漏洩磁束を利用した SUS304 鋼の疲労・損傷の評価
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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
オーステナイト系ステンレス鋼は、優れた加工性と耐 食性を有し、様々な機械構造物の構造材料として用いら れている。また、その機械的、化学的な特性から、エネ ルギープラントやLNG タンクなど、破損や損傷によって 大きな被害をもたらす可能性の高い構造物に用いられる ことも多い。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、 一般には常磁性体とされているが、近年では、損傷や応 力負荷によって強磁性体であるマルテンサイト相を生成 するという性質を利用した磁気的な非破壊検査法の研究 も行われてきている[1]。鉄などの強磁性体は空気と比べて透磁率が数桁大きい ため、磁束線(等ポテンシャル線)は磁性体内部を通り やすい。ところが、磁性体に傷や加工時に生じた変質部 などの磁気的非均質部が存在すると、外部に磁束線が漏 れることがある。これを漏洩磁束と呼ぶ。また、透磁率 が低い母材中に何らかの理由で透磁率の高い強磁性部が 生成された場合には、これとは逆に磁束線がその箇所へ と集中、もしくは磁化により局所的な磁束ループを生じ る。このような場合にも、磁束線の変化が材料外部にま で及ぶことがあり、本研究では、これも広い意味での漏 洩磁束と呼ぶこととする。漏洩磁束探傷法は、漏洩磁束密度の分布を適当な磁気 センサを用いて計測することにより欠陥を検出する非破 連絡先:佐々木海壊検査法である。近年、上述の性質を利用してオーステ ナイト系ステンレス鋼の疲労・損傷の評価に漏洩磁束探 傷法を応用する研究[2]が進められているが、非破壊評価 法として確立されたとはいえない。また、背面欠陥や背 面から進展する疲労き裂の検出、内部の劣化評価などに 関してはデータも少なく十分な研究がされていないのが 現状である。そこで、本研究では、オーステナイト系ス テンレス鋼である SUS304 鋼について、人工的に設けた 表面・背面欠陥、表面および背面から進展する疲労き裂 ならびに疲労に伴う材質劣化の検出・評価を試みた。
2. マルテンサイト変態
オーステナイト相は熱力学的安定性が低く、加工や疲 労、損傷などによる残留応力、塑性変形により、加工誘 起マルテンサイト変態を起こし、より安定で強磁性を持 つマルテンサイト在が生成することが知られている[3]、 [4]、[S]マルテンサイト相は、熱処理によって強度や硬 度が増加し、耐摩擦性も高いが、一方でやや脆く、また 常温で磁性を有しており、変態前のオーステナイト相と は明らかに異なる性質を持っている。3. 漏洩磁束の測定3.1 試験片実験に用いた SUS304 鋼試験片の形状を Fig.1~3 に示 す。まず、表面欠陥および背面欠陥の検出実験のために、1884幅 5mm、深さ 1、3、5、7、9mm の5つの溝を設けた Fig.1 に示すような試験片 1 を用意した。次に、表面の疲労お よび疲労き裂の検出を行うために、中央部に予スリット を設けたFig.2に示すような試験片2および3を用意した。 試験片 2 は中心にスリット加工のみが施されている。試 験片3は試験片 2 と同材質、同形状であり、疲労試験を 行って、予スリット先端から約 20mm の疲労き裂を進展 させた。さらに、背面から進展する疲労き裂の検出のた めに、Fig.3 のような形状の試験片4~8を用意した。試験 片5~8には振幅200MPaで完全両振りの疲労試験を行い、 それぞれスリット先端から 2mm、5mm、7mm、8mm の 疲労き裂を発生させた。zox!zOX>東京市Crack80Slit300中中でFig.1 Specimen 1ytel, CrackCrack守SlitFig.2 Specimen 2 and 3t=550130R25」RU100G0.252010220Fig.3 Specimen 4~850333.2 測定方法測定システムの概略図を Fig.4 に示す。測定に用いたホ ールセンサの空間分解能は 50 um と高く, ±4(T)の広い測 定レンジを持ち,測定感度も 10(T)と高感度のセンサで ある。試験片はすべて電磁石(2000 巻)を用いて、交流 法(電流振幅最大値 3A)で消磁した後、試験片 1~3 に ついては電流値 3A で厚さ方向に、試験片4~8については幅方向(Fig.3 のz軸正方向)に着磁した。測定に際し ては、測定点は 0.5mm 間隔の格子点とし、材料表面から センサまでの距離(リフトオフ)は0.5mm とした。