BWR の高経年・耐震評価における産学協同について

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
我が国の主力電源である軽水型原子力発電所では、 プラントの安全・安定運転を確保するため、日常の影響評価について、特に産学共同で実施してきた内 容を中心に紹介する。 心音山にノV1G、TVに圧式大型犬心しいの 容を中心に紹介する。
2.BWR における低炭素ステンレス鋼の
我が国の主力電源である軽水型原子力発電所では プラントの安全・安定運転を確保するため、日常の 自主点検及び法令に基づく定期検査を実施している。 しかしながら、使用期間の経過に伴いプラント機 器・構造物が経年化するため、新たに得られた技術 的知見を今後の保全活動に反映することは重要であ る。このような認識の元、経済産業省原子力安全・ 保安院より、原子力発電所の高経年化に対する評価 方針が示され、保全計画に基づく適切な対応及び点 検・検査の充実により高経年化プラントにおいても 安全に運転継続することは可能であるとしている。 プラント高経年化評価にあたっては構造材料の経年 変化の寿命評価は重要な課題である。経年劣化・損 傷モードとしては疲労、照射脆化、照射誘起応力腐 食割れ、時効、腐食、摩耗等が挙げられる。一方、 応力腐食割れは高経年化事象かどうかには議論はあ るが、長期間に亘り健全性を維持するために最も重 要な事象として認識されている。また新潟県中越沖地震以後、原子力プラントの耐 震評価の重要性は従来に増して認識され、耐震向上 のための多くの評価並びに補強工事が行われている。本論では最初に BWR プラントで発生した SCC メ カニズム評価について、次に地震による構造物への連絡先: 鈴木 俊一, 〒230-8510 横浜市鶴見区 江ヶ崎町 4-1, 東京電力株式会社技術開発研究所 材料技術センター, 電話:045-394-6431, E-mail: suzuki.shunichi@tepco.co.jp stress corrosion cracking, SCC mechanism,* 昨今、BWR プラントの炉心シュラウドおよび再循 環系配管において、耐 SCC 性に優れると評価されて きた低炭素ステンレス鋼に応力腐食割れ(以下、 SCC : Stress Corrosion Cracking)が顕在化し、プラン トが長期停止するなど、技術的かつ社会的な問題と なった。解決にあたってはBWR環境における SUS316L このSCC に関する検討経緯をベースに、炉心シュラウド及び再循環系配管の SCC の特徴を把握して、プラ ント安全性評価を実施し、SCC 対策技術を早期に適 応してきた。以上の工学的評価に加えて、何故、非鋭敏化ステ ンレス鋼に SCC が発生・進展するのか、そのメカニ ズムを解明することが急務の課題となった。そこで、 より広く専門家の知見を集め、成果の公開を目的と して、(社)腐食防食協会に SCC メカニズムに関す る研究会を設け、メカニズムの解明を精力的に実施 した。研究実施にあたっては、委員会 (「低炭素ステ ンレス鋼のSCC 機構研究会」(略称 SCCM 研究会) 主査:辻川東京大学名誉教授)を設置し、技術情報、 研究方策並びに研究成果に関する討議を行った。研 究会の特徴として、大学、公的機関、BWR・PWR プ ラントメーカー、材料メーカー、化学プラントメー カー等における腐食関係、溶接関係、材料関係の専
