漏洩磁束を利用した SUS304 鋼の疲労・損傷の評価

公開日:
カテゴリ: 第9回
1. 緒言
オーステナイト系ステンレス鋼は、優れた加工性と耐 食性を有し、様々な機械構造物の構造材料として用いら れている。また、その機械的、化学的な特性から、エネ ルギープラントやLNG タンクなど、破損や損傷によって 大きな被害をもたらす可能性の高い構造物に用いられる ことも多い。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、 一般には常磁性体とされているが、近年では、損傷や応 力負荷によって強磁性体であるマルテンサイト相を生成 するという性質を利用した磁気的な非破壊検査法の研究 も行われてきている[1]。鉄などの強磁性体は空気と比べて透磁率が数桁大きい ため、磁束線(等ポテンシャル線)は磁性体内部を通り やすい。ところが、磁性体に傷や加工時に生じた変質部 などの磁気的非均質部が存在すると、外部に磁束線が漏 れることがある。これを漏洩磁束と呼ぶ。また、透磁率 が低い母材中に何らかの理由で透磁率の高い強磁性部が 生成された場合には、これとは逆に磁束線がその箇所へ と集中、もしくは磁化により局所的な磁束ループを生じ る。このような場合にも、磁束線の変化が材料外部にま で及ぶことがあり、本研究では、これも広い意味での漏 洩磁束と呼ぶこととする。漏洩磁束探傷法は、漏洩磁束密度の分布を適当な磁気 センサを用いて計測することにより欠陥を検出する非破 連絡先:佐々木海壊検査法である。近年、上述の性質を利用してオーステ ナイト系ステンレス鋼の疲労・損傷の評価に漏洩磁束探 傷法を応用する研究[2]が進められているが、非破壊評価 法として確立されたとはいえない。また、背面欠陥や背 面から進展する疲労き裂の検出、内部の劣化評価などに 関してはデータも少なく十分な研究がされていないのが 現状である。そこで、本研究では、オーステナイト系ス テンレス鋼である SUS304 鋼について、人工的に設けた 表面・背面欠陥、表面および背面から進展する疲労き裂 ならびに疲労に伴う材質劣化の検出・評価を試みた。
2. マルテンサイト変態
オーステナイト相は熱力学的安定性が低く、加工や疲 労、損傷などによる残留応力、塑性変形により、加工誘 起マルテンサイト変態を起こし、より安定で強磁性を持 つマルテンサイト在が生成することが知られている[3]、 [4]、[S]マルテンサイト相は、熱処理によって強度や硬 度が増加し、耐摩擦性も高いが、一方でやや脆く、また 常温で磁性を有しており、変態前のオーステナイト相と は明らかに異なる性質を持っている。3. 漏洩磁束の測定3.1 試験片実験に用いた SUS304 鋼試験片の形状を Fig.1~3 に示 す。まず、表面欠陥および背面欠陥の検出実験のために、1884幅 5mm、深さ 1、3、5、7、9mm の5つの溝を設けた Fig.1 に示すような試験片 1 を用意した。次に、表面の疲労お よび疲労き裂の検出を行うために、中央部に予スリット を設けたFig.2に示すような試験片2および3を用意した。 試験片 2 は中心にスリット加工のみが施されている。試 験片3は試験片 2 と同材質、同形状であり、疲労試験を 行って、予スリット先端から約 20mm の疲労き裂を進展 させた。さらに、背面から進展する疲労き裂の検出のた めに、Fig.3 のような形状の試験片4~8を用意した。試験 片5~8には振幅200MPaで完全両振りの疲労試験を行い、 それぞれスリット先端から 2mm、5mm、7mm、8mm の 疲労き裂を発生させた。zox!zOX>東京市Crack80Slit300中中でFig.1 Specimen 1ytel, CrackCrack守SlitFig.2 Specimen 2 and 3t=550130R25」RU100G0.252010220Fig.3 Specimen 4~850333.2 測定方法測定システムの概略図を Fig.4 に示す。測定に用いたホ ールセンサの空間分解能は 50 um と高く, ±4(T)の広い測 定レンジを持ち,測定感度も 10(T)と高感度のセンサで ある。試験片はすべて電磁石(2000 巻)を用いて、交流 法(電流振幅最大値 3A)で消磁した後、試験片 1~3 に ついては電流値 3A で厚さ方向に、試験片4~8については幅方向(Fig.3 のz軸正方向)に着磁した。測定に際し ては、測定点は 0.5mm 間隔の格子点とし、材料表面から センサまでの距離(リフトオフ)は0.5mm とした。すべ ての試験片について、試験片表面に対して法線方向 (B,) と接線長手方向(B)の漏洩磁束密度を測定した。 B, は 測定面法線方向を正、B、は試験片1および試験片4~8に ついてはFig.1,Fig.3 中のx軸正方向を正、試験片2および 3についてはFig.2 中のx軸負方向を正として測定した。 試験片 1 については、測定範囲を溝の中央部を中心とし た幅方向 5mm、長手方向 30mm の範囲とし、測定レンジ 4mT で、5 箇所の溝について、溝の表面側と背面側から 漏洩磁束を測定した。試験片2、3については、測定範囲 を試験片中央部を中心とした 30mm×30mm の範囲とし、 測定レンジ 40mT で、疲労き裂進展部の側面から測定し た。試験片4~8については、測定範囲を試験片中央を中 心として、長手方向に1次元的に 30mm とし、き裂の背 面から測定した。