HLW地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築⑤日本型合意形成モデル構築の設計

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
我々は平成20年度から静岡大学を中心とする多 様な研究者からなるグループにて HLW 地層処分地 選定に関する日本型合意形成モデルの構築を検討し てきた。この検討において、筆者らのグループは実 践的な手法を確立する「日本型合意形成モデルの構 築」のための活動を行ってきた。その活動として、日本型合意形成モデルの在り方を検討し、基本構想 を策定する。3モデルの設計:1、2の検討結果を踏まえ、具 体的な日本型合意形成モデル案を作成。を行ってきたので、その成果を報告する。 2. 「日本型合意形成」に至る社会背景HLW に対する一般的な関心を喚起するためには 直接的かつ具体的な影響を明示的に示すことが大切 である。海外の事例では、英国、特にカンブリア地 方では既に原子力と住民生活が極めて密接な関係に あり、その地域が関心表明をしているが、日本では むしろそのような地域がこれまでほとんど関心を表 明していない。「日本型合意形成」に至る社会背景、 地域背景について、以下に着目し情報を取りまとめ1日本人特有のキーワードの抽出:国内で行われ ているワークショップ、アンケートなどにより HLW 地層処分に関する日本人特有のキーワードの 抽出及びモデル化適用の可能性を検討する。
2適切な合意形成過程(プロセス・手法) 検討: 諸外国の合意形成過程(プロセス・手法)と比較し、た。
・日本の制度の現状と課題 ・関連調査研究 ・情報共有のあり方について ・自治体の受け入れ方法について ・自治体の首長の判断及び周辺自治体との関係 合意形成の話が噛み合わない理由1901/02/25・話し合いのプロセス設計の重要性 3. 適切な合意形成過程(プロセス・手法) の検討過去に応募の動きがみられた国内17自治体の中 から数自治体(1秋田県上小阿仁村、2高知県東洋 町)ヒアリングを実施した。ヒアリング内容は、勉 強会、検討などの手順と対象範囲、応募するとした 場合の判断基準、HLW 処分事業自体への関心事、地 域の将来像、これまでの他自治体での経験の生かし 方などとした。首長ならびに主要団体、人物にヒア リングを実施した。現地踏査による地勢把握ならび にヒアリングを通じての HLW 最終処分地イメージ づくりを検証した。さらに英国カンブリアを現地調 査し、とくに住民の視点から HLW 最終処分場をど のように議論し始めようとしたのかをヒアリングし た。現地在住の日本人の目で見た HLW(あるいは原 子力)に対してヒアリングし、英国と日本の共通点 と相違点を見出し、日本型合意形成モデルの直接的 なヒントを得た。サイレントマジョリティに対する 考え方と具体的対応した「日本型」をあぶり出せる ような質問項目の練り上げと分析手法を検討し、原 子力に限らない合意形成の流儀を探った。(地域づく り・まちづくり) 4. これまでの事例からみる日本人特有の キーワードとモデル化の可能性これまでの調査等で得たキーワードから日本人特 有のキーワードの抽出を行い、そのキーワードから 見えてくる視点やモデル化の可能性を検討した。な 「お、キーワードとして設定したものは以下のとおり である。 4.1 キーワード安心、安全、安全と安心の乖離、倫理(行動規範)、 信頼、コミュニケーション、合意形成 4.2 モデル化の可能性として検討した事項 「メリットとリスクのバランス」、「場の長・領域 論(道州制等)」及び「賛成・反対の討論モデル」 このうち、「メリットとリスクのバランス」、「場 の長・領域論 (道州制等)」に関する検討の概要を以 下に示す。 「メリットとリスクのバランス」 原子力発電所と比較すると、立地地域住民にとっ て HLW 埋設処分施設のもたらすメリットとリスクの ・バランスが取れていないことがわかり、そのため「議論する価値のある問題」とは認められていない 可能性がある。