HLW地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築④正しい情報が意志決定に与える影響

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
ルギー利用全般に対するものであった。主たる賛成要因として挙げられて3つの要因、及び主たる 我が国では今までにも原子力エネルギー利用 反対要因として挙げられた 5 つの要因について に関連した様々な対話セミナーが行政主導で行 2-1)、2-2)に示した。我が国では今までにも原子力エネルギー利用 に関連した様々な対話セミナーが行政主導で行 われてきた。その放射性廃棄物処理に関連したセ ミナーの代表的なものとして放射性廃棄物ワー クショップが行われてきているほか、原子力エネ ルギー利用に関連した原子力政策円卓会議や市 民参加懇談会(地域市民参加懇談会)などが知ら れている。これらのワークショップ、円卓会議、 懇談会の議事録を用いて、過去のどのような議論 と判断が行われ、その根拠について調査をおこな った。さらにその議論の内容を精査し、それらの 相互関係と、基となる意志決定の流れの検討を行 った。また、それらの過程の重要性を調べるため に、主として一般公衆を対象とした高レベル放射 性廃棄物処分に関する対話セミナーを行い、アン ケート調査を実施した。 ルギー利用に関連した原子力政策円卓会議や市 ・2050 年までの COP3(第 3回気候変動枠組条約 民参加懇談会(地域市民参加懇談会)などが知ら締約国会議)による温室効果ガス半減に向け、原 れている。これらのワークショップ、円卓会議、 子力利用が二酸化炭素排出削減に有効である。 懇談会の議事録を用いて、過去のどのような議論 ii) エネルギーの自給・安定供給のために必要で と判断が行われ、その根拠について調査をおこな ある った。さらにその議論の内容を精査し、それらの ・4%しかない日本のエネルギー自給率を 19%に 相互関係と、基となる意志決定の流れの検討を行 上げているのは原子力発電だ。 った。また、それらの過程の重要性を調べるため・石油は価格の変動が大きく供給不安がつきまと に、主として一般公衆を対象とした高レベル放射 性廃棄物処分に関する対話セミナーを行い、アンili)立地での雇用拡大・経済活性化につながる ケート調査を実施した。・発電所建設で雇用機会が増し、しだいに他の業種にも経済効果が期待できる。 2. 主な賛成要因・反対要因 過去に実施された6つの市民懇談会・円卓会議2-2)反対要因 - 過去に実施された6つの市民懇談会・円卓会議 の会議録を精査し、議論の中に現れる賛成論・反 対論についてその主な要因・見解を抽出した。こ れら、抽出した要因等を総合すると、唯一、放射 性廃棄物埋設処分場建設に伴う技術的な課題に 対する不安感を除けば、いずれも原子力エネルギう。
2-1) 賛成要因 i)温暖化対策に適している ・2050 年までの COP3(第 3回気候変動枠組条約 締約国会議)による温室効果ガス半減に向け、原 子力利用が二酸化炭素排出削減に有効である。 ii) エネルギーの自給・安定供給のために必要で ある ・4%しかない日本のエネルギー自給率を 19%に 上げているのは原子力発電だ。 ・石油は価格の変動が大きく供給不安がつきまとilii)立地での雇用拡大・経済活性化につながる ・発電所建設で雇用機会が増し、しだいに他の業 種にも経済効果が期待できる。 2-2) 反対要因 iv)放射能漏れに対する恐怖 耐震性に疑問 ・電力会社が行った調査を政府が追認したため、 短い断層は無視されたが、そこで地震が起きない とは断定できない。 操業時の安全管理に不信感 ・JCO 東海村の臨界事故は安全管理が不徹底だっ たから起きた。 健康被害への恐れ ・事故が起きた場合に、近隣の人々の健康が侵さ・事故が起きた場合に、近隣の人々の健康が侵さ- 418 -れないか気になる。 風評被害による立地の農業・漁業への打撃 ・事故が起きた場合に、立地で収穫・水揚げされ た産物の値が下がるなどして農業・漁業が立ち行 かなくなる。 放射性廃棄物処理に関する安全性に疑問 ・高レベル廃棄物は相当な長期間隔離しなければ ならないが、どこでどれぐらいの期間どう処理す るのか未定であるし、技術的に可能なのか。 *v) 核兵器への転用の恐れ・燃料の再利用は核兵器開発につながるという懸 念がある。プルトニウムの処理を管理しきれるのか。vi)立地住民が抱く不公平感 ・リスクを田舎に負わせ、都会は便益を享受して いる。 3.