すべ ての試験片について、試験片表面に対して法線方向 (B,) と接線長手方向(B)の漏洩磁束密度を測定した。 B, は 測定面法線方向を正、B、は試験片1および試験片4~8に ついてはFig.1,Fig.3 中のx軸正方向を正、試験片2および 3についてはFig.2 中のx軸負方向を正として測定した。 試験片 1 については、測定範囲を溝の中央部を中心とし た幅方向 5mm、長手方向 30mm の範囲とし、測定レンジ 4mT で、5 箇所の溝について、溝の表面側と背面側から 漏洩磁束を測定した。試験片2、3については、測定範囲 を試験片中央部を中心とした 30mm×30mm の範囲とし、 測定レンジ 40mT で、疲労き裂進展部の側面から測定し た。試験片4~8については、測定範囲を試験片中央を中 心として、長手方向に1次元的に 30mm とし、き裂の背 面から測定した。SpecimenX-Y stageSpecimen/ControlHole sensorControl boardGP-IBA/D converter (Digital multimeter)Power supplyDC 5VFig.4 Experimental system4. 測定結果と考察4. 1 表面欠陥および背面欠陥の検出 - 試験片1の測定結果の一例として、深さ9mm の溝の表 面側、背面側からの測定結果を Fig.5 に示す。また、Fig.6 に溝の中心からの距離が同じとなる測定点(同一 x 座標 の点)の磁束密度を平均化してプロットしたグラフをの せる。溝は Fig.5、Fig.6 の x--2.5~2.5mm の辺りに位置す る。測定結果において、接線方向成分は、多くの測定結 果において x 軸負方向(画像下方向)にいくほど、磁束 密度が増加している。これは、今回の測定は磁気シール ドなどを用いていないため、環境磁場による影響が出た と考えられる。測定結果より、欠陥表面からの測定においては、法線 方向成分、接線方向成分ともに、溝付近で磁束密度分布189の変化がみられ、欠陥の検出および欠陥開口部形状の同 定ができていると言える。一方、背面からの測定結果で は、法線方向成分は Fig.6 のように、溝深さが 9mm、す なわち溝が平滑表面から Imm まで迫ったものについて は溝付近で磁束密度分布が変化していることが確認され た。一方、溝深さが 7mm 以下の測定結果においては、溝 の影響とみられる磁束密度分布の変化は見られず、欠陥 の検出はできなかった。今回の測定結果から、試験片の溝部分では Fig.7 のよう な磁束ループを形成していると考えられるが、その具体 的な機構やプロセスを解明することは、今後の検討課題 である。15-0.1-0.2-0.3-0.4(uu)x-0.5(www-0.6-0.700になっちゃった!-0.8~0.9-10 | 110.416666666666667-15N-no-vi INTy(mm)りりりりりり Noy(mm)(a) Bz(G)(b) Bx(G) (Notched surface)10-12019/05/01(ww)xx(mm)-5-1-5-10 --105-15-15-ITTTTTWi-do(mm)y(mm)(c) Bz(G)(d) Bx(G) (Smooth surface) Fig.5 Distribution of magnetic flux density near slit(depth 9mm, width 5mm)(ww)x1904.2 疲労部および疲労き裂の検出 4.2.1 表面の疲労および疲労き裂の検出Fig.10 に試験片 2、Fig.11 に試験片 3の磁束密度分布の 測定結果を示す。 B, と B、の2成分の測定結果から、疲労 き裂近傍で磁束密度分布が特徴的に変化していることが 確認でき、側面からの漏洩磁束測定では、疲労き裂の検 出ができた。これは、疲労き裂近傍に強磁性であるマル テンサイト相が生成したためと考えられる。磁束密度の 変化の仕方をみてみると、疲労き裂近傍では、B,は増加 し、B、はき裂(x=0)を境に変化している。この磁束の流れ から、測定面において、疲労き裂部分では磁束が湧き出 していると考えられる。これは、磁場を印加したことに よってマルテンサイト相が磁化された結果、Fig.8 のよう な磁束ループが形成されていると考えられる。一方、ス リット近傍の磁束密度は、B,は減少し、Bはスリットの 中心(x=0) を境にき裂近傍とは逆向きに変化している。 つまり、測定面において、スリット部分では磁束が吸い 込まれており、磁束の流れは Fig.9 のようになっていると 考えられる。また、Fig.9の法線方向成分の測定結果を見 ると、疲労き裂の先端近傍で磁束密度が特徴的な変化を していることがわかる。