東海再処理施設における海中放出管からの漏えいについて -海中放出設備及び漏えい事象概要-

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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
東海再処理施設における低放射性廃液は、海中放 出設備により海洋放出を行っている。平成21年4月、 海中放出設備の一部である放出管について、施設定 期自主検査の漏えい試験*1 を実施したところ、試験 圧力まで加圧することができなかった。調査の結果、海底に埋設された配管(海中放出管) に漏えい箇所があることが確認された。 本件では、漏えいを生じた海中放出管を含む海中 放出設備の概要、漏えい事象の発生の状況、漏えい 箇所を特定するまでの経緯について報告する。 *1 放出口先端を閉止して、工業用水を放出管内に送水加圧して、 一定時間圧力を保持する試験油分除去放出廃液貯槽に貯留分析により放射性物質の量が基準値以下で あることを確認海洋放出 図1 廃液の海洋放出までのプロセス
2. 海中放出設備の概要
陸域の海域部約3.7km海中放出管・ 東海再処理施設の各工程で発生する低放射性廃液 は、図1に示すように蒸発処理、ろ過処理、中和処 理等の処理をした後、放出廃液油分除去施設(以下 「C施設」という。)で微量に含まれる油分を除去し 廃液貯槽(600m×4基)に貯留される。貯留された 廃液は、放射性物質の量が基準値以下であることを 確認した後、貯槽からポンプにより海中放出管を通 じて図2に示すように汀線から約 3.7km 沖合の海中 (水深約 24m)に放出している。 図1 に「廃液の海洋放出までのプロセス」を、図2太平洋常陸那珂 火力発電所核燃料サイクル 工学研究所沖堤」連絡先: 野口 浩二 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター E-mail : noguchi.koji@jaca.go.jp TEL:029-282-1111Kouzi NOGUTI Kiyoshi YASUO Nobuhiko SETO Shogo IWASAKI Shinichi INAMI(Non-Member) (Non-Member) (Non-Member) (Non-Member) (Member)に「海中放出管経路概要図」を示す。再処理施設各工程からの廃液(低放射性廃 液、洗濯低放射性廃液、地下浸透水)蒸発処理、ろ過処理、中和処理油分除去→放出廃液貯槽に貯留分析により放射性物質の量が基準値以下で あることを確認海洋放出 図1 廃液の海洋放出までのプロセス故出口約3.7kmる陸域 海域部海中放出管太平洋常陸那珂 火力発電所核燃料サイクル 工学研究所沖堤図2 海中放出管経路概要図127 -放出管の経路は、陸域部と海域部に分かれ、陸域部 は、保護管付きの 2 重構造とし、海域部は、外表面 をポリエチレンにより被覆された構造としている。 また、配管の材質は、圧力配管用炭素鋼鋼管 (STPG370)で、防食のために電気防食装置を備えて、 海中放出管先端で防食電位約-1.3V を確保している。図3に「海中放出設備の概要」を示す。 これら海中放出設備は昭和 61 年に新設されたが、こ のうち陸域部及び海域部の放出管については、火力 発電所の新設計画により平成 3 年に移設更新を行っ ている。HT排水モニタ陸域部 海城武共同溝・約3.7km15約240バルブボックス!海中放出管フランジ放出廃液油分除去施設(C施設)保護管13例:バルブ ート:フランジ 2:ポンプ図3 海中放出設備の概要3. 事象発生の状況事象発生の状況 3.1 漏えい試験の方法海中放出設備の健全性は、再処理施設保安規 一定に基づく施設定期自主検査として、年1回の漏 えい試験により確認している。