イメージベース波動伝搬シミュレーションと超音波探傷への応用

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
シミュレーションを積極的に工学問題に取り入れよう とする動きは活発であり,保全学や非破壊検査の分野も 例外ではない.しかし,近年のシミュレーションに対す るニーズはますます高度化しており,対象とするモデル の形状や構成要素は複雑化している.このような複雑な 対象に対してシミュレーションを行う際に障害となるの が,数値モデルの作成である.筆者らは,対象とする被 検体の写真等の画像データを読み込み,これをそのま ま数値解析に入力することで,材料の非均質性,局所的 な異方性, 3次元的に複雑な外形を容易にモデル化でき るイメージベース波動解析を提案している [1]. 要素技 術は有限積分法 (FIT2: Finite Integration Technique) で ある. FIT は波動方程式を空間領域と時間領域で離散化 し,時間ステップごとに波動場を計算する手法であり, 液体-固体 気体中の超音波の伝搬を連成して解析する ことも可能である.ここでは,2次元超音波伝搬シミュ レーションとして,コンクリートの垂直探傷,音響異方 性を有する異材溶接部に対するフェーズドアレイ探傷を 示し, 3次元シミュレーションとしてタービン部材中の 波動伝搬解析の例を示す.
2. 動弾性有限積分法 1. 弾性波動場に対する FITは,動弾性有限積分法(EFIT[2]: Elastodynamic Finite Integration Technique) と呼ばれてい る.支配方程式は3次元直交座標系(01,T2,T3) で記述 される.ここで,固体は一般異方性 (等方性含む) 材料 であるとする. 以下ではインデックス表記とし,総和規 約を適用する.z方向の粒子速度を vi,応力を T」 とお いたとき, 3次元波動場を支配する運動方程式および構 成則は以下のようになる. p(x)is (ar, t) = ““INAL + f(x,t) (i = 1, 2,3) (1)дxjOviki, Tku(, t) = Cklij () ac,(k1 = 1,2,3)-2ここで, ()は時間 tに関する偏微分 (0101), p は密度, f; は材料に作用する物体力,Cklis は弾性スティフネス である.運動方程式 (1) を領域 V(その境界は S) で積分 すると次式を得る.Joriyav = S. unds + , sav_45)ここで,上式にはガウスの発散定理を適用している.ま た,構成式 (2) の積分は[ tijdV = ( Cklijvin;dS (4) となる. いま, P, Cklis は V 内で一定とし,式 (3) と (4) を微小領域 V(= {at}) で離散化する. 離散化の詳細 は,著者らの前論文 [3] を参照して頂くこととし,離散 化後の結果を簡単に述べると,粒子速度と応力が違いに ずれた格子状の配置 (Staggered grid) となる.このとき, イメージベース処理のために,領域 V とピクセル・ボ45クセルサイズを一致させる必要がある. 時間域の離散化 については,中心差分近似を用いる.{v}}= {0}}<-1 + At{; } +{Ti}+ = {Ti; } -- + At{t}} (5) ここで, at は時間ステップ幅であり,上付き文字は整 数次または半整数時 z + y の時間ステップを表す.結 局, EFIT は式 (5) に基づいて,粒子速度と応力を交互 に計算しながら,解を更新する.なお, At は CFL条件 を満足するように設定しなければ,解は不安定となる. - EFIT の定式化からは逸れるが,異方性材料には波の 位相面の移動速度である位相速度と,エネルギーの伝搬 速度である群速度の2種類が存在する.なお,等方性 材料中ではこれらの方向・速度は一致する.位相速度を 解析的に求めるためには,以下の Christoffel 固有方程式 [4] を解けばよい.(Taj - pv-6y) d = 0 ここで, d, は波動の偏向ベクトル, wは位相速度であり, T; は位相の進行方向 と Chiki からなるマトリクスで ある.この方程式から求められる3つの固有値が,1 つのP波と2つのS波の位相速度に対応する.また,次 式によって : 方向の群速度 gi を求めることができる. 9i = =ciddle(7) 上式で解析的に得られる群速度分布は,EFIT による数 値計算で波動場を可視化しても求めることができる「39.