これは、き裂先端近傍における 応力集中により優先的に生成したマルテンサイト相に由 来すると考えられる。すなわち、漏洩磁束分布の測定に よって、疲労き裂だけでなく、これからき裂が進展して いくと思われる箇所を検出できることが示された。着磁方向Fig.8 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack着磁方向Fig.9 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearslit(ww)0,00031000020.0001x(mm)-0.0001~0,0002-0.0003-0.00042019/01/15-1051051015Aman)(a) BAT)(wus-0.00003 -0,00004 -0,00005 -0,00006 -0.00007 -0.00008 -0.00009 ~0,0001 -000011 -0.00012 -0.00013-15-10511015y(mm)(b) BAT) Fig. 10 Distribution of magnetic flux density (Specimen 2)* (?????)0.00030,00020,0001(WEX-0,0001-0.0002-0.0003-0.0004-152 12-15-10-5510150 yimm)(a) BAT)20091000030,00021x(com)-0.0001-0.0002100003-0.0004--0.00052019/11/15-10-551902/10/110 yleen)(b) BAT) Fig.11 Distribution of magnetic flux density (Specimen 3)1914.2.2 背面から進展する疲労き裂の検出試験片4~8の漏洩磁束の測定結果を Fig.12 に示す。試 験片の形状から、この試験片に対しては一直線状の漏洩 磁束分布しか測定できなかった。Fig.12 のき裂長さ 8mm の測定結果をみると、疲労き裂先端部から磁束が湧き出 すように分布していることがわかる。このことから、き 裂近傍のマルテンサイト相が磁化され、磁束の流れが Fig.13 のようになっていると考えられる。しかし、き裂長 さ7mm 以下の測定結果においては、磁束密度分布に特徴 的な変化はみられず、き裂の検出ができなかった。この 結果から、き裂長さが 8mm、つまり測定面から 4mm 程 度の深さまでき裂が進展している場合であれば、欠陥背 面からの漏洩磁束測定による疲労および疲労き裂の検出、 評価が可能であるが、それ以下の浅いき裂の場合、この ような直線状の漏洩磁束分布から疲労き裂の検出、評価 は難しいと言える。しかしながら、実機では面積がある 壁面の背後から進展するき裂に対しては二次元的な漏洩 磁束分布を測定することが可能であるので、その分布の パターンから、疲労き裂が検出できる可能性もある。Crack lengthOm?[12mmMagnetic flux density Bz (G)いけないで すから幽5mmA7mm●8mmx(mm)(3) B.Crack lengthOmm[.72mmMagnetic flux density Bx (G)いいいいいいしてくれていま■5mmすか90000000A7mm8mm--0.2Tohx(mm)o(b) B、Fig. 12 Distribution of magnetic flux density着磁方向Fig.13 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack5. 結言. 本研究では、漏洩磁束探傷法によるオーステナイト系 ステンレス鋼(SUS304 鋼)の表面および背面の疲労・損 傷の検出、評価を行った。以下に本研究で得られた結論 と今後の課題を記す。-1幾何形状が顕著な人工欠陥(スリット)については、 欠陥表面からの漏洩磁束測定では、磁束密度分布の 特徴的な変化がみられ、欠陥の検出ができた。-2一方、欠陥背面からの漏洩磁束測定では、溝深さが 9mm、すなわち溝が平滑表面から 1mm まで迫った ものについては、欠陥の検出ができたが、溝深さが 7mm 以下のものについては、磁束密度分布に変化 がみられず、欠陥の検出はできなかった。-3疲労および疲労き裂については、き裂側面からの漏 洩磁束測定では、き裂近傍で磁束密度分布の特徴的 な変化がみられ、表面に発生したき裂の検出を行う ことができた。また、き裂先端の応力集中部に特徴 的な磁束密度が検出でき、これからき裂が進展して いくと思われる箇所が推定できた。一方、背面から進展する疲労き裂についての漏洩磁 束測定では、試験片の形状から、直線状の分布しか 測定できなかった。