また、この漏えい 試験の際、陸域部の埋設状態の確認並びに放出口 及び放出架台の状況を目視により確認をしている。漏えい試験は、図4に示すように放出口を閉止 板で閉止後、C施設内から工業用水を供給し、 海中放出管内を試験圧力の 0.44MPaまで昇圧させ、 昇圧後 30 分間試験圧力を保持し、圧力降下がな いことを確認するものである。図4に「漏えい試 験の概要図」を示す。3.2 事象の発生平成 21年4月に実施した漏えい試験において、 圧力が 0.3MPa までしか昇圧できず、漏えい試験 圧力である 0.44MPaに達しない事象が生じた。こ のため、漏えいの疑いがあるとして陸域部のフラ ンジ、バルブ等の目視点検を実施した。しかし、 これらに漏えいは確認されなかったことから、海中の埋設放出管に漏えい箇所が存在する可能性 があると判断した。放出管先端部閉止板取り付け陸域部海域部放出口共同構 就?用工業 用水ント 版出廃液、バルブボッス 貯槽9 放出廃液油分除去施設(C施設)海中放出管図4 漏えい試験の概要図4. 海中放出管海域部の点検 漏えい箇所を特定するために以下の調査を行」った。4.1 海底面起伏・配管露出の調査海底に埋設された海中放出管(以下「埋設配 管」という。)は、施工後約 17 年間を経過し ている。 このため埋設深さの減少や露出により、船 の投錨など漏えいにつながる外的損傷を受け た可能の有無として、マルチビーム測深機を 使用し、露出の確認と海底面までの水深、海底 起伏の測量を実施した。 その結果、埋設配管が露出をしている状況は 認められなかった。また、測量データは平成3 年の施工時に測量した海底までの水深と比較 してほとんど変化していなかった。4.2 圧空調査漏えい箇所のおおよその位置を探るため、圧 空を配管内に充填し、圧力の変化を確認する調 査を実施した。調査の結果、管内圧力が 0.1MPa 及び 0.2MPaに おいては、圧空供給を停止するとその圧力値で 一定となり、圧力の降下はなかった。このこと から、0.2MPa に相当する水深である約 20m(汀 線から約 1.8km の距離)までの範囲には漏えい 箇所が存在しないと推定した。1284.3 放出管先端部埋設フランジ部の漏えい調査圧空調査の結果から、放出管先端部の埋設フラ ンジに漏えいが生じている可能性があるとして、 掘削して埋設フランジを露出させ、放出管内を 着色水(希釈したフルオレセインナトリウム水 溶液)で加圧しフランジからの着色水の漏えい を調査した。 調査の結果、埋設フランジから着色水の流出は なく、この部分からの漏えいはなかった。4.4 海中放出管の着色水による調査埋設フランジに漏えいがなかったことから、放 出管の全長について、着色水を用いた調査を行 った。調査は着色水に反応する水中蛍光光度計 のセンサーを海底から約2mの位置で埋設配管に 沿って移動させる測定を行った。その結果、放出口から陸側へ約 600~750m の 範囲で有意な値が検出されたことから、当該範 囲を詳細に調査したところ、放出口から陸側へ 約760m の位置で着色水が湧出していることを潜 水士が確認した。図 5 に「海底からの着色水の 湧出状況」を示す。図5 海底からの着色水の湧出状況5. 漏えい部の外観観察 着色水の湧出を確認した箇所の掘削を行い、海底面 から約 80cm の深さで埋設配管の上部を確認した。さ らに掘削を進め配管を露出させて観察した結果、着 色水が湧出している漏えい箇所を特定することがで きた。 - 漏えい箇所を観察した結果、配管の北側面のやや 斜め下に漏えい箇所があり、配管外面のポリエチレ ン被覆ははがれ、約 15~35mm の凹みの中に長さ約 200mm、幅約 1mm のき裂状の傷が認められた。また、 傷を中心に埋設配管に若干の曲がりが認められ、漏えい部を含む約6mの範囲のポリエチレン被覆に多数 の傷とはがれが認められた。図 6 に「漏えい箇所の 状況」を示す。