HLW地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築③教育機関での社会的合意形成に関するデジタルコンテンツの開発

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カテゴリ: 第7回
1. 中学校学習指導要領改訂との関わり
学校教育において放射性廃棄物の問題を取り扱う とした場合、これまでの検討の結果として、中学校 の理科(特に、単元「科学技術と人間」)において 実施することが、実践しやすいという前提の下にコ ンテンツ開発を進めてきた。平成 20 年の中学校学 習指導要領の改訂により、エネルギー・環境に関わ る内容が拡充されることになった。具体的には、単元「科学技術と人間」での目標・ 目的として、「自然環境の保全と科学技術の利用の 在り方」について理解するだけではなく、解釈や判 断することも射程とされるようになっていること、 つまり、認知的な次元から価値的な次元への広がり は、これまでの学習指導要領理科には見られなかっ たことである。また、知識内容の面でいえば、科学 的なエネルギーの種類(形態)ばかりではなく、そ の相互の変換と効率を教えるようになったことや、 持続可能な社会の発展のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)という観点からの科 学技術、環境、人間生活の相互関係への認識を深め るようになったことが、新たな変更点と言える。こ のほかにも、学習指導要領理科全体として強調され るようになったもののうち、単元「科学技術と人間」にも関連するものとして、「日常生活や社会の中の 科学」という視点と言語活動の充実が挙げられる。 2. イギリスの放射性廃棄物に関するデジタルコンテンツの分析 2.1 デジタルコンテンツ開発の意図放射性廃棄物の問題をどのように取り扱うかとい うことを教育の場で取り扱うために、本プロジェク トとして、欧米の事例を探した。そして、教育学部 チームが見つけたのが、GCSE Stage4 の理科と地理 の両方の試験のための練習問題として開発されたデ ジタルコンテンツである。London Grid for Learning(LGFL)社は、半官半民の会社であり、ロンドン市 の学校教育に関わるコンピュータの保守管理とデジ タルコンテンツの開発をしており、日本でいえば、 科学技術振興財団に類似しているともいえる。本事業と関連するデジタルコンテンツ“RADWast e Project (放射性廃棄物-問題解決ープロジェクト” は London Grid for Learning(LGFL)社が展開してい る。このコンテンツは、そのスタッフがイギリスの National Curriculum (日本の学習指導要領に相当) p General Certification of Secondary Education (GC SE;一般中等教育修了資格試験)等の学校教育の状 況を踏まえて作成したもので、特別に教育研研究者 や関連機関研究者が直接関わっては作成されてい ないが専門家が多く登場していることから、助言指 導は受けていると見られる。では、全英カリキュラムや GCSE では「放射性廃棄物」をどう扱っている のだろうか。前者では、中等教育の Keystage 3 の 理科で、「放射能は不安定な核のブレイクダウンに よって発生する」、「岩石の放射性炭素で年代を測 定する」と扱っている程度で、廃棄物についての直 接的な表記はなかった。しかしながら、科学の倫理 面に関する表記に「原子力について考える」事が明 記されていることから、多くの中学校で扱われてい ると予想できる。また、教科の一つ“Citizenship”の 「...これからの意志決定に参加する姿勢と行動の」 形態を学び、積極的でグローバルな市民としての役 割を果たす」の目標に関連していると言える。ちな みに原子力発電に関しては、小学校カリキュラムに 「家庭や学校でのエネルギーの使い方について考 え、温暖化のことも加えて、原子力発電を将来のエ ネルギー供給源として考えなければならない」との 表記がすでにあった。 * 後者のGCSEについては、一般中等教育修了資格 試験の「意志決定問題」の対策として取り上げられ たもので、放射性廃棄物を特に重要な問題と位置づ けているわけではないが、2010年に文部科学省で開 催された、諸外国の教科書分析で、イギリスに関し て、「KS3 PKS4, A レベルの教科書では,科学技 術が関わる社会的諸問題を積極的に取り上げ,学習 した知識や事実,証拠に基づき考え意思決定する活 動が多く取り入れられている。」と示されているこ とから、意思決定は大切にされていることがわかる。
2.2 デジタルコンテンツの内容
