CRDスタブチューブ溶接部の封止溶接技術の開発

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カテゴリ: 第7回
はじめに
2. 封止溶接工法の概要 2.1 封止溶接工法の特徴近年、国内沸騰水型原子力発電プラント(以下、 VR)の原子炉構成機器の高ニッケル合金製の、溶 金属において応力腐食割れ(以下、SCC と略す) よるき裂が顕在化しつつある。SCC は、SCC 感 性が高い材料に、製造時の表面硬化層の形成 CC 感受性増加)や溶接による残留応力が重畳し、 生・進展するものと推測され、SCC 発生の可能 がある部位については、ウォータージェットピ ニングリによる表面応力改善などの予防保全を 極的に推進している。一方、万一 SCC が確認さ た場合、SCC き裂の大きさに基づく健全性評価 実施し、必要に応じて適切な補修工法を選択す 必要がある。 SCC の補修工法としては、放電加工や研削加工 よるひび除去、あるいは取替えなどの「き裂を 全除去する補修工法」が従来適用されてきたが、 いひびの除去は難しく、また取替え工法は大掛 りな工事が必要になる。このため、取替え工法 比べて短期間での補修が可能等のメリットが期 できる封止溶接工法(SCC き裂を残したまま直 肉盛溶接を行い、SCC き裂を炉水環境から遮断 る工法)の実機適用ニーズが高まってきている。 このような背景のもと、BWR 炉底部の耐圧バウ ダリを構成するクラス1機器の代表として、高 ッケル合金製の制御棒駆動機構(CRD)スタブチ ーブ取付溶接部を対象にした封止溶接技術の開 及び封止溶接工法の技術的妥当性を確認した。
封止溶接京表面SCC き裂SCC き裂くFig.1Outline of seal welding method |2 封止溶接工法適用の前提条件 BWR炉底部機器(クラス1機器)の耐圧部に封止 接を適用する場合の主な前提条件を下記に示す。 1)き裂部分を除いた機器の残存部分のみで、圧 力や外荷重に対して機器の構造強度及び安全 機能を確保できること。 エプ384 -溶接施工面(開先面)には、補修対象き裂以 外に、溶接に悪影響を及ぼす有害な異物等が ないこと。 ? フェライト鋼に接合された高ニッケル合金に 適用する場合は,既設の溶接金属の厚さが, 封止溶接時の熱影響をフェライト鋼に与えな い厚さ 4mm 以上に確保されていること。_3 封止溶接部構造封止溶接部の構造および施工範囲を図2に示す。 封止溶接は,自動ティグ溶接により実施すること とし、SCC の範囲(欠陥の長さ、深さ)を把握し, 疲労き裂進展評価に基づき評価した「必要厚さ」 および「有効施工長さ」の範囲を包絡するように 溶接施工する。なお、封止溶接の溶接積層数は3 層以上、溶接厚さは 3mm 以上とした。 * 封止溶接部の必要厚さ(最小封止溶接厚さ :)は, 内圧等の荷重に対し封止溶接部の構造強度確保 に必要な厚さ(t)に,評価期間末期における封止溶 接厚さ方向の疲労き裂進展量(4a)を加えた厚さ とする。また,有効施工長さは、疲労き裂進展量 を考慮した評価期間末期の欠陥予測長さに,必要 溶接長さを加えた長さとする。t>t+4a t. 必要残存厚さ 4a:評価期間末期におけるき裂進展量増分評価期間末期の欠陥予測長さ:17有効施工長さ最小10mm最小10mm最小厚さt最小 20mm最小 20mm初層溶接範囲SCCFig.2 Outline of seal welding design and requirement3. 封止溶接部の技術的課題と確認方法 3.1 封止溶接工法の実機適用手順の概要と確認事項 封止溶接工法の実機適用手順の概要と、CRD ス タブチューブ溶接部への封止溶接工法の適用に あたって、確認すべき事項を図3に示す。実機適 用手順としては、SCC が確認された後、封止溶接 の適用性評価(強度評価)を行い、き裂残存でも構 造強度が確保されていると判断されれば、封止溶 接補修を行い、継続検査を行うことを条件に、評 価期間内の運転が許容される。