これを解決するためには、もちろん 適切なリスクコミュニケーションにより人々のリス ク認知を是正することも必要であるが、メリットの認知を向上させる必要もある。 「場の長・領域論(道州制等)」原子力利用や高レベル放射性廃棄物の地層処分を 自分の問題として捉えなおすためには、市民が能動 的かつ主体的な姿勢を取ることが求められる。現状 では、多くの市民は受動的かつ傍観的であり、損失 を実感しなければ積極的に発言することを避けてい る。多くの市民は、自分の問題となって欲しくない 願望を有すると共に自分の問題ではあるもののどう にもならない無力感を感じている。自分の問題とは、 自身で解決できる問題である必要があり、その可能 性が閉ざされると例え自分の問題であろうと、自分 の問題としての認識を失い、主体的な姿勢を取るこ ことを避けてしまう。原子力利用、地層処分場の立地 が置かれている現況を注視すると、多くの市民が積 極的に自分の問題として意思表示せずに、強く否定 はしないものの「懸念や不安を抱く傍観者」として の態度を取っていることが見えてくる。そして、な んらかのきっかけを与えられると“万が一のリス ク““ (LPHC=Low Probability High Consequences)と して不安が喚起されていく。この意識とこの意識より形成されている状況の是 正が今後の原子力利用や高レベル放射性廃棄物の地 層処分の動向を左右する。解消には一般市民から自 分の問題意識を薄れさせて行為推進者への一任状況 を再現すること、あるいは、自分の問題意識を高め、 多くの市民の関与から納得感を共有した決定を導く ことの2つの方策が考えられる。前者の方策(実践されている)では、多くの者の 納得を得た上で合意を形成することは出来ず、社会 的な対立を収めるには限界がある。不十分な納得状 態で行為を遂行すると、その行為による失敗・不祥 事が行為推進者への不信に直結し、許されない雰囲 気が醸成される。その結果、行為推進者と市民の間 に不信感を増幅しあう悪循環な状態を生み出してしまう。* 後者の方策を探ることが重要である。見解が完全 に一致しなくとも互いに納得できる決定事項を見出 し、それを受け入れ合うことを合意形成の基本とす ることで社会的な対立を発生させないようにするこ とが可能である。意見の一致の如何に係わらずに納 得感に基づいた合意の形成には、関与者の積極的な 参加が前提となる。ここで関与者とは、強い利害や 信念を持つ特定の者だけを指すのではなく、傍観的 だった一般市民を含めねばならない。多くの関与者 の積極的参加によって、(どのように決定しても) 納得感を高めていくことが後者の方策の基本である。ここで、道州制をベースにすることは、実効的市 民参画における地理的・認知的な範囲を限定し、実423効的市民参画を捉えやすくする効果を与えるものとこれらの情報を俯瞰し、行動計画(アクションプ 見る。特に、電力の問題を考えるとき、電力会社の ラン)としては2つの方向があると仮定した。一つ (配電)区分と道州制を重ね合わせることは、自分 は制度や政策に関する領域、そしてもう一つは個別 が使用した電気(原子力発電)によって生じた問題 のコミュニケーションに帰結される領域とし、「マク を「自分の問題」として捉えることに有効になる。 ロな場」と「ミクロな場」と呼ぶこととした。さら すなわち、道州制に則って議論することで、より自 に、これら2つの場の間には、どちらの領域にも関 分の問題としての自覚が形成されやすくなり、道州 係する接続問題があると考えてられる。本事業で構 内の市民による討議・意思決定の場が形成しやすく 築する日本型合意形成モデルは、これら二つの場、 なっていくものと捉える。そしてその接続をデザインすることにある。これら このとき、道州制をベースに地層処分場の立地を「場のデザイン」について、以下に述べる。 検討していくことは、各道州にそれぞれ高レベル放 射性廃棄物処分場を建設することとはならない。