下の図1は、“RADWaste Project““のホームページで ある。Guccessissionstarseries LONDONMCRAD WasteThe National Skills AcademyLONDONProject(CORWM)That.GRRADwaite project tunes traaarcare thom the CorM MDEero Furtthat detartson もっtrand by chiching on the Conves tomoStuushurnity. click HERECustore.supporniwaucfann/smart1 220002009 08 blucation.servicentual aboutu.lterticottoma10e reguireconternm eiwan lavascrieternatteresome arencorrennanced with flash図1 “RADWaste Project”のホームページまず下方の 3 つの 枠 が 目を引く。 CORWN(Committee Radioactive Waste Management) { は、政府に諮問できる研究者の集まりで、自由な立 場で検討ができることが保証されている組織で、政 府が招集した放射性廃棄物管理委員会の活動状況 や報告にリンクしている。中央の【Students Click Here】 では、このコンテンツの使い方を説明してい る。右【BFL(Behavior For Learning)】では、発展的 学習のために必要な資料や授業戦略など充実したコンテンツが掲載されている。これは、教師の指導 用資料としても、生徒一人一人の追究活動の指針と しても利用価値の高い構成となっている。次に上段に設けられた 6 つのタグについて (http://www.lgfl.net/lgfl/accounts/projects/radwaste/ ) 説明する。左から1[RADwaste Lessons] 2[RADwaste Overview] 3[RADwaste Pilot] @[Nuclear Waste Management] 5 [Nuclear Waste Solutions] [Extension Work]である。それぞれ以下に示した内容を包含して いる。 2.3. 各タグ内の具体的内容 * 表1に示したように、「の放射性廃物に関する授 「業」では、レッスン1から8までの授業の流れと全 体の概要で構成されている。表1 各レッスンの題名 | ORADwaste Lessons Lle=Lessonl) - What is an issue L2 - What shall we do with the waste L3 - Role of Bios and ethics L4 - Impact study for possible locations L5 - Stakeholder Views L6 - Debate Preparations L7 ? The Location Debate L8 - DME* assessment RADwaste Lesson Overview「2放射性廃棄物の概要」では、放射性廃棄物に 対する政府の方針やその現状を CoRWN の活動や TV ニュースを資料として紹介し、それらに LGFL の RADWaste Project がどう位置づけられているか について記されている(表2)。表2 概要 2RADwaste Overview Introduction Project aims Project participants Project Overview Project Timescale Teaching strategies Video Resources RADwaste Curriculum Mapping RADwaste Pres The Real RADwasteをてオ「3プロジェクト実践校」では、本プロジェクトを 実践している3つの中学校の活動について紹介して いる。具体的なレッスンプランのテキストやビデオ を用いたケーススタディなども添付されている。 「2核廃棄物処理」では、核廃棄物に対する世界の 国々の扱いを紹介し、イギリスの核廃棄物保有量に ついて記されている。ここで何故、放射性廃棄物か ら核廃棄物へと表現が変わったのかについてははっ きりしないが、CoRWN のメンバー数人がビデオ出 演し、組織の意義や活動を紹介したり、いくつかの 課題に回答したりしているため、より広い範囲をカ バーする表現に変えたのではないかと考えられる。 「G核廃棄物問題解決策」では、問題解決のための あらゆる方法が、長期的、短期的に分けて掲載され ている。それぞれ長所と短所について述べられてお414り、生徒に思考し判断するよう求めている。最後の「O発展的活動」は、教師のためのページ としての色彩が濃い。生徒の発展的探究活動の方向 性や具体的戦略に対するアドバイス等、資料を交え 掲載されている。また、生徒の行動や思考、結論や 判断への客観的評価について、ブルームの評価法の 視点から分かりやすく示唆されている。 2.4 デジタルコンテンツ”RADWaste Lessons” の特徴日本型の教育プログラム開発の視点から、6 タグ のうちORADwaste Lessons についてさらに述べる。 前述のように、このコンテンツの「○放射性廃棄物 に関する授業」は8時間で構成されている。各時間 の概要と特徴は以下の通りである。 1) 1時間目;論題は何か - What is an issue? - 主題は現在のエネルギー論争の中で「原子力」と いう問題を把握することから始め、放射性廃棄物の 存在を認識し理解することである。