-6ρυ3. イメージベースモデリングイメージベースモデリングとは,被検体の写真等の デジタル画像から,解析モデルを作成する方法である. 2D モデルでは、写真等をスキャナで読みとり,画像処 理を施した後に BMP 画像に変換する 1. 2D イメージ ベースモデリングの流れを Fig.1 に示す. BMP 画像の1 ピクセルと EFIT の1セルを一致させることで,コンク リート中の骨材分布等が簡単にかつ忠実にモデル化で きる.本稿はモノクロ印刷であるので表現できないが, 実際は 24bpp でエンコードされた RGB カラーモデルで 表している. RGB 明度は,赤・緑・青の輝度を示す3つ の8ビット符号無し整数(0から 255 まで)で表せるた め,本シミュレータは最大 2563 の異なる材料定数が設 定できることになる. _ 3D モデルでは, X線CT 画像やCAD データからボク セルデータを作成し,この1ボクセルと EFIT の1セル を一致させることで,複雑な外部形状を持つ対象でもロ バストにデータを作成できる. 3D イメージベースモデ リングの流れを Fig.2 に示す. EFIT ではピクセル要素 (2D),ボクセル要素 (3D) を用いているため、曲線部分 は階段状に近似される.線形の波動問題では,波長に比 べて十分に短いセル長を設定する [1] ことにより,階段 の影響を最小限に抑えて精度の良い解析が可能である.Digital picture80mm100mmImage processingPML 5mmContact transducer(width: 20mm)PML 5mmAggregate (max:10mm)Void (p = 10mm)Entrained airBMP imageAn example of 2D image-based modeling for concrete materialFig.1| CAD, CT pictures |Image processingVoxel meshesZoomジョー300NFig.2 An example of 3D image-based modeling for cylindrical pipe46、4. 超音波伝搬シミュレーション4.1 コンクリート探傷のモデリング - Fig.1 に示した幅 100mm,高さ 80mm のコンクリート 断面について, イメージベース波動解析を行う.ここで は, 2D 波動場に対してシミュレーションを行う. 断面写 真を画像処理することによって, BMP画像を作成する. コンクリートはセメントペースト,骨材, 気泡の3種類 の媒質から構成されているものとし,それぞれ黒,青, 緑の RGB カラーで表現している.全体積に対する骨材 含有率は約 30%, 骨材の最大粒径は 10mm であり,中心 に直径 w=10mm の円形空洞が存在している. セメント ペーストのP波音速cp=3950m/s, S波音速 cs=2250m/s, p=2050kg/m2 とし,骨材は cp=4400m/s, cs=2500m/s, p=2600kg/m2 とした.上表面に設置した垂直探触子(幅 20mm)から,中心周波数が 200KHz の P波が送信さ れるものとする. セル長は AX=0.025 mm と設定した. 時間ステップ幅は,A=3ns とし, 42us (14,000 ステッ プ)まで計算している. モデルの両端には幅 5.0mm の PML(無反射境界)を設けている. EFIT で計算された変 位場 | のスナップショットを Fig.3 に示す.Fig.3[b] で は, P波が空洞で散乱しており,同図 [c] では空洞から 散乱した S波がみられる.また同図 [d] では,底面に到 達した P波が反射しているが,同図 [e] や [f] をみると 反射波の波動が拡散してしまい波面が崩れている.従っ [a]12us[b]18usScattered P-wave P-wave[C]24us -Scattered S-wave[d]30usBottom reflection|[e]36us| |[6]42uSFig.3 Snapshots of ultrasonic wave propagation in concretematerial by means of the EFITて,超音波がコンクリート中を伝搬すると,骨材や気泡 による多重散乱の影響で波動が次第に拡散していき, 介 在物の疎密に依存して波面が局所的に変化していくこと がわかる。 4.2 異材溶接部に対するフェーズドアレイ探傷のモデリング 鋼材溶接部の超音波探傷試験を困難にしているのは, 金属の結晶構造に起因する音響異方性と非均質性であ る. 