道5.1 マクロな場のデザイン・社会制度や手続きは、個(ミクロ)から構成され 州間で高レベル放射性廃棄物の取引を認める仕組み を検討するなど、市場経済の仕組みを積極的に導入る社会の中で、利害調整のために必要とされる機能 することを目論むこともあり得る。である。そのため、個に対しての「マクロ」と位置づけた。これまでの成果で得られた HLW 処分地の 5. 日本型合意形成モデルの設計問題の中では、 - モデルの全体構造をエラー! 参照元が見つかりま・議論する価値のある問題として取り扱われていな せん。に示す。これまでに収集した情報について、・議論=誘致という図式の存在。 縦軸に「領域」(世界規模、日本域、地域(広領域・・情報公開と透明性をすすめるべきである。 狭領域)、個・少人数集団)、横軸に「事業構築のス・性急に回答を求めすぎない。 テージ」(背景、グランドデザイン、仕様、アクショという課題が示された。これらを個別に解決してい ンプラン)として各情報を対応した部分に列挙してくという選択肢もあるが、今回は、全く違ったアプ いくと、これまでの情報(様々な分野の研究者の専・ ローチを提案することとした。本グループが多様な 門的知識)とその情報間の関係性が見えてくること分野の研究者から構成され、かつ、その交流、議論い。グランド仕樣設計アクション世界・社会海外の合意形成システムのポイント 【スウェーデン】透明性の確保、双方向の議論中立機関が各ス テークホルダーと中立の立場で対話中立機関は様々な分野の専 門家で構成、環境省内に設置・メンバーは政府が任命 ・市民の声を聴く中立機関、放射性廃棄物問題を監視 【フランス】国民討論会が制度化されている.国民討論の結果を政 策に反映(再取り出しと情報の透明化を目指す中立機関を2006年 法に明記) 【英国】CORWM 国民の意見を行政に反映させる中立機関実施主体の姿勢 ・住民一人一人と、時間をかけ話し合う(スウェーデン) ・実施主体も住民の一員となる (スウェーデン、英国) ・様々な知識レベルの人に対応したわかりやすい説明(フラ ンススウェーデン) ・一般家庭で話し合われるほどに情報・知識が一般に普及 (スウェーデン) 地域の姿勢【英国】LSG(Local StakeholderGroup) ・実施主体の提案等に対応できる専門家の庭用 ・住民の意見を聴く議員「マクロな場」(制度・システムデザイン日本域・民主的手続きが定着していない ・政策への参加・権利意識が希薄による合意形成の限界法制度 ●住民や市民が自由に意見を表明す る場がなく、国民の声を受け止め、透 明性を確保することを実現する社会シ ステムがまだない ・現在の手続き等のプロセスにおいて、 地方自治体・国民の意見を取り入れる 仕組みがない ●文献調査には入る以前の応募段階 の情報共有、行政間・行政と住民等の 話し合い等々の環境整備ができてい原子力政策への不信感」 ・国民全体としての問題意の共有がない ・国民が判断するのに必要な知識・情報の取得が容易でない議論のあり方 ・情報提供が効果的であるために、国民に関心をもっても らう、考えることが必要であることを記送してもらう ・公平な情報共有市民に対して 各自治体・市町村に対して ・地域に適した議論の進め方が必要 中心処理周辺処理 ・議論の構成メンバーとメンバー選出方法・参加方法・道州単位 ・取引可能性地域(広領域)領域・範囲 ・日本の権威の失落傾向から、全国よりも道帯射程度の単 位での議論が現実的」 ・道州間での取引ビジネスの可能性・国民全体としての問題意識の共有 がない ・文献調査以前の取り組みの重要性 ・地方自治体・国民が判断するのに 必要な知識・情報の取得が容易でない ・国から地方自治体・国民への理解を 求める一方通行の議論 ・市町村→目→県?各行政間の役 割・権利と義務等が曖昧ト2つの「場」の接続 | ->「中立組織■■■■■合意形成の定義(CHARRETTEより) ・行政・市民・専門家など様々な立場の人たちが対等の立場 で議論し、結論を出す ・様々な立場の人たちが同じ方向を目指して議論する ・最終目標は、話し合いの中で参加者がそれぞれ納得する 解決策を見出す 場の長とは? ・議論のまとめ役を誰がするか?