不安に関する意志決定の流れその結果、事故発生に対する不安は、(a)再処 理技術そのものの安全性に対する不安(=技術的 不安)、(b) 技術は成熟しているけれどもその施設 を操作する人間の不完全性に対する不安(=人為 的不安)、そして、(c) 技術の安全性、操業の安全 性には不安はないけれどもそれらを上回る予想 を超えた災害(例:大地震)への不安(=自然的 要因)に分類できる事が示された。また、(b) 自 然的要因の亜種として、完全には防ぎきれない災 害として「テロリズムへの不安」があることが明 らかになった。しかしながら、テロリズムへの不 安は、(a)、(b)でないという点では(c)に分類が 可能であるが、むしろ、「教育・情報開示の不足」 であると考えられる。これらの検討結果を図-1 に 示した。操業の安全性 (人為的要因)耐震性 (自然的要因)処理技術の安全性、 (技術的要因)事故発生に 対する不安高レベル放射性廃 棄物に関するどの ような資料が適し ているか、を評価「どのような放射線影響・ リスク情報が適している かを評価健康被害に 対する不安(事故時の風評被害 発生に対する不安教育・情報開示の不足以下に各アンケート 図-1 不安要因と相互関係 )4-1) アンケートA これらの要因について、上記フローに示す2つ の分野の情報((i)高レベル放射性廃棄物処分に 関する情報、及び、(i)放射線影響・リスクに関 する情報)を提供することが、不安の形成にどの ような影響を及ぼすのかを示すことで評価・検証 することとした。そのために次項に示す対話セミナーを実施し、講演及びそれに伴うアンケートに よる意識調査を行った。4.対話セミナー健康影響に対する不安について、正しい科学的 情報の提供がその払拭に寄与しうるかについて 検討するために、公開セミナーを実施した。参加 者から得たアンケート結果から、正しい科学的知 識を伝達する前後、即ち、放射線影響に関する講 演の前後で、放射性廃棄物、原子力エネルギーに 対する意識の変化が検出出来るかどうかによっ て明らかにすることができると考えた。平成 21 年3月4日及び7月 29 日に対話セミナーを実施 した。いずれも放射性廃棄物地層処分に関する専 門家による講演及び放射線影響・リスクの専門家 による科学的解説を行い、講演後に、リスクに対 する認知がどのように変化するかについて、アン ケートによる意識調査を行った。 - 対象は第1回と同様、一般公衆とし、主として 過去に放射線医学総合研究所が開催した一般公 開シンポジウムへの参加者リスト登録者に対し 開催案内とチラシを送付し予約を受け付けた。た だし専門学会のメーリングリストを通じて開催 情報を広く提供したことから、後述するように現 役あるいは OB の専門家の参加があったとも考え られた。 図2にアンケートによる調査内容を示す。目的セミナーのスケジュール アンケートA・B(意識調査1)放射性廃棄物処分に関する情報の提供講演「放射性廃棄物処分の取 り組み」リスクの認識調査アンケートC・D (意識調査2)正しい科学情報の提供講演「放射線の線量と人 影響」リスクの正確な認識?| アンケート E・F (意識調査2)アンケートG(理解度調査) ( 図-2 対話セミナーの目的とアンケート )以下に各アンケートの設問を示す。4-1) アンケートA 1. わが国の政策として、放射性廃棄物処分場の建 設についてどうお考えですか?(賛成→反対、の回答スケール上へのチェック) 2.その理由とは何ですか、下の枠内から選んで、 由の強い順に a からrまで記号でお答え下さ い。複数回答可。またa から r以外にも理由を 加えたい場合には(その他)とご記入の上、空419欄に自由にご記入下さい(自由回答文) 3. 原子力やエネルギーに関するわが国の教育は?(十分←→不十分、の回答スケール上への チェック) 4. 埋設処分に関する情報開示は?(十分←→不十 11分、の回答スケール上へのチェック) 5. 原子力エネルギーにより、わが国のエネルギー 自給率は?(向上する←→向上しない、の回答スケール上へのチェック) 6. 他のエネルギーに比べてコストは?(安い← → 高い、の回答スケール上へのチェック)4-2) アンケートA、C、E:放射性廃棄物処分場に関する一般的な意見 7. 高レベル放射性廃棄物埋設処分の安全性について?(安全←→安全でない、の回答スケール 上へのチェック)8. 大地震が発生した場合、埋設処分施設は?(安全←→安全でない、の回答スケール上へのチェ ニック) 9. 「放射性廃棄物」という言葉のイメージは?