漏えい箇所海底面約0.8m陸側→ 」沖町 (東)海中放出管:被覆に部分的な剥がれ線(約4m)上面[漏えい部] 亀裂状の傷ポリエチレン、 被覆の?がれ北面南面下面。外径 ー沖側216mm陸国海中放出管漏えい部(亀裂)200mm図6 漏えい箇所の状況6. 漏えい箇所以外の漏えい確認 漏えい箇所を応急的に閉止する措置として、水道管 などの漏えい補修に用いられる袋クランプ(図-7 参 照)を取付けて覆うことにより漏えいを止めた。取 付け後、海中放出管の全経路について漏えい試験を 行った結果、圧力降下はなかった。この結果から袋 クランプを装着したことにより、漏えいを止めるこ129とができたこと、また、他には漏えいがないことを 確認した。図7に「袋クランプの構造」、図8に「海 中での装着の状況」を示す。図7 袋クランプの構造ました。図8 海中での装着の様子7. 海中放出管の漏えいに係る線量評価- 海中放出管からの漏えいにより、放出口以外から廃 液が放出されたとして実効線量の評価を実施した。 評価は漏えい試験で異常がなかった前回の漏えい試 験(平成19年8月28日)の直後から漏えいが発生し たと想定し、漏えいを確認した平成 21年4月6日ま での間に海洋放出した廃液量と廃液に含まれていた 放射性物質の濃度、及び漏えい箇所からの漏えい量 をもとに実効線量を評価した。その結果、一般公衆 の線量は、大気放出分と合算しても法令に定める周 辺監視区域外の年間線量限度を十分に下回っていた。 また、環境モニタリング結果においても異常はなか った。 ・ これらのことから、環境への影響は認められなかった。8. 漏えい原因の調査に向けた一時的な海 洋放出の実施漏えいの原因を究明するには、漏えい箇所を含めた 約 6m の配管を切断・回収して調査する必要がある。 また、原因調査及び切断箇所の復旧に約1年以上を 要すると考えられ、この期間廃液の放出ができなく なる。このため放出廃液を貯留する必要があること から、貯槽に貯留している放出廃液を一時的に海洋 放出し、貯留の裕度を確保した。この海洋放出により、約1年間の放出廃液の貯留 を可能とできたことから、原因究明及び復旧作業に 着手した。9. 原因究明及び復旧作業の行程平成22年8月に漏えい箇所の切断・回収を行い、 漏えい原因の調査を開始した。この漏えい原因の究 明と並行して、漏えい箇所の復旧設計を進めた。原 因調査については、漏えい原因を究明し、さらに再 発防止等をまとめ、平成 23年3月にこれらをまとめ た法令報告書を国に提出した。その後、復旧につい ては国の認可を平成 23年5月に得て復旧作業に着手 し、平成23年8月に復旧を終えた。10. 結言 - 全長 3.7 kmの海底埋設の配管における漏えい箇所 の特定では、各方法を試行したが、最終的には、着 色水を使用することにより、漏えい箇所を特定する ことができた。 - 漏えい箇所の特定から復旧するまでは、海洋の作 業であり海象状況により作業ができない場合がある。 このため作業の稼働率に相当の裕度を考慮し工程を たてなければならなかった。さらに、この期間は再 処理施設内の廃液発生量の低減と、一時放出により 貯留裕度を事前に確保する必要があった。このように海中放出管の漏えい事象では、漏えい 箇所の復旧が終了するまでの期間、廃液の放出がで きない状況となり、また、海象を考慮した工程の管 理が必要という課題があったが、内外関係先の協力 及び支援によりこれら課題を克服して復旧すること ができた。130“ “東海再処理施設における海中放出管からの漏えいについて -海中放出設備及び漏えい事象概要-“ “野口 浩二,Kouzi NOGUTI,安尾 清志,Kiyoshi YASUO,瀬戸 信彦,Nobuhiko SETO,岩﨑 省悟,Shogo IWASAKI,伊波 慎一,Shinichi INAMI
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