門家約 60名が委員として参加し、種々の視点からメ 生評価試験を実施した。その結果、機械加工によっ カニズムの解明に努めた。また研究内容及び研究実 て生成した表面硬化層の残留応力分布は数μm~数 施者は公募により審査し決定した。研究内容として 10μm深さの深さで著しく減少した。また、BWR は、1表面硬化層で発生する理由、2粒界割れとし 模擬環境条件下における表面加工層の TGSCC 発生 て進展する理由、及び3溶接金属部での割れる理由 しきい値は約 600MPaであった。 を究明することを目的とした。以下に得られた研究 以上の結果から、配管取替え時に実施している内 成果の概要を示す。表面磨きや IHSI、狭開先溶接等の応力改善、並びにシュラウド表面に施工している磨きやピーニングは、 2.1 表面硬化層のSCC 発生感受性極表層部の除去あるいは表面残留応力を大きく低減するため、メカニズムの視点からも SCC 発生防止に ○表面硬化層の生成(当社実機材調査結果)有効な対策であることが示された。 再循環系配管の内表面のごく薄い領域は溶接時の 機械加工の影響で 300HV以上に硬化していた。また 2.2 低炭素ステンレス鋼が 1GSCC として進展 配管溶接部近傍は溶接時の熱収縮により硬化しておする理由 り、硬化部を SCC が進展していた。○極表面に形成される微細化層(日本核燃料開発、 ○粒界変形に伴う SCC進展(大阪大学) 日本原子力研究開発機構、東北大学、物質・材料研 SCC の粒界における進展においては、応力が負荷 究機構)されたときの結晶粒界のすべり変形のしやすさを評 表面から深さ数μmの領域に微細化層(微細粒組 価することも重要である。冷間加工率 20%まではひ 織,粒径:数十~数百 nm)が確認された。表面微細 ずみに対する粒界のすべり変形は小さいが、30%を 化層には酸化が認められ、耐食性の劣化により SCC 超えるとすべりが生じやすくなることが判った。こ 発生の芽となった可能性が高い。このような微細化 れはビッカース硬さ換算で約 230 と 320 の間に変化 層は、表面機械加工後の溶接あるいは強加工により があることになる。また粒界すべり/硬さと SCC進 発生しており、加工+入熱による再結晶化が原因と 展速度との関係をみると、粒界すべり感受性の上昇 推定される。(20%と 30%, HV230 と HV320) と SCC進展速度 ○表面硬化層での引張残留応力形成(大阪大学) の上昇傾向は概ね合致しており、粒界すべり感受性 表面機械加工により表面引張残留応力形成され、 上昇と IGSCC 進展速度上昇には関連性のあること さらに溶接を行うと引張残留応力が発生するため、が判った。 極表層での引張残留応力は高くなる。加工+溶接の 重畳効果のシミュレーションによって、600MPa 程 2.3 SCC メカニズムのまとめ 度の表面残留応力が評価された。○表面硬化層での TGSCC 発生しきい応力(住友 腐食防食協会における多数の研究機関による研究 金属、兵庫県立大学、日本原子力研究開発機構) 成果等から、SCC 発生・進展のメカニズムに関する放射光試験設備(SPring-8: 兵庫県)で表面残留応力。 知見が拡充した。得られた成果をまとめると以下の の測定を行うとともに、4点曲げ試験による SCC発通りである。(図1)加工(加工+溶接)による 表面微細粒組織の形成耐食性劣化加工(加工+溶接)による 12 引張残留応力の形成 TGSCC発生しきい値 600MPa表面(接液面)表面の 機械加工表面微細化層 (硬化層)の形成酸化物すべり線 耐食性劣化表層の残留応力溶接施工(冷間)加工 硬さの上昇腐食反応による進展wmomoon溶接残留応力冷間加工度上昇による 粒界すべり感受性増加図1 低炭素ステンレス鋼 SCC メカニズムの概念図328・SCC 感受性上昇に及ぼす表面機械加工及び溶接 の影響を把握した。・SCC進展試験は、加速要因やひびの状態など実 機 SCC を模擬あるいは保守的に評価しており、維持 規格のSCC進展評価線図の適用は妥当である。・実機対策(応力改善、みがき、腐食環境緩和等) の効果がミクロレベルでも理解された。2.4 今後取り組むべき課題今後取り組むべき研究課題を以下にまとめる。 