[SCC検出封止溶接の適用性評価き裂のサイジングと モデル化【確認事項-1】1封止溶接構造の [構造健全性評価構造強度評価手法 <強度ンター異なる手法による補修 十分【確認事項-II】 封止溶接による補修|11溶接施工法 溶接条件の選定・封止溶接のエッセンシャルバリアブル 封止溶接補修」・溶接施工法確認試験要領12封止溶接施工要領 溶接後心力低就【確認事項-III】 |CRDスタブチューブ取付 溶接部への封止溶接 工法の適用性評価・溶接モックアップ試験 ・構造強度「評価解析 |「継続検査の検討継続検査においては、適切な検査手法の選定と 検査間隔の設定を行う|評価期間内運転Fig.3Outline and check items of seal welding application procedure3.2 構造強度評価手法に関する確認事項(確認事項-I) 封止溶接工法に関しては、構造強度評価として、 下記2項目を評価する必要がある。 (1)構造物全体の評価 ・き裂が存在しても、構造物全体が崩壊しないこと(封止溶接適用の前提条件) (2)封止溶接部の評価 (環境遮断機能の確保) ・疲労き裂進展により、き裂が封止溶接部を 貫通しないこと。 ・封止溶接部が内圧・外荷重で破壊しないこと。 封止溶接工法の適用に当たっては、検出された き裂に対する構造強度評価を実施する必要があり、 この構造強度評価は、基本的に日本機械学会維持 規格に基づいて行う。維持規格の基本的な評価手 法は高ニッケル合金にも適用可能と考えられるが、 高ニッケル合金の疲労き裂進展速度式や破壊評価 手法については整備されていないため、新たな評 価手法を策定する必要がある。上記を踏まえ、表1に示す封止溶接構造の構造 強度評価手法を策定した。Table.1 Method of structural strength evaluation評価項目評価手法封止溶接工法の構造強度評価手法封止溶接厚最小厚さの設定を最小厚さの設定方法を規定。 さの設定方法き裂進展解疲労き裂進展速インコネル 600 系合金の大気中疲労き裂進展速度式を策定。 応力拡大係数(KI有限要素法により求めた J 積分値 値)の計算方法からK値を算定する方法を規定。 機器の破壊評価2倍勾配法による破壊評価を規定。 方法 破壞評価梁モデルによる一次応力評価、弾塑 封止溶接部の破性解析による評価 (CTOD 法)を策 壊評価方法定。3853.3 封止溶接に関する確認事項(確認事項III) 封止溶接はき裂(ギャップ)を有する面に溶接を 行うが、き裂の開口幅は小さく、溶接施工性の観 点から、封止溶接の溶接自体は通常のティグ溶接 による肉盛溶接と有意な相違はないと考えられ、 適切な溶接条件の選定により、十分安定した溶接 施工が可能であると考えられる。しかし,き裂が 封止溶接に与える影響及び封止溶接がき裂に与え る影響を評価し,き裂を有する面への健全な溶接 施工が可能であることを確認しておく必要がある。このため、溶接施工の確認事項(エッセンシャル バリアブル)を溶接試験に基づいて策定するとと もに、実機施工にあたって必要となる溶接施工法 確認のための試験要領、及び封止溶接施工管理要 領の策定を行った。表2に、溶接性に関して実施した主な確認試験 項目を示す。各試験においては、外観検査、液体 浸透探傷検査(PT)、断面マクロ・ミクロ試験、側 曲げ試験、硬さ試験を行い、健全な封止溶接施工 ができることを確認した。Table 2 Examination items of seal welding 確認試驗対策方法又は確認方法 |1適正溶接条件確き裂を模擬した放電加工スリット試験体を 認試驗用いて,健全な溶接ビード形成が可能な適正溶接条件の範囲を確認 2溶接姿勢の影響溶接姿勢(下向き、横向き,立向き, 上向き) 確認試驗の影響を確認 3き裂内在物の影き裂内に残存する可能性のある内在物を含 譽確認試驗 ませたスリット試験体を用いて,内在物があっても健全な溶接が可能であることを確4 SCC 予き裂への影SCC 予き裂先端において、封止溶接時のひ 譽確認試驗 ずみによる延性き裂進展が生じていないことを確認 5手直し溶接部の溶接不良が生じた部分をグラインダで部分 健全性確認試験的に除去し、手直し溶接を行い,同一箇所を3回繰り返し手直ししても,手直し溶接 部が健全であることを確認溶接試験の結果に基づき、策定した溶接条件、 溶接施工法確認試験要領及び封止溶接施工管理要 領の概要を下記に示す。 (1)溶接条件(エッセンシャルバリアブル)を表3 に示す。なお、溶接方法は、気中環境下での自 動ティグ溶接とし、封止溶接材料は耐 SCC 性に 優れたインコネル 82 とした。表 3 の溶接条件 範囲における標準溶接条件で、SCC き裂に封止溶接施工した試験体の断面写真を図4に示す。 (2)溶接施工法確認試験要領については、溶接規格 第2部のクラッド溶接の溶接施工法確認試験要 領に準拠するとともに、内圧等に対する封止溶 接部の強度担保の観点から、封止溶接部の溶接 金属の引張試験を追加で規定した。(3)封止溶接の施工ステップを図5に示す。封止溶 接部の検査としては、最終溶接後 PT に加え、 初層溶接で SCC き裂を健全に封止したことを 確認するために、初層溶接後にも PT を実施す ることとした。なお、開先面検査は、き裂残存 が前提であることから、開先面の液体浸透探傷 検査(PT)は実施せず、封止溶接対象のき裂以外 のき裂、異物、汚れ等がないことを目視確認す ることとした。また、封止溶接後、ウォータジェットピーニ ング(WJP)による封止溶接部近傍の残留応力改 善、及び耐圧試験を実施することを含め、封止 溶接施工管理要領を策定した。Table 項目3 Seal weld conditions適用条件P-43 アルゴンガス R-43(82合金)(1)母材 (2)シールドガス (3)溶加材 (4)電極数 (5)溶接機 (6)積層数 (7)母材の厚さ (8)溶接条件自動 TIG溶接機」 多層(3層以上、溶接厚さは3mm以上) 制限なし 溶接入熱量:5.4~14.8kJ/cm ワイヤ供給速度: 300~1250mm/min 同一箇所での手直し溶接は3回以内と すること。(9)手直し溶接封止溶接部」SCC予き裂Imm182溶金(1) 外観写真(2) SCC 封止溶接部」マクロ写真 Fig.4 3 layer seal welding test result封止溶接による 補修ひびのサイジング S (ひび長さ、深さ) |水中作業UT・ECT ------ ----- 研磨・開先面検査---封止溶接(初層)・研磨氛中作業封止溶接による」 補修初層後PT封止溶接(残層)・研磨封止溶接厚さ測定・PT|----------水中作業残留応力改善WJPFig.5Seal welding procedure残留応力改善Fig.53864.CRDスタブチューブ溶接部への封止溶接適用性確認(確認事項-II) 封止溶接に関する溶接施工管理要領及び構造強 度評価手法に基づき、CRD スタブチューブ溶接部 への封止溶接適用性を確認した。4.1 CRD スタブチューブ溶接部の補修方法BWR 原子炉圧力容器の炉底部機器の補修にお いては、原子炉建屋のオペレーションフロアから、 遠隔操作で補修する必要があり、図6に示す完全 気中補修工法を適用する。完全気中補修工法は、 原子炉圧力容器フランジ部及び炉心シュラウド上 に遮蔽体を設置後、炉水を抜き、炉内を完全気中 の状態にした状態で、炉底部機器の補修を遠隔自 動で行なう工法であり、気中環境での溶接補修と することで、補修溶接の品質・信頼性の向上、各 補修装置の設定時間短縮等による工事期間短縮が 可能となる。また、CRD スタブチューブ溶接部の3次元形状 に対応可能な補修装置(研磨装置、封止溶接装置) 及び検査装置(PT装置、寸法測定装置)を開発した。 開発した封止溶接装置を図7に示す。ケーブル処理装置、作業架台RPV遮へい体約26mガイドパイプシュラウド遮へい体点検・補修装置Fi.6Outline of air environment repair method封止溶接装置CRDスタブ チューブFig.7Seal welding machine for CRD Stub-tube4.2 溶接モックアップ試験結果最外周の CRD スタブチューブ取付溶接部を模 擬したモックアップ試験体(SCC き裂付与)に対し て、封止溶接施工管理要領に従った封止溶接確認 試験を実施した。図 8 に SCC き裂付与部への 3 層封止溶接施工後の外観写真、断面マクロ試験結 果の一例を示す。モックアップ試験の結果、SCC き裂に対して封止溶接施工が可能であること、封 止溶接部も健全であることを確認し、CRD スタブ チューブ取付溶接部に健全な封止溶接施工が可 能であることを確認した。SCC長さ約60mmSCC予き裂(PT指示)SCC封止溶接施工CRDスタブ銃|3層封止溶接3層封止溶接」(1)3層封止溶接後外観〒面マクロ Fig.8 Example results of full scale seal welding test ofCRD stub-tube14.3 CRD スタブチューブ溶接部の構造強度評価結果 CRD スタブチューブ取付溶接部の構造評価にお いては、取付溶接部に、軸方向貫通き裂及び周方向 貫通き裂を複数箇所に想定した解析モデルを作成し、 策定した構造強度評価手法に基づき強度評価を実施 した。