LDIによる局部減肉を考慮した配管系の耐震安全性評価(その3)-配管試験による耐震性への影響の把握-

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
肉管理の条件を整理し、流動評価に基づく LDI による減肉形状の予測を行い、標準的な減肉形状の配管 運開後 30 年を経過したプラントでは、10 年毎に モデルを提案し、配管の強度実験・解析による配管 高経年化評価を行うことが義務付けられており、そ 系の耐震安全性に関する評価の合理化研究に着手し の中で減肉した配管の耐震性評価を行う必要がある。 た。本報告では、減肉した配管模型を用いた載荷実 減肉配管の耐震評価研究についてはこれまで、旧原 験により耐震強度への影響の評価を試みる。 子力発電技術機構(NUPEC)や防災科学研究所で実験
2.局所減肉した配管系の耐震評価方法 的な研究と数値解析による検討が行われてきた [1][2][3]。これらの既往の検討では、エルボなどの要素 配管系の地震応答挙動を評価するためには、実際 モデルによる繰り返し載荷実験、小口径の配管系モ の配管系の模型を作成し、振動台の上で加振実験を デルによる振動台加振試験、および数値シミュレー 行うことにより実証的な評価が可能である。しかし ション解析を組み合わせた耐震評価が行われ、地震 ながら、プラント内の配管系の模型は規模が大きく 時の挙動解明が進められてきた。
振動台上に設置することは困難であり、振動台の加 上記検討において、配管に生じる減肉現象のモデ 振レベルに限界があるため損傷が生じるまでの終局 ル化については、全周一様減肉と局部減肉を対象と 的な評価は難しい。さらに、縮小模型による振動実 してきているが、減肉メカニズムに基づく減肉の発 験では、モデル化の制約上、損傷モードを正確に再 生部位・減肉形状は考慮されておらず、一般的な減 現できないことなど、耐震評価上の課題が存在した。 肉形状と減肉量を扱うのみであった。このため、保 これらの問題を解決するため、当所では、数値解 守的でかつ強度的に厳しい条件で設定した耐震評価 析と力学実験を融合させたハイブリッド実験手法の としての位置づけとなっており、減肉配管の耐震挙開発415を行ってきており、本論では当該手法を用い 動を合理的に評価するためには、実際に生じる減肉 て耐震評価を行った。 現象を評価の対象として考慮する必要がある。2.1 ハイブリッド地震応答実験方法 以上の状況を鑑み、中部電力と電力中央研究所は、 本論では、構造系全体応答を数値モデルとして扱 実際のプラントに生じる液滴衝撃エロージョン い、局所的に変形や損傷が集中する部位のみを実物 (LDI)による減肉現象に着目し、プラント内の減 - を模擬した模型を使用した載荷実験を行い、両者の連携によるハイブリッド地震応答実験を適用した。 当所で開発したハイブリッド実験システムの詳細に ついては、文献[4],[5]を参照されたい。ハイブリッド実験においては、蒸気系の配管を想(その3)365定した数値モデルを作成し、この中で減肉が生じた エルボを試験部分として扱った。本ハイブリッド実 験により、地震力が作用した条件で、減肉したエル ボ部位について、荷重変位関係、損傷モード、限界 状態でのひずみ履歴などのデータを取得する。 2.2 配管系のモデル化と入力地震動ハイブリッド実験でモデル化した配管系を Fig. 1 に示す。同図には最大応力が発生する着目エルボを 点線で囲んで示している。対象とした配管系は、 450ASch20 (外径 457.2mm, 板厚 12.7mm)のクロム モリブデン鋼(STPA23)の配管で、配管系の全長は 約60m、配管の両端はアンカーとノズルにより固定 され、9 か所でサポートにより支持されている。上 記の配管系を3次元はり要素でモデル化し、固有値 解析より得られた配管系の1次~4次の固有振動数 は 3.5Hz~7.7Hz である。評価に用いた入力地震動について、加速度振幅 1.0m/s に正規化した時刻歴波形と加速度応答スペ クトルを Fig.2 に示す。JEAG4601 で設定されている 評価式に基づき、当該配管系の着目エルボの発生応 力値が許容値(降伏応力)に至る入力地震動レベル (評価用基準レベル)を求め、その5倍・10倍のレ ベルの地震力(最大加速度 17G, 34G)を作用させた。Maximum Stress PointMaximum Stress Point Evaluated by JEAG4601Target Elbow onFig. 