1溶接金属近傍及び溶接金属中における SCC 進展速度データの取得(含む水質依存性) 2照射材 SCC 進展速度データ拡充(含む水質依存性) 3加工層があった場合の SCC 発生応力しきい 値の把握 4溶接金属における SCC 発生条件の把握(含む材質依存性,水質依存性) 6割れ発生進展メカニズム究明(材料応力/水質面) このうち、1は今後の健全性評価を行う上で重要 な項目であり、電気事業者の研究及び国プロジェク トとしてデータを拡充し、適宜、構造維持規格へ反 映する。2の照射材 SCC進展速度については IASCC 関する原子力学会での産学官を含めた議論(原子力 学会「照射基盤技術委員会(主査:関村東大教授)」) を基に判断する。 3,4は電気事業者の研究として国 内外の研究機関と協働して実施する。また5のメカ ニズムに関する課題は、大学・研究機関や他産業界 等の知見を活用して実施する。以上のように、今後 は産学官の共同を推進して、成果を規格・基準に適 宜反映する。 3. 地震による構造物への影響評価平成19年7月の新潟県中越沖地震の発生から、約 3 年が経過した。この地震は柏崎・刈羽およびその 周辺地域に大きな被害をもたらし、同地域に立地す る当社の柏崎刈羽原子力発電所も、設計時の想定を 超える激しい揺れに見舞われた。想定以上の揺れに 対しても原子炉の安全機能は設計通り作動し、高い 耐震クラスで設計された重要な設備には大きな被害 はみられなかったが、低い耐震クラスで設計された 屋外の設備等には被害が確認された。現在、総力を結集して柏崎刈羽原子力発電所の点 検・復旧などに取り組んでおり、設備の健全性を確 認する点検・評価を着実に実施する一方、復旧工事、 更に耐震安全性向上に向けた工事も順次進められて いる。また、安全上重要な設備の耐震強化工事として、 この基準地震動による揺れのほかに、新潟県中越沖 地震で観測された原子炉建屋基礎版上の全号機での 最大加速度の1.5倍に相当する 1,000 ガルの揺れにも耐えられるよう、必要に応じて工事を実施している。一方、設計基準を超える地震荷重を受けた重要機 器の健全性を確認し対策を着実に実施することは、 災害に強い発電所を再構築していくための必要条件 であり、得られた貴重な教訓を関係者が広く共有し ていくことが、将来の原子力利用を安全に展開して いく上での重要である。 ・ このような背景から一般社団法人 日本原子力技 術協会にて、平成 19年秋に「中越沖地震後の原子炉 機器の健全性評価委員会(主査:野本東大名誉教授)」(SANE: Structural Integrity Assessment for Nuclear Power Components experienced Niigata Chuetsu-Oki Earthquake Committee)が発足した。本委員会では、 構造強度・検査・耐震などを専門的分野とする大学・ 研究機関等の学識経験者と、電力・メーカー等の関 係者が一同に会し、産学協同の場として、地震荷重 を受けた機器の健全性評価について、解析的評価と 点検結果の両面から検討している。 - SANE では、今年度は6WG(評価基準 WG、検査 WG、疲労・材料試験 WG、配管振動評価 WG、建屋 -機器連成 WG、再起動 WG)が活動している。地震 後の検査としては配管の塑性ひずみ測定評価や締結 部材健全性評価、構造評価としては機器・配管の弾 塑性挙動を考慮した解析・評価、建屋一機器錬成に 関する課題としては原子炉圧力容器基礎部の耐震安 全性評価、その他、地震後のプラント再起動に関す る検討などが行われており、活動成果は随時関連学 協会等へ情報発信されている。なお、これらの知見 は東京電力による設備健全性評価や国等の様々な審 議プロセスの中で間接的に活用されている。3.1 JANTI SANE での具体的検討内容(1) 検査関連 *重要機器に対して地震により疲労強度に影響を与 える塑性ひずみが発生していないことを確認する方 法について、現場適応性を考慮し、検討を行った。 