以下、代表として、山側に想定した貫通き裂 に関する解析結果の一例を示す。 (1)解析モデル図9に、想定した軸方向及び周方向貫通き裂の 位置及びき裂の範囲を示す。また、図 10 に軸方 向貫通き裂を付与し、厚さ 3mm の封止溶接部を モデル化した3次元解析モデルを示す。3871900/01/19 19:12:0013封止溶接初期き裂 (斜線部)101き裂20.8封止溶接初期き裂 (斜線部)初期き裂 (斜線部)Ti+iき裂。 インプ(単位:mm)(1)軸方向貫通き裂 (2)周方向貫通き裂 Fig. 9 Assumed crack in CRD stub-tube for structuralanalysis軸方向き裂話した。(1) モデル全体(2) き裂部拡大図 Fig. 10 3D analysis model for CRD stub-tube(2)疲労き裂進展評価図10の3次元解析モデルを用いて、内圧及び外 荷重に対する弾性応力解析を実施し、き裂先端部 分における J 積分値を算出し、内面ひずみを仮定 して、応力拡大係数に換算した。この応力拡大係 数から、各運転サイクルの応力拡大係数変動範囲 及び変動回数、及び策定した高ニッケル合金の疲 労き裂進展速度式から、封止溶接施工後の疲労き 裂進展量を評価した。図 10 に示す軸方向貫通き裂 モデルにおける、封止溶接側への疲労き裂進展量 を評価した結果の一例を図 11 に示す。|進展2封止溶接部(進展方向2)への進展量(mm)軸方向き裂2012 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15運転年数(年)Fig.11 Evaluated result of fatigue crackpropagation to seal welding direction(3)破壊評価外荷重(地震時モーメント)に対してCRD スタブ チューブ溶接部が破壊しないことを確認するため に、山側に想定した周方向貫通き裂に対して、2 倍勾配法による崩壊荷重を評価した結果を図 12 に示す(なお、疲労き裂進展を考慮して、封止溶接部残存 1mm まで疲労き裂が進展したモデルで 評価した)。図 12 より、崩壊荷重は内圧及び外荷重に対して 十分裕度があることを確認した。また、山側に想定した周方向貫通き裂について、 外荷重作用時のき裂先端開口変位(CTOD)を弾塑 性解析により評価し、封止溶接部が内圧及び外荷 重によって破壊しないことを確認した。以上の評価より、仮定したき裂に対して封止溶 接構造の破壊強度が確保できていることが確認さ れた。崩壊荷重はS,地震 荷重の3.1倍S2地震荷重に対する荷重倍率許容値(%3D1.5)解析結果(荷重-変位カーブ) ...2倍勾配直線0.5 11. 01.5 2.02.5 3.0 CRDスタブ上端の鉛直方向変位(mm)Fig. 12Evaluated result of collapse load of CRD stub-tube by plastic analysis5.まとめ * 封止溶接工法の技術的妥当性の確認を目的とし て、BWR の炉底部の耐圧バウンダリ機器である CRD スタブチューブ取付溶接部を代表部位とし た封止溶接技術の開発(封止溶接条件、封止溶接施 工管理要領、構造強度評価手法の策定)を実施する とともに、CRD スタブチューブ溶接部への溶接試 験、構造健全性評価を行い、封止溶接の実機適用 性を確認した。なお、(財)発電設備技術検査協会において、本 CRD スタブチューブ溶接部への封止溶接適用性 に関する確性試験の審議が実施され,「CRD スタ ブチューブ溶接部の封止溶接工法確性試験」(16 確 S5 号)確性試験証明書が発行された。参考文献 [1] 斎藤、他6名、”原子力プラントの炉内機器に対するウォータージェットピーニング技 術の開発““、噴流工学、Vol.20、No.1、2003、 pp4-12.388“ “?CRD スタブチューブ溶接部の封止溶接技術の開発 “ “田中 賢彰,Masaaki TANAKA,伊東 敬,Takashi ITO,松本 耕一,Koichi MATSUMOTO,馬原 陽一,Yoichi MAHARA
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