音響異方性は溶接凝固組織のために結晶方位が揃っ てしまうことによって引き起こされ,しかもその方位が 局所的に異なるため溶接部は非均質材料となる.これら の要因によって,超音波の伝搬経路は屈曲・散乱するた め、狙った位置に超音波が到達しないという問題が生じ ている.ここでは,フェーズドアレイ探触子を用いた超Welding partCarbon steelButtering partStainless steelCarbon steelStainless steelgs (km/s)gs (km/s)- 84hMet - 86420 24618-8 | 06-4-20 24 68 gi (km/s)gi (km/s)Crack~300Welding and buttering parts-P-wavega(km/s)...... S1-waveS2-wave (out of plane)HITOTHIRTH ANIMAMAHTNIMATTA- 86-4-2.02.4 68g? (km/s)Fig.4 Model of dissimilar metal welding part which shows local anisotropy and heterogeneity47音波探傷シミュレーションの一例を示す。溶接部内の結晶構造およびその周辺部は,Kohler ら [5] の過去の事例を参考にして Fig.4 のようにモデル化を行っ た. 炭素鋼は等方性(Cl1=C22=C33-277.0, C12=C13= C23=113.0, C44=C55=C66-82.0GPa, p=7874kg/m2) と し, V形溶接部とバタリング部は異方性のオーステナイ ト系鋼材(C11 = 262.7, C12= 98.25, C13-C23= 145.0, C33= 216.0, C44=C55= 129.0, C66-82.25GPa, p=7800 kg/m2) とし, ステンレス鋼は等方性(C11=C22=C33= 259.7, C12-C13=C23= 103.9, C44=C5s =Cor= 77.9GPa, p=7800kg/m2) とした. 溶接部は3つの部分に分けて おり,これらは弾性スティフネスは共通だが結晶方向が 異なる.ここでは, C1-T3を伝搬する 2D 波動場を考え る.この場合,溶接部とバタリング部は S波の1つは 純モード S 波 (面外) となるため,本解析では計算され ない.このとき,式(7) から求められた群速度gの分布 をFig.4 の下部に示している. - フェーズドアレイ探触子から発せられた超音波が溶接 内部に設定した高さ 5mm のき裂に向かって伝搬し,散 乱する様子を Fig.5 に示す. フェーズドアレイ探触子は 総素子数 24, ピッチ(2素子の距離)は 1.0mm であり, 中心周波数 2.0MHz のパルスを送信している. EFIT で150mm 90mm25mmFocal P waveCrack (depth:5mm, width:0.5mm)P-wave[[a] 4.8usS-waveP-wave[b] 6.0 usTip diffracted P-wave[c] 8.4usTip diffracted P-wave[[d]9.6usTip diffracted P-wave[e] 10.8us[0] 12.0US Fig.5 Snapshots of ultrasonic wave propagation in dissimilarmetal welding partは表面力を励起することによって超音波を発生し,ディ レイ(時間差)を適切に設定することによってき裂の上 端部に向かって P波が集束するようにしている.詳細 は省略するが,ビーム集束点から超音波を逆伝搬させ, 集束点から個々のアレイ素子までの伝搬時間を予め計 算することで,ディレイを求めた. EFIT の解析条件と して,.r=0.02mm, At=1.5ns で 8000 ステップの時刻更 新を行い,可視化は変位の絶対値 Jul を各時刻でプロッ トしている. Fig.5[a] では P波が発生しており,続いて [b] ではS波も発生している.S波は探傷に不必要な成 分であるが,ピッチ・ディレイ・周波数の設定次第でこ の例のように探傷領域内に発生してしまう場合がある. 同図 [c] ではき裂の上端部にP波が到達している.同図 [d] ではき裂上端部からの回折波が観察でき, [e]ではそ れがアレイ探触子の方向に伝搬していくことがわかる. これらの結果から,ディレイを適切に設定することで, 非均質性・異方性を呈するオーステナイト系鋼材の溶接 部に存在するき裂からのエコーを十分捉えることができ ることを示した. 