SpecimenX-Y stageSpecimen/ControlHole sensorControl boardGP-IBA/D converter (Digital multimeter)Power supplyDC 5VFig.4 Experimental system4. 測定結果と考察4. 1 表面欠陥および背面欠陥の検出 - 試験片1の測定結果の一例として、深さ9mm の溝の表 面側、背面側からの測定結果を Fig.5 に示す。また、Fig.6 に溝の中心からの距離が同じとなる測定点(同一 x 座標 の点)の磁束密度を平均化してプロットしたグラフをの せる。溝は Fig.5、Fig.6 の x--2.5~2.5mm の辺りに位置す る。測定結果において、接線方向成分は、多くの測定結 果において x 軸負方向(画像下方向)にいくほど、磁束 密度が増加している。これは、今回の測定は磁気シール ドなどを用いていないため、環境磁場による影響が出た と考えられる。測定結果より、欠陥表面からの測定においては、法線 方向成分、接線方向成分ともに、溝付近で磁束密度分布189の変化がみられ、欠陥の検出および欠陥開口部形状の同 定ができていると言える。一方、背面からの測定結果で は、法線方向成分は Fig.6 のように、溝深さが 9mm、す なわち溝が平滑表面から Imm まで迫ったものについて は溝付近で磁束密度分布が変化していることが確認され た。一方、溝深さが 7mm 以下の測定結果においては、溝 の影響とみられる磁束密度分布の変化は見られず、欠陥 の検出はできなかった。今回の測定結果から、試験片の溝部分では Fig.7 のよう な磁束ループを形成していると考えられるが、その具体 的な機構やプロセスを解明することは、今後の検討課題 である。15-0.1-0.2-0.3-0.4(uu)x-0.5(www-0.6-0.700になっちゃった!-0.8~0.9-10 | 110.416666666666667-15N-no-vi INTy(mm)りりりりりり Noy(mm)(a) Bz(G)(b) Bx(G) (Notched surface)10-12019/05/01(ww)xx(mm)-5-1-5-10 --105-15-15-ITTTTTWi-do(mm)y(mm)(c) Bz(G)(d) Bx(G) (Smooth surface) Fig.5 Distribution of magnetic flux density near slit(depth 9mm, width 5mm)(ww)x1904.2 疲労部および疲労き裂の検出 4.2.1 表面の疲労および疲労き裂の検出Fig.10 に試験片 2、Fig.11 に試験片 3の磁束密度分布の 測定結果を示す。 B, と B、の2成分の測定結果から、疲労 き裂近傍で磁束密度分布が特徴的に変化していることが 確認でき、側面からの漏洩磁束測定では、疲労き裂の検 出ができた。これは、疲労き裂近傍に強磁性であるマル テンサイト相が生成したためと考えられる。磁束密度の 変化の仕方をみてみると、疲労き裂近傍では、B,は増加 し、B、はき裂(x=0)を境に変化している。この磁束の流れ から、測定面において、疲労き裂部分では磁束が湧き出 していると考えられる。これは、磁場を印加したことに よってマルテンサイト相が磁化された結果、Fig.8 のよう な磁束ループが形成されていると考えられる。一方、ス リット近傍の磁束密度は、B,は減少し、Bはスリットの 中心(x=0) を境にき裂近傍とは逆向きに変化している。 つまり、測定面において、スリット部分では磁束が吸い 込まれており、磁束の流れは Fig.9 のようになっていると 考えられる。また、Fig.9の法線方向成分の測定結果を見 ると、疲労き裂の先端近傍で磁束密度が特徴的な変化を していることがわかる。これは、き裂先端近傍における 応力集中により優先的に生成したマルテンサイト相に由 来すると考えられる。すなわち、漏洩磁束分布の測定に よって、疲労き裂だけでなく、これからき裂が進展して いくと思われる箇所を検出できることが示された。着磁方向Fig.8 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack着磁方向Fig.9 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearslit(ww)0,00031000020.0001x(mm)-0.0001~0,0002-0.0003-0.00042019/01/15-1051051015Aman)(a) BAT)(wus-0.00003 -0,00004 -0,00005 -0,00006 -0.00007 -0.00008 -0.00009 ~0,0001 -000011 -0.00012 -0.00013-15-10511015y(mm)(b) BAT) Fig. 10 Distribution of magnetic flux density (Specimen 2)* (?????)0.00030,00020,0001(WEX-0,0001-0.0002-0.0003-0.0004-152 12-15-10-5510150 yimm)(a) BAT)20091000030,00021x(com)-0.0001-0.0002100003-0.0004--0.00052019/11/15-10-551902/10/110 yleen)(b) BAT) Fig.11 Distribution of magnetic flux density (Specimen 3)1914.2.2 背面から進展する疲労き裂の検出試験片4~8の漏洩磁束の測定結果を Fig.12 に示す。