1 Numerical Model of Piping System- Normarized Seismic Motion (NS)Acc (m/s)HIWory10102030 40Time (s)5060,70|h=0.05 |Resp. Acc. (m/s)Period(s) Fig.2 Input Seismic Motion 2.3 減肉エルボモデルの作成減肉エルボモデルは、載荷装置の荷重とストロー クの制限から 200A 配管(外径216.3mm、板厚 5.8mm) を使用して、1/2.114 の縮尺モデルで設計した。前報で定めた減肉形状を正確にモデル化するため、NC| 機械加工により、減肉エルボ模型を作成した。エル ボは個体差があるため、加工前に3次元計測して実 物の形状データを作り、CAD システムに減肉加工用 の数値データを設定して機械加工した。試験ケース は、Tablel に示すように、健全管、50%減肉、75% 減肉の3ケースとした。減肉エルボの加工状況と、 作成したエルボ試験体の板厚を超音波板厚計で測定 し、正規化表示した板厚分布を Fig.3 に示す。Table 1 Test Cases Case Wall ThinningCondition H01 No DefectReference Case H02 50% Thinning | Worse Condition H03 75% ThinnSevere Conditionumferential ngle3D CAD model Inner Surface of Elbow(1) Wall Thinning Manufacturing10000-0105010-0200020-0300030-0409040-0500050-000060-0700070-0804010-0000000-1.00]78.7567.5 5625Flow AngleFlow Angle33.752251125Circumferential AngleCircumferential Angle (2) Distribution of Wall Thickness of ElbowFig.3 Elbow Specimen 2.4 載荷装置載荷装置は、Fig. 4 に示すように、エルボ試験体 の片端を架台に固定し、もう片端を載荷治具に結合 し、加振機3本により平面内3自由度の変位制御に よる載荷を行う。載荷治具は、3本の加振機と載荷 用梁から構成され、装置全体を床面に水平にセット した。載荷用梁は、鏡面仕上げした低摩擦の台座の 上に設置して、加振機の駆動により台上の平面内で、 並進 2方向(縦・横)、回転方向に自由に可動し、梁 の中央部の載荷点に対し、数値モデルで計算された 目標変位への加振を行う。配管要素試験体は密封構造とし、内部は加圧用に 注水し、蒸気系配管のプラント条件の 1.87MPa の内 圧をポンプで作用させた。温度条件は室温とした。なお、本ハイブリッド実験においては、試験体に 1/2.114 の縮尺模型を利用しており、全体応答を計算 する数値モデルと、力学実験部分の間で、目標変位 を 0.473 倍、応答荷重を 4.468 倍した相似則換算によ り、荷重と変位を作用させた。366Fig. 4 Three Axial Loading Test Apparatus 3. ハイブリッド地震応答実験結果本章ではハイブリッド地震応答実験より得られた 結果についてまとめて示す。 3.1 線形剛性地震入力に先立ち、試験体の線形剛性を評価した 結果を Fig.5 に示す。同図には後述するシェル要素 でモデル化した数値解析による結果も合わせて示し ている。基準ケースの健全管の剛性で正規化して整 理しており、局部減肉については 75%減肉しても5% 程度の剛性低下を生じるのみであるのに対し、全周 一様減肉では剛性が半分以下に低下している。Stiffness Reduction Ratio+Local (Calc.) 日 50% Local (Test)A 75% Local (Test) -*- Full (Calc.)0% 25% 50% 75% 100%Wall Thinning RatioFig. 5 Stiffness Reduction Ratio 3.2 荷重変位関係実験より得られた代表的荷重変位関係として、加 振機2のロードセルと内臓変位計より得られた結果 を Fig.6 に示す。履歴挙動は弾塑性応答による紡錘 型の履歴が得られており、健全管、50%減肉、75% 減肉ともにほぼ同等の荷重変位履歴であることが把 握できる。