f-HAZ), および領域3 の母材の微視組織をモデル化している。図4は、図3の領域1~領域3の一部を拡大して 示したものであり,各結晶粒に直交異方性で近似的 に与えたすべり系のイメージをいくつかの結晶粒に 対して示したものである。領域1の針状組織では異 方性の方位を結晶粒の長手方向に与え,他の領域のFig. 3 Present FE Model of a welded plate specimen.Fig. 4 Schematic illustrations of the present doubleslip systems set up in crystalline models.結晶粒はランダムに与えた。結晶方位の配向パター ンは 10種類用意し, クリープ寿命に与える結晶方位 の影響を調べることにした。表1に今回の解析で用いた 600°C大気中における 弾性定数とノートン則の各係数[12]および異方性パ ラメータの値を示す。今回の解析で用いた材料定数 は,細粒 HAZ(f-HAZ) とその他の領域および剛体板 の3種類とした。また,多結晶体を構成する各結晶粒に直交異方性 の材料定数を与えてすべり系を模した多結晶体モデ ルおよび各組織に等方性の材料定数を与えた等方性 モデルの2種類のモデルを用意した。3.近似多結晶組織のクリープ解析前章で述べたように,本解析では,各結晶粒にラ ンダムに直交異方性を与えて近似的に2重すべり系 を表現している。一方,直交異方性材料のクリープ に対しては, Hill ポテンシャル[13]を適用する方法が 提案されている。すなわち,各結晶粒のすべり方向 に r軸,それと直角方向に y軸,そしてこれらの軸 が作る ry平面に垂直な方向にz軸を設定すると,各 ひずみ成分の速度は次式で表すことができる[14]。G = 32 [HCG - of) + Gios - or) } 8, - 2a [F(, - o') + H(G, -of) 2 = 35 [Go! - of) + F(d. - 0; }11-1ただし,各記号の上に付した・は時間微分を表して おり,蓬は相当塑性ひずみ速度, は von Mises の 相当応力である。また, F, G, H および N は,異方性 パラメータと呼ばれる定数で,本解析では,表1に 示す値を採用した。 - ここで,次式のノートン則 = AT““(2) を式(1)に代入することにより,異方性材料に対する クリープ問題を扱うことができる。ただし,式(2)中 の定数 A および指数 n の値としては,文献[12]を参 照して,表1に示す値を採用した。4.解析結果とその考察Type IV 損傷は,溶接金属と母材によりクリープ 変形が拘束された HAZ において,表面よりも板厚 内部の最大主応力が大きくなるために板厚内部で生 じると指摘されており,損傷形態はクリープボイド の発生・連結であると理解され,最終段階ではき裂 進展により試験片の破断に至ると考えられている [11]。図5 に Type IV 損傷の例[15]を示す。一方,クリープボイドの発生・成長には静水圧応 力の影響があると考えられている[16]ことから,2 章で述べた有限要素モデルに対して負荷応力を 60 MPa としたときの 60 万時間(約68年)における静水 圧応力分布を検討することとした。図6には, (a)近似多結晶体モデルと(b)等方性モデ ルにおける静水圧応力分布を示した。近似多結晶体 モデルとしては,前述したように,すべり系を変化 させた10種類のモデルの解析を行ったが,図6には, 等方性モデルとの差違が最も顕著に現れると考えら れる, クリープ強度が最も低く得られたモデルの静 水圧応力の分布を示した。図6から,近似多結晶体 モデルと等方性モデルのいずれにおいても細粒 HAZ 領域での静水圧応力の値が大きくなっている ことが分かる。従って,本解析によって,細粒 HAZ 領域が Type IV 損傷の起点となるクリープボイドを 発生させやすい場所となっていることが示されたも のと思われる。本解析では,図7に示すように,いずれの応力レ ベルにおいても,クリープによる試験片の巨視的変 形が 12 mm に達した時点で変形-時間曲線が急激 な立ち上りを示した。そこで,本解析では試験片の 巨視的クリープ変形が 12 mm となった時点で試験104 Fig. 6 Comparison of hydrostatic stress distributions in polycrystalline and isotropic models at 6×10' hr (MPa).片が破断したと見なし,図8に示すような近似多結 晶体モデルと等方性モデルのクリープ破断曲線を求 めた。なお,図中の実線は文献[18]に記載された実 験データの 50%点を示す。また,図中の破線は,こ の 50%点から負荷応力」に対して±10%の幅を持た せた場合のクリープ破断曲線である。