自由に語らせる空気協成地域(淡領域)法制度のあり方 ・行政主体から双方向へ ・住民の意見反映の仕組み ・行政と市民の間をつなぐ中立的機能議論の前提 - そもそも何に合意するのか? ・「負」の遺産ではなく、「正の遺産」へ ・「議論する価値のある問題」へ ・放射性廃棄物の地層処分 vs 放射性資源の保管議論のあり方 ・関心のある様々な人々(年齢・職業)を対象 ・反対派・賛成派専門家の参加 ・議論の結果を政策に反映/監視s!々変場)デザイン個・少人数集団HLW反対への態度形成傾向 ・あることに対して多くの人は反対でも貴成でもない ・自分に関わると言うとき、反対・貴成の態度形成が始まる ・一般に反対への態度形成は強化される傾向を持つ地域活性化活動や地域イノベーション成功のポイント ・適切なテーマ設定上手いテーマをつくれば、遊び感覚で集まってくる ・各ステークホルダーの主体的取組 成功の工夫として、情報収集からテーマ作りまで市民/ 行政/企業などの人が話し合って決めていく ・地域ニーズを的確に把握していくが明らかとなった。平成22年度に詳細設計・検証と一部実験予定の中から産み出された考えを以下に示す。 図1 日本型合意形成モデルの概念整理- 424 -「道州制単位の処分地選定議論及び道州間の取引制 度」 この構想は既出であるが、ポイントを挙げれば、 ・課題を範囲・領域を分割(日本全体から道州単位 へ分割)し、より自らの問題とする環境を整えること。・処分地から産み出される利益・損益をビジネスと して取引可能とすること。 である。5.2 ミクロな場のデザイン 「小規模×多頻度×軽快な議論の場をデザインす る」 前項に挙げた特徴から、HLW 問題の「ミクロな場」 (セミナー・ワークショップに限定)をデザインす ることを考えた場合、 ・専門的知識の交流(知的探求心を満たす。議論す る価値がある。) ・地域内の交流(地域、場の長との繋がりの確認) ・話しやすい空間(心地良い、軽快、ほっとする) ・建設的である(日常的に自分たちに良いことがあ る) ・ターゲッティングの重要性(誰に対して問いかけ るのか) を要素として含め、場を創ることが重要となる。こ れらを踏まえた詳細仕様を今後に固め、次年度に実 証を行う。さらに、これらの場において、静岡大学 にて構築している教育ツール(カリキュラム、コンテンツ)を活用し、その効果を確認する。5.3 主体と接続問題 - モデルの実施主体として第三者の中立組織の必要 性が各項目において認められる結果となった。これ らを諸外国モデルと比較・検討したところ、機能・ 手順は異なるものの、市民社会と専門家、そして国 (政策側)との間で情報の流通が行われ、それらの 情報、手順、主体を明確にしようとしている部分、 そして中立組織の重要性は共通していると捉えるこ とができた。但し、日本の場合は、理性よりも感性、 個よりも集団(地域)という側面があるため、「場の 長」を巻き込んだ感性指向の形態を取るべきである ことが示唆された。6.まとめ 日本型合意形成に至る社会背景、地域の背景につ いて情報を明らかにするとともに日本型合意形成モ デルの全体構造を明らかにし、行動計画の仕様をま とめた。これらに基づいて今後、ワークショップを 開催し、モデルの有効性を検証する計画である。1. 本研究は、文部科学省原子力基礎基盤戦略研究イ ニシアティブにより実施された「HLW地層処分地 選定に関する日本型合意形成モデルの構築」の成果 である。425“ “HLW 地層処分地選定に関する日本型合意形成モデルの構築6日本型合意形成モデルの設計“ “中武 貞文,Sadafumi NAKATAKE,久郷 明秀,Akihide KUGO,織 朱實,Akemi ORI,杉万 俊夫,Toshio SUGIMAN,下田 宏,Hiroshi SHIMODA,篠田 佳彦,Yoshihiko SHINODA,川本 義海,Yoshimi KAWAMOTO,松村 憲一,Kenichi MATSUMURA,織田 朝美,Asami ORITA
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