試 験片の形状から、この試験片に対しては一直線状の漏洩 磁束分布しか測定できなかった。Fig.12 のき裂長さ 8mm の測定結果をみると、疲労き裂先端部から磁束が湧き出 すように分布していることがわかる。このことから、き 裂近傍のマルテンサイト相が磁化され、磁束の流れが Fig.13 のようになっていると考えられる。しかし、き裂長 さ7mm 以下の測定結果においては、磁束密度分布に特徴 的な変化はみられず、き裂の検出ができなかった。この 結果から、き裂長さが 8mm、つまり測定面から 4mm 程 度の深さまでき裂が進展している場合であれば、欠陥背 面からの漏洩磁束測定による疲労および疲労き裂の検出、 評価が可能であるが、それ以下の浅いき裂の場合、この ような直線状の漏洩磁束分布から疲労き裂の検出、評価 は難しいと言える。しかしながら、実機では面積がある 壁面の背後から進展するき裂に対しては二次元的な漏洩 磁束分布を測定することが可能であるので、その分布の パターンから、疲労き裂が検出できる可能性もある。Crack lengthOm?[12mmMagnetic flux density Bz (G)いけないで すから幽5mmA7mm●8mmx(mm)(3) B.Crack lengthOmm[.72mmMagnetic flux density Bx (G)いいいいいいしてくれていま■5mmすか90000000A7mm8mm--0.2Tohx(mm)o(b) B、Fig. 12 Distribution of magnetic flux density着磁方向Fig.13 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack5. 結言. 本研究では、漏洩磁束探傷法によるオーステナイト系 ステンレス鋼(SUS304 鋼)の表面および背面の疲労・損 傷の検出、評価を行った。以下に本研究で得られた結論 と今後の課題を記す。-1幾何形状が顕著な人工欠陥(スリット)については、 欠陥表面からの漏洩磁束測定では、磁束密度分布の 特徴的な変化がみられ、欠陥の検出ができた。-2一方、欠陥背面からの漏洩磁束測定では、溝深さが 9mm、すなわち溝が平滑表面から 1mm まで迫った ものについては、欠陥の検出ができたが、溝深さが 7mm 以下のものについては、磁束密度分布に変化 がみられず、欠陥の検出はできなかった。-3疲労および疲労き裂については、き裂側面からの漏 洩磁束測定では、き裂近傍で磁束密度分布の特徴的 な変化がみられ、表面に発生したき裂の検出を行う ことができた。また、き裂先端の応力集中部に特徴 的な磁束密度が検出でき、これからき裂が進展して いくと思われる箇所が推定できた。一方、背面から進展する疲労き裂についての漏洩磁 束測定では、試験片の形状から、直線状の分布しか 測定できなかった。浅いき裂の検出はできなかった が、測定面から 2mm 程度までき裂が進展している場 合は、特徴的な磁束密度分布の変化が観測できた。-5より高感度な磁気センサを用いたり、操作方法や磁 化方法を改良することによって、より微小な欠陥を 検出することや、疲労や応力の程度と漏洩磁束との 相関を求め、疲労度や応力集中などの定量的な評価192を行うことは今後の課題である。参考文献[1] 高橋正氣、“磁性と塑性-非破域本 AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001 [2] 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“テンレス鋼を対象とした損傷 12 発““、サイクル機構技報、no.14、 [3] 日本 AEM 学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、1999、ISAEM-R-9803. [4] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、2000、JSAEM-R-9903. [5] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学EltoLATILARI高橋正氣、“磁性と塑性 - 非破壊検査への応用”、日 本AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001、pp.9-17. 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“オーステナイト系ス テンレス鋼を対象とした損傷非破壊検出技術の開 発““、サイクル機構技報、no.14、2002、pp.125-135. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、1999、JSAEM-R-9803. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2000、JSAEM-R-9903. 日本AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2006、JSAEM-R-0006.193“ “漏洩磁束を利用した SUS304 鋼の疲労・損傷の評価“ “佐々木 海,Kai SASAKI,安部 正高,Masataka ABE,木下 勝之,Katsuyuki KINOSHITA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)