浅いき裂の検出はできなかった が、測定面から 2mm 程度までき裂が進展している場 合は、特徴的な磁束密度分布の変化が観測できた。-5より高感度な磁気センサを用いたり、操作方法や磁 化方法を改良することによって、より微小な欠陥を 検出することや、疲労や応力の程度と漏洩磁束との 相関を求め、疲労度や応力集中などの定量的な評価192を行うことは今後の課題である。参考文献[1] 高橋正氣、“磁性と塑性-非破域本 AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001 [2] 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“テンレス鋼を対象とした損傷 12 発““、サイクル機構技報、no.14、 [3] 日本 AEM 学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、1999、ISAEM-R-9803. [4] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、2000、JSAEM-R-9903. [5] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学EltoLATILARI高橋正氣、“磁性と塑性 - 非破壊検査への応用”、日 本AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001、pp.9-17. 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“オーステナイト系ス テンレス鋼を対象とした損傷非破壊検出技術の開 発““、サイクル機構技報、no.14、2002、pp.125-135. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、1999、JSAEM-R-9803. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2000、JSAEM-R-9903. 日本AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2006、JSAEM-R-0006.193“ “漏洩磁束を利用した SUS304 鋼の疲労・損傷の評価“ “佐々木 海,Kai SASAKI,安部 正高,Masataka ABE,木下 勝之,Katsuyuki KINOSHITA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
オーステナイト系ステンレス鋼は、優れた加工性と耐 食性を有し、様々な機械構造物の構造材料として用いら れている。また、その機械的、化学的な特性から、エネ ルギープラントやLNG タンクなど、破損や損傷によって 大きな被害をもたらす可能性の高い構造物に用いられる ことも多い。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、 一般には常磁性体とされているが、近年では、損傷や応 力負荷によって強磁性体であるマルテンサイト相を生成 するという性質を利用した磁気的な非破壊検査法の研究 も行われてきている[1]。鉄などの強磁性体は空気と比べて透磁率が数桁大きい ため、磁束線(等ポテンシャル線)は磁性体内部を通り やすい。ところが、磁性体に傷や加工時に生じた変質部 などの磁気的非均質部が存在すると、外部に磁束線が漏 れることがある。これを漏洩磁束と呼ぶ。また、透磁率 が低い母材中に何らかの理由で透磁率の高い強磁性部が 生成された場合には、これとは逆に磁束線がその箇所へ と集中、もしくは磁化により局所的な磁束ループを生じ る。このような場合にも、磁束線の変化が材料外部にま で及ぶことがあり、本研究では、これも広い意味での漏 洩磁束と呼ぶこととする。漏洩磁束探傷法は、漏洩磁束密度の分布を適当な磁気 センサを用いて計測することにより欠陥を検出する非破 連絡先:佐々木海壊検査法である。近年、上述の性質を利用してオーステ ナイト系ステンレス鋼の疲労・損傷の評価に漏洩磁束探 傷法を応用する研究[2]が進められているが、非破壊評価 法として確立されたとはいえない。また、背面欠陥や背 面から進展する疲労き裂の検出、内部の劣化評価などに 関してはデータも少なく十分な研究がされていないのが 現状である。そこで、本研究では、オーステナイト系ス テンレス鋼である SUS304 鋼について、人工的に設けた 表面・背面欠陥、表面および背面から進展する疲労き裂 ならびに疲労に伴う材質劣化の検出・評価を試みた。
2. マルテンサイト変態