情報資源には、 1950 年と 2006年の発電方法の割合の比較(グラフ) や「エネルギー論争」に関するチャンネル4のニュー ス映像等、豊富である。それぞれ場面での探究活動 に対して自己評価できるようワークシートが用意さ れている。また教師のための授業計画案やコンテン ツ利用のガイダンスもあり、「核廃棄物保有量」な ど他の学習コンテンツへもリンクしている。このよ うな情報資源や教師のための資料は、他の授業時間 でも同様にそれぞれの生徒の要求や教師の授業構成 に応じて多彩に準備されている。これらの資料のうち、「発電方法の違いによる効 果や影響」では、エネルギー資源を化石燃料、原子、再生可能、輸入のどの方法でどの割合で獲得す るのか選択しシミュレーションすることができる。 すると、二酸化炭素の産出量、発電量や効率、その コストをモデルや具体的数値で知ることができる。 再試行も可能で、生徒の興味や関心の獲得に大きな 効果が期待できる。 2) 2 時間目:私たちは放射性廃棄物をどのよ うにしたらよいのか? * 主題は意志決定のための活動に集団を引き込み、 実現可能な解決策の合意に達することを目指してい る。情報資源には、「1 分間のプレゼンの準備をす る」「選んだ解決策の理由を文書にするように」と の指示がある。コンテンツで提案する選択肢はわか りやすくモデル化されていて、その長所、短所が客 観的に記されている。コストに重点が置かれている のも特徴の一つである。 3) 3 時間目;核廃棄物に関するディベートー 偏見と論理一主題は処分場設置位置決定のためのディベートを 行うにあたり、それぞれの立場の人々が持つ論理や 偏見を取り上げる。この論理と偏見は、簡単に解決 できない問題であることを認識することである。NIMBY(not in my back yard)反応と利害関係者 (Stakeholder)の主張が大きなキーワードになる。 4)4時間目;処分場設置位置決定のために(1) - 主題は処分場選定基準を改めて理解した上で、そ の場所を特定し、「納得させるための文章」を作成 することである。自然環境、社会環境、現在の技術 レベル、コスト等、広範な選定基準をクリアするた めに、十分な議論を通した理論の構築が必要とされ る。できるだけ科学的な証拠に基づいた文章であり、 相手が納得できるための論理的な文章作りが要求さ れている。 5) 5時間目;処分場設置位置決定のために(2) - 主題は処分場に選定した地域の利害関係者を調査 し、「納得させるための文章」を作成することであ る。農場経営者、電気技師、環境保護活動家、地域 の商工会、地方自治体の人々を例に、詳細でかつ具 体的な内容が掲載されている。 66時間目;ディベートの準備 - 主題はこれまで培ったスキルや証拠を効果的に活 用したディベートの準備を行うことである。その際、 National Curriculum Keystage3 国語の「納得させるた めの話を参考にノートを作成しなさい」や、「プレ ゼンのための言語指導を受けなさい」等、教科を連 携する指示が特徴的である。利害関係者が考え方を 変えるものは何かを十分吟味する必要がある。 (7) 7時間目:ディベート主題は役割を分担し必要な準備をして、廃棄物の 貯蔵場所決定の承認に関わるディベートを行うこと である。準備を含めたディベート全体に対して、自 分自身とグループの活動を評価するためにチェック シートを使うよう指示されている。 8) 8時間目; 意志決定とそのプロセス評価課題の抽出から始まった長いプロセスを振り返り 再認識し、そのプロセスと結論に対して自己評価を する時間である。もちろん教師による評価もされる 状況が意図されている。2.5 デジタルコンテンツ”RADWaste Lessons” に対する評価ロンドン地区の教育用のネットワーク環境の保 守・管理・運営などのハード事業と、学習コンテン ツの作成などのソフト事業を一括して手がける半官 半民の企業 London Grid for Learning 社が、開発展開 している“RADWaste Project は、生徒の学習用ツー ルとしても、教師の指導用ツールとしても非常に良 くできたデジタルコンテンツであった。HP トップページの6つのタグも、その一つ一つの タグの内容も積み上げ式の構成になっていて、重要 なポイントではフィードバックする場面も設けられ ていた。LGFL 社のスタッフが中心となり作成した ということであり、(教科)学習として物足りなく 感じる箇所もあり、意思決定を目指した意欲的な展 開である。しかし、本プロジェクトが持つ複雑な性415格を考えるとイギリスの中等教育でどのように利用 されているかを調査する必要があるであろう。また、 自習教材としての位置づけがなされていることは、 6“Extension Work““で、教師不在の場合でも、生徒の 発展的学習活動を保証する構成になっていることか らも伺える。また、放射性廃棄物について生徒が学習活動を展 開していく際、かなり広範な資料が必要とされるの は言うまでもないが、Web 上での展開がそれを可能 にしていた。必要と予想されるあらゆるデータや資 料にリンクしていて、生徒は自由に情報収集できる ようになっていた。情報管理と公開に対する倫理先 進国だからとも言える。提供される資料にビデオ映 像が目立ったのも特徴の一つとして挙げられる。