この図から, 本解析で得られた近似多結晶体モデルのクリープ強 度は従来得られている実験結果とよい一致を示して いるが,等方性モデルでは,実験結果と比べて危険 側の推定結果を与える傾向にあることが分かる。 このように等方性モデルで得られたクリープ強度 は、近似多結晶体モデルのそれよりも高く得られた。 これは,近似多結晶モデルでは,図 6(a)に示すよう に,局所的に応力が高くなる場所が多数存在するの に対して,等方性体モデルではこの領域の応力がほ ぼ一様となり,多結晶体モデルのように応力集中が 顕著に現れなかったことによるものと推察される。5.結言 * 本研究は,溶接部周辺組織を直交異方性体で近似 した結晶粒によってモデル化し、60年の長期使用を 想定した有限要素法によるクリープ解析を行い,Type IV 損傷の発生について検討したものである。得 られた主な結論は次の通りである。 1) 静水圧応力の分布を検討したところ、多結晶体近似モデルと等方性モデルのいずれも細粒 HAZ の領域での値が大きくなった。このことから, 細粒 HAZ 組織は,Type IV 損傷の起点となるク リープボイドを発生させやすい場所となってい るものと考えられる。 2) 本解析で得られた近似多結晶体モデルのクリープ強度は従来得られている実験結果とよい一致 を示した。これに対して,等方性モデルでは, 実験結果と比べて危険側の推定結果を与える傾向にあることが分かった。 3) 等方性モデルで得られたクリープ強度は,近似 多結晶体モデルのそれよりも高く得られた。こ れは,近似多結晶モデルでは,局所的に応力が 高くなる場所が多数存在するのに対して,等方 性体モデルでは応力はほぼ一様となり,多結晶 体モデルのように応力集中が顕著に現れなかっ たことによるものと推察された。参考文献 1] 山下賢,後藤明信,火力発電ボイラ用高クロム * フェライト鋼溶接材料,神戸製鋼技報,Vol.53,No.2(2003). 2] 阿部冨士雄, 7(1)発電用鉄鋼材料の高温化, 第3 一部第5章,2006年度物質材料研究アウトルック. B](財)高度情報科学技術研究機構(RIST),高速増殖炉の構造材料,03-01-02-15(2007). 4) 核燃料サイクル開発機構研究開発課題評価委員会,高速増殖炉の機器構造材料研究開発, JNC TN1440 2002-009(2003). 5] 緒方隆志,酒井高行,屋口正次,改良 9Cr-1Mo鋼溶接継手の単軸クリープ破断特性と損傷評価 法の提案,材料, Vol.58, No.2(2009). 5] 田淵正明,渡部隆,久保清,松井正数,衣川純一,阿部富士雄,W 強化高フェライト鋼溶接継手の組織とクリープ強度,材料, Vol.50,No.2(2001). 7] 田淵正明,近藤雅之, 本郷宏通,渡辺隆, FuxingYin, 阿部冨士雄,ボロン添加による高 Cr 耐熱鋼 溶接継手のクリープ特性の改善,材料, Vol.54,No.2(2005). 8] 本郷宏通,田淵正明,Yongkui Li, 高橋由紀夫,Mod. 9Cr-1Mo 鋼溶接継手のクリープ損傷挙動, * 材料, Vol. 58, No.2 (2009). 9] 川島扶美子,猪狩敏秀,時吉巧,多田直哉,21/4Cr-1Mo鋼溶接部 TypeII および TypeIV クリー プ損傷のミクロ・マクロシミュレーション,材料,Vol.56. No.2(2007). 10] R.Viswanathan, Damage Mechanisms and LifeAssessment of High Temperature Components, ASMInternational (1989). 11] 高温強度の基礎・考え方・応用, 材料学会(2008) 12] M. Tabuchi, H. Hongo, Y. Li, T. Watanabe,Evaluation of Microstructures and Creep Damages in the HAZ of P91 Steel Weldment, Journal ofPressure Vessel Technology, Vol. 131(2009). 13] R. Hill, The Mathematical Theory of Plasticity,Oxford Univ. Press (1950). 14] S. B. Singh, S. 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“ “?改良 9Cr鋼溶接部の微視組織を考慮した異方性クリープ解析“ “中曽根 祐司,Yuji NAKASONE,鈴木 拓雄,Takuo SUZUKI
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