ポストフクシマの発電所運営をとりまく事業課題

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カテゴリ: 第8回
1. はじめに
福島第一発電所(フクシマ)での事故を受け、日本国内は もとより世界中における原子力を取り巻く環境は激変し、 原子力の是非について、各国で議論が行われている。 1. 原子力の存続、廃止に関する議論があらゆる場面で見 られるが、本論で取り上げる課題は、今後の日本の原子 力発電の方向性についてではなく、原子力発電所を現有 する事業者が直面する今後の事業課題についてである。フクシマが、過去に世界で発生した最も深刻な事故で あるスリーマイル島、チェルノブイリに並ぶ過酷事故で あり、社会的影響の甚大さは疑いの余地がない。そして、 スリーマイル島から 32 年、チェルノブイリから 25 年が 経つ中、フクシマでの事故が世界中の原子力業界に与え た影響は計り知れない。プラント保有国は無論のこと、 プラント建設予定・検討中の国においても、世界中の事 業者がフクシマ事故の多角的な検証結果を切望している。 個々の事業者における具体的な課題は、この検証結果と、 各原子力事業運営・発電所運営状況と現状の運営能力と のギャップから導き出され、具体的なアクションが、政 府主導、または、事業者の自助努力として立案されてい くものと推察する。
2. 事業課題提起のためのアプローチ
1. 本論では、事故検証結果に基づく、個々の具体的課題 ではなく、重大事故が起きた日本国内における原子力事 業者が、事業者(Business Operators)である以上、取組むこ とが求められるテーマについて考察する。テーマ特定の為に本論では、1979 年のスリーマイル島 事故以降の 30年間にわたり原子力事業者・政府・規制が 向かい合ってきた課題と取組を参照することにした。スリーマイル島事故後の1980年代米国と 2010年代の日 本とでは時代背景は異なるとしても、重大事故後の3つ のキーとなる情勢が類似している点で、フクシマ後の事 業課題を特定する際のインプットとして資すると考えら れる。 1点目は、国民や自治体が原子力に対し不信を感じるよ うになったことである。事故後に正確・迅速・分かりや すい情報が十分提供されなかったこともあり、原発の安 全性、国、事業者に対する不信感や危機感が高まったが、 スリーマイル島事故時では住民の間での大混乱などを通 じ、原子力に対する不信感と危機感が増大した。 2点目は、規制の変革厳格化である。スリーマイル事故 時に役割分担の不明確さ等を原因として自ら混乱をきた し、信頼を失墜させた NRC が、抜本的な見直し・強化に 取り組んだように、日本においても、規制組織が再構築 されようとしている。 * 3点目は、事業会社として突然経営苦境に立たされた点 である。米国では、規制の厳格化に伴う対策費用と投資 の発生により長期的に財務状況が悪化した。原子力事業 からの撤退を余儀なくされた事業者も出たほど、深刻で あった。日本においても、原発再稼働問題に伴う火力燃 料調達費用急増と緊急安全対策費用増により、事故から わずか半年の間で、主要電力各社の第一四半期が軒並み 赤字計上するなど、事業採算は悪化の一途を辿っている。3. スリーマイル島後の取組からの教訓スリーマイル島事故から参考とすべきは3つある。 1 まず、事故後、原子力に対する信頼を回復するために 数十年の年月を要したという点である。 - 第二にその間、段階的かつ継続的な取り組みが行われ てきた点である。ある調査報告書によれば、米国政府・ 規制、事業者、業界団体が10年単位で信頼回復に向け取 り組んできたという。1990年代2000年以降、 を刺した華料1980、視察に同けた政府・図1 スリーマイル島事故後の米国における取組* 第三に、業界全体で安全性を継続的且つ確実に担保で きるよう、組織、設備管理、コミュニケーション、財務 に関する運営のモデル化や標準化に取り組んだこと。そ して、民間事業者として原子力発電所の運営を継続でき るよう、戦略強化の努力をし続けてきた点である。4.5つの課題以上の考察からフクシマ後の原子力運営に関し検討す べきことを5つ提示する。重大事故後に求められる組織の在り方。抜本的な安全文 化の見直しを実行するために、安全文化の再定義と併せ て再構築し、定着度合いを確認できるためのプロセスを 設計する信頼回復に向けた原子力事業者に必要なコミュニケー ションを、捨て身で考え実行する。これまでのやり方・ ステークホルダー・理解に囚われず、PA に対する既成概念を組織大で払しょくし、丁寧に方針立てし、実行する。いまだかつてない規制変更による混乱を回避できる設 備管理力と事業基盤の増強、今後長期且つ広範囲に起こ り得る規制変更に伴った、幾多の設計変更、要領書変更 等よる業務混乱を回避し、安全・安定した事業運営の為 に事業基盤、とりわけ設備管理力を増強する環境変化に対応できる財務基盤の立て直し。電気料金へ の転嫁も難航しようとする中、安定した財務基盤を取り 戻すための投資・コスト管理を仕組みの高度化と能力増 強に取組む重大事故後に取りうる戦略の方向性を冷静に見定める。 重大事故後の環境変化に伴い、プラント運営上に厳しい 選択を迫られることが考えられるが、民間事業者である 以上、合理的な経営判断が求められる。尚、規制等の大 幅な変更は、業界構造の変化に結びつく可能性が高く、 将来的な業界構造変化に備え、実利ある協業や連携を視 野に入れたアクションが求められる時もあろう連絡先:山下寛子、〒107-8672 東京都港区赤坂 1-11-44 赤坂インターシティ アクセンチュア株式会社、 E-mail:hiroko.yamashita@accenture.com参考文献 [1] Accenture, ““Safeguarding investment to enable highperformance in the nuclear industry” Accenture, 2011 [2] Itzhak Gibloa, Rational Choice, The MIT PressDan Scotto, Seismic Omen, Public Utilities Fortnightly,2011[3] Accenture, “Reflection on post Fukushima forRestoration” Accenture, 2011 [4] 西脇由弘 “我が国のシビアアクシデント対策の変遷一原子力規制はどこで間違ったか”, 原子力 eye2011.09 [5] 菊澤研宗, 組織の経済学入門,有斐閣52“ “ポストフクシマの発電所運営をとりまく事業課題“ “山下 寛子,Hiroko YAMASHITA
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