文 字や写真だけでなく、動画によるアピールの効果が 再認識された。動画再生時のタイムラグなどのスト レスは感じなかった。このことも評価できる点であ る。 * 本デジタル教材が作成されるに至った背景として、 イギリスの学校教育の効果もあるのだろう。National Curriculum の初中等カリキュラムでも「Citizenship (社会市民としての資質)」や「ICT(Information Communication and Technology)」の教科が設けられ ていて、原子力発電について学習している。2008年 から始まった中等カリキュラムでは、「原子力エネ ルギー」が抱える諸問題について学習を促すような 指示もなされており、上記の教科等とともに市民と してコミットする問題として捉えられている。 3. HLW 処理問題を含むデジタルコンテ ンツの日本語モデルの開発昨年度は、イギリスのデジタルコンテンツを出来 る限り日本語化し、通常の日本の中学の授業で使用 可能なところまで改訂していくことが主たる目的で あった。その結果として、より質の高い HLW 処理 問題に関するデジタルコンテンツが開発されること になる。 - まず、できるだけ、全訳を試みたが、映像権の問 題で、独立したHPを作り上げることは不可能とな り、基本的な使用方法としては日本語HPと英語の HPを同時に立ち上げて利用することしかなくなっ た。また、開発した日本語バージョンの最終HPを、 LGFL 社のHP内に置かせてもらうことが合意され た。例えば、lesson 1 のイギリスのチャンネル4をみ ながら、日本語訳をみることになる。ということは、 実際に教室で行う場合、プロジェクターとスクリー ンを2セット用意し、コンピュータも2台用意する か、大きめのスクリーンに2画面同時に映し出すこ とが必要である(図2)。1人の先生が行う場合は、 1台のコンピュータにて2つの画面を同時出すほう が操作しやすいことになる。図2 2つの画面を見ながら学習が進む 4. まとめ* 現在の日本の中学生には、自ら収集し解析した データもとにディベートをしたりプレゼンテーショ ンをしたりといったコミュニケーションに対する認 識やスキルはまだまだ醸成されていないのは確かだ。 しかし彼らの思考力、理解や納得を目指すために努 力する能力は世界と比較してもかなり高い。この学 習コンテンツのコンセプトと内容構成を日本の文脈 に沿って手を加えれば、彼らの知的好奇心を大いに 刺激し、活発な探究活動を展開していく可能性は高 い。近い将来、「放射性廃棄物の問題」に対して合 意形成を図り、意志決定し、行動を起こす中心にな るのは彼らである。社会の一員であることの責任を 自覚し、自ら判断できる生徒の育成のためにも、こ の学習コンテンツの実践を通して意志決定の場面を 経験し、そこに参加する姿勢や行動形態を学ぶこと は、十分価値があると考える。 - 本研究プロジェクトは、高レベル放射性廃棄物の 処分問題について、これまでの我が国の制度設計に 資する合意形成モデルを検証するとともに、市民を 含めて本問題を共同して解決策を考えていく、とい う、「みんなで共に考えていく」新しい合意形成モ デルを構築していこうとする試みであり、「制度設 計のためのモデル」と「教育プログラム」の組み合 わせによって日本型の高レベル放射性廃棄物処分地 選定の事業開始準備から埋没処分完了まで長期に及 ぶ処分事業への「合意形成」のための総合的なグラ ンドデザインを提案しようとするものである。今年 度は、以上のデジタルコンテンツの実践を重ねて、 更なる教育プログラムのモデル開発を行うと同時に、 他のグループの知見を取り入れた、独自の中学校教 育プログラムの開発も試みる予定である。参考文献 [1] http://www.lgfl.net/lgfl/accounts/projects/radwaste/ [2] http://133.70.27.91/jpn/ [3] http://curriculum.qca.org.uk/key-stages-3-and-4/ [4] 新中学校理科重点指導事項の実践開発、新学習 指導要領の指導事例、清水誠・熊野善介編著ならび に分担執筆、「2 分野はどう変わったか」ならびに 「第5章、PISA 調査や海外の動向から見る、PISA や海外の動向からみる科学教育の方向性」、明治図 書、2009.2., p70-71, p124-128.本研究は、文部科学省原子力基礎基盤戦略研究イ416ニシアティブにより実施された「HLW地層処分地 選定に関する日本型合意形成モデルの構築」の成果 である。- 417 -“ “?HLW地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築3教育機関での社会的合意形成に関するデジタルコンテンツの開発“ “熊野 善介,Yoshisuke KUMANO,丹沢 哲郎,Tetsuro TANZAWA,倉 真吾,Shingo UCHINOKURA,萱野 貴広,Takahiro KAYANO,井頭 麻友子,Mayuko IGASHIRA,バンバン プルワント,Bambang PURWANTO
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