4.3 複雑形状を有する金属に対する超音波探傷の 3D モデリング - Fig.6 の上部に示すような発電プラントに用いられ るタービン部材に対して,EFIT による 3 次元解析を 行った. タービンの材質はステンレス鋼 (cp=5800m/s, cs=3100m/s, p= 7800kg/m2)とした, モデル側面に探触 子 (10mm×20mm) を設置し,垂直応力を与えることで 中心周波数 500KHzのパルスを金属内部に励起する.な お,タービンの先端部分は PML を設けて,無反射境界 としている.解析条件は Ac =0.125mm, at =0.005us とした. Fig.6に 3D-EFITによって得られた速度場 | 4| の 等値面を表示したものを示す.10us 後のスナップショッ トでは P波が発生している様子が見られ,20us 後のス ナップショットではS波が発生している様子が見られる. なお,10000 ステップまで (50us まで)計算した場合の 計算時間は2ノードのプロセス並列計算(ノードあたり 16CPU スレッド並列計算)を用いて約8時間程である.5. 結言 1. 本稿では,対象とする被検体の写真等の画像データや CAD を読み込み,これをそのまま数値解析に入力する ことで,非均質・異方性材料や複雑な外形有する対象を 容易にモデル化できるイメージベース波動解析につい て示した.ここでは,コンクリート探傷,異材溶接部の 探傷, タービン部材の探傷のモデル化およびシミュレー ション結果を示した. 本シミュレータを用いれば異材溶 接部のアレイ探傷時において効果的なディレイの設定が でき,き裂の高精度な評価に応用できることを示した. 今後,ますますシミュレーションを超音波探傷に活用す ることが予想されるが,利便性と信頼性の高いものを開 発していきたい.48,Transducer 1 (10mm*20mm)90mm50mm128mmP-wave10usS-wave20us40usSnapshots of 3D ultrasonic wave propagation in turbine componentFig.6謝辞: 究助成, ここに,本研究は,スズキ財団(平成 21年度科学技術研 代表 中畑和之) の補助を受けて行われました. 記して謝辞を表します.参考文献 [1] 中畑和之,徳永淳一,廣瀬壮一, “イメージベース波動伝搬シミュレーションと超音波探傷法のモデル化への応用““,非破壊検査,59(5), 231-238 (2010) [2] Fellinger, P., Marklein, R., Langenberg, K.J. and Klaholz, S., “Numerical modeling of elastic wave propagation and scattering with EFIT -elastodynamic finiteintegration technique”, Wave Motion, 21, 47?66 (1995) [3] 中畑和之,廣瀬壮一, “非均質異方性材料中の弾性波伝搬解析のためのイメージベース EFIT の開発と非 破壊検査への応用““,応用力学論文集, 12, 163-170(2009) [4] B.A. Auld, Acoustic Fields and Waves in Solids, Volume 1, John Wiley & Sons, New York (1973) [5] Kohler, B. Muller, W., Spies, M., Schmitz, V., Zimmer,A., Langenberg, K.J. and Mletzko, U., “Ultrasonic testing of thick walled austenitic welds: modeling and experimental verification”, Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, American Institute of Physics, 25(A), 57-64 (2006)- 49 -“ “?イメージベース波動伝搬シミュレーションと超音波探傷への応用“ “中畑 和之,Kazuyuki NAKAHATA,廣瀬 壮一,Sohichi HIROSE
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