オーステナイト相は熱力学的安定性が低く、加工や疲 労、損傷などによる残留応力、塑性変形により、加工誘 起マルテンサイト変態を起こし、より安定で強磁性を持 つマルテンサイト在が生成することが知られている[3]、 [4]、[S]マルテンサイト相は、熱処理によって強度や硬 度が増加し、耐摩擦性も高いが、一方でやや脆く、また 常温で磁性を有しており、変態前のオーステナイト相と は明らかに異なる性質を持っている。3. 漏洩磁束の測定3.1 試験片実験に用いた SUS304 鋼試験片の形状を Fig.1~3 に示 す。まず、表面欠陥および背面欠陥の検出実験のために、1884幅 5mm、深さ 1、3、5、7、9mm の5つの溝を設けた Fig.1 に示すような試験片 1 を用意した。次に、表面の疲労お よび疲労き裂の検出を行うために、中央部に予スリット を設けたFig.2に示すような試験片2および3を用意した。 試験片 2 は中心にスリット加工のみが施されている。試 験片3は試験片 2 と同材質、同形状であり、疲労試験を 行って、予スリット先端から約 20mm の疲労き裂を進展 させた。さらに、背面から進展する疲労き裂の検出のた めに、Fig.3 のような形状の試験片4~8を用意した。試験 片5~8には振幅200MPaで完全両振りの疲労試験を行い、 それぞれスリット先端から 2mm、5mm、7mm、8mm の 疲労き裂を発生させた。zox!zOX>東京市Crack80Slit300中中でFig.1 Specimen 1ytel, CrackCrack守SlitFig.2 Specimen 2 and 3t=550130R25」RU100G0.252010220Fig.3 Specimen 4~850333.2 測定方法測定システムの概略図を Fig.4 に示す。測定に用いたホ ールセンサの空間分解能は 50 um と高く, ±4(T)の広い測 定レンジを持ち,測定感度も 10(T)と高感度のセンサで ある。試験片はすべて電磁石(2000 巻)を用いて、交流 法(電流振幅最大値 3A)で消磁した後、試験片 1~3 に ついては電流値 3A で厚さ方向に、試験片4~8については幅方向(Fig.3 のz軸正方向)に着磁した。測定に際し ては、測定点は 0.5mm 間隔の格子点とし、材料表面から センサまでの距離(リフトオフ)は0.5mm とした。すべ ての試験片について、試験片表面に対して法線方向 (B,) と接線長手方向(B)の漏洩磁束密度を測定した。 B, は 測定面法線方向を正、B、は試験片1および試験片4~8に ついてはFig.1,Fig.3 中のx軸正方向を正、試験片2および 3についてはFig.2 中のx軸負方向を正として測定した。 試験片 1 については、測定範囲を溝の中央部を中心とし た幅方向 5mm、長手方向 30mm の範囲とし、測定レンジ 4mT で、5 箇所の溝について、溝の表面側と背面側から 漏洩磁束を測定した。試験片2、3については、測定範囲 を試験片中央部を中心とした 30mm×30mm の範囲とし、 測定レンジ 40mT で、疲労き裂進展部の側面から測定し た。試験片4~8については、測定範囲を試験片中央を中 心として、長手方向に1次元的に 30mm とし、き裂の背 面から測定した。SpecimenX-Y stageSpecimen/ControlHole sensorControl boardGP-IBA/D converter (Digital multimeter)Power supplyDC 5VFig.4 Experimental system4. 測定結果と考察4. 1 表面欠陥および背面欠陥の検出 - 試験片1の測定結果の一例として、深さ9mm の溝の表 面側、背面側からの測定結果を Fig.5 に示す。また、Fig.6 に溝の中心からの距離が同じとなる測定点(同一 x 座標 の点)の磁束密度を平均化してプロットしたグラフをの せる。溝は Fig.5、Fig.6 の x--2.5~2.5mm の辺りに位置す る。測定結果において、接線方向成分は、多くの測定結 果において x 軸負方向(画像下方向)にいくほど、磁束 密度が増加している。これは、今回の測定は磁気シール ドなどを用いていないため、環境磁場による影響が出た と考えられる。測定結果より、欠陥表面からの測定においては、法線 方向成分、接線方向成分ともに、溝付近で磁束密度分布189の変化がみられ、欠陥の検出および欠陥開口部形状の同 定ができていると言える。一方、背面からの測定結果で は、法線方向成分は Fig.6 のように、溝深さが 9mm、す なわち溝が平滑表面から Imm まで迫ったものについて は溝付近で磁束密度分布が変化していることが確認され た。一方、溝深さが 7mm 以下の測定結果においては、溝 の影響とみられる磁束密度分布の変化は見られず、欠陥 の検出はできなかった。