(悪い←→良い、の回答スケール上へのチェック) 10. 「廃棄物」という言葉のイメージは?(悪い←→良い、の回答スケール上へのチェック) 11. もしも埋設処分施設で事故が起きた場合?(影響が怖い←→影響は怖くない、の回答スケ ーール上へのチェック) 12. 放射線についてのわが国の教育は?(十分→不十分、の回答スケール上へのチェック)4-3) アンケートB、D、F:自身が処分場が建 設される予定の町の住民であると仮定した場合 1. あなたの街に放射性廃棄物の処分場が建設さ れることについてどうお考えですか? (賛成→反対、の回答スケール上へのチェック) 2. その理由とは何ですか、下の枠内から選んで、 理由の強い順に a から rまで記号でお答え下 さい。複数回答可。またa から r以外にも理由 を加えたい場合には(その他)とご記入の上、 空欄に自由にご記入下さい(自由回答文)4-4) 選択肢 a)二酸化炭素の削減につながる、b)他のエネルギーと比べコストが安い、c)雇用促進や補助金に よって街が活性化する、d) エネルギーの自給率 向上につながる、e)放射線の影響は心配ない、 f)原子力やエネルギーについての教育が不十 分、g)放射線の影響が心配、h)放射線について の教育が不十分、i)廃棄物のイメージが悪い、 j)情報開示が不十分、k)他のエネルギーと比べてコストが高い、1)安全性に問題がある、m) 立地の住民の不安感・不公平感が大きい、n) 事故が起きたときの影響が怖い、o) 地震に弱い、 p)事故が起きた後の風評被害が怖い、q)核兵器 に悪用される恐れがある、r)その他4-5) アンケートG 1. 私たちは自然界からの放射線を常に受け続け ていることについて(理解できた←→理解できなかった、の回答スケール上へのチェック) 2. 私たちの身の回りのさまざまなところで放射 線が使われていることについて(理解できた← →理解できなかった、の回答スケール上へのチ ェック) 3. 放射線は受けた量(線量)の大きさによって、 健康への影響はさまざまですが、あるレベル以 下の少ない量の放射線(低線量放射線)は、人 体に影響を及ぼすことが確認されていないこ とについて(理解できた←←→理解できなかった、の回答スケール上へのチェック) 4. 放射線についてあなたはどのようなイメージ を抱きますか?(良い←→悪い、の回答スケール上へのチェック) 5. 低線量の放射線についてあなたはどのようなイメージを抱きますか?(良い←→悪い、の回 答スケール上へのチェック)5.結果第1回対話セミナーのアンケート調査の結果、 講演の前後でいずれかの設問に対する意識が変 動しているという結果を得た。調査の方法や有意 差の有無など、今後の解析で考慮すべきすべき課 題は多くあるが、今回参加者に与えられたアンケ ート調査の設問の種類によっては、複数の参加者 が講演(=情報)の影響を受けやすい傾向がある ことが予想された。 - 即ち、(1) コスト、自給率、事故など、各自が 勝手な具体的イメージを持ちやすい設問につい ては、与えられた科学情報に比較的左右されやす い、(2) 教育や情報開示の必要性の有無について は、与えられた科学的情報によって、比較的左右 されにくい、傾向が示された。6.まとめ * 今回得られた結果より、与えられた科学情報に よって意識が左右されやすい要因、されにくい要 因が存在することが示唆された。今後は、第2回目の対話セミナーで検証を行う とともに、これらの要因がどのようなキーワード420によって関連づけられるかについて、2 回の対話 セミナーの議事録(反訳)を対象としたメッセー ジ分析を実施する予定である。さらに、今回示された要因を反映させた情報 (パンフレット等)を作製し、反映させていない 情報と比較し、どちらがより効果的に読み手に情 報を伝えることが出来るのかについての調査も実施する予定である。1. 本研究は、文部科学省原子力基礎基盤戦略研究 イニシアティブにより実施された「HLW地層処 分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築」 の成果である。421
“ “HLW 地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築◎正しい情報が意志決定に与える影響 “ “三枝 新,Shin SAIGUSA,米原 英典,Hidenori YONEHARA,酒井 一夫,Kazuo SAKAI
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