1硬さ法,2表面金相・表面レプリカ法, 3マルテン サイト検出法,4音速比法,5磁歪法,6バルクハ ウゼンノイズ法の検証試験を実施し,地震応答解析 の結果で地震の影響が大きかった場所と小さかった 場所の硬さを比較する方法を提案した。原子炉圧力容器等の基礎ボルトの点検では,東京 電力が予め計画する追加点検で実施した点検結果に ついて評価を実施した。例えばトルク確認方法では, 基礎ボルトに残留トルクがあれば地震後でも健全性 がある事を示し,実際のトルクを確認する事を提案 し,測定を行った。(2) 評価・基準関連今回の中越沖地震の評価は経験した荷重に対する 評価であるため,「設計段階における評価」のように 地震荷重の裕度は必ずしも必要ではない。したがっ て,実際の地震荷重を使って健全性を評価すること329が妥当であり,設計用の許容応力(JEAG 4601)の 許容応力状態IIAS が適用可能と判断した。また,本基準を超えた場合でも,適切なクライテ リアであれば国内外の最新の規格を準用すること が可能であり,適用可能な基準(米国機械学会 設 計規格 2007 年版,米国原子力規制委員会 Regulatory Guide 1.167 等)について検討した。(3) 疲労・材料関連 ・ 地震による疲労評価は,まず解析により疲れ累積 係数の和が1を超えていないことを確認するとと もに疲労寿命に対する地震の影響を検討した。過大 な荷重を受けると,材料は硬化して高サイクル疲労 強度は上昇する。しかしながら,低サイクル疲労強 度は影響を受ける可能性があるため、地震荷重を模 擬した負荷を与えた材料の低サイクル疲労強度を 評価した。その結果,代表的な材料であるステンレ ス鋼及び低合金鋼に対して 8%程度の予ひずみ(A==16%)を施しても,その後の疲労強度は現行の 設計疲労曲線に対して大きな寿命裕度を有している ことが判った。(図2)また 19 年度に取得した疲労試験データを拡充す るために,電力共同研究を起ち上げ,日本溶接協会 に小川教授(青学大)を主査とする LCF 小委員会を 設立した。本委員会は産学協同の場であり、○○の 大学と共同して 21 年度までに, 主として低サイクル 疲労強度データ(室温及び 300°C, 316L 鋼/低合金 鋼/炭素鋼のデータ)を取得するとともに,成果は 随時 SANE 委員会に反映されている。(4) 建屋-機器連成評価建屋機器連成 WG では、ペデスタルの健全性評 価のために弾塑性モデルを導入する方針を定めた。 弱とコンクリートから成るペデスタルの弾塑性モデ レによるスケルトンカーブは,コンクリートに生ずSUS31 6NG:室温大気中繰返し予ひずみC+++HHH)Manson予測式(-) 37 国試つ。設計疲?曲線●:予ひずみ無し o:繰返し予ひずみ0.00110111000010000010 100 1000 破断繰返し数 NF (回)図2 予ひずみ付与後の低サイクル疲労試験結果(SUS316NG, 予ひずみ範囲: △ Epr=16%)るひび角度, コンクリート引張強度の考慮/非考慮, 大変形時の軟化挙動の有無等により異なる。これら の因子を個別に検討し,ペデスタルに作用する荷重 を保守側に評価できる弾塑性モデルが提案され,評 価手法は実機評価に活用された。5) 地震後プラント再起動IAEA、米国などのガイドラインを基に、地震前に 実施する地震前計画と地震後の実施する短・中・長 朝対応を整理し、地震動及び損傷状況に応じた対応 方策を検討している。.2 今後の課題今後は産学の協同により、各 WG で取り纏めた技 寺成果の技術ガイドライン化を図るとともに、国内 夏数地点での地震経験・教訓や IAEA・米国等の知 見を基に、地震後のプラント再起動基準作成を目指30“ “BWR の高経年・耐震評価における産学協同について“ “鈴木 俊一,Shunich SUZUKI
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