今回の測定結果から、試験片の溝部分では Fig.7 のよう な磁束ループを形成していると考えられるが、その具体 的な機構やプロセスを解明することは、今後の検討課題 である。15-0.1-0.2-0.3-0.4(uu)x-0.5(www-0.6-0.700になっちゃった!-0.8~0.9-10 | 110.416666666666667-15N-no-vi INTy(mm)りりりりりり Noy(mm)(a) Bz(G)(b) Bx(G) (Notched surface)10-12019/05/01(ww)xx(mm)-5-1-5-10 --105-15-15-ITTTTTWi-do(mm)y(mm)(c) Bz(G)(d) Bx(G) (Smooth surface) Fig.5 Distribution of magnetic flux density near slit(depth 9mm, width 5mm)(ww)x1904.2 疲労部および疲労き裂の検出 4.2.1 表面の疲労および疲労き裂の検出Fig.10 に試験片 2、Fig.11 に試験片 3の磁束密度分布の 測定結果を示す。 B, と B、の2成分の測定結果から、疲労 き裂近傍で磁束密度分布が特徴的に変化していることが 確認でき、側面からの漏洩磁束測定では、疲労き裂の検 出ができた。これは、疲労き裂近傍に強磁性であるマル テンサイト相が生成したためと考えられる。磁束密度の 変化の仕方をみてみると、疲労き裂近傍では、B,は増加 し、B、はき裂(x=0)を境に変化している。この磁束の流れ から、測定面において、疲労き裂部分では磁束が湧き出 していると考えられる。これは、磁場を印加したことに よってマルテンサイト相が磁化された結果、Fig.8 のよう な磁束ループが形成されていると考えられる。一方、ス リット近傍の磁束密度は、B,は減少し、Bはスリットの 中心(x=0) を境にき裂近傍とは逆向きに変化している。 つまり、測定面において、スリット部分では磁束が吸い 込まれており、磁束の流れは Fig.9 のようになっていると 考えられる。また、Fig.9の法線方向成分の測定結果を見 ると、疲労き裂の先端近傍で磁束密度が特徴的な変化を していることがわかる。これは、き裂先端近傍における 応力集中により優先的に生成したマルテンサイト相に由 来すると考えられる。すなわち、漏洩磁束分布の測定に よって、疲労き裂だけでなく、これからき裂が進展して いくと思われる箇所を検出できることが示された。着磁方向Fig.8 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack着磁方向Fig.9 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearslit(ww)0,00031000020.0001x(mm)-0.0001~0,0002-0.0003-0.00042019/01/15-1051051015Aman)(a) BAT)(wus-0.00003 -0,00004 -0,00005 -0,00006 -0.00007 -0.00008 -0.00009 ~0,0001 -000011 -0.00012 -0.00013-15-10511015y(mm)(b) BAT) Fig. 10 Distribution of magnetic flux density (Specimen 2)* (?????)0.00030,00020,0001(WEX-0,0001-0.0002-0.0003-0.0004-152 12-15-10-5510150 yimm)(a) BAT)20091000030,00021x(com)-0.0001-0.0002100003-0.0004--0.00052019/11/15-10-551902/10/110 yleen)(b) BAT) Fig.11 Distribution of magnetic flux density (Specimen 3)1914.2.2 背面から進展する疲労き裂の検出試験片4~8の漏洩磁束の測定結果を Fig.12 に示す。試 験片の形状から、この試験片に対しては一直線状の漏洩 磁束分布しか測定できなかった。Fig.12 のき裂長さ 8mm の測定結果をみると、疲労き裂先端部から磁束が湧き出 すように分布していることがわかる。このことから、き 裂近傍のマルテンサイト相が磁化され、磁束の流れが Fig.13 のようになっていると考えられる。しかし、き裂長 さ7mm 以下の測定結果においては、磁束密度分布に特徴 的な変化はみられず、き裂の検出ができなかった。