最大荷重値は健全管に対し 1%以内の差 であるのに対し、最大変位は 15%~20%大きい値と なった。Load (kN)1980/11/01-60 -40 -200_ 2040Disp. (mm) (1) No defect (H01)Load (kN)1980/11/01204 0-60 -40 -20 0_Disp. (mm) (2) 50% Thinning (H02)Load (kN)10-80 -60 -40 -200 2040Disp. (mm) (3) 75% Thinning (H03)Fig.6 Load Displacement Relations 3.3 試験後試験体と浸透探傷検査加振実験終了後の試験体外観を撮影した状況を Fig.7 に示す。健全管および減肉加工した試験体で目 立った変形状況の違いは見られず、損傷状況は把握 できなかった(1) No Defect206003 STA(2) 50% Thinning(3) 75% Thinning Fig. 7 Elbow Specimens after Loading Tests - エルボに面内曲げ荷重が作用する場合、管の断面 には楕円化が生じ、その繰り返しによりエルボ横腹 部にき裂が進展することが報告されている。この ため、エルボ内面に生じる疲労き裂の発生状況を確367認するために、エルボ部を切断して浸透探傷検査を 行った。浸透探傷検査の結果を Fig.8 に示す。エル ボ横腹部の内表面においてもき裂などの損傷は確認 されなかった。(なお同図において、溶接箇所に着色 部位が見られるが、表面の凹凸によるもので損傷は 生じていない。)(1) No Defect (2) 50% Thinning (3) 75% Thinning Fig.8 Penetrate Testing Results of Elbow Specimens 4. FEM 解析による考察- 実験結果の考察のために、減肉をモデル化したエ ルボ単体の有限要素解析を行い、損傷に関して評価した。4.1 解析モデル汎用有限要素解析コード ABAQUS を用いて弾塑 性大変形解析を行った。8 節点次数低減積分のシェ ル要素を用いてモデル化を行い、直管およびエルボ を、周方向 30 分割、軸方向 30 分割で要素分割した。 材料物性値は、クロムモリブデン鋼の JIS による規 格値を用いて、Table2 に示すような数値を適用した。 非線形材料特性は2直線近似とし、降伏点から 1/200 の勾配で設定した。載荷方法は、健全管の単調載荷 時に得られた線形剛性の半分の割線が交わる点を崩 壊点とし、その変位振幅で 10 サイクル繰り返し載荷 した。Table 2 Material Properties Young's modulus191520MPa Poisson's ratio0.3 Proof Stress205MPaDirection Loading節点)Fixed Fig.9 FEA model 4.2 解析結果解析結果で得られた荷重変位関係を Fig.10 に示す。 荷重変位関係は、健全管のケースで荷重が最大とな」 り、局部減肉のケースは5%程度低下し、全周一様 減肉のケースでは、半分以下の最大荷重での履歴の結果となった。減肉量に対する荷重低下率について 健全管の最大値で整理した結果を Fig.11 に示す。局 部減肉は5%の荷重低下しか見られないものの、全 周一様減肉では 43%まで低下した結果となった。こ の結果は、現行の全周減肉によるモデル化の耐震評 価はかなり保守性を含んでおり、局部減肉を適切に 評価することで、合理化が可能であることを示して いる。Load (kN)-No Defect -Local 25% Local 50% Local 75%Full 25% -Full 50%Ful75%-150-200 1-150-100-500_Disp. (mm)50100150Fig. 10 Load Displacement RelationsLocal ThinningLoad Reduction Ratio--- Full Thinning0% 25% 50% 75% 100%Wall Thinning Ratio Fig.11 Reduction Ratio of Maximum Load 4.3 応力・ひずみ分布による考察健全管、75%局部減肉、75%全周減肉の 3 ケース こついて、Mises 応力分布、相当塑性ひずみ分布に ついてカラーコンター図で比較した結果を Fig.12、 3 にそれぞれ示す。Mises 応力の分布は、健全管と 75%局部減肉のケ ースでは、減肉させたエルボの背側に応力分布の違 いがみられるが、概ね一致した結果を示しているの こ対し、75%全周減肉のケースでは、板厚が変化し ているエルボと直管の付け根および、エルボ横腹に 応力の集中部位が見られる。相当塑性ひずみ分布図の比較では、健全管と 75% 局部減肉のケースでは塑性化した部位がほぼ一致し ているのに対し、全周一様減肉のケースでは、塑性 ヒ部位が異なっている状況が分かる。エルボの面内曲げについては、断面の楕円化の影 響で、エルボ横腹部位にひずみが集中し、当該部位 の強度が全体の曲げ強度へ支配的である。今回考慮 した局部減肉はエルボの背側に当たるため、面内曲 げ方向については影響が小さいと言える。全周一様 或肉については、板厚の変化部にひずみが集中する 吉果となり、局部減肉をモデル化する方法としては68適切でない結果となった。(1) No Defect(2) 75% Local Thinning(3) 75% Full Thinning Fig. 12 Mises Stress Distribution(1) No Defect(2) 75% Local Thinning(3) 75% Full Thinning Fig.13 Plastic Strain Distribution5. まとめ LDI による局部減肉を対象に、減肉の影響を評価 一るためにエルボ配管模型を用いたハイブリッド地 震応答実験を適用し、地震時の応答挙動、損傷に関 ーるデータを得た。75%まで減肉を模擬した模型に しても健全管と同等の荷重変位挙動を保持する結 となった。載荷実験後の試験体には損傷は見られ 、発生応力が一部塑性域に達する地震波の 10倍の 力地震動に対しても、十分な耐震裕度を有してい っことを確認した。結果を考察するために、局部減 コ・全周一様減肉を考慮した有限要素解析を実施し、 三本的な荷重変位関係、応力・ひずみの分布状況を 己握した。エルボの面内方向曲げの強度については、 -回想定した LDI による局部減肉の影響は小さく、行の耐震評価でモデル化している全周一様減肉は 三常に保守的な条件であることが明らかになった。 今後は、実験結果で得られたひずみのデータなど 整理し、実験を模擬した数値シミュレーション解 〒を実施して両者の比較により適用精度を確認する - ともに、耐震評価上重要な疲労評価を行う。面外 方向曲げについて実験および数値解析を行い、耐震 =全性の検討を行う。 参考文献 ] 日本原子力研究所,“配管信頼性実証試験技術 - 報告書”, JAERI-M 93-076, (1983) ] (財)原子力発電技術機構,“平成 14 年度原子力発電設備耐震信頼性実証に関する報告書その2”(2003) ] 中村いずみ, 大谷章仁,白鳥正樹,“地震荷重を 受ける減肉配管の破壊過程に関する研究報告 書”,防災科学技術研究所研究資料, 第 306 号, (2007.3). ] M. Sakai., et.al, “Visual and Versatile HybridSeismic Testing System Incorporated With Non-Linear Finite Element Analysis”, ASME,PVP2005-71446, (2005.7). 5] M. Dozono., et.al, “Verification Test for HybridSeismic Experimental Method Using Nonlinear Finite Element Method” , ASME, PVP2005-71228,(2005.7). 51 酒井理哉, 他,“減肉した配管エルボの地震応答評価法”, 日本機械学会 M&M2009 カンファ レンス, OS1423,(2009.7).“ “?LDIによる局部減肉を考慮した配管系の耐震安全性評価(その3)一配管試験による耐震性への影響の把握一“ “酒井 理哉,Michiya SAKAI,松浦 真一,Shinichi MATSUURA,森田 良,Ryo MORITA,稲田 文夫,Fumio INADA,尾西 重信,Shigenobu ONISHI,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO
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