この 結果から、き裂長さが 8mm、つまり測定面から 4mm 程 度の深さまでき裂が進展している場合であれば、欠陥背 面からの漏洩磁束測定による疲労および疲労き裂の検出、 評価が可能であるが、それ以下の浅いき裂の場合、この ような直線状の漏洩磁束分布から疲労き裂の検出、評価 は難しいと言える。しかしながら、実機では面積がある 壁面の背後から進展するき裂に対しては二次元的な漏洩 磁束分布を測定することが可能であるので、その分布の パターンから、疲労き裂が検出できる可能性もある。Crack lengthOm?[12mmMagnetic flux density Bz (G)いけないで すから幽5mmA7mm●8mmx(mm)(3) B.Crack lengthOmm[.72mmMagnetic flux density Bx (G)いいいいいいしてくれていま■5mmすか90000000A7mm8mm--0.2Tohx(mm)o(b) B、Fig. 12 Distribution of magnetic flux density着磁方向Fig.13 Sketch of magnetized region and magnetic flux nearfatigue crack5. 結言. 本研究では、漏洩磁束探傷法によるオーステナイト系 ステンレス鋼(SUS304 鋼)の表面および背面の疲労・損 傷の検出、評価を行った。以下に本研究で得られた結論 と今後の課題を記す。-1幾何形状が顕著な人工欠陥(スリット)については、 欠陥表面からの漏洩磁束測定では、磁束密度分布の 特徴的な変化がみられ、欠陥の検出ができた。-2一方、欠陥背面からの漏洩磁束測定では、溝深さが 9mm、すなわち溝が平滑表面から 1mm まで迫った ものについては、欠陥の検出ができたが、溝深さが 7mm 以下のものについては、磁束密度分布に変化 がみられず、欠陥の検出はできなかった。-3疲労および疲労き裂については、き裂側面からの漏 洩磁束測定では、き裂近傍で磁束密度分布の特徴的 な変化がみられ、表面に発生したき裂の検出を行う ことができた。また、き裂先端の応力集中部に特徴 的な磁束密度が検出でき、これからき裂が進展して いくと思われる箇所が推定できた。一方、背面から進展する疲労き裂についての漏洩磁 束測定では、試験片の形状から、直線状の分布しか 測定できなかった。浅いき裂の検出はできなかった が、測定面から 2mm 程度までき裂が進展している場 合は、特徴的な磁束密度分布の変化が観測できた。-5より高感度な磁気センサを用いたり、操作方法や磁 化方法を改良することによって、より微小な欠陥を 検出することや、疲労や応力の程度と漏洩磁束との 相関を求め、疲労度や応力集中などの定量的な評価192を行うことは今後の課題である。参考文献[1] 高橋正氣、“磁性と塑性-非破域本 AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001 [2] 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“テンレス鋼を対象とした損傷 12 発““、サイクル機構技報、no.14、 [3] 日本 AEM 学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、1999、ISAEM-R-9803. [4] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学傷の非破壊検査評価技術に関す告書”、2000、JSAEM-R-9903. [5] 日本 AEM学会、“電磁破壊力学EltoLATILARI高橋正氣、“磁性と塑性 - 非破壊検査への応用”、日 本AEM 学会誌 vol.9、No.2、2001、pp.9-17. 永江勇二、青砥紀身、陳振茂、“オーステナイト系ス テンレス鋼を対象とした損傷非破壊検出技術の開 発““、サイクル機構技報、no.14、2002、pp.125-135. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、1999、JSAEM-R-9803. 日本 AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2000、JSAEM-R-9903. 日本AEM学会、“電磁破壊力学を応用した劣化・損 傷の非破壊検査評価技術に関する調査研究分科会報 告書”、2006、JSAEM-R-0006.193“ “漏洩磁束を利用した SUS304 鋼の疲労・損傷の評価“ “佐々木 海,Kai SASAKI,安部 正高,Masataka ABE,木下 勝之,Katsuyuki KINOSHITA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO